【インタビュー】タクシー配車アプリを全国展開へ DeNAオートモーティブ事業本部長・中島宏氏 名称をタクベルから「MOV」に

水平分業でともに発展



自動運転ラボのインタビューに応じるDeNA執行役員でオートモーティブ事業本部長の中島宏氏=自動運転ラボ撮影

株式会社ディー・エヌ・エー(本社:東京都渋谷区/代表取締役社長兼CEO:守安功)=DeNA=がオートモーティブ事業の一つであるタクシー配車アプリ事業の全国展開に満を持して乗り出す。

神奈川県での実績を引っさげ、2018年12月5日からまず東京で展開を進める。AI(人工知能)需給予測のほか、後部座席にタブレット端末を搭載することなどによってタクシーのIoT化も進めていく。


アプリ名を12月5日に「タクベル」から「MOV」にリブランディングすることも発表し、自動運転事業などとともに日本の交通システムの革新に突き進むDeNA。自動運転ラボはDeNA執行役員でオートモーティブ事業本部長の中島宏氏にインタビューし、同社の最新の取り組みについて聞いた。

  1. DeNAのタクシー配車アプリ、新名称「MOV」に 全国展開を機にタクベルから変更
  2. DeNA、「タクベル」タクシーに後部座席タブレット 総合的なIoT化推進
  3. DeNA、MaaS分野での技術開発へ横断組織「モビリティインテリジェンス開発部」発足
  4. DeNA、タクシー配車アプリを東京都内で2018年内に提供 AI需要予測も導入

【中島宏事業本部長プロフィール】なかじま・ひろし 1978年生まれ、大学卒業後、経営コンサルティング会社を経て2004年12月DeNAに入社。2009年4月より執行役員に就任。新規事業推進室長、HR本部長、マルチリージョンゲーム事業本部長を歴任後、2015年にオートモーティブ事業本部を設立、本部長に就任。次世代タクシー配車アプリ「MOV(2018年12月5日よりタクベルから名称変更予定)」、 日産自動車との無人運転車両を活用した新しい交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」、完全自動運転バス「ロボットシャトル」、個人間カーシェア「Anyca(エニカ)」などを手掛ける。

■神奈川県で6割のタクシー事業者と提携、東京でも供給シェア率確保
Q 神奈川限定で展開していたタクシー配車アプリ事業の実績や東京、そして全国展開をするに至った経緯について教えて下さい。

タクベル(MOV)は2018年4月にサービスの提供を開始しました。他の競合他社さんは以前から事業展開をしているため弊社のサービスは後発になりますが、神奈川県では既に6割のタクシー事業者さんと提携させて頂いており、他社に比べても実車回数は5〜6倍と推計され、着実に成果を出してきました。

我々のサービスは最低限の供給シェア率を確保できなければ、サービスのクオリティを担保できません。せっかくマーケティングをしてユーザーさんがアプリをダウンロードして使ってくれても、全然タクシーが来てくれないということになりますと、アプリを二度と使ってもらえないという残念な結果になってしまいます。そのため、こうしたことが予想される状態ではサービスを開始してはいけない、という考え方をしています。


こうした考え方から、東京ではすぐには展開できないなと思っていたのですが、神奈川での実績もあり、有難いことに最低限の供給量を確保することができる運びになり、全国展開を開始することになりました。

Q タクシー配車アプリは徐々に「戦国時代」の様相を呈してきています。タクベル(MOV)の強みや他社の配車アプリとの違いについて教えて下さい。

これまでの日本の配車アプリは、タクシーに積んでいる無線機とユーザーのアプリをつなぎこむという「無線機連携版アプリ」でした。ユーザー(乗客)は気付かない部分ですが、アプリを使っていても連携されている先は無線機ということです。DeNAのアプリは車側にスマホを1台置いてもらい、(ユーザーと運転手)がアプリとアプリでつながっている「アプリ連携方式」を採用しています。ここが大きな違いです。

CPU(中央演算処理装置)など入っていない無線システムに比べ、スマホはとても高性能です。(アプリがインストールされている)スマホが車内に1台置かれるということになりますと、ドライバーさん側ができることも爆発的に増えます。


ウーバーやDiDiなどの海外勢はアプリ連携方式ですが、日本の市場の中ではアプリ連携方式は競争が始まったくらいのタイミングです。DeNAは早くから日本のタクシーにあった形でアプリ連携方式を始めたということで、イニシアチブが取れていると思っています。

また、アプリでの配車以外にも注目して事業を進めています。

アメリカ中国などのアプリでの配車比率は50%超えで、当たり前のようにアプリを使ってタクシーを呼んでいます。流しのタクシーを止めたり、電話で呼び出したりすることは少なくなっています。一方で日本では全国的にみるとまだアプリでの配車比率は1%程度です。ほかの99%は道端で止めたり、駅で待ったりというケースが多いのが現状です。

