【対談】どうなる2020年以降の自動運転市場!?富士キメラ総研と自動運転ラボが未来予測

「車両作り」「サービス」などさまざまな視点から



自動運転ラボを運営するストロボ代表の下山哲平(左)と富士キメラ総研の佐藤弘明氏(右)

新聞やニュースなどで「自動運転」という言葉を見聞きしない日はもう少ない。世界ではGoogle系ウェイモが2018年12月に自動運転タクシーの商用サービスをスタートさせ、日本国内でも自動運転レベル3(条件付き運転自動化)を解禁する改正道路交通法が国会で成立し、自動運転を取り巻く環境が徐々に整備されてきている。

いま世界中の企業が自動運転領域の各レイヤーにおける主導権を握ろうと開発競争を繰り広げている中、市場の未来はどのように変化していくのだろうか。今回はインタビュー取材の特別企画として、市場調査大手の富士キメラ総研で自動車領域を担当する佐藤弘明氏と自動運転ラボを運営する株式会社ストロボの代表取締役である下山哲平が対談した内容をお届けする。


記事の目次

【佐藤弘明氏プロフィル】さとう・ひろあき 2002年に富士キメラ総研に入社後、自動車グループに属し、自動車の電装化やITS(高度道路交通システム)関連、自動運転関連の市場動向調査を担当。

【下山哲平プロフィル】しもやま・てっぺい 大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief SolutionsOfficer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。

■自動運転時代はエンジンからEVへ
Q 自動運転向けのソフトウェア市場は伸びる余地はあるのでしょうか?

下山 今日は自動車が自動運転化される2020年以降に、どのような産業が立ち上がっていくか、伸びていくか、というところにフォーカスしたお話をさせていただきたいと思います。


まず自動運転車向けのソフトウェアについてですが、最終的には数社のソフトがデファクトスタンダード(事実上の標準)となるため、開発プレーヤーの多くが潤うというマーケットには将来的にならないはずです。例えば「Windows」はマーケットが大きいですが、儲かっているのはマイクロソフトだけですよね。

今の自動運転分野は誰もがマイクロソフトになりたいから頑張っていますが、結局は1社しかなれないわけですから、全体論で言うと意外と大きくないマーケットなのかなと思います。そういう意味で言えば、自動運転車におけるソフトウェアは伸びる余地があるのでしょうか?

佐藤氏 自動運転車のソフトウェアは恐らく各自動車メーカーが自社で開発してしまうと思います。トヨタも子会社を作って取り組んでいますし、(ほかの開発企業も)囲い込んでしまうと思うので、マーケットが大きくなるかと言うと難しいですね。

下山 そうですよね。そのため将来的な自動運転マーケットを見据えた場合には、自動車が自動で動くようになったことで実現できる新たなサービスや、そのサービスを提供するためのプラットフォームやソフトウェアの開発に力を入れていくべきでしょう。こうした市場は将来巨大化していくはずです。


■自動運転領域、日本は世界市場の1/4を占める規模
Q 自動運転産業に参入するベンチャー企業で目立つのは、どのような領域の企業でしょうか?

佐藤氏 やはり一番多いのはLiDAR(編注:「ライダー」と読み、「自動運転の目」と呼ばれる重要センサー)です。LiDARは現在安いものでも20万円、高価なものだと100万円ぐらいするので、市販車に搭載させるとなると価格的にかなり厳しいのが現状です。それをベンチャーやスタートアップの技術を使っていかに安くしていくか、というのがLiDAR業界の今の流れです。

下山 どちらかと言うと要素技術ベンチャーということですね。海外ではLiDARを使わない切り口で攻めているベンチャーといった取り組みもありますね。大学発ベンチャーのようなところも多いですか?

佐藤氏 大学発ベンチャーや、あとはイスラエルなどの海外系ベンチャーが多いですね。

Q 自動運転市場を日本と海外で分けると、日本から生み出されている市場というのはどのぐらいの規模ですか?

佐藤氏 日本の市場規模は世界市場全体の大体4分の1ぐらいですね。やはり自動運転分野では日系のメーカーよりも海外のメーカーの方が多いです。センサー関係なども今まではトヨタやデンソーの製品が多かったですが、海外から様々なメーカーが参入しているので、日系メーカーが弱くなってきています。これから自動運転が普及してくると、日系メーカーのシェアがどんどん海外メーカーに取られてしまうという可能性はありますね。

センサーだけではなく、サービスも同様です。海外の、特にイスラエルなどのスタートアップがどんどん存在感が大きくなってきていますので、日系メーカーはここが勝負どころだと思います。

■自動運転車の普及は中国から、次いでEU
Q 世界中の企業が自動運転の開発に取り組んでいますが、実際に普及し、市場が巨大化していくのは、どの国が一番早いと予想されますか?

