自動運転導入を目指している世界のスマートシティ計画まとめ

シンガポールやドバイ、中国など…国内でも



スマートシティの構築を目指す動きが世界で加速している。スマートシティに明確な定義はないが、多くはIoTの観念で自動車をはじめとしたあらゆるモノがつながり、住民の生活やまちに関するあらゆる情報をビッグデータ化し、データサイエンス技術によって解析した結果をまちに還元する仕組みの構築を目指している。


こうした取り組みの中で、人やモノの移動をつかさどる交通のスマート化も必須課題に挙げられ、解決策として自動運転の導入に取り組む事例も増加傾向にあるようだ。

今回は、世界各地で進められているスマートシティ構想をはじめ、自動運転に焦点を当てた国内の取り組みを紹介していこう。

■世界のスマートシティ構想
シンガポール:スマートネーション戦略で国ごとスマート化

国ごとスマートシティ化を図る「スマートネーション」戦略を国家主導で推し進めるシンガポール。国家面積約721平方キロメートルと、東京23区(619平方キロメートル)より一回り大きい程度の土地に560万人超が住む都市国家ならではの政策だ。

2014年に構想が打ち出され、柱として①国家センサーネットワークの設置②デジタル決済の普及③国家デジタル身分証明システム(NDIシステム)の構築――などが進められている。


まちの至るところにセンサーを設置することで人や車の移動や気象など各種データを収集し、渋滞の解消や災害対策など安全な公共サービスを目指すほか、収集したデータの有効活用を促進するため、ポータルサイトなどで情報を公開しているようだ。

人口密度が高い都市国家ゆえの課題として渋滞の慢性化や環境悪化が問題視されており、モビリティシステムの効率化も進めている。全土で自動運転の実証やMaaSを意識したマルチモーダルサービスの実証などを行っている。

実証環境が整っているため海外勢の進出も多いようで、日本からもパイオニアが同国の自動運転技術開発企業MooVitaと共同で2018年に実証を行っているほか、移動関連事業などを手掛けるWILLERが2019年に国際コンソーシアムを設立し、自動運転車両を活用した有償の定期運行サービスを開始したようだ。

【参考】パイオニアの取り組みについては「パイオニア、シンガポールで3D-LiDAR搭載した自動運転シャトルバスの実証実験 MooVita社と」も参照。WILLERの取り組みについては「WILLER、シンガポールの観光地で自動運転の定期有償サービス開始」も参照。


ドバイ:国営自動運転タクシーや自動運転パトカー導入へ

UAE(アラブ首長国連邦)を構成するドバイ首長国の政府は、首都ドバイをスマート化する戦略的ロードマップ「SMART DUVBAI2021」の中で目標の一つに「自律型および共有モビリティソリューションが推進するスムーズな輸送」を掲げ、自動運転やシェアリングサービスの導入を進めている。

交通当局は2030年までに全交通のうち25%を自動運転化する目標を打ち出しており、2018年には政府が国営自動運転タクシーの導入を発表している。

ドバイ警察も2017年にシンガポールのOTSAW Digital社が開発した小型の無人自動運転車「O-R3」を自動運転パトカーとして導入することを発表したほか、2018年には自動運転で移動する無人交番のコンセプトを発表するなど、技術の導入に意欲的だ。

2019年10月には、交通当局主催の「ドバイ・ワールド自動運転交通コングレス」を開催し、この中で交通におけるファーストマイルやラストマイルに焦点を当てて自動運転技術などを競う「ドバイ・ワールド自動運転交通チャレンジ」を実施している。仏NAVYAやGAUSSINなどが受賞したようだ。

カナダ・トロント:グーグル系企業がカナダでスマートシティ化計画発表

カナダのトロントでは、ウォーターフロント地区を再開発しスマートシティ化する「Sidewalk Toronto」構想を米グーグル系のSidewalk Labs(サイドウォークラボ)が発表している。

まず0.05平方キロのキーサイド地区を開発し、その後3.2平方キロに及ぶポートランズ地区を開発していく方針で、グーグルのカナダ本社を同地区に移転し、自動運転車の導入や住民の移動データなどを生かした各種サービスやまちづくりを進めていくとしている。

個人情報やプライバシーの観点から批判も相次いだようで、最終的には無断でグーグルを含む第三者とデータ共有しないことなどを確約したようだ。

ビジネスモデルとしての観点も発表されており、地区全体の地価上昇効果などが挙げられている。

中国・深セン:近代スマートシティの象徴

アジアのシリコンバレーと称される中国の深センは、もともと経済特区・IT特区として大きな成長を遂げてきた経緯を持つ。世界の大手テクノロジー企業やスタートアップが集積し、最先端技術がまちづくりに反映される様は、リアルなスマートシティ化の象徴と言えそうだ。

