三菱商事、自動運転事業に参入!総合商社の新たな成長エンジンに

ティアフォー&アイサンとのタッグが業界を席捲?



三菱商事は2024年3月、自動運転開発スタートアップのティアフォーに出資すると発表した。協業を通じて自動運転システムの社会実装を推進していく狙いだ。


三菱商事は近年、自動運転をはじめとしたCASE領域における取り組みを加速している。従来の自動車関連事業をモビリティサービスに進化し、新たな事業の柱に成長させる戦略だ。

自動運転分野において存在感を高めつつある三菱商事。同社の取り組みをまとめてみた。

■三菱商事のCASE戦略

三菱商事のCASE戦略を各社との取り組みなどを紐解きつつ、解説していこう。


ティアフォーとの関係強化

三菱商事は、ティアフォーの株式を第三者割当増資の引き受けによって取得する。両社はこれまでも各種実証を通じて協業関係を築いてきたが、この出資により関係を強化し、自動運転システムの社会実装の加速化を目指し関連事業の取り組みを推進していくとしている。

両社は2020年に自動配送ロボット実証を共同で実施しているほか、各地の自動運転実証などで顔を合わせてきた。今後、両社と関係の深いアイサンテクノロジーなどを交え、綿密に連携した取り組みが大きく前進することになりそうだ。

【参考】関連記事としては「ティアフォーの自動運転/Autoware戦略」も参照。

総合モビリティサービス事業に着手

三菱商事は、自動車事業本部、いすゞ事業本部、モビリティ事業本部、バッテリーソリューション事業開発部を設け、自動車の海外販売や部品調達など世界を舞台に広く事業展開している。商社として、自動車業界とは大きな関わりを持っているのだ。

近年はCASE関連の事業展開も目立つ。自動車が「所有」から「利用」へと変わっていく中、これまで中心だった販売ビジネスの形態も変化していくと想定し、事業構造の転換に向け2017年にモビリティサービスの検討を開始したという。

中期経営戦略2024においては、自動車バリューチェーン事業のさらなる強化とともに、総合モビリティサービス事業を収益の柱に育成し、EX(エネルギー・トランスフォーメーション)・DX(デジタル・トランスフォーメーション)一体推進を武器に自動車・モビリティサービスの普及を図っていく方針を据えている。

総合モビリティサービス事業においては、電動化や自動運転化といった未来に向け、強固な事業基盤を持つ日本において事業構築に着手しており、後述するAI(人工知能)オンデマンドサービス「のるーと」の運行や、資本業務提携を交わしている電脳交通を通じたタクシー配車サービスの効率化、アイサンテクノロジーとの協業による自動運転導入支援事業。EV(電気自動車)フリートマネジメント事業などを推進している。

これらの新たな戦略は、モビリティ領域における課題を共有できるパートナー企業とともに進められている。以下、新領域の関連会社を紹介していく。

リチウムエナジージャパン

2007年にGSユアサ、三菱自動車工業とともに設立した同社は、三菱自動車をはじめとする国内外の自動車メーカーへ電池供給を行うほか、電力貯蔵など一般産業用途にも対応したバッテリーソリューションの開発を進めている。

早くから車載向け電池事業に注力してきた成果は、アウトランダーPHEVやエクリプスクロスPHEVのヒットに表れていると言える。

ネクスト・モビリティ

西日本鉄道と2019年に設立した合弁で、交通事業者や地域が抱えるモビリティサービスの課題解決に向けAI活用型オンデマンドバスをはじめとしたソリューション提供型事業を展開している。

AIデマンドモビリティ「のるーと」は、東京都調布市や宮崎県宮崎市、福岡県東峰村、静岡県富士市、三重県志摩市、徳島県徳島市、福岡県志免町など全国各地で採用されている。

