ソフトバンクグループにおいて自動運転関連事業の最前線に立つBOLDLY(ボードリー)。2016年の設立から瞬く間に頭角を現し、グループ内のみならず自動運転業界における存在感を飛躍的に高めている。
この記事では、自動運転分野におけるBOLDLYのこれまでの取り組みを解説していく。
記事の目次
■BOLDLYの概要:国内における自動運転実用化に大きく貢献
BOLDLYは、代表取締役社長兼CEOを務める佐治友基氏のアイデアから生まれた。佐治氏は2015年、ソフトバンク社内で行われたビジネスアイデアコンテストで「自動運転技術を活用した交通インフラ事業」を提案し、最終審査で2位となり事業化に向けた活動を開始した。
それからわずか1年後、ソフトバンクは先進モビリティと合弁「SBドライブ」の設立を発表した。現BOLDLYの誕生だ。
2016年に福岡県北九州市、鳥取県八頭町、長野県白馬村、静岡県浜松市とスズキ、遠州鉄道などとそれぞれ自動運転技術を活用したスマートモビリティーサービスの事業化に向け連携協定を結んだほか、愛知県の「自動走行の社会受容性実証実験事業」や経済産業省の「スマートモビリティシステム研究開発・実証事業」を受託するなど、ネットワークを拡大しながら取り組みを加速していく。
2017年には、仏Navya製の自動運転シャトルバス「NAVYA ARMA」を活用した国内初の実証実験や一般試乗会をはじめ、先進モビリティが開発した自動運転バスを活用した実証事業を開始するなど、自動運転技術の社会実装に向けた具体的な取り組みも本格化させた。
2018年には、自社開発した遠隔運行管理システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」の運用を開始し、自動運転車と連携させて遠隔地から運行状態を把握し車内外の安全確保を図る技術開発なども進めている。
2020年には、羽田空港に隣接する複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」敷地内や茨城県境町の公道で、ARMAを活用した自動運転バスの定常運行を開始するなど、国内における自動運転実用化に大きく貢献している。
■自動運転実証の実績:累計100回に迫る勢い
自動運転の社会実装を進めるBOLDLYは、国内における実証実験の実績も豊富だ。2020年11月時点における国内実証は累計93回、総乗車人数は約2万7,000人に達し、国内ナンバーワンの実績を誇る。
自動運転車両は、主力のARMAをはじめ、先進モビリティが改造した自動運転バスや小型車、トーイングトラクターなど、海外含め16車種を数える。実証に先立った現地調査や走行ルート・車両の設定、技術説明など、積み重ねてきた知見をもとにトータルでケアし、実用化に向けた課題の洗い出しや社会受容性の向上などを図っている。
■Dispatcherの概要:運行管理や遠隔サポートを可能に
自動運転分野においてBOLDLYの存在感を高め、強力な武器となっているのがDispatcherだ。自動運転の走行において、運行管理や安全管理、効率的運用管理という視点から遠隔サポートを可能にし、自動運転車の安全性を大きく高めている。
車両の速度や位置情報、エネルギー残量、機器の異常といった車両状態をはじめ、車内外に取り付けられたカメラの映像を大きな遅延なくリアルタイムで確認することができる。
車内外のカメラ映像を含む車両情報を大きな遅延なくリアルタイムで遠隔監視することが可能で、1人で複数台の車両の監視や操作を行うこともできる。
バスで必須となる乗客の安全確保面では、AI(人工知能)が乗客の車内移動や転倒などを検知し、自動で注意ガイダンスを流したり着座前の自動発車を防止したりすることができる。車両からアラートが上がった際は、遠隔監視者は車内通話や車内ディスプレイへの表示、車両制御などを通じて対応することができる。
このほか、車両点検やODD(運行設計領域)の確認といった管理業務をより効率的かつ確実に行えるツールなども備えている。
Dispatcherは2021年3月時点で16車種に対応しており、異なる車両を一括運用する際も、同一のUIでオペレーションすることができる。
同社によると、申し込みから最短2カ月で各地域において自動運転バスを走行させることが可能という。多くの経験を糧に、自動運転実装に向けた国内随一のプロ集団に成長を遂げている。
■BOLDLYの他社との連携:Sensible 4やPerceptIn、百度とも協業
BOLDLYは、Dispatcherを通じた他社との連携などにも積極的だ。同社は2020年1月、全天候型の自動運転バス「GACHA(ガチャ)」の開発を手掛けるフィンランドのSensible 4と提携し、GACHAにDispatcherを搭載してフィンランドの公道で運行させる計画を発表した。
また、同月には低速自動運転車の開発を進める香港のPerceptInとも協業し、PerceptInが開発した自動運転車両とDispatcherを連携させ、日本国内で運行実証を行うことを目指すと発表した。
【参考】PerceptInとの協業については「SBドライブ、自動運転領域で香港PerceptInと協業 運行実証を実施へ」も参照。
海外の自動運転車両との連携や海外におけるサービス実装も視野に入れ、事業を拡大していく方針のようだ。
このほか、2018年には中国IT大手の百度(バイドゥ)の日本法人とも協業し、百度の自動運転プラットフォーム「Apollo(アポロ)」を搭載した中国・金龍客車の自動運転バス「Apolong(アポロン)」の日本での活用を模索していくことも発表している。
