Apple Car暫定情報(2023年最新版) 自動運転技術に注目

発売は2024~25年が有力?生産パートナーは?

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発売時期や製造企業をめぐる報道合戦が今なお続く「Apple Car(アップルカー)」。米アップルがプロジェクト「Titan(タイタン)」のもと開発を進めている自動運転EV(電気自動車)の俗称だ。開発動向の大部分はベールに包まれたままとなっており、それ故憶測や関係者筋の話が依然飛び交っている。

この記事では、メディア各社の報道や一部明らかになっている事実に基づき、2023年時点の情報をもとに、Apple Carに関する最新情報をまとめた。

■アップルの自動運転開発

アップルの自動運転開発は、2014年ごろに始まったと言われている。「Titan(タイタン)」という開発プロジェクトのもと、当初はEV・スマートカーの開発を進めていると報じられることが多かった。

その後、米カリフォルニア州車両管理局(DMV)が発行する自動運転の公道実証ライセンスを取得したことなどが明らかになり、自動運転開発を行っていることが確実となった。

カリフォルニア州における公道実証の走行距離は、以下の通りとなっている。

順調な右肩上がり……とは言えない状況で、2019年にはエンジニアを大量解雇する計画が報じられるなど、開発体制は紆余曲折していることがうかがえる。ただ、2019年には自動運転開発を手掛けるスタートアップ米Drive.aiを買収するなど、本気度をうかがわせる動きも見せている。

なお、アップルは自動運転開発について一切のプレスリリースを行っておらず、あくまで極秘プロジェクトとして進める姿勢を貫いている。「Apple Car」という名称も、便宜上メディアや関係者が名付けた仮称だ。

なお、公的機関への文書提出などは行われており、2019年に米運輸省道路交通安全局(NHTSA)に提出されたホワイトペーパー「Our Approach to Automated Driving System Safety」では、自動運転システムを構成する主要コンポーネントについて言及している。

■Apple Carの発売時期は「2024年以降」が有力?

開発プロジェクトの存在が報道され始めた当初は2020年の発売を目指すのではないかと推測されていたが、業界全体の開発動向などとともに予測も変遷し続けている。

2020年12月にロイター通信が2024年の製造開始を目指していると報じれば、同時期に台湾メディアが2021年9月に発売されると報じるなど、さまざまな関係者筋の話が飛び交っている。

複数の関係者の話として米ブルームバーグが2021年11月に報じた内容によれば、4年後、つまり2025年に発売することを社内目標に据えているという。

多くのアナリストが2024年以降と予測している通り、2024年~2025年ごろと見るのが現時点では妥当と言えそうだ。

■Apple Carの製造企業は?情報が錯綜
出典:現在自動車プレスリリース

発売時期以上に情報が錯綜しているのが、Apple Carの製造パートナーだ。アップル自身は製造能力を持たないため、製造・生産を担う企業が不可欠で、その行方に注目が集まっている。2016年には、独ダイムラーやBMWが協業に関する交渉を中止したことなども報道されている。

2021年1月には、アップルと韓国・現代自動車(ヒュンダイ)がパートナーシップを3月までに結び、2024年ごろに米国内で生産を開始すると韓国メディアが報じた。その後、韓国・起亜自動車(KIA)が2月中に提携を交わすとするメディアも現れた。

ただし、ヒュンダイ・KIA両社は一連の報道を否定する形で「複数の企業からEV共同開発の話が来ている」とし、何も決まっていない状況を強調している。

■少なくとも6社の自動車メーカーと交渉?

韓国勢が否定した後、間を置かず「少なくとも6社の自動車メーカーと交渉を進めている」とする新たな報道が出回り、日本や欧州の自動車メーカーが取り沙汰されるようになった。

ブルームバーグは提携する可能性がある企業として、以下の企業の名を挙げている。

特に台湾のFoxconnは、ODM(相手先ブランドによる設計・生産)メーカーという立場からも、Apple Carのプロジェクトと親和性が高いと考えられる。また、そもそもiPhoneなどのApple製品の最大の製造パートナーであり、すでにかなり深い関係性を持っている。このほか、Foxconnは中国系の中堅自動車メーカーとの合弁会社の設立によりEVの受託製造サービスに参入することからも、FoxconnがApple Carを受託生産する可能性は十分にありそうだ。

