【日本版】MaaS系サービスに取り組む企業・団体まとめ

異業種連携で開発促進、参加自治体も増加傾向

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ここ最近、ニュースなどで「MaaS」という単語を目にする機会が急増している。鉄道会社やバス事業者、シェアリングサービス事業者などをはじめ、MaaS分野への新規参入が相次いでいるようだ。

都市や地方の隔たりなく移動サービスの在り方を変えていくことになるMaaSについて、どのような企業がどのような視点で研究開発を行っているのか、調べてみた。

■MaaSとは?

MaaSは「Mobility as a Service」の略で、マースと読む。直訳すると「サービスとしてのモビリティ」で、移動のサービス化を意味する。一般的には、自動車や自転車、バス、電車など、全ての交通手段を単なる移動手段としてではなく一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念を指す。

例えば、A地点からB地点に向かう際にアプリでルート検索すると、電車やバス、シェアサイクルなどさまざまな事業者による移動手段を組み合わせたルートが提案され、決済も一括で行われるイメージだ。さらに発展すると、各事業者間でサービスや料金体系の統合が図られ、一定区間内で提供されるさまざまな移動サービスを定額料金で受けることなども可能になる。

フィンランド発祥のこの概念・サービスは世界に拡大中で、日本国内への導入を進める動きもあるほか、新たな移動手段の開発・提供を進める動きも活発化している。

将来、自動運転車が完成・普及すると、マイカー所有率は下がり、より効率的で利便性の高い移動方法が追及されていくことになる。AI(人工知能)の進化により、既存のバスやタクシーなども効率的な営業・運行をどんどん進めていくことになるが、その際、競合する他の移動手段なども含めたうえで利便性が求められることになる。

MaaSの発展によりさまざまな人がより自由に移動できる交通環境が構築され、利用者側は状況に応じて最適な移動手段を選択できるようになっていく。事業者側も、効率的・効果的な事業体制を整えることで収益増加を図ることができる。また、渋滞が慢性化している大都市や過疎化が進む地方都市など、それぞれの環境に合わせた交通体系を組むことで、持続可能な社会づくりに貢献する可能性もあるものと思われる。

■MaaS系サービスに取り組んでいる企業・団体
JR東日本:移動サービスをオールインワンで提供 「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」推進

JR東日本は2018年7月3日に発表した10カ年計画の中期経営ビジョン「変革2027」の中で、アプリや配車サービス、交通ICカード「Suica」などの多面的な活用・連携を通じて、移動のための情報・購入・決済をオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を推進していく方針を明らかにしている。

現在、鉄道各社や自治体などとの連携の下、国内外観光客が駅や空港からバスやタクシー、AI型オンデマンド交通などの2次交通をスマートフォンなどで検索・予約・決済し、目的地までシームレスに移動できる2次交通統合型サービス「観光型MaaS」の提供や、新しい交通手段の開発などに取り組んでいる。

2019年4月から東京急行電鉄とともに「静岡デスティネーションキャンペーン」に合わせて観光型MaaSの実証実験を伊豆エリアで開始するほか、小田急電鉄ともMaaS分野での連携について検討を開始することを発表している。

【参考】JR東日本と小田急の取り組みについては「JR東日本と小田急、MaaS分野で連携検討 独自開発アプリなど連動か」も参照。

モビリティ変革コンソーシアム:138団体が参加、MaaS実証など進める

解決が難しい社会課題や次世代の公共交通について、交通事業者とさまざまな国内外企業、大学・研究機関などがつながりを創出し、オープンイノベーションによるモビリティ変革を目指そうと2017年9月にJR東日本が中心になって立ち上げた団体で、2019年2月時点で運営会員98団体、一般会員40団体が参加している。

具体的には、鉄道ネットワークを中心としたモビリティ・リンケージ・プラットフォームを構築しシームレスな移動の実現を目指す「Door to Door 推進 WG」や、街の特性に応じた移動機会・目的の創出と、駅や周辺の魅力度・快適性を向上することで新しい街づくりを目指す「Smart City WG」、サービスの品質向上や作業安全性向上・作業効率化、メンテナンス業務革新を目指したロボット活用を進める「ロボット活用 WG」などのワーキンググループを立ち上げるなどし、調査や研究を行っている。

