アプトポッドとの資本業務提携の狙い(特集:マクニカのスマートモビリティへの挑戦 第12回)

モビリティDX事業の更なる深化に向けて



マクニカの可知剛氏(右)とアプトポッドの坂元淳一氏(左)

スマートモビリティ領域に注力するマクニカとソフトウェア開発企業のアプトポッドは2021年4月5日、資本業務提携を発表した。

報道発表によれば、今回の資本業務提携を通じて、5G時代のDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現と社会課題を解決するデータプラットフォームの提供において、協業していくという。


特集「マクニカのスマートモビリティへの挑戦〜共に創る、伴に走る~」の第12回では、マクニカのイノベーション戦略事業本部スマートモビリティ事業部の事業部長である可知剛氏とアプトポッド代表取締役の坂元淳一氏にインタビューし、資本業務提携の目的やデータプラットフォームについて聞いた。

■マクニカとアプトポッドとの資本業務提携の背景は?

自動運転ラボ 本日はよろしくお願いいたします。まず今回の資本業務提携の背景や目的、両社のそれぞれの役割ついて教えてください。

可知氏 これまでの特集記事でも取り上げていただいたように、マクニカではこれまで自動運転に欠かすことができない高精度3D LiDARに代表される様々なタイプのセンサーシステムを顧客に提供してきました。その中でセンサーシステムの提供だけではなく、高精度システムから生まれる成果物の提供、いわゆる、高品位・高精細のデータそのものへのニーズの高まりを受け、新しいビジネスとしてデータビジネスを始めた経緯があります。

そして、高精度センサーで収集した高品位・高精細なデータをモビリティ特有の環境下でリアルタイムかつ欠損なく記録するための技術に課題を持つに至り、その課題を解決する独自技術を持たれているアプトポッドさんに出会いました。


■データの重要性が高まる中で、協業の話が前進

坂元氏 当社では一般的なIoTシナリオとは異なり、自動車などの制御信号、LiDARの点群、動画像など、様々なデータ種の膨大な時系列データのストリーミングをサポートする技術をコアにしています。 製品としては高速な大容量データの伝送や活用に対応したIoTプラットフォーム「intdash」(イントダッシュ)、およびエッジコンピューティング環境を提供しており、自動車、建設機械、ロボット分野など様々な分野のDXプロジェクトにおけるリアルタイムなデータパイプライン構築でご採用いただいています。

例えば自動車の内部では電子制御システムでネットワークされ、無数のセンサーや複数の制御システムの間で1秒間に数千から数万といった信号やデータが創出されますが、こうした膨大な時系列データをクラウドと直結することで、遠隔での精密な解析や診断を可能にしています。さらには、盛り上がりを見せているAIの開発・運用や機械学習においても高精度なデータ収集が継続的に必要となり、AI・機械学習関連プロジェクトのお引き合いも急増しています。

また、当社の多くのお客様では移動体のコネクテッド化がテーマとなりモバイルデータ伝送が必須ですが、移動を伴うモバイルデータ伝送は帯域が不安定になりがちで、頻繁にデータ欠損が発生します。当社では独自技術により、こうした欠損データを自動補完回収する機能などを開発し、移動体からのデータの完全回収を実現しています

可知氏 ご質問の背景はまさにそこで、我々がデータビジネスを始めた中でお客さまから受けた要望というのは、坂元さんがおっしゃった通り、そのモビリティ特有の何千、何万の時系列データを「リアルタイム」かつ「欠損無く」取得してほしいということです。


我々が長距離・長時間かけて走ったデータが欠損していたとなると、正しい分析ができません。高品質なAIモデルを作るためにも、如何にクオリティの高いデータを収集し、欠損無い状態で届けるか、がとても重要なポイントです。これはモビリティ環境下でDXによる様々な「コト」の実現のためにデータ収集をされている事業者全てに当てはまる可能性があるペインポイント(課題)であると考えています。

