日産スカイラインの自動運転技術を徹底解説

ハイブリッドモデルに搭載のプロパイロット2.0を深堀り



出典:日産プレスリリース

「待たせたね。こいつが未来だ」――日産のブランドアンバサダーを務める矢沢永吉氏の渋いセリフで始まるCMが印象的な新型スカイライン。市販されている国産車の中では最高峰となるADAS(先進運転支援システム)「ProPILOT2.0(プロパイロット2.0)」を搭載し、ハンズオフ運転を可能にしたことで大きな話題となっている。

長きに渡って「技術の日産」を象徴してきたスカイラインが、自動運転分野においても新たな技術を提案しているのだ。


今回は、プロパイロット2.0を中心にスカイラインに搭載されている自動運転技術(ADAS)を紐解いていこう。

【参考】プロパイロット2.0については「日産のプロパイロット2.0、高速道路で手放し運転を実現 最新ADASを発表」も参照。

■スカイラインの概要

現行型スカイラインは2014年に登場した13代目V37型だ。同車種として初めてハイブリッドモデルが追加され、世界初となるステア・バイ・ワイヤ機構(ステアリングとタイヤを機械的に接続せずに独立制御する仕組み)のダイレクトアダプティブステアリングが採用されたことでも話題となった。

そして2019年5月、日産が同一車線内でハンズオフ運転を可能にする運転支援システム「プロパイロット2.0」を発表。合わせて新型スカイラインへ搭載予定であることも公表され、2019年9月のビッグマイナーチェンジ後、スカイラインのハイブリッドモデルにプロパイロット2.0が標準搭載された。V6ターボモデルには搭載されていないので注意が必要だ。


ハイブリッドモデルは「GT Type SP」「GT Type P」「GT」の3種でそれぞれ2WDと4WDがラインアップされており、価格帯はGT(2WD)の557万5900円(税込み)からGT Type SP(4WD)の644万4900円(同)となっている(いずれも2019年3月時点の数字)。

なお、V6ターボモデルなど全モデルに従来からのブレーキアシストや車線逸脱防止支援システムなどが標準搭載されているため、プロパイロット2.0抜きでも十分高度なADASが備わっていると言える。

■プロパイロット2.0は高度な「自動運転レベル2」

プロパイロット2.0は、「インテリジェント高速道路ルート走行」を可能にする高度な自動運転レベル2(ADAS)技術で、高速道路上になどにおいて3D高精度地図データと協調することで同一車線内ハンズオフ運転を可能とした世界初のシステムだ。日産ではプロパイロット2.0作動時の走行を「ナビ連動ルート走行」と呼んでいる。


主なシステムとして車速・車間制御機能と車線維持機能、車線変更支援機能、追い越し支援機能、ルート走行支援機能を備えており、道路や交通、自車の状況に応じて条件を満たすとハンズオフ運転が可能になる。

ハンズオフ運転は、ドライバーが常に前方に注意を払い、状況に応じて直ちにハンドルを操作できる条件のもとハンドルから手を離した運転を可能にするものだ。

車速・車間制御機能は、ドライバーが設定した速度を上限に、先行車両との車間距離を一定に保ちながら車線の中央を走行するようにアシストする。制限速度を検出した際は、その速度を自動的に設定車速にすることもできる。先行者を検出していない際は、設定した車速を維持するように制御する。

車線維持機能は、車線中央付近を走行するようにステアリングを制御し、運転者のハンドル操作を支援する。条件を満たすとハンズオフが可能になる。

システム作動時は、車線変更や追い越しなど、高速道路の走行における大部分をアシストする機能も備わっており、車線変更の際は、ハンドルに手を戻してウィンカーレバーを操作するとクルマが変更を開始する。

追い越しは、前方車が設定速度より遅く走行している場合、システムが追い越しを可能と判断するとディスプレイや音でドライバーに追い越しを提案し、ハンドルに手を戻してスイッチ操作すると、右側へ車線変更を行う。追い抜きが完了し、元の車線へ戻るタイミングもシステムが判断し、同様の操作で車線変更することを可能にしている。

