自動運転と「6G」、進化はさらに

2030年代の実現想定した動きも?



2020年に国内でも商用サービスがスタートする予定の次世代移動通信システム「5G」。スマートフォンなどモバイルでの活用をはじめ、さまざまな機器がIoT技術でつながる時代が到来する。自動車業界では、コネクテッドサービスが本格化するほか、自動運転技術の確立にも大きく貢献することになる。


期待が膨らむ5Gだが、世界ではすでに5Gの次の世代「6G」を見据えた動きが出始めている。現時点では当然未知の領域だが、将来的には技術が確立・実現することが間違いのない通信技術だ。

今回は5G実現による影響をおさらいしながら、未知の6Gが持つ可能性や現在の開発状況などをまとめてみた。

■まず、自動運転業界で「5G」が待たれる理由とは?
第5世代移動通信システム「5G」とは?

第5世代「5G」はすでに各種実証が始まっており、国内でも東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に商用化が始まる見込みだ。

通信速度は最大20Gbps(ギガビット毎秒)で、現在主流のLTEの約25倍に相当する大容量高速通信を可能にするほか、多数の機器を同時に接続することができ、タイムラグの少ない低遅延も実現するため、イベント時など密集した場所でも安定した通信を可能にする。


身近なところでは、スマートフォンの利便性がいっそう増すほか、さまざまなモノがインターネットでつながるIoTが本格化する。小売の現場から農業、医療などさまざまな場面で高速通信の新たな活用・導入が進むものと思われる。

5Gは自動運転に必要不可欠な技術

高速で移動しながら大容量の情報をやり取りする自動運転には、5Gが必要不可欠となる。走行する車両同士が通信する車車間通信(V2V)をはじめ、自動運転車両に搭載されたカメラやLiDAR(ライダー)などの各種センサーが得た周辺の画像情報や走行状況、AI(人工知能)の解析結果、ダイナミックマップを構成する各種交通情報などを随時サーバーとやり取りし、送受信する。ドライバー不在の遠隔操作による自動運転においても同様で、管制塔と常時接続されているからこそ実現可能なシステムだ。

車両と周辺のインフラなどが通信する路車間通信(V2I)は現在専用周波数を用いた狭域無線通信が主流だが、こういった通信にも将来的に5Gが活用される可能性は高い。

また、コネクテッド技術を活用したサービスも本格化する。現在はメンテナンスなどの遠隔診断や緊急通報システム、施設の案内サービス、テレマティクス保険、カーナビ情報のリアルタイム更新、ドアの開閉やリモート駐車などのサービスが実現しているが、5G実現により各機能が強化されるほか、ヘッドアップディスプレイやウィンドウディスプレイなどを活用したエンターテインメント機能なども充実してくることが予想される。


進む自動運転関連の5G実証実験

自動運転分野における5G関連の実証実験では、KDDIとトヨタIT開発センターが、5Gの特徴である超高速伝送を活用し、一般道を走行中の自動車から撮影した4K映像を伝送し、サーバー上の映像処理エンジンで歩行者や障害物などの自動検知を行う実験を行っている。

また、ソフトバンクと先進モビリティは、トラック隊列内の車両間の通信に5Gを適用し、車載カメラのモニター動画を先頭車両に配信する低遅延・高信頼の通信実証や、トラック隊列車両間で速度や加速度、制動、操舵などの制御メッセージを伝送するための低遅延・高信頼の通信実証、コアネットワークを含む5G通信を隊列走行車両と運行管制センター間に適用し、遠隔地の運行管制センターに走行車両のモニター画像を配信する実証、遠隔地の運行管制センターから走行車両に対し、緊急停止などの制御メッセージを送信する実証などを行っている。

■2030年代に実現すると言われる「6G」とは?
移動体通信の変遷

6Gを説明する前に、移動体通信システムについて簡単におさらいしよう。

移動体通信(移動通信)は、片方または両方の端末を移動することができる通信方式を指し、広義にはアマチュア無線なども含まれるが、NTTグループなどの通信キャリアが提供する移動通信サービスに限定されて使われることが多い。