2021年2月に開催された日産の2020年度第3四半期決算の記者発表では、EV戦略に関連して早速「アップルからコンタクトやアプローチはあったか」という質問が飛び出した。

同社の内田誠社長兼CEO(最高経営責任者)は、一連の報道に対する見解と前置きしたうえで「従来の自動車産業の枠を超えた新たな分野・領域の活動が必須となる。そのためには、各分野で優れた知見や経験を持つ企業とのパートナーシップやコラボレーションも選択としてあり得る」と回答した。

ただしその後に英Financial Timesが、Appleが最近数カ月以内に日産と簡単な交渉はしたものの、両社の役員レベルの交渉には至らなかったという趣旨の報道をしている。

■各社との協議は難航している?

アップルが水面下で各社と交渉を進めている可能性は高いが、協議が難航している印象も強い。あるアナリストはその理由として、アップルは技術的提携ではなくあくまで生産を下請けしてくれる企業を探しているため、と分析している。各自動車メーカーは、自社の技術を生かす部分がなく、言われたまま製造・生産をするのは本意ではない――と見ているようだ。

一方、自動運転システムをライセンス形式で提供するパートナーシップ構築に向け協議を進めていると見るアナリストもいる。

公式発表がないため全て憶測となるが、世界中の自動車メーカーやティア1企業を巻き込む形で、製造・生産を担う企業をめぐる報道合戦が今しばらく続くことになりそうだ。

■交渉先はどんどん拡大?

各種報道によると、アップルの協議先はティア1以下のサプライヤーなどにも及んでいるようだ。日経新聞は2020年、カーエアコンなどの空調システム開発を手掛ける日本のサンデンとアップルが部品供給の交渉を進めていたことを報じた。

また、2021年末にもiPhone関連で取引がある韓国の複数のサプライヤーと面談していたことなども報じられている。Korea IT Newsによると、バッテリー関連ではLGやSKと交渉を行い、材料を選定する段階からアップルが関与し、開発を進めていく意向を示したという。

■どのLiDAR開発企業の製品が採用されるかにも注目
Luminar創業者のオースティン・ラッセル氏=出典:Volco Carsプレスリリース

Apple Carに関しては、どのLiDAR開発企業の製品が採用されるかにも注目だ。2021年2月のブルームバーグの報道によれば、Appleはすでに複数の開発企業と協議に入っているようだ。

調達先として考えられるLiDAR企業としては、Luminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)やAeva(エヴァ)、AEye(エーアイ)、Velodyne Lidar(ベロダイン・ライダー)などの米国企業のほか、ソリッドステート式LiDARの開発に力を入れているソニーなども考えられる。

ただ、アップルはiPad ProにLiDARを搭載するなど、LiDARの自社設計も手掛けている。タブレットなどと自動運転用のLiDARは守備範囲が異なるため一概には言えないが、自動運転向けのLiDAR開発を水面下で進めていてもおかしくはなさそうだ。

【参考】関連記事としては「Apple Car搭載のLiDAR、調達先はLuminar有力?自動運転向けセンサー」も参照。

■Apple Carに搭載される機能は?

Apple Carに搭載される各種機能についても公式発表はされておらず、「自動運転EV」であることぐらいしか判明していない。しかし、同社が取得した自動運転・自動車関連の特許から、その一端に触れることができる。

自動運転関連では、自動運転車の挙動を周囲のドライバーや歩行者にカウントダウン付きで知らせる技術「Countdown Indicator」や、自律走行システムそのものに関する技術、ジェスチャーで自動車を走行させる技術などで、特許を取得している。

座席を通じて乗員に情報伝達する「Haptic feedback for dynamic seating system」といった特許もあり、車内外の人と自動運転車のコミュニケーションを図るHMI関連には力を入れているようだ。

また、iPhoneなどでドアの解錠やエンジン始動を行うバーチャルキー技術は2021年に実用化される見込みで、提携自動車メーカーの新車などに対応する予定のようだ。

2022年には、音声アシスタント「Siri」で車両を操作する技術を米国特許商標庁に提出したようだ。各種報道によると、自動運転EV「Apple Car」に音声を自動運転コマンドに変換するオンボードAI(人工知能)が搭載され、運転操作権限者が音声によって目的地までの車両経路を指示することができるという。