分岐にも対応しており、ルート上の高速道路出口に近づくとディスプレイや音でドライバーに通知し、連絡路へ分岐した後にナビ連動ルート走行を終了する。

■プロパイロット2.0を支える要素技術

高精度のハンズオフ運転を可能にする要素技術が、3D高精度地図データだ。三次元データには道路の曲率情報や勾配・傾斜、車線の色なども含まれており、このデータに基づくことで事前に道路の状況を察知し、コーナー進入前に車速を落としたり、車線の中央を円滑に走行したりすることができるのだ。

センサーは、フロントカメラ(3眼)、AVMカメラ4基、フロントレーダー、サイドレーダー2基、リアサイドレーダー2基、ソナー12基で360度センシングを可能にしている。3D高精度地図データと360度センシングの情報を組み合わせることで、レールに乗っているかのように正確で安心感の高い走行を可能だ。

車内には、ドライバーモニターカメラやヘッドアップディスプレイ、メーターディスプレイなどのインターフェースが備えられ、メーター中央の大型ディスプレイに周囲の車両などが表示されることで、ドライバーはシステムの状態を常に把握することができる。また、分岐や追い越しの際の車線変更の提案も状況に応じて表示される。

重要な情報はドライバーの視界の中心に近いヘッドアップディスプレイにも表示することで、視線移動の軽減が図られている。

起動中は、ダッシュボード上のドライバーモニターカメラがドライバーの顔の向きや目の開閉状態などをもとに前方注視状況をモニタリングする。

前方注視していないと判断した際は表示や音で警告を発し、その状態が継続した場合、ドライバーにハンドルを操作するよう表示や音、短時間のブレーキ制御で段階的に警告する。それでもハンドル操作が検出されない場合は、緊急警報音とともにヘッドアップディスプレイとアドバンスドドライブアシストディスプレイに「減速します」と表示され、車両を減速・緊急停止させる。

緊急停止後はSOSコールサービスに接続し、オペレーターから警察や消防などの公共機関に救助要請が行われることとなる。

■プロパイロット2.0のODD(作動条件)

プロパイロット2.0は基本的に高速道路上で利用可能だが、場所によって一部の機能が利用できない区間もある。例えば、トンネルの中など継続してGPSが受信できず自車位置が確定できない状況や、対向車線と分離されていない場所、料金所や出口、SA・PA付近、JCT(ジャンクション)・連絡路内、工事区間などの交通規制区間、制限時速60キロ未満の区間、都市高速などの急カーブ・車線幅の狭い道路、頻繁に分岐合流が存在する区間などだ。また、ワイパーが低速以上で作動している際なども機能が制限される。

基本的に高速道路や自動車専用道路の直線や緩やかなカーブでの使用を想定して設計されているため、凍結路や積雪路など滑りやすい路面を走行している際や、雨や霧、雪といった悪天候の際、急な上り坂や下り坂を走行している際、頻繁な加減速により車間距離が保ちにくい交通状況の際などは、適切な制御ができず思わぬ事故につながるおそれがあるため使用を控えるようアナウンスされている。

速度は、制限速度+時速10キロまでとなっているようだ。

■プロパイロット2.0の使用方法

プロパイロット2.0の使用方法はシンプルで、ナビに目的地を設定して高速道路に入り、システム作動条件を満たすとプロパイロット2.0の起動確認がディスプレイに表示されるので、速度をセットしてハンドル部分に搭載されたボタンを押すだけだ。

ナビのデータは自動アップデートされ、常に最新の状態を保つ。スマートフォンから事前に目的地をナビへ送信し、設定することもできる。

解除もシンプルで、CANSELスイッチを押すか、ブレーキペダルを踏むことでプロパイロット2.0を解除することができる。

■NissanConnect「プロパイロットプラン」

プロパイロット2.0の使用にはNissanConnectサービスへの入会が必要で、新型スカイラインハイブリッド車用「プロパイロットプラン」は年間2万2000円となっている。高精度地図ライセンスの契約も含まれており、このライセンス契約を解除している場合は、速度標識検知機能やプロパイロット2.0の一部のハンドル支援機能などの機能が制限される。

