ソフトバンク、中国DiDiの自動運転部門へ近く出資か

蜜月関係続く両社、ロボタクシー事業本格化の兆し



出典:DiDiプレスリリース

「ソフトウェアの銀行」に由来する社名を持つソフトバンクが近年、「自動運転の銀行」としての色を強めている。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を中心に積極的にスタートアップに出資しているが、このほど、配車サービス大手の中国・滴滴出行(Didi Chuxing)=DiDi=の自動運転開発企業へ新たに出資する予定であることが報じられた。

デジタルメディアのThe Informationが報じており、同メディアによると、関係者筋の話としてソフトバンクが新たに3億ドル(約325億円)を投じる見込みのようだ。


DiDi本体ではなく自動運転開発企業への出資であり、DiDiのロボタクシー事業が近く大きな動きを見せる可能性もある。実現すれば、ライドシェアを中心に世界トップクラスの配車サービスを展開する企業の自動運転商用化となり、大きな注目が集まりそうだ。

今回は、両社のこれまでの取り組みや関係について解説していこう。

■ソフトバンクとDiDiの関係
度重なる出資でDiDiの本業や日本進出を支援

ソフトバンクからDiDiへの出資は、2016年にさかのぼる。DiDiが同年6月に発表した73億ドル(約7900億円)の資金調達ラウンドにソフトバンクが参加している。この後、8月には強力なライバルであった米Uberの中国法人買収が発表されている。

2017年には、DiDiの総額55億ドル(約6100億円)の資金調達ラウンドにおいて、ソフトバンクが9割を超す50億ドル(約5600億円)を出資し、大株主としての地位を確立している。なお、出資はソフトバンクデルタファンドとソフトバンクグループの子会社から行われている。


同年12月にも40億ドル(約4500億円)の資金調達を行っており、投資額は明かされていないもののこの時もソフトバンクグループが出資に加わっている。

2018年6月には「DiDiモビリティジャパン」を設立

2018年2月には、日本のタクシー事業者向けサービスにおいて両社が協業することを発表した。DiDiが持つ深層学習をベースにしたAI需要予測とスマート配車システムに、ソフトバンクの国内事業基盤と知見を掛け合わせることで、日本のタクシー配車サービスをより最適化していくとしており、同年6月に合弁企業「DiDiモビリティジャパン」を設立した。

同年9月には第一交通産業と提携し、大阪エリアでタクシー配車プラットフォームサービス(配車アプリ)を開始した。以後、着実に提携タクシー事業者と提供エリアを拡大しており、2020年3月時点で300を超える事業者と提携し、25都道府県でサービスを提供している。

2019年3月には、孫正義CEOが米メディアのCNBCのインタビューにおいて、追加で16億ドル(約1800億円)を出資する意向を語っている。


【参考】ソフトバンクからDiDiへの出資については「ソフトバンク孫正義氏、赤字続きの中国DiDiにさらに16億ドルを追加出資へ」も参照。

■DiDiの自動運転開発
自動運転部門分社化で開発に注力

DiDiは2016年に自動運転部門を立ち上げ、自動運転レベル4の技術開発に正式に着手した。2017年には中国と米カリフォルニア州に研究施設を開設し、自動運転技術をはじめAIの機械学習や深層学習、自然言語処理、コンピュータービジョン、音声認識、オペレーションズリサーチ、セキュリティなど、幅広い研究を行っている。

2018年7月には、独コンチネンタルと戦略的協力協定を交わし、インテリジェント・コネクティッドビークル(ICV)の研究開発における協業を模索していくと発表した。

2019年8月には、自動運転部門を分社化することを発表した。新会社「DiDi Autonomous Driving」のトップには、DiDiのZHANG Bo最高技術責任者(CTO)が就任した。

【参考】自動運転部門の分社化については「中国DiDi、自動運転部門を分社化 自動車メーカーとの共同開発体制など強化」も参照。

新会社は北京や上海、蘇州、カリフォルニア州で公道試験のライセンスを保持しており、上海で発行された中国で最初のICVデモレーションアプリケーションライセンスの1つを取得している。