2019年末には、IT大手のテンセントが深セン臨海地の島を購入したというニュースも流れており、大規模開発による本格的なスマートシティ計画が打ち出される可能性もありそうだ。

なお、中国では国家プロジェクトとして上海や北京など主要6都市近郊を大規模開発し、スマートシティを作り上げる計画が進められている。主要都市を補完する役割を担いつつ環境に配慮した都市を一から形成するプロジェクトで、自動運転車の導入もスタンダードなものに位置付けられている。

【参考】中国の取り組みについては「日本は中国を見習うべきか…自動運転の環境整備、躊躇一切なし」も参照。

■日本国内の取り組み

国内でも、科学技術基本計画において「Society 5.0」(超スマート社会)が将来目指すべき未来社会の姿として提唱され、国土交通省などが主導する「スマートシティモデル事業」も2019年度に始動するなど、スマートシティ化に向けた取り組みが本格化している。

日本各地で進められている計画のうち、「自動運転」を要素として盛り込んだ取り組みをピックアップして紹介していこう。

秋田県仙北市:フィデア総合研究所らとスマートシティ推進コンソ-シアム形成

流出する人口をつなぎとめるため、基幹産業である農業と観光業の生産性向上や高齢社会に対応した交通の確保、山間の地域特性に応じた物流の効率化を課題に挙げ、AIやロボット技術など最先端技術を農業振興や観光振興に導入し、産業構造の転換や市民の利便性の確保を図り、グローカル・イノベーションのモデルケースを構築しようと民間とコンソーシアムを形成し、取り組みを進めている。

中山間地では、自動運転に不可欠なAIの深層学習に向けデータ取得を先行的に実施し、条件の悪い地方での自動走行技術の課題抽出や、無人運転車両内の空間を利用した移動型サービスの実装を検討している。

また、AIを活用した農業の経験知や技能のデータ化をはじめ、IoTの活用による遠隔監視、ドローンを活用した生育状況把握や病害虫の防除作業の高度化などを図るほか、生活物資の配送の効率化を図るためドローンによる配送の自動化なども検討しているようだ。

同市内では、2016年にディー・エヌ・エー(DeNA)がロボットシャトルの実証実験を行っているほか、2017年からはAZAPAとリコーが環境耐性などの潜在的課題を抽出し、新たな技術イノベーションによる課題解決を目的とした自動運転車両の実証実験を行っている。

栃木県宇都宮市:宇都宮大学らとUスマート推進協議会設立

整備を進めているLRT(次世代型路面電車システム)を軸とした公共交通ネットワークの構築や観光振興を課題に挙げ、分野横断型のプラットフォームと連携した「デジタイルツイン都市モデル」の構築を推進するとともに、最先端のICTを活用した交通・経済のエリアマネジメントによってモビリティサービスなどの課題解決を図っていくこととしている。

大谷石の産地として知られる大谷地域では、センシング技術の同時多接続やGPS位置情報を活用し、自動車交通量や駐車場の混雑状況、観光客の回遊ルート等の交通・人流データを収集するとともに、将来的にはグリーンスローモビリティの自動運転化やデータのオープン化による大谷地域の商業活性化を支援していく方針だ。

2019年8月には、群馬大学などの協力のもと「e-com10」を使用した自動運転バスの実証を行っている。

埼玉県毛呂山町:清水建設らとスマートシティ協議会設立

人口減少を見据えた既存産業と公共サービスにICT技術などを積極的に導入し、域内循環型経済構造の実現を通じて自立した自治体経営を確立していく。ニュータウンの交通や産業構造の偏重、インフラの維持管理などを課題に挙げ、自動運転バスの社会実装やデジタルガバメントの実現、既存産業技術の世代交代などを通じて新産業の集積を推進していくとしている。

自動運転関連では、公共交通のないニュータウンから最寄り駅までの自動運転バス実装や自動運転ドローンによる農業支援などを実施する方針で、2020年3月には、先進モビリティなどの協力のもと自動運転バスの実証を行っている。

千葉県柏市:三井不動産らと柏の葉スマートシティコンソーシアム形成

大学や病院などの施設が分散立地しており、区画整理事業の進行に伴う土地利用の更なる促進に向け、施設間のつながり強化や新産業の集積促進、環境負荷の低減、将来も健康に暮らせる居住環境形成を課題に挙げ、「エネルギー」「モビリティ」「パブリックスペース」「ウェルネス」をキーワードに、データプラットフォームなどを生かして高密複合空間における環境負荷を抑えたスマートなコンパクトシティライフの具現化を図るとしている。

