自動運転の実現に欠かせないと言われる高精度3次元地図やダイナミックマップ。自車位置の特定・補正や周辺予測、リアルタイムな交通情報提供などで自動運転車の安全性を高める役割を担う。
限定領域下で自動運転レベル3(条件付き運転自動化)やレベル4(高度運転自動化)のシステムの搭載車両が世界各地の公道を走る時代がまもなく訪れようとしているが、ダイナミックマップの開発状況はどこまで進展しているのか。
今回は日本を含む世界の開発企業に着目し、その取り組みなどを調べてみた。
■ダイナミックマップとは?
ダイナミックマップは高精度3次元地図のほか、道路や道路上の構造物、車線情報、路面情報などの「静的情報」、道路工事やイベントなどによる交通規制などの「準静的情報」、信号の現示情報などの「動的情報」、観測時点の渋滞状況などの「準動的情報」などで構成される。
自動運転車が実際に公道を走行する場合には、車両に取り付けられたセンサーからの情報とGPS(全地球測位システム)などを通じた位置情報をダイナミックマップと照らし合わせる作業がシステム内で行われる。
【参考】関連記事としては「【最新版】ダイナミックマップとは? 自動運転とどう関係? 意味や機能は?」も参照。
https://twitter.com/jidountenlab/status/1043878997908643840
■海外の開発企業
HERE Technologies(オランダ):業界標準化に向けグローバル戦略推進
オランダの位置情報サービス大手ヒア・テクノロジーズは、2015年に独アウディ、BMW、ダイムラーの3社連合に買収されて以来、自動運転向けのマップ事業と世界戦略を本格化させている。
走行車両から得られるデータをクラウドに集約し分析していく上での業界標準策定を目指し、2016年に「SENSORIS」と名付けた標準データフォーマットを発表。ITS(高度道路交通システム)分野の業界標準を定義する組織「ERTICO-ITS Europe」の承認を得て、広く参加を呼び掛けている。
現在では、アウディ、BMW、ダイムラーをはじめ、日産、スウェーデンのボルボ、英ジャガーランドローバーなどの自動車メーカーや、デンソー、アイシン、独ボッシュ、独コンチネンタル、仏ヴァレオなどのサプライヤー、ゼンリン、中国のNavInfo(ナビインフォ)、オランダのトムトム、韓国のMappersなどの地図サービス事業者らが参加しているようだ。
こうした業界標準化の動きが功を奏し、2017年以降米インテル、中国テンセント、ナビインフォ、ボッシュ、コンチネンタルなど関連企業からの出資が相次いでおり、日本のパイオニアとも業務資本提携を結んでいる。
2018年5月には、パイオニアの子会社であるインクリメントP、中国のナビインフォ、韓国の通信事業大手SK Telecomと「OneMap Alliance」の結成を発表。ヒアが提供する自動運転向けの高精度地図「HD Live Map」の規格と仕様に適合した地図を用いることで、各地域の自動車メーカーらが地域の制約を受けることなく、各市場で同一の地図情報を自動運転などで利用できるよう進めている。
2019年2月には、オーストリアのウィーンにAI(人工知能)先端研究所(IARAI)の設立を発表しており、より高精度な位置情報やマップの自己修復能力、優れたトラフィック予測モデルと最適化された車両管理などの確立に向け、技術開発力を強化していく方針だ。
【参考】ヒア・テクノロジーズについては「自動運転マップ、年内に世界100万kmカバー オランダ地図大手HERE社」も参照。
TomTom(オランダ):「Road DNA」開発、日本でも事業展開スタート
アムステルダムに本社を置き、世界37カ国にオフィスを構える地図大手のトムトム。自動運転向けの地図データとして「Road DNA」という独自技術の開発を進めており、LiDARなどを搭載したモービルマッピングシステム(MMS)により計測した3Dの街路樹や電柱などの点群データをそのまま扱い、地図情報と照合して一致する度合いを計算して自車位置を高精度で特定する技術だ。
通常はLiDARによる点群データ内の街路樹などを特徴物としてピックアップして照合することでデータの軽量化・高速化などを図っているが、点群データ全てを使用することでデータ整備のコスト低減効果や、悪天候などの環境変化にも柔軟に対応できるという。
同社はすでに欧米の主要道路38万km以上を3次元地図化しているほか、日本においても高速道路1.8万km以上を3次元地図化しているという。
中国の百度(Baidu)と3次元地図の開発で提携しているほか、2017年10月にはゼンリンとの提携も発表しており、日本における高度でリアルタイムなトラフィックサービスを共同開発し、カーナビゲーション機能の充実やコネクテッドカー・自動運転など先端技術への活用をはじめ、新たなモビリティサービスの実現を目指すこととしている。日本での事業にも本腰を入れているようだ。
国策上、外国企業が参入できない中国の地図業界では、ナビインフォ(四維図新)が積極的に活動しているようだ。2012年にトヨタ自動車とナビゲーションの地図配信サービス提供において協業を発表し、合弁会社「中国テレマップ有限会社」を立ち上げ、ナビゲーション地図更新サービスやテレマティクス向け情報提供サービスなども手掛けている。
高精度マップの開発を進めるほか、自動運転システムソリューションとしてオートパイロットマップやADAS(先進運転支援システム)機能を強化するソリューション開発なども行っている。2018年には、ヒアが進める「OneMap Alliance」にも参加を表明している。
中国国内には地図作製資格を持った企業は10数社あり、AutoNavi(オートナビ/高徳軟件)など高精度マップ技術を持った数社が海外自動車メーカーなどと協業し、サービス展開を図っているようだ。2017年4月には、独ボッシュとナビインフォ、オートナビ、百度の4社が、自動運転向けの高精度地図の共同開発に向け提携を結んでいる。
