ホンダがEV戦略を大転換、ASIMO OS搭載の自動運転計画はどうなるのか

Honda 0 SALOON北米向け開発中止



2026年3月12日、ホンダが衝撃の発表を行った。北米で生産・発売を予定していた次世代EV「Honda 0 SALOON(サルーン)」「Honda 0 SUV」「Acura RSX」の3車種すべての開発・発売を中止するという。2025年1月のCES 2025で世界を沸かせた発表からわずか14カ月。ホンダのEV戦略は大きな転換を迫られた。


開発・発売中止に伴う損失は最大2兆5,000億円と試算されており、ホンダの三部敏宏社長は「断腸の思い」と表現した。この判断の背景にあるのは、米EV市場の想定外の失速とトランプ政権による環境規制の事実上の撤回、そして中国でのソフトウェア競争での苦戦という「2つの残酷な現実」だ。

ただし今回の発表は、ホンダがEVや自動運転から完全撤退することを意味しない。インド・日本向けの「Honda 0 α(アルファ)」の開発は継続され、ASIMO OSを軸とした自動運転レベル3の技術開発も続く。ホンダの自動運転戦略がどこへ向かうのかを、今回の方針転換の背景とともに読み解く。

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■中止になった2つの誤算

ホンダが北米向けEV3車種の開発中止を決断した背景には、大きく2つの誤算がある。

誤算① 米EV市場の失速

ホンダがHonda 0シリーズの北米投入を計画していた当時、2026年からカリフォルニア州の環境規制「ACCⅡ(先進クリーンカー規則)」が強化される見通しがあり、EV需要の大幅な拡大が見込まれていた。しかし米トランプ政権がACCⅡを事実上撤回し、EV補助金制度も縮小。北米EV市場の成長ペースは想定を大きく下回ることとなった。「生産・販売を開始すると、将来にわたってさらなる損失拡大を招く恐れがある」というのがホンダの判断だ。


誤算② 中国でのソフトウェア競争の敗北

もう一つの誤算がアジア市場、特に中国だ。BYDや華為(ファーウェイ)などの中国勢が車両のソフトウェア化(SDV)で急速に台頭し、価格競争力と機能面の両方でホンダが対応できない状況が生まれた。「価格に見合った商品を提供できず競争力が低下した」とホンダは認めており、EV×ソフトウェアという新軸での戦いで出遅れた現実が今回の決断を後押しした。

■Honda 0 SALOONとは何だったのか

北米向け開発が中止となったHonda 0 SALOONは、ホンダが「次世代EVの象徴」として総力を挙げて開発してきたモデルだ。2025年1月のCES 2025で量産プロトタイプが世界初公開され、イタリアンスポーツカーを彷彿させる低全高のスタイルと驚くほど広い室内空間を両立するデザインが話題を呼んだ。「Thin, Light, and Wise(薄い、軽い、賢い)」という開発アプローチのもと、新開発のEV専用アーキテクチャーをベースに設計されていた。

車のOSに「アシモ」の名を冠した理由

Honda 0シリーズの最大の特徴として注目されたのが、ホンダ独自のビークルOS「ASIMO OS(アシモ オーエス)」だ。スマートフォンにおけるAndroid OSやiOSに相当する「車の基本ソフトウェア」で、自動運転・先進運転支援(ADAS)・車載インフォテイメント(IVI)・ダイナミクス統合制御を一元管理するプラットフォームとなる。OTAによる継続アップデートが前提で、購入後も機能が進化し続けるSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の核として設計されていた。


「ASIMO」の名は、ホンダが1986年から研究し2000年に発表した世界的に著名な二足歩行ヒューマノイドロボットに由来する。ロボティクス技術の知見を自動運転に活かし、「世界中に驚きと感動を与え次世代EVの象徴となる」という思いを込めた命名だ。

出典:HONDA公式サイト

自動運転レベル3(アイズオフ)を搭載予定だった

Honda 0 SALOONには、高速道路渋滞時のアイズオフ走行が可能な自動運転レベル3を搭載し、OTAで段階的に適用範囲を拡大していく計画だった。ホンダは2021年に世界初のレベル3量産車「LEGEND(レジェンド)」を実現した先駆者であり、その知見を活かして「世界に先駆けた全域アイズオフの実現」という野心的な目標を掲げていた。北米向け開発の中止により、この計画は事実上白紙となった。

■GM Cruise撤退に続く2度目の打撃——ホンダの自動運転は今どこにいるか

今回の方針転換はホンダにとって自動運転戦略の2度目の大きな挫折となる。1度目は2024年12月のGM(ゼネラルモーターズ)によるCruise(クルーズ)ロボタクシー事業からの完全撤退だった。ホンダはGMおよびCruiseと三者で東京での自動運転タクシーサービスを2026年初頭に開始する計画を進めていたが、Cruiseの撤退でその計画は白紙となった

Honda 0 SALOONの北米向け開発中止はこれに続く2度目の打撃だ。ただし、ホンダは2度の逆境を経てもなお自動運転の開発継続を表明している。AIを活用した画像認識技術に強みを持つ米スタートアップ・Helm.ai(ヘルム・エーアイ)との技術融合を進め、「熟練ドライバーのようにふるまうAD(自動運転)」の追求を続けているほか、将来の無人タクシー開発への取り組みも独自に継続するとしている。

■トヨタや日産の自動運転状況は?

Honda 0 SALOONの文脈を理解するため、トヨタ日産の現状も整理しておきたい。2026年4月時点で、日本国内で一般販売されているレベル3搭載の新車は存在しない。

トヨタはレベル3未実装、レベル4のe-Paletteで別路線

トヨタの市販車における最高水準は、高速道路での渋滞時ハンズオフを可能にするレベル2+機能(Advanced Drive)に留まっている。一方でトヨタはサービス車両のe-Palette(イーパレット)でレベル4に照準を絞っており、2027年度を目途にレベル4準拠車両の市場導入を目指す。市販乗用車でのレベル3とはまったく別のアプローチだ。

日産はWayve・Uberと組んで東京でレベル4ロボタクシーを狙う

日産は独自の市販車レベル3実装こそ実現していないが、2026年3月にWayveおよびUberと提携。2026年末を目標に東京でロボタクシーのパイロット展開を目指すと発表した。日産リーフをベース車両にWayveのAIドライバーを搭載する仕組みだ。

■逆境を経て、ホンダの自動運転はどこへ向かうのか

Honda 0 SALOONの北米向け開発中止は、ホンダにとって間違いなく痛手だ。しかし三部社長が「断腸の思い」と言いながらも決断を下したのは、ずるずると損失を拡大させる前に自社の強みと市場の現実に向き合うためだ。EV市場の成長が想定より遅れているのはホンダだけの問題ではなく、フォードやGMも同様の判断を迫られてきた。

ASIMO OSという技術資産はホンダの手元に残る。Honda 0 αを通じてインド・日本市場での展開が続き、2026年5月の中長期戦略発表でホンダがどんな自動運転の絵を描くかが明らかになる。かつて世界初のレベル3量産車を実現し、世界的な自動運転の先駆者として知られるホンダが、今度はどのような形で自動運転の次のステップを描くのか期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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