NissanConnectでは、車両搭載の通信機によってナビの自動更新やソフトウェア更新を行えるほか、広い駐車場でマイカーを簡単に見つけることができるマイカーファインダー機能や、離れた場所からロック状態の確認やロックすることができるリモートドアロック、カーナビとスマートフォンを連動させたナビゲート機能を備えたドアtoドアナビ、車両の状態やメンテナンス時期の通知を行うカーライフマネージメント、渋滞や規制を回避する最適なルートを探索する最速ルート探索、ドライバーの異常を検知し自動的に緊急通報センターに音声接続するプロパイロット緊急停止時SOSコール、携帯電話不要でオペレーターと直接会話し、目的地の設定や店舗・施設の検索などが可能なオペレータサービス、高齢ドライバーや免許取りたての家族の運転状況を通知するドライブ制限アラートなどの各種機能が備えられている。

また、Apple CarPlayやAndroid Autoなどでお気に入りのスマートフォンコンテンツをカーナビの画面で操作することなども可能だ。

別途「docomo in Car Connect」契約を結べば、車内でWi-Fiが使いたい放題となり、動画や音楽、オンラインゲームなど、データ通信量の多いインターネットコンテンツを容量無制限で利用することもできる。

またプロパイロット2.0は、アクセルペダルやブレーキペダル、ハンドルなどの操作状況をはじめ、ドライバーモニタリングの検知状況、プロパイロット2.0の作動状況、先行車両や周囲車両、レーンマーカー、道路構造の情報、車速やGPSなどの車両情報、カメラの画像情報を車両内のコントローラーやデータ記録用のサーバーに記録・蓄積する機能を備えている。

なおこれらのデータは、日産や同社が委託した第三者が車両の向上を目的に取得・利用することがある。

■スカイラインが備える先進運転支援技術

プロパイロット2.0とは別に、インテリジェント FCW(前方衝突予測警報)やインテリジェントエマージェンシーブレーキ、インテリジェントペダル(車間距離維持支援システム)、インテリジェントクルーズコントロールといった前方運転支援システムをはじめ、後方運転を支援するインテリジェントBUI(後退時衝突防止支援システム)、側方運転を支援するインテリジェントBSI(後側方衝突防止支援システム)、BSW(後側方車両検知警報)、インテリジェントLI(車線逸脱防止支援システム)、LDW(車線逸脱警報)、全方向や駐車時運転を支援するインテリジェントアラウンドビューモニター(移動物検知機能付)、踏み間違い衝突防止アシスト機能などのADASを備えている。

また、タイヤがパンクして空気が抜けた状態でも時速80キロで150キロほどの距離を走行し続けることができるランフラットタイヤや、タイヤ空気圧警報システム、路上のインフラ設備と通信して出会い頭の衝突や一時停止規制の見落とし、信号の見落とし、赤信号停止車両への衝突など音声ガイドと画面表示でドライバーに注意喚起する安全運転支援システム(DSSS)、小学校付近での安全運転ガイドなどの機能も備えている。

■【まとめ】「自動運転の時代があなたの目の前に」

スカイラインのCMでは「自動運転の時代があなたの目の前に」といったフレーズも耳に残る。プロパイロット2.0に活用されている3D高精度地図データとの連動や360度センシング技術などは、そのまま自動運転レベル3以上に通じる技術であり、まさに自動運転の時代が目の前に迫ってきた感を受ける。

2021年予定のスカイラインのフルモデルチェンジの際には、市街の交差点での運転を支援する「プロパイロット3.0」を搭載するといった話も出ており、この3.0がレベル3技術となるかも今後注目が集まるところだ。このほか、DeNAと取り組むレベル4相当の移動サービス「Easy Ride(イージーライド)」の開発も着々と進んでいる。

ホンダがレベル3で先行する構えを見せているが、日産はどのような戦略で今後の自動運転時代に挑むのか。その答えを次期スカイラインが教えてくれるのかもしれない。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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