自家用有償旅客運送を活用したサービスもあり、規制緩和の波を受け今後さらに導入が進みそうだ。

スペア・テクノロジーソリューションズ

オンデマンド乗合交通プラットフォームを開発するカナダのSpare Labsとの合弁として2019年に設立した。

オンデマンド交通システムの導入支援を核としており、「Spareプラットフォーム」は各地で展開されている「のるーと」サービスなどで活用されている。

A-Drive

自動運転の社会実装に向けては、アイサンテクノロジーと共同出資して2023年に設立したA-Driveが先頭に立つ。

同社は、自動運転車両を利用する上で必要となる機器やシステム、インフラ設備などの調達支援や、自動運転車の運行に向けたコンサルティングなどのサービスを提供する自動運転ワンストップサービス事業を手掛ける。自動運転時代のさまざまなニーズに対応可能なサービス展開を行い、2025年の自動運転実用化に向け貢献していくとしている。

自動運転技術の実装には、走行ルートや環境などの条件設定(ODD:運行設計領域設定)や、インフラ協調による安全支援、継続的なサービス設計や事業設計、関係期間との調整など、多くのプロセスを踏む必要がある。こうしたプロセスをワンストップで供給し、自治体や交通事業者における自動運転技術の導入をスムーズに行える総合的なサービスを提供するという。

なお、アイサンテクノロジーはティアフォーと早くにパートナーシップを結び、非常に多くの実証を共にしてきた。A-Driveの事業においても、ティアフォーの技術が導入されることが多いものと思われる。

ここでも三菱商事とティアフォーは間接的に結びついている。今回の三菱商事とティアフォーの協業により、アイサンテクノロジーを交えた3社による取り組みが大きく前進することになりそうだ。

■自動運転関連の取り組み

自動配送ロボットの公道実証を実施

三菱商事と三菱地所、東京海上日動火災保険は2020年、岡山県玉野市で自動配送ロボット実証を実施した。

低速・小型自動配送ロボットを活用した公道実証で、パートナー企業のティアフォーとアイサンテクノロジーによる自動運転・マッピング技術と、オプティマインドのルート最適化アルゴリズムを活用し、複数顧客に対し商品を配送するラストマイル実証を行った。

同様の実証は、茨城県筑西市でも2021年4月に行われている。2種類の小型自動配送ロボットを連携させ、道の駅やその周辺公道を遠隔監視で自律走行しながら農作物の集荷や商品の配送を行う国内初の実証という。

【参考】自動配送ロボットに関する取り組みについては「三菱商事と三菱地所が「自動運転×配送」に注力!?国内初の実証実験、岡山県玉野市で」も参照。

長野県塩尻市でAI活用型オンデマンドバス「のるーと」の実証運行を開始

三菱商事は2020年、ネクスト・モビリティや長野県塩尻市とのコンソーシアムを通じ、自動運転を活用したMaaS実証事業を開始した。AIオンデマンドバス「のるーと」による特定エリア内の運行と乗用車の自動運転によるエリア間運行を推進し、公共交通DXを推進していく。

のるーとの実証はネクスト・モビリティ、自動運転実証はコンソーシアムメンバーのアイサンテクノロジーとティアフォーがそれぞれ担っている。

自動運転実証はその後も継続されており、2024年1月にはアイサンテクノロジーが自動運転小型EVバス「ティアフォーMinibus」を塩尻市振興公社に販売している。

レベル4実装に向け取り組みはさらに加速しそうだ。

【参考】塩尻市における取り組みについては「国内初の「量産型」自動運転EVバス、長野県塩尻市で走行試験」も参照。

湘南アイパークで医療MaaS実証

三菱商事、三菱電機、マクニカなどは2021年、湘南アイパークでヘルスケアMaaSに向けた自動運転実証を実施した。

医療×移動の未来を地域住民に体験してもらおうと、自動運転運行やヘルスケアソリューションの提供を行う内容で、自動運転は自宅から病院への移動を想定してアイパークを周遊し、車室内ではバイタルセンシング技術により病院とリモート接続したデジタル問診を体験可能としている。