この99%に効率的にタクシーに乗ってもらうという視点はとても重要です。きちんと取り組めば日本のタクシーの乗車率は格段に高まります。こうした点でアプローチしていることも、競合他社との差別化要因かと思います。

■アプリ使わない「99%」への効率的なアプローチ方法とは?
Q その99%に対する効率化の方法を教えていただけますか。

現在、AI(人工知能)シミュレータを開発しており、大量のビッグデータを集約しています。シミュレータを使うと、条件(※編注:天候、曜日、電車の遅延の有無など)に合わせてどの辺にいけば乗客がいるのかが分かります。最初はAIの予測精度が上がらなかったのですが、マシンラーニング(機械学習)によってだんだん出来上がってきています。

この技術を使って、乗客を得るための最適ルートを提示するナビゲーションシステムを構築します。このシステムを利用すれば、新人ドライバーさんでもどんどん乗車率が上げられると推定しています。

またタクシー事業者さんにはAIによるナビゲーションだけではなく、タクシー事業のスマート化やコストダウンのためのソリューションも提供させていただく予定です。AIによるナビゲーションはあくまで第1弾です。

■電話での配車センターは「最高のUX」、良い部分は尊重し合う
Q アナログの配車センター(管制室)と配車アプリの関係は?

どんなにアプリが便利になっても、電話でのやりとりがとても重要な人がいます。特に日本では結構な比率で存在しており、今後もそれは変わらないと予測しています。アメリカや中国のように「アプリを使えない方が悪い」という社会にはなりません。

さらに、現在の配車センターシステムはとても優れていて、こんな最高のUX(ユーザー・エクスペリエンス)は他にはないです。例えば、いつもタクシーを使ってくれている常連の佐藤さんが電話をすると、オペレーターの方が「佐藤さん、いつものあそこの場所でいい?」というような対応は、とても良いですよね。タクシー会社さん向けの配車システムを開発している企業さんが何十年もかけて構築したこうした優れたシステムは、このまま使った方がいいです。

(DeNAの配車アプリとアナログの配車センターの関係のように)お互いの良い部分は尊重しつつ、水平分業でみんなで折り合いつけながら一緒に発展していきましょう、という考え方で進めています。

■自動運転時代、プロのタクシー会社にしかできない仕事がある
Q 自動運転に関連するテクノロジーに関してはいかがですか?

新人ドライバーさん向けの業務改善支援システムというのは、行き着くところまでいってしまうと、そのシステム自体を自動運転カーに積めばロボットタクシーになりますよ、という代物です。そのまま自動運転時代の「脳」になることができるということです。

自動運転時代には、タクシー会社さんには我々ができないプロの領域として、交通管制センターの管制官の役割をご担当頂けないかと考えています。自社の運行管理やトラブル管理、車両の整備点検など、プロのタクシー会社さんでしかできないことはたくさんあります。パートナーシップを組みながら進めることが第一前提です。

このシステムはタクシーの会社さんからもらったデータで鍛えたアルゴリズムです。自動運転時代になった時に、そこで「はい、ありがとうございます」といった形でタクシー事業者さんをないがしろにするということはしません。自動運転時代になってもタクシー事業者さんとともに歩ませて頂くというのがDeNAのスタンスです。

Q 御社がMaaS分野に関連する技術開発を担う横断組織として新たに発足させた「モビリティインテリジェンス開発部」ですが、具体的にはどのような取り組みを行っていく予定ですか?

有人タクシーの乗務員さんのサポートツールになるもの、MaaS時代の経営改善につながるようなもの、自動運転のサポートになるようなものなどを作っています。DeNAの技術的な部分の土台を束ねるという側面もあります。

■プラットフォーマーとしての立ち位置明確に

世界的に次世代交通システムが台頭する中、タクシー業界には変革や革新が迫られている。そんな中、DeNAはタクシー配車アプリ事業においてプラットフォーマーとしての立ち位置を明確に打ち出し、関連する企業と折り合いつけながら、一緒に発展していくという姿勢を鮮明にしている。インタビューの中で中島事業本部長が「DeNAをタクシー事業者の次世代の参謀に」と語ったが、その言葉はまさにそのことを象徴する言葉だと感じた。

DeNAのオートモーティブ事業はタクシー配車サービスに留まらない。自動運転バスの実用化に取り組む「ロボットシャトル」、サービス3周年で登録会員数17万人を達成した個人間カーシェアサービス「Anyca」、日産自動車とDeNAで共同開発を進める無人運転車両を使った「EasyRide」プロジェクト…。現在はこの4本柱で事業を展開している。

DeNAのこのオートモーティブの4事業はどんな進化を遂げていくのか。これからもわくわくしながら取材していきたい。


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