WGの一つ「Door to Door 推進 WG」では、「Ringo Pass」を利用した移動と情報提供の実証実験や、Suica認証による交通事業者・デマンド交通・商業施設の連携に関するMaaS実証、JR東日本管内のBRT(バス高速輸送システム)におけるバス自動運転の技術実証などを進めている。

【参考】モビリティ変革コンソーシアムの取り組みについては「BRT路線で自動運転バスの実証実験 JR東日本やソフトバンクなど参加」も参照。

小田急電鉄:小田急MaaS開発へ4社と連携

小田急電鉄はJR東日本との取り組みのほか、株式会社ヴァル研究所、タイムズ24株式会社、株式会社ドコモ・バイクシェア、WHILL株式会社の4社と連携し、多様な交通・生活サービスなどを統合したアプリなどを含む「小田急MaaS」の実現に向け、システム開発やデータ連携、サービスの検討などを進めている。

計画では、ヴァル研究所の検索エンジンとアプリを連携し、小田急グループの鉄道やバスなどの交通データのほか、タイムズ24のカーシェアリングサービスのデータ表示、ドコモ・バイクシェアのサイクルポートのデータ表示を可能にするほか、公共交通機関を降りた後のラストワンマイルの移動手段として、WHILLのパーソナルモビリティとの連携も行う予定。2019年末までに箱根エリアなどで実証実験を行うこととしている。

【参考】小田急の取り組みについては「「小田急MaaS」アプリ実現へ、2019年に実証実験実施」も参照。

トヨタ自動車:「Autono-MaaS」でモビリティサービス会社へ変革

自動運転とMaaSを結び付けた「Autono-MaaS」事業を核に、次世代に向けたモビリティ企業への変革を図るトヨタ自動車は、2019年3月期第3四半期の決算発表で「MaaS戦略のアプローチ」と題し、「外部事業者協業モデル」「トヨタ事業主体モデル」「販売店事業主体モデル」の3つを推進する戦略を公表した。

ライドシェア事業者をはじめとする世界各地域における有力なMaaS事業者との提携深化や、自社で「KINTO」などのカーリース事業とカーシェアサービスを進め、車両データを一元的に管理する「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)」の構築を図りながら新しい移動サービスを模索していく構えだ。

2018年には、MaaS専用次世代EV(電気自動車)のコンセプトカー「e-Palette」を発表したほか、自動運転や新しいモビリティサービスの実現に向けソフトバンクと共同で「モネテクノロジーズ」を設立し、オンデマンドモビリティサービスやデータ解析サービス、Autono-MaaS事業を手掛けていく。

【参考】関連記事としては「Autono-MaaS事業…トヨタ自動車の新旗印、その全容を解説」も参照。

ソフトバンク:自治体との連携やライドシェア事業者への出資など多角的に展開

トヨタとの合弁「モネテクノロジーズ」の設立のほか、神奈川県や岐阜市など自治体との提携を進め、「Society5.0」事業やキャッシュレス社会に関する取り組み、そしてMaaS事業などに取り組んでいる。また、海外では有力ライドシェア事業者への出資など積極的に展開しており、新しい移動サービスの確立に向け先行投資を惜しまない姿勢だ。

また、傘下のSBドライブは旅客物流に関するモビリティーサービスの開発・運営などを手掛けており、遠隔監視システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」を中心にさまざまな実証実験に加わっている。将来的には自動運転バスサービスやドア・ツー・ドアの移動により近いタクシー型の無人運転サービスなどを構想しているという。