【参考】百度との協業については「中国・百度の”アポロ計画”自動運転バスが日本へ ソフトバンク傘下SBドライブと協業」も参照。
中国・百度の”アポロ計画”自動運転バスが日本へ ソフトバンク傘下SBドライブと協業 https://t.co/rSzC8n3b0X @jidountenlabさんから
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) July 4, 2018
■自動運転バスの実用化:羽田空港や茨城県境町で
実証をはじめとした数々の取り組みの成果は、自動運転バスの実用化という形でしっかりと表れている。2020年9月から定常運行を開始した羽田空港では、ARMAを活用して構内循環バスを無料運行している。運行開始から約2カ月半で1万5,000人が乗車したという。
一方、生活路線バスにARMAを導入した茨城県境町では、同年11月から無償運行を開始しており、全3台のARMAが片道約2.5キロの公道を時速20キロで走行している。2021年2月にはバス停を追加し、ルート上の計8カ所で乗り降りを可能にするなど、サービス向上を図っている。
法律上、公道走行時は保安要員が同乗し自動運転レベル2~3で走行しているが、自動運転の実用化に向けた大きな前進と言える。現在進行形で実証に取り組んでいるエリアも多く、羽田や境町に続く地域が出てくるのか、2021年も大きな注目が集まるところだ。
【参考】境町の取り組みについては「自治体×自動運転バス、定常運行「国内初」は茨城県境町!BOLDLYとマクニカが協力」も参照。
自治体×自動運転バス、定常運行「国内初」は茨城県境町!BOLDLYとマクニカが協力 https://t.co/DOEAwIv66w @jidountenlab #自動運転バス #国内初 #茨城県境町
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) December 1, 2020
■規制緩和に向けた取り組み
こうした自動運転の社会実装を目指す取り組みにおいては、さまざまな法規制にぶつかることも日常茶飯事だ。BOLDLYはこうした規制の在り方についてもしっかりと声を上げ、規制緩和や改革を求める旗主としても活躍している。
自動運転に関わる規制改革が議題となった、2020年12月開催の内閣府の規制改革推進会議の分科会「投資等ワーキング・グループ」では、以下を要望している。
- 歩行者用道路における低速自動運転バスの走行許可
- 自動運転車両の専用道・優先通行帯の設定
- 路線バスの停留所の共用
- 道路使用許可に必要な施設内審査合格者の全国一括管理
また、同WGの質疑応答で、佐治氏は赤字が恒常化している公共交通の在り方にも言及している。まちにとって必要な輸送力やコストを算出し、それを誰が負担するのかという議論を先に行い、運賃から脱却するというビジネスモデルを増やしていく意向を示している。
100円、200円の運賃をとっても黒字にはならない現状において、赤字補填という後ろ向きな考え方から脱却することや、無料乗車で住民の移動を促進し、スーパーや病院などでお金を使ってもらうことでまち全体として潤うビジネスモデルの創出を目指す――といった内容だ。
こうした規制緩和に向けた活動が国を動かし、新たな考え方が社会にイノベーションをもたらすのだろう。
【参考】規制改革要望については「BOLDLY、自動運転に係る規制改革を要望!どんな内容?」も参照。
BOLDLY、自動運転に係る規制改革を要望!どんな内容? https://t.co/ZxuT9ZlP4d @jidountenlab #自動運転 #BOLDLY #規制改革
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) January 18, 2021
■【まとめ】実証支援や運行管理システムが大きな武器に
ソフトバンクグループの中にいながらベンチャー精神を忘れず、新たなモビリティ社会の実現に向け果敢にチャレンジしてきた数々の取り組みが着実に実を結び、成果となって表れているのがよくわかる。
特に実証支援や運行管理システムなどの点では国内有数の企業に成長している。レベル4自動運転サービスの解禁を見据えた実証はまだまだ加速する見込みで、導入を検討する自治体や企業にとって大きな味方となりそうだ。
ただし、自動運転バスに関しては「実証」から「実用」へとフェーズが移行すると、メンテナンスや保守、カスタマイズなどにおいては、現地でのスピーディーな対応が必要になってくるため、今後の課題は現地でのきめ細かなサポートを提供できる体制作りと言えるのではないか。
これはBOLDLYだけに言えたことではないが、たとえば東京に本社がある企業の担当者が現地に駆け付けるには時間がかかり、逆にメンテナンスなどのために車両を東京に移送するというのも非現実的だ。実用フェーズに入ったら運行に穴をあけるわけにはいかない。
運行管理や遠隔監視については運行現場と遠隔地にある拠点でも対応できるが、「車両」という物理的なものを扱うビジネスゆえに、「オフライン」の体制作りも重要になってくるというわけだ。こうした課題にどう取り組んでいくのかも含めて、2021年以降のBOLDLYの取り組みに引き続き注目したい。
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