同月には、自動運転システムを搭載したロボタクシープロジェクトを上海の嘉定区で行う予定であることを発表した。サービスに向け、30の異なるレベル4モデルを展開するという。また、大都市の複雑な交通状況と道路状況を考慮して、プロジェクト当初は、自動運転車両と人間のドライバーが運転する車両の両方を組み合わせる混合ディスパッチングモデルで開始するとしている。

プロジェクトはあまり進展していないようだが、同年12月には米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)のGPUとAIテクノロジーを活用し、自動運転とクラウドコンピューティングのソリューション開発を進めると発表している。

■ソフトバンクグループの取り組み
SVF中心にスタートアップを強力支援

ソフトバンクグループは近年、投資部門であるソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を中心に自動運転分野への投資を強めている。主な出資先は、DiDiや米Uber、シンガポールのGrabといった配車サービス大手をはじめ、CPU開発大手の英ARM、米自動車大手のゼネラルモーターズ(GM)傘下のGM Cruise、自動運転開発を手掛ける米Nuro、半導体大手の米NVIDIA、イメージング技術を開発する米Light、画像認識技術やAIアルゴリズム開発を手掛ける米Nautoなど非常に幅が広い。

2019年夏には2号ファンドの設立も発表されている。シェアビジネスを展開する米WeWorkのドタバタ劇や、上場したUber株の停滞などを背景に資金集めが難航しているようだが、スタートアップにとっては心強い味方だ。

技術的に未知の領域である自動運転業界においても必須の支援となるため、事態の好転に期待したいところだ。

MONET Technologiesでモビリティサービス創出へ

ソフトバンクとトヨタが2018年10月に設立を発表したモネ・テクノロジーズが、着実に力を蓄えている。データ解析サービスや自動運転技術をMaaS(Mobility as a Service)に活用するAutono-MaaS事業、オンデマンドモビリティサービスを事業の柱に据えており、モビリティイノベーションを推進する企業横断型組織「MONETコンソーシアム」には、500社を超える企業が参加している。

自治体との連携も深めており、モビリティを活用した新たなサービスの創出とともに、将来的な自動運転技術の導入に大きな期待が寄せられている。

2020年代半ばまでに、トヨタのモビリティサービス専用次世代EV「e-Palette」を活用し、さまざまなサービスの提供を行っていく構えだ。

自動運転バスの実用化目指すSBドライブ

ソフトバンクグループの中で、自動運転技術を活用したスマートモビリティサービスの事業化を目的に設立されたSBドライブは、仏Navya製の自動運転バス「NAVYAARMA(ナビヤアルマ)」と遠隔運行管理システム「Dispatcher」を武器に、各地で公道実証などを進めている。

モネ同様自治体との連携も深めており、2020年4月には、茨城県境町で定時・定路線で運行する国内初の自動運転バスが誕生する予定だ。

【参考】SBドライブの取り組みについては「SBドライブ、自動運転領域で香港PerceptInと協業 運行実証を実施へ」も参照。

■【まとめ】投資家と商社の顔でスタートアップを強力にプッシュ

DiDiは配車サービスというモビリティサービスとともに自動運転開発を自ら進め、ソフトバンクは投資家の顔と商社の顔を持ち、さまざまな企業やサービスと結び付けていく役割を担っている。

すでに配車サービスの基盤を持つDiDiは、自動運転タクシーの開発を進める他社に比べ優位性を持っている。ロボタクシー業界としてもDiDiの一挙手一投足に注目が集まるところだ。

ソフトバンクの投資の観点においては、投資の性質上必ず波があり、どのタイミングで利益を確定するのか、また、利益を最大化するため各社の技術やサービスをどのような形で社会と結び付けていくのかが問われるところだが、自動運転分野における回収はまだまだ先の話だ。

基本的には、自動運転技術が実用化され、広く普及する段階まで熟成してはじめて各企業が潤うことになる。その段階に至るまでは企業価値をめぐるマネーゲームに陥りがちだが、各社の技術を世に送り出すまで役割を全うし、自動運転業界を盛り上げてもらいたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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