佐藤氏 やはり中国ですね。中国全土の販売台数から見てみると(自動運転車の)パーセンテージはそれほど大きくならない予想ですが、そもそもの全体の販売台数が多いので、自動運転車の市場規模は大きくなります。

中国では国をあげての自動運転シティのような構想もあります、2030年ごろからは中国でそのようなスマートシティで自動運転車が走り出すようになると思います。そうすると、数千、数万台が一気に走り出すわけですから、マーケットが形成されて車中決済や付随するサービスが展開されていくのかなと思います。そして中国の次はやはりEU(欧州連合)ですね。

下山 EUは国策的に良い意味でハードランニングさせる方向に入っていますよね。既に内燃機関車の将来的な全廃を宣言するEU加盟国が出てきており、強制的に終了と言ってしまえるところがすごい。

【参考】こうした欧州の政策については「世界の自動車燃費規制の進展と電動化の展望(三井物産戦略研究所)」などが参考になる。

佐藤氏 そうですね、多少はリップサービスみたいなところもあると思いますが。

下山 ただ多少のリップサービスはあっても、自動車メーカーなどの産業自体が本気で取り組むということを狙っているのでしょうね。中国は国策で取り組みなさいと言えるからイノベーションが早くなる。

技術力があるから一番早いのは本来は日本のはずですが、国が先導せず、結局は既存の何万人という社員を守るためにいかに大きい工場でエンジン車を作り続けるかという方向に進んでしまいがちです。EUのように「何年後にはもう禁止です」と言えれば一気に変わるのかもしれませんが。

■自動運転時代に重要となる、放熱ビジネスがアツい!?
Q 車作りという視点で見たときに、自動運転の普及によって伸びてくると予想されるマーケットはありますか?

佐藤氏 自動運転車に搭載される半導体チップが増えると、半導体による熱を車の中で放熱する必要が出てきますので、放熱素材を扱う放熱ビジネスというものが増えてくると考えられます。

下山 それは冷却ファンなどではなくて、素材自体が伸びてくるということですか?

佐藤氏 そうです。素材という切り口で増えてくると思いますね。チップをハウジング(編注:装置などを覆うこと)するケースなどで放熱効率の良い素材が重要になってきます。自動車がEV化すること自体も大量の熱が発生することになるので、水冷などの開発が行われています。そこに加えて、自動運転によってさらに熱を持つチップの搭載が増えると、放熱関係の業界が潤ってくるでしょうね。

下山 そのような分野は特許ビジネスになってくるので、特定の会社が一気に儲かるという可能性がありますよね。仮に、今は自動車に関係なく放熱材料をずっと研究しているような会社が急に伸びる可能性があるということですね。

■自動運転時代、車内エンタメが巨大市場になる!?
Q 先ほどまでのお話は車作り自体で伸びる産業でしたが、車が自動で動くことによって実現する新しいサービスについて、どのような業界が伸びてくる、というような展望はありますか?

佐藤氏 MaaSに代表されるような、自動運転車を使ったサービスというのが今後増えてきます。その中でも市場規模が大きくなるのは、やはり「カーシェア」と「ライドシェア」です。これらのサービスは人の移動のためのものなのですが、それよりも先行してくるのがモノの移動です。物流や配送などのサービスで自動運転化がまず先行して、その後に人の移動のサービスという流れになると思います。

人の移動まで自動運転が普及すると、移動中の時間をどのように使っていくかという部分でビジネスが発生すると思います。例えばカーナビなどでどんな車中コンテンツを配信するのか、車でどういう風に時間を使ってもらうのか、というところに焦点を当てたコンテンツビジネスが伸びていくのではないかなと思います。

下山 車中エンターテイメントというのは一番大きい変化になると思います。「ガラケー」がスマホになったタイミングとすごく似ていると思います。ガラケーというそこまでコネクテッドではなかったものがスマホになって完全コネクテッドになったことで、一気にエンタメ消費が爆発したのと同じように、車中のエンターテイメントもコネクテッドになって運転が必要なくなると非常に大きなマーケットになってくると考えられます。

Q 車内エンタメの市場が拡張する時期は?

佐藤氏 我々も調査の中で色々な業界の方にお話を聞くのですが、まだ具体的に見えてこないという感じですね。車内エンタメを楽しめる状態は、自動運転レベル3(条件付き運転自動化)や自動運転レベル4(高度運転自動化)ではまだまだ到達できないと思いますので、20年から30年先になると思います。それだけ先の車内エンタメ市場がどのくらいの規模になるかと言うとちょっと見えない部分はありますね。

下山 私は登壇するセミナーでもよく話すのですが、「自動運転車を製造する」という切り口で見たとき、自動車産業自体はすごく大雑把に言うと大きくも小さくもならないと思います。

ハイテク装備は増えたのに20年前と現在で車の値段はあまり変動していない。販売台数も自動運転車になると、自家用車以外の用途が生まれるので増える可能性はありますが、従来の用途として見ると大幅に増える可能性は少ない。

そう考えると自動車マーケットそのものの規模はさほど大きくなるとは考えにくいです。自動車マーケットが大きく伸びるためには、今まで全く存在しなかった新しいサービスなどのマーケットが自動運転車マーケットの上に上乗せされることが重要なのかなと思います。