このほか、車内でVR(仮想現実)コンテンツを提供する手法などについても特許を取得している。アップルが申請した自動車関連の特許は軽く200件を超えているという。

■エアバッグやバンパーなどに関する特許も取得

一方、エアバッグやバンパー、シートベルト、ウィンドウなどに関する特許も取得しており、自動車の構造や安全機能を再定義するような研究も進めているようだ。

こうした取り組みは、ある意味ソニーと似通った印象を受ける。ソニーは、変革期を迎えた自動車の在り方を見つめ直す目的でオリジナルの自動車作りに一から取り組んでいる。その過程で生まれたさまざまな技術や知見が将来ビジネス化されていくものと思うが、アップルもまた自動運転技術のみならず自動車そのものにイノベーションをもたらす構えのようだ。

このほか、iPoneやiPadなどへの搭載を始めたLiDARや開発が進むAR(拡張現実)技術なども、自動運転に応用可能な技術として要注目だ。車内で乗員が楽しむコンテンツ作りなど、乗車体験を重視したアップルらしさに溢れるモビリティになることは間違いなさそうだ。

【参考】ソニーの取り組みについては「自動運転視野のソニーVISION-S、公道実証開始!AImotiveと協力も」も参照。

■Apple Carの価格は?

Apple Carに関する価格は多くの人が気になっているはずだ。金融アナリストの予想に基づいた2016年の報道によると、アップルカーは7万5,000ドル(約850万円)前後になると見積もられていた。

一方、2022年に入ってからの報道では、事情に詳しい複数の関係者からの話として、現在は10万ドル(約1,360万円)未満を目指しているようだ。それ以前には、12万ドル(約1,630万円)超と予想されていたこともあるようだ。

【参考】関連記事としては「Apple Carの価格、10万ドル未満濃厚 自動運転EVをいつ発売?」も参照。

■Apple Car関連の求人は?

Apple Carの開発を目指す直接的な求人は見当たらないものの、本社を構えるカリフォルニア州サンタクララを中心に、関連しそうな技術職の募集が多数見受けられる。

AIの機械学習関連では、自律システム向けの機械学習テクノロジーを開発および統合するML・ディープラーニングエンジニアなどが多数募集されている。

Pythonのプログラミングスキルやディープラーニングのアルゴリズムとワークフローに関する理解などをベースに、ArrowやBazel、Docker、MySQLなどのテクノロジーに関する経験やSQL・非SQLデータベースの経験など、職種に応じた専門スキルが求められている。

ロボティクス関連では、複雑な自律テストシステムを可能にするフィクスチャとロボットソリューションを設計・開発・展開するエンジニアなどが募集されている。ロボットシステム設計の実務経験や機械図面を読む能力、複雑なソフトウェアシステム設計の経験などが問われるようだ。

センサーによる画像認識などに関わるパーセプション関連では、自律システム用のテクノロジー開発および展開を図るソフトウェアエンジニアなどが募集されている。C++やPythonに関する専門知識やアルゴリズムとデータ構造に関する理解などが求められている。

なお、アップルの自動運転開発部門には、米グーグル系や米テスラのシニアエンジニアなど、優秀な人材が多数引き抜かれているほか、買収した自動運転開発スタートアップのDrive.ai勢が多数在籍しているものと思われる。開発強化に向け、同部門の拡大を図っているといった報道も散見される。

【参考】アップルの自動運転関連の求人については「Appleに転職!自動運転やAI関連のエンジニア求人内容などを解説」も参照。

■エンジニアの引き抜き合戦も

自動運転分野では、高度な技術を有するエンジニアの引き抜き合戦が依然熱を帯びており、アップルもその渦中に身を置いている。

過去には、自動運転開発部門のエンジニアを大量解雇予定であることが報じられるなど転職含め開発社員の出入りが激しそうだが、米グーグルのAI部門のトップを務めたJohn Giannandrea氏やWaymoでシニアエンジニアとして働いていたJaime Waydo氏、フォードのセーフティ・エンジニアリング部門の責任者を務めたDesi Ujkashevic氏、近々では、現代モービスの自動運転担当幹部のGregory Baratoff氏などがアップルに転職している。

【参考】アップルの人材引き抜きについては「Appleが本気だ!Hyundaiからも自動運転人材を引き抜き」も参照。

一方、アップルで自動運転開発プロジェクトに携わっていたAlexander Hitzinger氏がフォルクスワーゲンに転職するなど、逆のケースも多い。転職時に自動運転技術を盗み出し、逮捕されたエンジニアも複数いる。

経営方針や開発の方向性、待遇などをめぐり、新天地を求めるエンジニアはまだまだ多いものと思われる。自動運転分野における売り手市場がいつまで続くのかも注目したいところだ。

【参考】技術盗用については「Appleの自動運転技術、中国人による盗難が確定」も参照。

■Apple Carのデザインは?

