
半導体大手NVIDIAが、新たな自動運転ソリューション「NVIDIA Alpamayoファミリー」を発表した。ロングテール問題を解決に導くオープンソースAIモデルとツール群で、開発事業者の取り組みをいっそう加速させる狙いだ。
オープンソース化により、業界横断的な開発の底上げにも期待が寄せられるところだ。このソリューションにより、NVIDIAは自動運転業界の覇権を掌握できるか。同社の最新動向に迫る。
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■NVIDIAの最新動向
リーズニングベースの自動運転車両開発を加速
NVIDIAの発表によると、「NVIDIA Alpamayoファミリー」は自動運転におけるロングテールの課題に対処するために設計されたオープンVLA(視覚言語行動)モデルで、オープンAIモデルとシミュレーションツール、データセットから構成される。
リーズニングベースのVLAモデルを活用し、自動運転の意思決定に人間に近い思考を導入している点がポイントだ。これらのシステムは、新たなシナリオや稀なシナリオを段階的に検討し、運転能力と説明可能性を向上させる。
自動運転車は刻一刻と変わる膨大なシナリオ下で安全に動作しなければならず、「ロングテール」と呼ばれる稀で複雑なシナリオへの対応が問われる。例えば、道路工事による交通規制や動物の急な飛び出しなどだ。
滅多に遭遇しないとは言え、こうしたシチュエーションに対応できないと安全な走行を担保できないのだ。しかし、レアケースゆえ学習を重ねたくてもなかなかこうした場面には出くわさず、経験値を高めることも困難となる。
近年盛んとなっているエンドツーエンドモデルの学習においても、ロングテール問題を克服するには、モデルが学習経験の範囲外の状況に直面した際に、因果関係を安全にリーズニングできるモデルが必要があるという。
NVIDIAでCEOを務めるジェンスン・フアン氏は「フィジカルAIにとってのChatGPTの瞬間が到来した。マシンが現実世界を理解し、リーズニングし、行動し始める。ロボタクシーは真っ先にその恩恵を受ける。Alpamayoは自動運転車にリーズニング能力をもたらし、稀なシナリオを熟考させながら複雑な環境でも安全に運転し、運転判断を説明することを可能にする。安全でスケーラブルな自動運転の基盤となる」とコメントしている。

Hugging FaceやGitHubでソースコードなどを公開
Alpamayoは、オープンモデル、シミュレーションフレームワーク、データセットの3つの基本的要素を統合し、開発者や研究チームが利用できる一貫性のあるオープンなエコシステムを形成する。リーズニングをベースとした、自動運転のためのオープンなエコシステムだ。
このAlpamayoモデルは車両内で直接実行されるのではなく、大規模な教師モデルとして機能し、開発者がファイン チューニングを行い完全な自律運転スタックの基盤へと集約できるとしている。
CES2026では、「Alpamayo 1」「AlpaSim」「Physical AI Open Dataset」が公開された。Alpamayo 1は、自動運転研究コミュニティ向けに設計された業界初のChain-of-ThoughtリーズニングVLAモデルで、オープンソースプラットフォームのHugging Faceで公開されている。
100億個のパラメータを持ち、映像入力を用いてリーズニングトレースとともに軌跡を生成し、各決定の背後にあるロジックを示すことができる。開発者は、 Alpamayo 1を車両開発向けの小型ランタイムモデルに適用することも、リーズニングベースの評価ツールや自動ラベリングシステムなどの開発ツールの基盤として活用することもできる。
オープンモデルウェイトとオープンソースの推論スクリプトを提供し、Alpamayoファミリーの将来モデルでは、より多くのパラメータや、より詳細なリーズニング能力、入出力の柔軟性の向上、商用利用の選択肢が含まれる予定という。
AlpaSim:は、高精度な自動運転開発に向けたオープンソースのエンドツーエンドのシミュレーションフレームワークで、GitHubで公開されている。リアルなセンサーモデリングや、設定可能な交通動態、スケーラブルな閉ループテスト環境を提供し、迅速な検証とポリシーの調整を可能にする。
Physical AI Open Datasetは、最も多様性のある自動運転向けの大規模オープンデータセットで、Hugging Faceで公開されている。広範囲な地域と条件下で収集された1,700時間以上の走行データが含まれ、リーズニングアーキテクチャの進化に不可欠な稀で複雑な実世界のエッジケースを網羅しているという。