【参考】ソフトバンクやSBドライブについては「SBドライブの自動運転戦略は? ソフトバンクグループのベンチャー企業」も参照。

ディー・エヌ・エー(DeNA):新たなプラットフォーマーへ名乗り MOVやAnycaなど事業続々

ディー・エヌ・エーは2018年10月にMaaS分野に関連する技術開発を担う横断組織「モビリティインテリジェンス開発部」の発足を発表している。

タクシー配車アプリ「MOV(旧タクベル)」や無人運転車両を活用した日産自動車との新交通サービス「Easy Ride(イージー・ライド)」、個人間カーシェアサービス「Anyca(エニカ)」、完全自動運転車両を活用した交通サービス「ロボットシャトル」などオートモーティブ事業に力を入れており、AIを活用した移動サービスやプラットフォームの開発を進めている。

ジョルダン:MaaS事業本格参入へ子会社設立

乗換案内サービスを手掛けるジョルダン株式会社は、移動に関するサービスのワンストップ化を進めるとともに、 インバウンドの拡大やIoTの浸透など市場環境の変化を見据えたさまざまな施策を実行しており、MaaS事業に本格参入するため2018年7月に子会社「J MaaS 株式会社」の設立を発表している。J MaaSでは、交通・観光・ICTなどの事業者向けにMaaSインフラを提供することを計画しており、多くの企業や団体の参画を募っている。

2019年1月には、公共交通チケットサービスを提供している英Masabi社と日本における総代理店契約を締結し、経路検索をはじめチケット購入・乗車をスマートフォンだけで完結させる「モバイルチケットサービス」を2019年から本格的に提供開始する。将来的には交通事業者との連携を拡大し、2020年までに複数の交通機関への導入を見据えているようだ。

【参考】ジョルダンの取り組みについては「乗換案内のジョルダン、「モバイルチケットサービス」提供へ MaaS事業を強化」も参照。

Azit:モビリティプラットフォームサービス「CREW」で交通課題解決へ

移動における「格差」をなくすことを使命に掲げるスタートアップの株式会社Azitは、乗りたい人と乗せたい人をマッチングするモビリティプラットフォームサービス「CREW」などを手掛けており、公共交通機関の不足が課題となっている地域で「CREW」を新たな移動手段として提供する実証実験などを行っている。

2019年2月には「Local Mobility Project」を始動し、公共交通機関を補完する形で地域のモビリティ課題を解決する活動を展開していくこととしている。

【参考】Azitの取り組みについては「MaaSプラットフォーム「CREW」、鹿児島の与論島で定常的提供」も参照。

NTTドコモ:移動×サービスで新たなビジネス創出

NTTドコモとNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2018年10月から、横浜市と共同で横浜MaaS「AI運行バス」実証実験を約2カ月間にわたり実施した。

スマートフォンなどで観光施設やグルメスポット、イベント情報など検索してその施設に向かう際、既定の乗降ポイントを指定することで気軽にオンデマンド乗合交通「AI運行バス」に乗車することができるほか、移動手段に加え、店舗や商業施設が施設情報の告知や集客に向けたクーポンを利用者に伝える情報配信機能をMaaSプラットフォームとして統合することで、交通と商業施設の連携を促し、交通需要増大および商業施設の売上向上につなげ、移動の社会課題解決を狙う内容だ。

超スマート社会の実現や次世代AI・ロボットの中核となるインテグレート技術開発などを目的とした取り組みで、JR東日本のモビリティ変革コンソーシアムDoor to Door推進WGにおける「Suica認証による交通事業者・デマンド交通・商業施設の連携に関するMaaS実証」と連携して実施した。

ドコモは、引き続きAIやIoT技術により、未来の移動需要を見える化し、さまざまな移動手段の効率的運行による交通全体の最適化と移動×サービスによる新たなビジネスの創出を図っていくこととしている。

【参考】NTTドコモの取り組みについては「横浜MaaS「AI運行バス」、NEDOとドコモが実証実験スタート」も参照。

WHILL:電動車いすタイプのパーソナルモビリティをラストワンマイルに活用

電動車いすタイプのパーソナルモビリティの開発などを手掛けるスタートアップのWHILL株式会社もMaaS事業に力を入れている。

バスやタクシーなど既存の交通手段を降りた後のわずかな距離を補うラストワンマイルのための新しい移動手段としてパーソナルモビリティの普及を目指しており、独自の自動運転システムの開発を行うほか、研究開発用モデル「Model CR」を製品化し、自動運転システムを開発可能なパートナー企業やセンサー群の研究を行いたい大学などに提供している。

