移動革命が起きないことによる「最悪のシナリオ」…地方バス消滅?配送業界はパンク?

社会にどのような影響が生じるのか





自動車業界に変革をもたらすCASE。自動車の自動運転化やコネクテッド化、サービス化、電化をキーワードに、業界がその姿を大きく変えようとしている。







その効果は、人流や物流に大きな変化をもたらし、「移動」そのものの概念を変えていく可能性もある。移動革命だ。

早期実用化を目指し世界を股に掛けた開発競争や実証が盛んに行われているが、もしこの移動革命が起こらなければ、社会にどのような影響が生じるのか。

新たなイノベーションを放棄する経済的損失は言うまでもないが、さらに深刻な影響を受けるだろう2点をピックアップし、「最悪のシナリオ」について考察してみよう。

■公共交通への影響
地方交通の現状、負のスパイラルはすでに始まっている

移動革命の未遂は、地方にさらなる疲弊をもたらす可能性が高い。人口減少時代を迎える中、若い世代を中心に仕事を求めて都市部に移動する者が後を絶たず、労働者人口の減少によって地方の活力と公共サービスが低下する負のスパイラルに陥っている自治体が少なくないからだ。

公共サービスは医療や教育など多岐に及び、公共交通もその中に含まれる。大なり小なり財源を必要とする分野だ。

人口減などによって経済力や財政力を失った地域では、公共医療機関や学校などの統廃合が進み、生活のベースとなるスーパーなどの撤退や廃業も進行する。住民が何かしらの用を足すために必要となる移動距離も伸びていくことになる。

この住民の足を確保するのが公共交通だ。自治体をまたぐ比較的長距離の移動は鉄道、地域内における短距離の移動はバスが中心となり、民営・公営のサービスが提供されている。

公共交通は、自動車の普及などを背景に利用者が低下し、サービス維持に補助を必要とする路線が増加傾向にあるが、人口減がこれに拍車をかける形となっているのは言うまでもないことだろう。

バスの輸送人員は1970年ごろをピークに減少

国土交通省の統計情報によると、バスの輸送人員は1970年ごろの100億7300万人をピークに減少を続け、2007年ごろからは約4200万~4300万人で推移している。三大都市圏が2007年ごろから微増傾向にあるのに対し、その他地域では今なお減少が続いているのが現状だ。

また、国土交通省が毎年発表している「乗合バス事業の収支状況」によると、30両以上の車両を保有する事業者を対象とした2018年度の調査において、大都市部(三大都市圏)では黒字収支51者、赤字収支28者に対し、その他地域では黒字18者、赤字143者となっている。なお、高速バスと定期観光バスは除外されている。

その他地域では、実に89%が赤字収支となっているのだ。全体でも約71%が赤字となっている。

地方においては、住民の足として廃止することができない路線の維持に対し、交通事業者に補助を出すのはもはやスタンダードとなっている。

路線バスをはじめとした公共交通は消滅の危機に

近年では、デマンドバスの導入など試行錯誤が続いているほか、自動運転やMaaSの導入を目指す動きも活発化している。地方の公共交通に移動革命が求められている証左と言えるだろう。自動運転などにかかる期待はことのほか大きい。

しかし、こうした移動革命が起きなければどうなるのか。結論から言えば、地方における負のスパイラルに拍車がかかることになる。

人口減少に伴い財源も減少するなか、交通サービスの維持に掛けられる予算も次第に減少していく。バスは路線の統廃合や減便が進み、どんどん縮小されていくことになる。

交通サービスの低下に伴い、自家用車などの足がない住民の生活は著しく不便なものとなり、他地域、特にサービスが充実している都市部に人が流れていくことになるのだ。最終的に路線バスは消滅し、ボランティア運営の形をとったデマンドバスなどが細々と運行されるだけになるだろう。

これは今実際に地方で起こっている現象だ。負のスパイラルを断ち切る一手段としての移動革命を手放すのであれば、相応の代替策がない限り地域の衰退は免れないことになる。

【参考】関連記事としては「既にこんなに!?バスの自動運転、日本国内で実証続々」も参照。

高齢者のマイカー利用も…

生活の足がない住民にとって貴重な存在が自家用車だ。地方においては、一世帯で複数台所有するのも一般的だ。自家用車があれば、公共交通が不足しても特に不便を感じない。

しかし、ここから昨今大きく取沙汰されている社会問題が顔をのぞかせる。高齢者の交通事故だ。アクセルとブレーキを踏み間違えて店舗に突っ込むといったニュースが連日のようにメディアを騒がせている。