我々社内でも、「データが欠損していました」といった事態はよく耳にしますし、自動運転に関わっておられる業界の方には分かっていただけるはずですが、これが結構な頻度で起こるものでして。

そんな時にアプトポッドさんのデータ伝送技術に出会い、一気に距離を詰めて協業のお話が進むことになりました。

■エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングを両方構える必要性

坂元氏 これまでのモバイル伝送といえば4G(LTE)が主流ですが、4Gの上り帯域は実測上で5-10Mbps程度が国内でのアベレージです。まだまだ限られた帯域のため、すべてのデータをストリーミングすることはできません。そのため、現段階では必要なデータをフィルタしたり、一定の処理はエッジ側で実装して、結果だけをアップロードしていくような仕組みの組合せも必要です。

近年ではGPUコンピューティングのコモディティ化でエッジコンピューティングの性能も飛躍的に向上してきています。動画などのエンコード処理やエッジAI処理の稼働など、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングを併用することで、より高度な処理を適材適所に配置することができ、アプリケーションシナリオや通信の最適化を図ることができます。

今後は5Gのカバレッジが広がると上り100Mbpsレベルの帯域を確保できる時代になります。また、通信やクラウドコンピューティングのコストパフォーマンスも向上することから、確実に大容量データ伝送の時代が訪れると予測しています。土管(帯域)が広がったことで課題となってくるのはデータストリームを捌くミドルウェア層のボトルネック化です。5G網の低遅延性能を最大化したり、大容量データを利活用したりするためには肥大化するストリームデータを処理するエッジ/クラウド両面でのソフトウェア技術が必要であり、「intdash」ではそうした性能要件を前提に設計しています。

可知氏 5Gや6Gで帯域が拡張されたとしても通信レイヤーだけでなく、全てのレイヤーで適切な技術を使わないと、通信量だけ増えて結局実現したいことに至らない可能性があるということですね。少しアプトポッドさんの独自技術について紹介頂けますか?

坂元氏 intdashではエッジとサーバー間の通信に独自のデータフォーマットとアプリケーションプロトコルを適用しています。このアプリケーションプロトコルではデータの流し方をコントロールすることで、インターネットの伝送性能を最適化するための様々な工夫がされており、リアルタイム性やデータ欠損時の補完処理など、不安定なネットワーク下でも膨大なデータのストリーミングの最適化に貢献をします。

また、intdashのデータフォーマットでは様々な制御・センサー信号や動画・音声などのメディアデータなど、あらゆる種類のデータをカプセル化しタイムスタンプを管理できるようになっています。これにより、データフュージョン(複合的なデータ種)に対しても同一タイムラインでのストリーミングを可能にし、クラウドのデータベースに格納された段階ではきれいに時系列(タイムライン)が揃った状態で保存され、即活用開始できます。

例えば、データの解析処理や機械学習などを行う際に、複合的なデータの組み合わせが必要な場合、動画は動画、信号は信号など、データを個別に集めてから後で打刻合わせをするのが一般的です。この作業に数週間以上かかってしまうケースも少なくありません。当然リアルタイムアプリケーションでのデータフュージョン活用も困難です。

このようにリアルタイム性、欠損回収、データフュージョンなど、データストリーミングの領域は縁の下の話なのですが、ここがしっかりしていないと様々なDXシナリオが実現できなかったりするわけです。

■アプトポッドが加わったことでDX事業が深化

可知氏 例えば、AIの運用を本気でやろうとすれば、環境変化や要件変化に追随するAIモデルの進化のために、再学習して強化し続ける環境が必要です。そのためには初動のモデル開発だけでなく、運用後も継続的に高品位データを収集できるデータパイプライン構築が求められます。

マクニカは元々、様々なセンサーシステムによって、どのように実効性のあるデータを取得するかといったナレッジを蓄積し、お客様に最適なセンサーシステムを提案してまいりました。