3G 、4Gなどの「G」は「Generation(ジェネレーション)」の意で、その移動通信システムが何世代目に当たるかを表している。

第1世代は1979年にサービスが始まったアナログ音声通信で、自動車電話が代表に挙げられる。1993年に登場した第2世代「2G」からはデジタル方式となり、この2Gとともにメールなどのデータ通信も容易となり、携帯電話が爆発的に普及した。

通信速度が向上し、周波数帯域利用効率も良い第3世代「3G」は2001年に商用サービスが始まり、国際基準化もある程度進んだようだ。その後、スマートフォンの普及とともにより高速の通信方式が求められるようになり、NTTドコモが2010年にサービス開始した「Xi(クロッシィ)」などに代表される「3.9G」世代から一部で4Gが呼称されるようになった。

その後、後継規格として正式な第4世代「4G」の周波数が2014年12月にNTTドコモ、KDDIグループ、ソフトバンク各社に割り当てられ、2015年にサービスがスタートした。4Gでは、50Mbpsから1Gbpsほどの超高速大容量通信や固定通信網とのシームレスな利用が可能となっている。

そして2020年の第5世代「5G」へと繋がっていく見込みだ。

第6世代「6G」とは?

第6世代は、さまざまな推測に基づくと、可視光通信によって伝送速度は5Gの10倍以上となる100Gbps超、遅延は1ミリ秒未満でほぼゼロ遅延を実現する。接続密度も、5Gの1キロ平米あたり100万台から同1000万台となるようだ。実現は2030年代とする向きが多い。

双方向での超大容量・超大量接続・超低遅延のネットワークが構築され、通信に必要なモジュールがあらゆるものに溶け込むため、ユーザーは端末を介さずに通信を利用することができるようになる。

クリティカルなアプリケーションにもワイヤレスが使われ、高速な移動体の遠隔操作や完全自律で稼働するロボットなどが社会へ普及する。これにより、ヒトとモノの動きに依存する生産性低下から社会が解放されるほか、ネットワークが個々人のニーズや感性に対応し、完全なパーソナル化が実現するという。

これから始まる5Gをすっ飛ばした6Gの話は鬼が笑うかもしれないが、すでにインフラとなる通信基盤の整備などに向け、6Gが到来した世界を見据えた社会づくりに関する議論は始まっているのだ。

5Gの実現により通信環境は大幅に改善され、スマートフォンでの動画視聴もよりスムーズに行うことができるようになるだろうし、低遅延の恩恵も大きいものになるだろう。通信にまつわる利便性を多くの人が享受し、不平不満な声は影をひそめていくだろう。6Gでは、そういった環境が当然のものとして定着し、あらゆるものが無線通信でつながる世界が誕生する。

ただ、人間の発想や欲望の類は環境とともに肥大化するのが世の常だ。5G実用化により、スマートフォン向けの動画にも4K・8Kの高解像度のものが普及し始めるだろうし、スマートフォン向けに簡素化されたさまざまなコンテンツもリッチ化され、VRやAR技術などもどんどん応用の場を広げていく。クラウドサービスなどもより多くの場面で用いられることになるだろう。

データ通信容量が大きくなれば、各コンテンツの容量もまた大きくなり、ゆとりに溢れ快適だと感じていた通信速度は次第にその効用を減らし、より速い通信速度やより高度なコンテンツが求められるようになっていくのである。

■6Gが実現すると、自動車業界にはどう良い影響が?

5Gとともに本格化する自動運転業界は、6G実現によりどのように変わるのか。

基幹システムをクラウドに移行することも可能に

まず、5Gによって自動運転車両は基幹サーバーなどと常時接続されることが想定されるが、サービスの進化と浸透によって徐々に1台あたりの通信量は増大し、接続される台数も膨大な数へと変わっていく。自動運転が実用化されることで初めて浮かび上がるサービスや技術開発なども登場し、自動運転車が要する通信量は当初想定した数値を上回り始めるだろう。

さらなる需要や新サービスが喚起され続ける状況が続けば、当初余裕のあった5G通信網が対応しきれなくなる日は遅かれ早かれ必ず訪れることになる。

こうした自動運転の進化を支えるのが6Gだ。市場に出現した膨大な数の自動運転車を円滑に接続し、地球規模で各車両の情報を共有することも可能になるかもしれない。また、通信遅延がほぼなくなるため、車両に搭載していた重要な基幹システムをクラウドに移行することも可能になり、自動運転車両の生産効率がより高まるかもしれない。