将来的には、モビリティプラットフォームや支払いシステムなどのフロントエンドシステムの構築や、シェアリング事業をパートナー企業とともに進め、自治体など特定のエリアにおいて自らシェアリング事業を展開することを目指している。

現在、世界各国の空港などで実用化に向けた協議を進めているほか、小田急グループほか3社とMaaS連携も開始しており、世界の歩道領域で公共交通機関のように利用されることを目指し、さまざまなパートナーと協力しながら2020年を目処に公道での実用化を行う予定という。

akippa:駐車場シェアサービスから将来はモビリティプラットフォーム構築へ

駐車場シェアサービスを手掛けるakippa株式会社は、駐車場予約アプリのさらなる成長とその先のMaaSを軸としたモビリティプラットフォーム構築を目指すこととしており、2018年9月に駐車場シェアリングサービス「Smart Parking」やコインパーキング検索アプリ「パーキングライブラリ」を運営する同業の株式会社シードと提携を交わすなど、シェアビジネスの拡大・進化を図っている。

2018年10月には、ソフトウェア開発などを手掛ける株式会社日光企画が開発した、需給バランスで料金が変動するダイナミックプライシングを自動で行うシステム「throough(スルー)」導入の実証実験をスタート。また、トヨタ自動車と西日本鉄道が福岡市で実施するスマートフォン向けマルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」の実証実験にも参画し、公共交通機関や自動車、自転車、徒歩などの移動手段を組み合わせて最適なルートを検索し予約・決済ができるサービスの検証を行っている。

スマートバリュー:プラットフォーム「Kuruma Base」まもなくサービス開始

モビリティ向けクラウドサービスなどを手掛ける株式会社スマートバリューは、クルマのサービス化を推進するためのプラットフォーム「Kuruma Base(クルマベース)」を2019年5月にサービス開始する予定だ。

プラットフォームは「クルマに接続する専用端末」「クラウド上の管理コンソール」「利用者向けスマートフォンアプリ」「運用サポートサービス」で構成されており、シェアリングサービス事業者など「クルマのサービス化」事業を行っている事業者は、独自にシステムを構築することなくサービス提供や拡大などを図ることが可能になる。

合わせて、スマートバリューでのカーシェアリングサービスの運用も開始する見込みだ。

【参考】スマートバリューの取り組みについては「スマートバリュー、車両のサービス化推進プラットフォーム「Kuruma Base」を2019年5月から提供」も参照。

■MaaS関連事業は大幅拡大傾向、国交省も開発に着手

このほかにも、駐車場やレンタカー事業などを手掛けるパーク24や、駐車場や空き地のシェアリングサービスを手掛けるCarstay、東北でMaaSアプリを展開するみちのりホールディングスや岩手県北自動車、エムティーアイ、車泊で観光振興を目指す九州周遊観光活性化コンソーシアムなど、さまざまな企業・団体がMaaSに取り組んでいる。

また、MaaSに代表される自動車産業の変化への対応などを目的に、三井住友海上火災保険が2つの部署を新設するなど、その動きはどんどん波及しているようだ。国土交通省も統合MaaSサービスの開発に乗り出す模様で、2019年度中に課題整理、2020年度に計画策定を行うと報じられている。

現在、異業種事業者らが手を組み、移動サービス手段の開発やプラットフォームの開発などさまざまな観点から開発・研究を進めている段階で、今後、MaaS事業に手を挙げる自治体なども増加するものと思われ、公共交通含め移動の在り方が徐々に変わっていくことになるだろう。

また、成熟段階に入ると一定の統廃合も進むものと思われ、近い将来主導権争いが激化する可能性も高そうだ。

【参考】国交省によるMaaSの取り組みについては「まさか民間より先!?国交省、統合MaaSサービス開発を検討」も参照。

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