高齢者による事故率が大きく変化したわけではなく、運転者に占める高齢者の割合が高まっているためこうした事故が顕在化してきたわけだが、高齢者のすべてが利便性を追求するため自家用車を運転しているわけではない。

生活の足を確保するため、自家用車を手放すことができない層も少なからず含まれているのだ。本音では免許を返納したくとも、自家用車を手放せばスーパーに行くのも病院に行くのも難儀する交通環境がそこにあるからだ。公共交通の崩壊は、こうした環境を増長する。

事故を防止するためペダルの踏み間違い防止装置をはじめADAS(先進運転支援システム)の開発も進んでいるが、クルマの進化が止まると、これらの開発も止まるという観点も忘れてはならない。

都市部では渋滞が深刻化 環境問題も

一方、都市部ではどのような問題が生じるのか。シェアサービスなどでクルマの総量が減少しなければ、渋滞の慢性化がいっそう進行し、道路交通がより不便なものになっていくことが想定される。

合わせて、環境負荷も増大していく。電気自動車(EV)の普及にも見通しが立たなければ、大気汚染や地球温暖化の一要因として自動車産業がやり玉に挙げられ続けることになるだろう。

■物流ラストワンマイルへの影響
EC背景に高まる宅配需要

物流面ではどのような変化が想定されるか。拡大を続けるEC(電子商取引)市場に対し、物流を担う運送業が抱える問題が深刻になりそうだ。

経済産業省が取りまとめた「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、国内ECにおける2017年のB2C-EC市場は、前年比8.96%増の18.0兆円に拡大している。

フリマアプリなどを活用した個人間におけるC2C-EC市場も顕著な伸びを見せており、EC市場の拡大傾向はいましばらく続くものと思われる。

国土交通省の発表によると、2018年度のトラック運送による宅配便取扱個数は約42億6000万個、メール便は約50億2000万個に上るという。宅配需要増加による小口多頻度化が進んでいるのだ。

【参考】関連記事としては「ラストワンマイル系の物流ソリューション・サービスまとめ」も参照。

ドライバー不足は深刻な状況に

需要が増加する一方、配送を担うドライバー不足は深刻化しており、厚生労働省の統計によると、2018年4月の有効求人倍率は全職業1.35倍に対し貨物自動車運転手は2.68倍となっており、他の職業と比較しても人手不足が顕著となっている。

労働環境の改善が求められるところだが、増大する需要を前に苦境に立たされているのが現状のようだ。

こうした物流が抱える問題の打開策として期待されているのが自動運転だ。特にラストワンマイルを担う配送ロボットなどが導入されることにより、宅配にかかる労力を大きく減少させることが可能になる。自動運転技術に対する期待の高い分野だ。

配送料の大幅値上げでEC帝国が崩壊?

しかし、こうしたイノベーションが起きなければ業界はどうなるのか。ドライバーにかかる負担が増大し、労働環境を改善する決め手にもかける中、宅配需要を吸収しきれなくなるのは時間の問題で、物流はパンクしてしまうだろう。

最終的には、配送料の大幅値上げで対応せざるを得なくなりそうだ。その場合、当然ながら伸び続けていたEC市場も変化を余儀なくされる。利便性や効率性がウリのEC市場が成長を止める可能性まで出てくるだろう。

■【まとめ】社会課題を解決する自動運転 移動革命の着実な前進に期待

公共交通と物流の2点をピックアップしたが、これらは現在進行形で問題が深刻化している分野であり、このまま手を打たなければどうなるのか……といった観点をそのまま表した結果と言える。

最先端の技術革新で夢溢れる自動運転の開発をめぐっては、国際競争など経済的な観点ももちろんあるが、社会課題の解決に直接結びつく技術でもある。MaaSなどを含め、移動革命の手を安易に止めてはならないのである。着実な前進を望みたい。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
登壇情報









関連記事