インドネシアで自動運転実証

三菱商事は2021年、マクニカとの共同企業体でインドネシアBSD Cityにおいて自動運転実証を行うと発表した。

三菱商事はスマートシティ化を目指す都市運営事業として現地の不動産デベロッパー最大手Sinar Mas Landと都市運営やスマート・デジタルサービス導入に向けた協業を開始しており、その一環として大規模モビリティサービスの事業展開可能性を検証する。

BSD City内の中心となるオフィスエリアや商業施設で、日本の技術を用いた自動運転EVを周回させ、地域住民や就業者、来訪者に実際に乗車してもらいながら1年間の実証を行う方針としている。

空港内における自動運転実証に着手

三菱商事といすゞ、西日本鉄道は2022年、福岡国際空港で大型バスによる空港内自動運転実証を行うと発表した。

限定区域でレベル2走行から開始し、段階的に自動運転技術を高め将来的にレベル4を目指すとしている。

平塚市で自動運転バス実証

三菱商事とアイサンテクノロジー、A-Drive、神奈川中央交通、神奈川県平塚市は2023年4 月、自動運転移動サービスを中心とした地域公共交通のDX推進に係る連携協定を交わした。2024年1月にはいすゞ自動車も加わっている。

実証は2024年1月から2月にかけて実施されており、既存バス路線と同様のルート約4.3キロをレベル2で走行した。次年度も継続する予定だ。

ホンダや日産とエネルギー関連サービスの新規事業検討に着手

三菱商事とホンダは2023年10月、EV普及拡大を見据えた新事業創出に向けた覚書を締結したと発表した。また、三菱商事と日産は2024年3月、次世代モビリティサービスとEVを活用したエネルギー関連サービスの新規事業を検討する覚書を締結したと発表した。

ホンダとの検討では、バッテリーのライフタイムマネジメント事業やスマート充電・V2Gを通じたエネルギーマネジメント事業などを視野に収めているようだ。

一方、日産との事業は未定の部分が多いようだが、それぞれが培ってきた技術や知見をもとにエネルギー関連サービスの共同事業化を図っていく方針としている。

日産は2024年2月、2027年度にも自動運転サービス提供を目指す計画を発表したほか、3月にはホンダと電動化・知能化に向け戦略的パートナーシップの検討を開始する覚書を締結したことも発表している。

次世代モビリティ分野で取り組みを加速するホンダや日産との新規事業のポテンシャルは計り知れない。場合によっては3社連合体制に発展する可能性もあり、要注目だ。

A-Driveの事業も着々と拡大

A-Driveとしては、前述の平塚市や塩尻市のほか、埼玉県深谷市、神奈川県川崎市でも自動運転実装に向けた取り組みに着手している。

深谷市では深谷自動運転実装コンソーシアムを組み、自動運転技術の社会実装に向けた検討や社会ニーズの掘り起こし、関連産業の振興などを図っていくとしている。

川崎市では、KAWASAKI新モビリティサービス実証実験協議会が取り組む自動運転バス実証に参加し、2023年10月に臨港バス塩浜営業所~産業道路~大師橋駅をレベル2で往復走行している。

【参考】深谷市における取り組みについては「自動運転技術を「地産地消」!埼玉県深谷市、公共交通で導入へ」も参照。

■【まとめ】パートナーシップに注目

A-Driveを通じたアイサンテクノロジーとの協業においてティアフォーも間接的に関わっていたが、今回の協業により3社の関係はより強固なものへと変わっていくことになりそうだ。

ティアフォーはレベル4ソリューションの量産化段階に入っており、今後各自治体などと連携した取り組みを加速していくものと思われるが、三菱商事が加わることによりネットワークは広がり、信用力も増す。

2025年度をめどに50カ所程度で自動運転移動サービスを実現――という政府目標達成に向け各社が取り組みを強化する中、3社の存在感はどこまで増していくのか。今後の展開に注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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