例えば自動運転車向けの広告市場を1つ取り上げても、2030年には52兆円規模になるという予測があります。一方で自動運転車の車両自体の市場規模については別な調査では2030年に22兆円になるとされており、「乗っかるサービス」の市場の方が大きいという現象が起きる可能性があります。こうした点からも自動運転市場の規模を捉える際には、自動運転「車」の市場ではなく、「自動運転『車』に乗っかる様々なサービス産業」をイメージしていく必要があるでしょう。

ただ、やはり自動運転車が本当に社会実装されるまでは大分時間がかかるので、日本では取り組んでいる企業が少ないのですが、数十年先のビジネスを見据えている大企業ほど専門チームを作って自動運転分野に取り組んでいます。このような企業にとって一番頼りになるのは御社のような会社が発刊されるような業界白書的なレーダーだと思います。

例えば、自動車業界は燃焼機関が無くなる代わりにセンサーやEV関連産業が増えてトータルで見ると○%くらいの伸び率です、一方で自動運転が実現すると新しく生まれるマーケットはこの〇倍くらいで〇〇兆円ですよ、といった対比をすると、大企業が開発に乗り出しやすいと思います。

自動運転分野は投資を回収できるのが10年以上先になるため、どうしても投資のハードルが高くなってしまいます。投資にあたっての「心の拠り所」という意味でも、自動車をつくる産業と、自動車周辺産業の対比ができるようなレポートを企画していただくと面白いかなと思います。

佐藤氏 ちょうど今、そのような形で調査しているものがあり、近日中に発刊する予定です。CASEでいうところの「A(オートノマス:自動運転)」に対して「S」(シェアード:共有)が絡んでくるのですが、Sの部分に「サービス」も含めて、2040年ぐらいまでにどのような市場になっていくのかをまとめているところです。

下山 市場規模の対比で言うとサービスの部分は大きくなりそうですか?

佐藤氏 そうですね、サービスも含めた「S」の部分が大きくなりそうです。

我々は、お客様から自動運転になったらまず車はどう変わるのかという質問を受けて調査をするケースが多いため、どうしてもサプライヤー目線で調査することが多いものですから、内装がどうなるとかコクピットはどうなるかといった車作りの視点が中心になりがちなのですけれど、やはりそこだけだと自動運転という業界を全体で見た時にカバーしきれないので、車が自動運転になって、それによってどういったビジネスが生まれるのかという観点も必要だと感じています。

最近では「空飛ぶクルマ」なども出てきて、エアタクシーや物流などのサービスが広がってくるという予想もあります。車の形態自体も変わってくるし、サービスも広がってくるというところでかなり大きなマーケットになっていくのかなと思っていますね。

■広告ビジネスは様々な広がりを見せる可能性あり
Q 運転が必要なくなる自動運転では、車内広告ビジネスへの取り組みも多く見られますが、市場規模どのように変化していくでしょうか?

佐藤氏 自動車業界における広告ビジネスに関しては我々も数年前から注目しています。車内で広告を配信する実例が増え、車内にディスプレイが配置される例も増えていく中で、車内広告という産業はかなり大きなビジネスになってくると思っています。

下山 今までの車は個人の所有物でしたが、シェアリングが主流になると勝手にコンテンツを配信することもできるようになりますよね。そうなると、シェアリングの二重価格制度が現実味を帯びてくると思います。例えばスマホでYouTubeを見るときに広告さえ視聴すればほとんどのコンテンツが無料で見られるのと一緒で、広告を視聴すればシェアリングの月額が安くなるという仕組みです。

佐藤氏 あとは車の外にディスプレイを配信して、車に乗っている乗員だけでなく歩行者にも配信できるなど、自動運転分野の広告ビジネスはいろいろ夢がありそうだ、というお話はよく耳にします。

Q 自動運転関連の業界で、これからリサーチを予定している部分はありますか?

佐藤氏 内装の変化とそれによってどういった産業が入ってくるのかという視点ですね。一番大きいのはシートで、今の4つのシートが向かい合ったり、もしくはベッドになったりとか、そのような内装の変化について調査したいなと直近では思っています。

下山 ディスプレイも内装の一つですし、結局、広告配信などの分野も内装に含まれてきますよね。

佐藤氏 あとは内装が与える五感の変化というのもあると思います。広告などのディスプレイは視覚になりますが、内装の触り心地や室内空間の匂いなども変化してくると思います。

下山 自動運転で一番伸びると言われているエンターテイメントはAR(拡張現実)とかVR(仮想現実)ですからね。シートにセンサーをつけて、車にかかるGに合わせた仕組みなどを考えると面白そうですし、かなり高機能のシートが必要になりそうですね。

本日は対談インタビュー、誠に有難うございました。

■【取材を終えて】自動運転市場の拡大は新しいサービスの創出が必要

自動運転市場が成長する中で大きなビジネスチャンスを掴むためには、「ユーザーが運転から解放される」という視点も重要となる。ベンチャーの参入が難しい「自動運転車作り」そのものと比べると、アイデア次第でまだまだいくらでもチャンスが見出せる機会がある。今後、我々の想像がつかない新しいサービスもきっと登場するはずだろう。

【参考】関連記事としては「AI自動運転やMaaS、ライドシェアなどの将来市場規模予測10選」も参照。


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