さまざまな情報・サービスとの接続がさらに可能に

また、基幹サーバー以外にも、例えば天気情報を随時入手するため気象庁と直接つなげたり、交通情報を扱う日本道路交通情報センターや保険会社、総合的なコネクテッドサービスを展開する企業サーバー、自宅の各種家電と常時接続するなど、さまざまなサービスと直接つなぐことも可能になる。

その頃には普通にサービスが始まっているだろうラストワンマイルを担う配送ロボとの通信や、地域の街頭放送で流れているような迷子の捜索といった情報もつなぐことができるだろう。通信容量のキャパシティが増えれば、現在では想定しきれないさまざまなサービスやコンテンツがそこを埋めるかのように登場するのだ。

また、自動運転レベル5の存在も気になるところだ。いかなる条件下においても完全な自動運転を実現することは技術者の間でも疑問視されている向きもあるが、限りなくレベル5に近い自家用車向けのレベル4.5が実現している可能性はある。

本格的に自家用車向けの完全自動運転が実現すれば、世の中における自動運転車の総数は飛躍的に増大することになる。こうした可能性もしっかりと頭の中に入れておきたい。

■6G関連の世界・企業の動きは?
NTTが毎秒100ギガビットの無線伝送に成功

NTTは2018年5月、OAM(軌道角運動量)多重という新原理を用いて毎秒100ギガビットの無線伝送に世界で初めて成功したと発表した。

OAMを利用した新原理により作りだされる電波にデータ信号を乗せ、広く利用されているMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を組み合わせて処理する独自方式により、飛躍的に大容量化を実現できることを実験室の環境で確認した。この原理は、LTEやWi-Fiのおよそ100倍、また現在予定されている5Gの5倍という大容量の無線伝送に適用できる可能性を示しているという。

同社はまた、同年6月にも東京工業大学と共同でテラヘルツ波の周波数帯で動作する無線フロントエンド向け超高速ICを開発し、300GHz帯における世界最高データレートとなる毎秒100ギガビットの無線伝送に成功したことを発表した。これは、LTEやWi-Fiのおよそ400倍、5Gの40倍に相当する伝送容量という。

さらに同社は2019年5月、シャノン限界を達成しかつ実行可能な通信路符号(誤り訂正符号)「CoCONuTS」を実現したと発表した。

シャノン限界は、簡単に言えばデータを正確に送ることができる理論上の通信効率の限界、いわば伝送速度をこれ以上上げることができない伝送容量の限界を指す。

このシャノン限界を特殊な通信路に限って達成する実用的な符号は開発されており、5Gにも実装されているが、NTTの発表によると、通信路符号に限らず情報源符号や情報理論的安全性を持つ暗号などの通信のあらゆる問題に対し、達成と実行可能性を両立させる符号を構築したという。

トランプ米大統領、6Gの早期実現を促すツイート

米国や中国では、国家規模で6G実現に向けた取り組みが動き出しているようだ。米国では、ドナルド・トランプ大統領が2019年2月に6G実現に向けた取り組みを促すツイートを発信。これに応えるかのように、米国連邦通信委員会(FCC)は新たな周波数帯を実験や研究向けに開放するとしている。

一方、中国でも6Gの研究開発が2020年に正式にスタートする見込みという。次世代を見据えた水面下の競争はすでに始まっているようだ。

■【まとめ】6G実用化は2030年代 自動運転はレベル5達成なるか

5Gの実用化によってさまざまなサービスが生み出され、当面は満足してしまいそうだが、次第に慣れてしまうのが人間だ。5Gが普及する数年後には、6Gに向けた開発の動きが明らかに表面化し、次の時代を見据えた社会づくりが各分野で始まるのだ。

6Gが実現する見込みの2030年代には、実用化済みの自動運転レベルは果たしてどこまで進んでいるのか。わずか十数年後の世界かもしれないが、その未来を正確に予想することは難しい。しかし、否定的な見方をしていても社会は何も変わらない。

もし、通信速度や容量に限界がなければどのようなサービスが可能になるだろうか――こうした疑問を素直に消化し、あらゆるサービスを想像・創造できる人物が次の時代を制するのだろう。


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