昨今モビリティの領域には色々なAIやIoT分野のプレーヤーが参入してきていますが、センサーシステムや時系列データ処理における難易度を真に理解した上でのソリューションを持っていたり、AI運用まで一気通貫に提案できたりするプレーヤーは、そうないと思います。

これまでのマクニカのナレッジやソリューションにアプトポッドさんの技術を組み合わせることで、垂直統合型のAI/IoTソリューションとして具現化することができます。

マクニカの提供するAI/IoTソリューション「MMDP(マクニカモビリティデータプラットフォーム)」
■データ利活用における課題に対して支援ができる点は?

坂元氏 今後、スマートシティやMaaS(サービスとしてのモビリティ)、建設分野のiConstruction(建設現場でICTを活用する取り組み)のほか、農業、物流、工場などの各分野でフィールド全体でのコネクテッド化、自動化や協調システムの構築などが急速に進むことが予測されますが、そういった各分野でのイノベーション実現の加速に貢献できるプラットフォーム提供を目指したいですね。

可知氏 そうした未来志向の取り組みももちろんですが、社会が直面する課題とも向き合っていきたいですね。例えば、我々が自治体と自動運転などの実証実験を一緒にやりながら実際に生の声を聞くと、地方行政管轄の林道とか農道の管理に関する悩みのお話をいただくことがあります。それらを管轄している土木課では人員が多くない中で定期的に道路を見に行って、状態の確認・管理をしているようなのですが、全ての作業を人間がやろうとするとコストがかかり、それが財政難に直結します。

ある情報ソースによると日本には総延長120万キロの道路があって、その84%がいわゆる国交省管轄ではない、市町村の地方自治体の管理下にあります。この地方行政に課せられた膨大な管理負荷は大きな課題となっており、まさに自動運転、センシングデバイス、AIによって自動運転車両による無人走行調査など、技術で解決できる点は多々あると思っています。

坂元氏 地方行政が管轄する橋やトンネルの6〜7割方が要補修状態のようで、耐用年数を超えている道路インフラも多いという話も聞いたことがあります。

可知氏 そうですね。その状態が続ければ、最終的には道路を通行止めするしかありません。でもそうすると、生活の道路なので地域住民の方々は困ります。そのため、AI/IoTを活用して劣化の状態を解析することにも挑戦したいです。

またインフラは維持だけでなく選択することで利便性を担保することも重要だと考えています。例えば、架橋に関して、一定の流域に4本かかっている橋の利用流動をAIで分析し、1本以外は無くなっても生活利便性も失われないならほかの3本はメンテナンスする必要がないといった判断を下すような取り組みにも、挑戦していきたいですね。

■【取材を終えて】永続する社会を実現するための様々な取り組みにも期待

マクニカとアプトポッドが提携することで、マクニカの事業領域が半導体販売を中心とした車載事業領域から、車両を活用して「コト」のDXを実現する様々な事業領域へ急速に拡大していく可能性があると感じた。また永続する社会を実現するための様々な取り組み事例も今後出てくることに期待したい。

>>特集目次

>>第1回:自動運転の「頼りになる相談役」!開発から実装まで

>>第2回:自動運転を実現するためのプロセスとキーテクノロジーは?

>>第3回:実証実験用の自動運転車の構築からビジネス設計支援まで!

>>第4回:自動運転、センサー選定のポイントは?

>>第5回:自動運転、認識技術とSLAMを用いた自己位置推定方法とは?

>>第6回:自動運転の安全確保のための技術とは?

>>第7回:自動運転×セキュリティ、万全な対策は?

>>第8回:自動運転車のデータ収集からマネタイズまで!

>>第9回:自動運転サービスの事業化、一気通貫で支援

>>第10回:建機の自動運転化で「現場」の常識が変わる!

>>第11回:「自動運転車×道路点検」が将来スタンダードに!

>>第12回:アプトポッドとの資本業務提携の狙い


関連記事