アメリカにおける5G事業の覇権争いにおいて、ソフトバンクグループはその渦中にいる。
ソフトバンクは米国第4位の通信キャリアであるスプリントを傘下に置き、第3位キャリアのTモバイルと経営統合に関する交渉を進めてきた。孫社長は経営権を譲らずにいたが、2018年4月、最終的にはTモバイル親会社のドイツテレコムに筆頭株主の座を譲る形で決着した。
孫社長はなぜ経営権を保持することを諦めたのか。その理由としては、アメリカ国内で5G競争に勝つためには一刻も早く経営統合をし、2社による設備投資費の拠出が必要という考えも働いたと言われている。アメリカでは2018年後半にも5G導入がスタートする。もう残された時間は少なかった。
なぜソフトバンクはここまで5Gにこだわるのか。それは5G事業と自動運転事業の親和性が極めて高いからだ。通信インフラ事業から、通信インフラを活用した高付加価値事業へのシフトを狙うソフトバンクグループ。自動運転を高付加価値事業と位置付けた場合、5Gで負けることは許されない。
■完全自動運転車に不可欠な5G
超高速かつ大容量の通信を実現する第5世代移動通信システム「5G」は、完全自動運転車の普及には不可欠であると言われている。
自動運転では、位置情報や周辺環境の情報をクラウド上と瞬時に送受信したり、遅延を抑えた車車間通信をしたりする必要があり、高速移動時の遅延も少ない5Gは通信インフラにおいて最も重要な役割を果たすと言える。
日本では既に2018年3月、茨城県内で5Gを活用したトラックの隊列走行デモを成功させている。2020年から日本で5Gを提供するという目標達成も現実味を帯びてきている。
【参考】ソフトバンクの5G実証実験については「ソフトバンク、5G戦略の系譜 自動運転で「通信会社」から脱皮|自動運転ラボ 」も参照。
しかしグローバル展開を進めるソフトバンクにとって、経済超大国アメリカでの負けはプライドが許さない。米国でも新たな5Gという「武器」を獲得するため、冒頭に触れたように、仕方なく経営権を譲ることにしたと言える。
通信会社を枠を越え、ライドシェアや自動運転という新産業分野でさらなる躍進を誓うソフトバンク。孫社長の手腕で21世紀にどれだけ世界を席巻するのか。今後のソフトバンクの躍進に注目していきたい。(終わり)
【参考】ソフトバンクは自動運転分野においては、グループ会社のSBドライブ社を通じて事業を加速させている。2018年7月には、中国インターネット検索大手の百度(バイドゥ)と共同で、百度が開発を進める自動運転システム「Apollo(アポロ)」を搭載した自動運転バスを日本に導入することを目指すことが発表された。詳しくは「中国・百度の”アポロ計画”自動運転バスが日本へ ソフトバンク傘下SBドライブと協業|自動運転ラボ 」を参照。
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