拠点施設間のアクセスに自動運転による緑ナンバーの事業用自動車の実証運行を進めるほか、駅周辺交通の可視化・モニタリングなどを進めていく方針だ。

2019年11月からは、東京大学なども参画する柏ITS推進協議会が5カ月間にわたり、自動運転バスの公道実証を行っている。

静岡県:ソフトバンクらと「VIRTUAL SHIZUOKA」が率先するデータ循環型SMART CITYコンソーシアム形成

3次元点群データを活用してサイバー空間に仮想3次元県土「VIRTUAL SHIZUOKA」を構築し、各種コンテンツと連携、利活用を促進することで、自動運転などの新技術による社会的課題の解決や、誰もが安全・安心で利便性が高く快適でスマートな循環型の地域づくりを目指すとしている。

自動運転関連では、観光客の移動支援などを想定し、オープンデータ化した3次元点群データからダイナミックマップを作成し、自動運転化したデマンドタクシーを走行させる方針だ。

実証は「しずおか自動運転ShowCASEプロジェクト」において2019年11月から松崎町、2020年1月に沼津市、同年2月に袋井市でそれぞれ行っており、2020年度も引き続き各地でバス型やタクシー型などの公道実証を行う予定だ。

静岡県裾野市:トヨタ主導のWoven City構想

国内におけるスマートシティ構想では、トヨタがCES2020で発表したコネクティッド・シティ「Woven City」に注目が集まっている。

静岡県裾野市に所在する2020年末閉鎖予定の工場跡地を活用し、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市を作り上げることとしており、自動運転やMaaSをはじめ、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、AI技術などを導入・検証できる都市にしていく方針だ。

これを受け、静岡県が対策チームを発足したほか、裾野市長も静岡新聞のインタビューに応じ、先進技術を市全域に波及させる都市構想の具体化を2020年度に着手する方針を表明したようだ。

また、2020年3月にはトヨタとNTTがスマートシティの実現を目指し業務資本提携に合意したことが発表された。NTTグループも最先端のAIやIoT、ICTリソースの総合マネージメント技術を活用するなどし、米ラスベガスなどでスマートシティに向けた取り組みを進めている。

両社は今後「スマートシティプラットフォーム」を共同で構築し、先行ケースとして裾野市と東京都港区品川エリア(NTT街区の一部)で実装し、その後連鎖的に他都市へ展開していくとしている。

【参考】トヨタとNTTの提携については「トヨタ自動車とNTT、スマートシティで協業 Woven Cityの取り組みを世界へ」も参照。

愛知県春日井市:名古屋大学らと高蔵寺スマートシティ推進検討会形成

かつてのニュータウンがオールド化し、高齢化率が上昇する中、良好なインフラが整備されている一方で坂道やバス停までの距離の長さにより外出機会の減少や公共交通サービスの衰退が課題として挙げられており、産学官連携による自動運転を含む新たなモビリティサービスにより快適な移動を実現し、ニュータウンの魅力向上と持続可能なまちの実現を図るとしている。

区域内の公共施設内に自動運転車両のモビリティベース(EV基地)を整備し、自宅からバス停や各種施設までを短距離移動する「ゆっくり自動運転」のサービスを展開する。また、配車予約システムにはニュータウン版MaaSアプリを活用し、貨客混載による運営の効率化も図るとしている。

拠点からの各施設への移動には、商業施設などに相乗りタクシー乗り場などモビリティスポットを設け、自動運転サービスからのシームレスな移動を提供する。

また、センター地区と高蔵寺駅を結ぶ路線バスは高蔵寺ニュータウンの基幹交通となっていることから、バス専用レーンを整備し、自動運転バスによって高頻度、低遅延のモビリティサービスを展開することとしている。

■【まとめ】自動運転は将来スマートシティにおいて必須の存在に

早くからスマートシティ構想を進めている都市では、計画策定当時に自動運転技術が未完であったため盛り込まれていないことが多いようだが、人やモノの移動・交通に対する考え方が徐々に変わり、MaaSをはじめ自動運転に対する注目度がどんどん上がっているようだ。

また、スマートシティとは別に自動運転の実証に取り組んでいる自治体なども多いが、自動運転関連から得られるさまざまなデータの有効活用を追求していき、スマートシティ計画へと発展していく可能性もありそうだ。

現時点におけるスマートシティにおいて自動運転はマストなものではないが、スマートな交通を実現する究極の理想像においては自動運転がマストな存在になるはずだ。

スマートシティ計画を検討している地域・自治体は、ぜひ自動運転の導入を前向きに検討していただきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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