ソフトバンクグループの孫正義社長が「こんな馬鹿な国がいまだにあるとは」と苦言を呈した2018年7月19日の午後、中国ライドシェア大手の滴滴出行(Didi Chuxing:ディディチューシン)とソフトバンク株式会社が、合弁会社としてDiDiモビリティジャパン株式会社を設立したことを発表した。
この会社の一丁目一番地は、日本国内で次世代タクシー配車サービスを提供することだ。早速、2018年秋から大阪でタクシー配車サービスを共同で実施することも発表した。ソフトバンクと滴滴出行はタッグを組んで日本で配車サービスを展開することを、唐突だと感じる人もいたかもしれない。
しかし布石は既にあった。2017年5月、ソフトバンクは滴滴出行に50億ドル(約5650億円)にも上る巨額投資をすることが明らかになった。それまでにもソフトバンクは滴滴出行に出資をしていたが、巨額投資によって大株主の地位を維持させる狙いだった。
■巨額投資は事業シフトに向けたもの
ソフトバンクが滴滴出行に出資した理由は、ソフトバンクが通信インフラ事業から、通信インフラを活用した高付加価値事業へのシフトを狙っていたからだ。
この日の会見でソフトバンク株式会社の宮内謙社長は「最先端通信インフラを含む強固な事業基盤を(タクシー配車サービスと)融合させる」と力強く述べ、事業の成功を誓った。具体的にはソフトバンクキャリアのスマートフォンに配車アプリを導入する。まさに滴滴出行に出資したねらい通り、「通信+α」の展開を実現するわけだ。
通信が最大のソフトバンクの武器であり基盤。そのことに変わりはないが、今回の滴滴出行との協業で、その武器で新たなチャンスをもぎ取ろうというソフトバンクの姿勢が改めて鮮明になったと言えよう。
しかし、逆に言えば通信だけではソフトバンクは負けていられないとも言える。武器を失えば攻勢に打って出ることもできない。そのことを鮮明に感じさせたのが、アメリカにおける5G事業の覇権争いだった。
>>孫正義の事業観(1)「馬鹿な国」発言はポジショントークか
(閲覧中)孫正義の事業観(2)「通信+α」事業に巨額投資でシフトへ