Apple Carがどのようなデザインとなるか、想像をはせるファンも多いようだ。公式発表がないだけに、期待値はどんどん膨らむ一方だ。

カーリースを展開する英Vanaramaや、トルコのカーデザイナーAli Cam氏など、アップルの特許や社風などを考慮して独自に考案したApple Carのデザインを公表する動きもたびたび出ている。ついには、第三者によりApple Carのデザインコンペまで開催された。

また、2022年にアップルが伊ランボルギーニのベテランエンジニアを受け入れたことから、ランボルギーニ風のスポーツデザインになるのでは?――と見る動きもある。

現在よく目にする自動運転車は、既存の自家用車やバスなどをベースに改造したものが主流となっているが、今後はトヨタの「e-Palette」などのように自動運転専用に設計・デザインされたモデルが続々と登場してくる可能性が高い。人の運転を前提としないため、設計・デザインの自由度が高まるためだ。

こうした近未来に向け、アップルはどのようなデザインを施すのか。アップルには、機能やサービスだけでなくデザイン面においても高い新規性が求められそうだ。

【参考】ランボルギーニからのエンジニア採用については「Appleの自動運転車、ランボルギーニ風のデザインに?」も参照。

■自動車や自動運転に関する調査でもアップルが上位に

アップルは情報未公開ながら、自動運転に関する各種調査に顔を出している。米オートパシフィックが2022年3月までに発表した自動運転開発における信頼性調査において、ブランド別でアップルは6位にランクインした。

1位テスラ、2位トヨタ、3位BMW、4位シボレー、5位フォードに続く位置で、その後ホンダ、アウディ、スバル、キャデラックと続く。乗用車で実績のある各社に割り込んだ形だ。Waymoなどが上位に入っていないことからライトな一般消費者向けのアンケート調査と推測されるが、それでもアップルが自動運転開発を行っていることは浸透しているようだ。

出典:オートパシフィック・プレスリリース(※クリックorタップすると拡大できます)

【参考】オートパシフィックの調査については「テスラ32%、トヨタ19%!完全自動運転車の開発、ブランド別の信頼度は?」も参照。

また、米Strategic Visionが発表した新車購入に関する調査においても、アップルが3位にランクインしたようだ。米国内で新たに車を購入したユーザー約20万人を対象にしたもので、毎年実施されているという。今回、調査対象ブランドの中にアップルを加えたところ、1位トヨタ、2位ホンダに次ぐ支持を集めたようだ。

アップルブランドに対する信頼感や期待感の表れと言える。情報非公開ゆえにますます期待は高まるばかりだが、それに伴って製品・サービスに求められるハードルも高くなる。アップルはこのハードルをどのように超えるのか、要注目だ。

【参考】Strategic Visionの調査については「未発売でもAppleが3位!米国での自動車購入意向調査」も参照。

■【まとめ】自動車に新たな価値を創出?引き続き動向を注視

Apple Carの生産をめぐる話題は2022年に入って一息ついた感を受ける。各社の反応を受け、アップルが方針転換するのか、あるいは引き続き強気の交渉を進めているのかなど、依然としてつかめない状況だ。

自動運転技術の完成度も未だ判然としていない。2014年に開発に着手したとすると、新規参入組としては古株に相当する。すでにサービス実証を実施していてもおかしくない年数だ。

アップルは自動運転技術そのものではなく、自動車に新たな価値を与えるべく取り組んでいるのかもしれない。自動運転はあくまで手段に過ぎず、従来の自動車の概念をくつがえすようなサービスを提供するために秘密主義のもと試行錯誤を重ねているのかもしれない。

また、移動サービス用途ではなく自家用を前提に開発を進めている可能性もある。そう考えれば、じっくりと時間をかけているのも納得できる。

まだまだ憶測が憶測を呼んでいる段階だが、正式発表される日はいつ訪れるのか。引き続きアップルの動向を注視したい。

■関連FAQ

(初稿公開日:2021年1月13日/最終更新日:2023年3月8日)

【参考】関連記事としては「アメリカの自動運転最新事情」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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