トヨタ、貴方もか…AIや自動運転開発で中国を選ぶオトナの事情

BMWやダイムラーなど続々と開発拠点



トヨタ自動車がAI(人工知能)や自動運転開発の新拠点を2019年内にも中国に設置することが報じられた。北京市のほか上海市にも設置する方針で、本当に設置されれば自動運転開発における対中国戦略の基幹を担う部門になりそうだ。


世界各国の自動車メーカーが中国に一大拠点を求める傾向は近年特に顕著となっているが、米中関係に象徴されるように、中国は国際的協調性に乏しい面があり、政治上は日本とも友好な関係にあるとは言いづらい国家だ。

なぜ各社は中国シフトを強めるのか。その謎に迫ってみた。

【参考】トヨタの中国新開発拠点については「トヨタ自動車、自動運転とAIの研究拠点を中国に開設か」も参照。

■市場規模と規制と自動運転施策のシナジー効果か
新車販売2800万台の巨大市場

国別の新車登録・販売台数を見ると、中国は2018年に28年ぶりの減少に転じたものの約2800万台を誇り、2位の米国(約1700 万~1800万台)に1000万台の差をつけている。3位の日本は約500万台、4~6位は300万~400万台でドイツインド、英国が競っている。


世界総計は年間1億台弱であり、中国はこのうち約3割のシェアを誇る巨大市場だ。貿易上の軋轢があったとしても、各社が中国を無視できない事情はここにある。

車両の中国国内生産、スタンダード化

また、中国は国策上外資参入規制を敷いており、例えば完成車を製造する場合、原則外資100%は認められず、中国側の出資比率が50%を下回らない形で中国企業と合弁を立ち上げるなどの必要がある。輸出入の規制なども相まって、自動車を中国内で製造するため中国企業と手を組み、生産設備を整えるというのがこれまでのスタンダードだ。

なお、この外資の出資比率制限については、商用車は2020年、乗用車は2022年に撤廃される予定となっている。その一方で、自動車メーカーの新工場建設を規制する新ルールも2018年12月に承認され、従来の燃焼エンジン生産工場を中心に規制を強め、過剰生産能力の低減と、プラグインハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車といった新エネルギー車(NEV)を促進していく方針のようだ。

米政権との外交問題に左右される面もあり、生産設備投資においては今後紆余曲折する可能性もある。


自動運転開発などを促進する強力な国家戦略

近年、最大の魅力になりつつあるのが、自動運転やNEV開発を促進する強力な国家戦略だ。まちを丸ごと自動運転仕様にする自動運転シティ・スマートシティ構想を進めるなど、次世代技術の研究開発を大きく後押しする施策を実施しており、自国内における法律や規制に苦慮している自動運転開発各社にとっては、大げさに言えば天国のようなものだ。先進的な技術を持つスタートアップも続々と育っており、期待感も高い。

同様に自動運転開発を積極的に受け入れている米カリフォルニア州には、世界各地の開発メーカーが集結し、公道での走行実証試験を繰り返している。自動運転開発の聖地といえるカリフォルニア州だが、第2の聖地として今後中国が台頭する可能性は十分考えられるだろう。

かつて規制のために中国内で生産設備の投資や現地法人の設立を進めてきた各社だが、今後は、先進技術の開発拠点として改めて投資する動きが活発化するのかもしれない。

【参考】中国の自動運転戦略については「「自動運転×中国」の最新動向は? 国や企業の取り組み状況まとめ」も参照。

■他社の開発拠点も中国内に着々と増加

独フォルクスワーゲン(VW)は2018年5月に、中国の第一汽車(FAW)との合弁会社「一汽大衆(FAW VW)」が中国国内に新たに3工場を開設することを発表している。同年10月には、上海汽車集団の合弁会社が上海市にEV専用の新工場建設に着手したことなども報じられている。

【参考】VWの中国内における動向については「VW中国、4年で2兆円投資か シェア首位堅持、EVや自動運転に注力」も参照。

日産自動車も、1000億円を投じて中国に新工場を建設するとともに既存2拠点を増強し、2020年をめどに乗用車の生産能力を3割高める方針であることが報じられている。

このほか、米EV大手のテスラも、上海にEVの新工場を建設することが2018年7月に明らかになっている。上海市当局とは合意済みで、正式な許可が下り次第着工する予定。早ければ2020年にも操業を開始するという。

投資額などは明らかにされていないが、新工場では年間50万台の車両の生産を計画しているようだ。

【参考】テスラの中国内における動向については「テスラ、中国でEV生産工場建設へ イーロン・マスク氏が決断 投資額は不明」も参照。

自動運転関連では、独BMWが2018年5月に上海市で公道走行試験の認可を受けたほか、北京市内に新たな研究開発拠点を開設したことが発表されている。独ダイムラーも同年7月、北京市で公道走行試験の認可を受けた。

独アウディも2社に続き、北京市と無錫市で公道走行試験許可を取得しており、2019年内に両市に研究開発・試験を行う拠点を設立する予定という。

■自動運転開発の新たな聖地に

海外自動車メーカーと中国の関係は、市場を目的としたつながりから自動運転開発を見据えたつながりに徐々に移行しており、各メーカーの中国シフトの動きはしばらく続く見込みだ。日本が世界に誇るトヨタもついに中国に……といった感を受けるが、これも時代の流れなのだろう。

このほか、中国では百度(バイドゥ)が進めるアポロ計画も前進している。自動運転開発の聖地化が急速に進んでおり、当分目が離せない状況が続きそうだ。

【参考】百度の戦略については「中国・百度(baidu)の自動運転戦略まとめ アポロ計画を推進」も参照。


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