このほか、ライドシェア大手のDiDi Chuxing(滴滴出行/ディディチューシン)も資格を取得し、地図を交えた自動運転開発に着手した模様だ。
【その他】スタートアップも活躍、大手サプライヤーから出資も
米カリフォルニア州に拠点を置くDeepMap(ディープマップ)やMapper.ai(マッパー・ドットAI)など、米国ではスタートアップも次々と立ち上がっているようだ。
マッパー・ドットAIは、オンデマンドで継続的に更新される地図サービスの開発を目指しており、世界各地のドライバーから地理データを収集し、3Dマップに変換して販売する企業向けサービスの提供などを進めている。
一方、ディープマップは高精度マップを利用して自動運転車の位置特定を実現するソフトウェアを開発しており、2018年8月に独ボッシュから出資を受けている。
【参考】ディープマップについては「独ボッシュ、AI自動運転向け高精度地図スタートアップDeepMapに出資 LiDAR駆使して自車位置特定」も参照。
■日本の開発企業
ダイナミックマップ基盤株式会社:協調領域確立へ国内開発企業が連携
内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)でダイナミックマップの仕様などを検討してきた「ダイナミックマップ構築検討コンソーシアム」の6社と自動車メーカーらが共同出資のもと2016年に設立した事業会社。
自動車会社各社が共通して利用する高精度3次元地図データの協調領域の確立を進めており、全国の自動車専用道路に係るダイナミックマップ協調領域と高精度3次元地図データの生成・維持・提供、インフラ維持管理や防災・減災など高精度3次元地図データを用いた多用途向けビジネスの展開、海外向けビジネスの展開、一般道整備に向けたビジネスの展開などを担っている。
出資企業には、産業革新機構、三菱電機、ゼンリン、パスコ、アイサンテクノロジー、インクリメント・ピー、トヨタマップマスター、いすゞ自動車、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車、日野自動車、本田技研工業、マツダ、三菱自動車工業の17社が名を連ねている。
2019年2月には、高精度3次元道路地図を開発・提供する同業の米Ushr(アッシャー)の買収を発表している。
【参考】アッシャー買収については「ダイナミックマップ基盤、同業である米GM出資のUshr社を買収 自動運転など向けの高精度地図を提供」も参照。
三菱電機:高精度地図作製のベース車両を開発
三菱電機は、車載型の移動式高精度3次元計測システム「モービルマッピングシステム(MMS)」を製品化している。MMSは、車両に搭載したGPSやレーザースキャナーカメラなどにより、走行しながら建物や道路の形状、標識、ガードレール、路面文字などの道路周辺の3次元位置情報を高精度で効率的に取得することができるシステム。走行するだけで周辺の3次元形状情報を高速かつ誤差1~10センチ以内の高精度で取得することが可能だ。
アイサンテクノロジー:実証実験の常連組に
アイサンテクノロジーはMMS向けに3次元データを2次元平面図に変換するソフトウェアや走行画像データと点群データを高速補完処理して高精度オルソ画像を作成するソフトウェアなどを製品化している。国内の自動運転の実証実験においても定番企業の一社だ。
【参考】MMSについては「アイサンテクノロジーの自動運転戦略まとめ 測量技術をダイナミックマップに活かす」も参照。
TRI-AD:データ収集基盤を公開し課題解決へ
トヨタ自動車の自動運転開発会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)」が、デジタル高精度地図のデータを広く収集できるよう、データの収集基盤を社外向けに公開する方針を打ち出していることが報じられている。
データの収集基盤の開発を終えたあと、2020年ごろには公開をする計画のようだ。データ収集基盤の名称は「オートメーテッド・マップ・プラットフォーム(AMP)」となるという。
【参考】TRI-ADの取り組みについては「トヨタ子会社TRI-AD、自動運転向けマップのデータを社外からも募集か」も参照。
KDDI・ゼンリン・富士通:ダイナミックマップ向け通信技術確立へ実証実験
KDDI・ゼンリン・富士通の3社は2018年1月から、ダイナミックマップ生成に必須技術となる大容量データの情報収集と自動運転車へのマップ配信技術の実証実験を開始している。
「4G LTE」や次世代移動通信システム「5G」の活用も検討している。こういった関連技術の開発も進められている。
■【まとめ】ワールドダイナミックマップに向け国際的連携加速
自動運転車の開発企業の多くはLiDARなどを使って独自にマッピングデータを収集しており、グーグル系Waymo(ウェイモ)などはその急先鋒に当たるだろう。地図サービスを手掛けるグーグルにとって、自動運転車の地図情報となるダイナミックマップは事業として大きな魅力があるはずだ。
グーグルがどこかのタイミングで大きな動きを見せ始める可能性は否めず、その脅威から独占を警戒する動きもくすぶっているように感じられる。
いずれにしろ、ダイナミックマップの協調領域は世界標準のもと一律のサービスで提供されることが望ましい。日本国内でダイナミックマップ基盤のもと開発各社が連合を組むように、国際的な連携も今後いっそう加速していくものと思われる。
【参考】ダイナミックマップについては「【最新版】ダイナミックマップとは? 自動運転とどう関係? 意味や機能は?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)