開発者は、Alpamayo以外にNVIDIA CosmosやNVIDIA Omniverseプラットフォームを含む同社の豊富なツールとモデルライブラリを活用できる。独自の車両データをもとにモデルリリースをファインチューンし、NVIDIA DRIVE AGX Thorアクセラレーテッドコンピューティングで構築されたNVIDIA DRIVE Hyperionアーキテクチャに統合し、商用展開前にシミュレーション環境でパフォーマンスを検証できる。
各社がAlpamayoに関心示す
レベル4自動運転を可能にするリーズニングベースの自動運転スタック開発に向け、すでにLucid MotorsやJLR(ジャガーランドローバー)、Uber Technologies、Berkeley DeepDriveなどが Alpamayoに高い関心を寄せているという。
Lucid Motorsで自動運転担当バイスプレジデントを務めるKai Stepper氏は「フィジカルAIへの移行は、単にデータを処理するだけでなく、実世界の行動をリーズニングできるAIシステムの必要性が高まっていることを示唆している。進化の重要な要素は、高度なシミュレーション環境、豊富なデータセット、そしてリーズニングモデルだ」とコメントしている。
Uber Technologiesで自律移動や配送部門グローバル責任者を務めるSarfraz Maredia氏は「ロングテールで予測不可能な運転シナリオへの対処は、自動運転における本質的な課題の1つ。Alpamayoは、フィジカルAIの加速、透明性の向上、安全なレベル4自動運転の展開に向けた、エキサイティングな新たな可能性を業界に提供する」と期待を寄せている。
Berkeley DeepDriveの共同ディレクター・Wei Zhan氏は「Alpamayoポートフォリオの追加は、研究コミュニティにとって大きな飛躍となる。NVIDIAがAlpamayoのオープンな提供を決定したことは変革的であり、そのアクセス性と機能性により、我々は前例のない規模でのトレーニングが可能となり、自動運転をメインストリームに推進するために必要な柔軟性とリソースが得られる」と話す。
リーズニングでAI判断を明確に
専門家以外はなかなか理解が及ばない領域だが、自動運転におけるロングテール問題への対応と、リーズニング=AI判断の根拠の提示、オープンソース化あたりがポイントとなりそうだ。
前述したが、ロングテール問題はエンドツーエンドモデルの開発でも学習が難しい。レアケースゆえ、データを集めたくても集められず、遅々として学習が進まないのだ。工事現場を見つけ、同一カ所で反復的に学習させても、その効果はやはり限定的で、応用面に課題が残る。
【参考】関連記事「ホリエモンが「8文字」で称賛した自動運転ビジネスとは?」も参照。
詳細は不明だが、Alpamayoは「自動運転の意思決定に人間に近い思考を導入」しているという。ここに鍵が眠っていそうだ。人間のようなん柔軟な思考・判断能力を自動運転システムが備えることができれば、初めて遭遇したシチュエーションでも対応しやすくなり、応用力が格段に増す。
レアケースは、例えば飛散するビニール袋への対応や、道路上に横たわるベニヤ板やブルーシートへの対応など、挙げればキリがない。想定外の事象を数多く含むため、そのすべてを学習することは事実上不可能だ。だからこそ、人間のような柔軟な思考力と判断力が求められるのだ。
エンドツーエンドの自動運転も人間の判断に準拠するよう学習が進められるが、独自に経験を積み重ねて判断能力を習得したAIは、判断の根拠がブラックボックス化しやすいネックを抱える。なぜそのような判断をしたのか?という点を突き止めにくいのだ。
万が一事故やトラブルが発生した場合、それに至った判断根拠を明確にしなければならないが、その特定ができないと、同じトラブルを犯しかねないためその自動運転システムは停止せざるを得ない。改善できないのだ。
それゆえ、どういったプロセスでその判断に至ったのかを明確にするリーズニングが重要となるのだ。
オープンソース化については、第三者と研究開発成果を共有しやすくなるところが利点となる。サードパーティ製のデータやプログラムを活用することで、開発を促進することが可能になる。
業界の裾野が広がるとともに、NVIDIAのネットワークのさらなる拡大にもつながっていく。すでに自動運転業界においてNVIDIAは絶大な存在感を発揮しているが、業界における覇権を確固たるものとするか、今後の戦略に注目が集まりそうだ。
【参考】関連記事「自動運転モデル「ルールベース」「E2Eモデル」とは?」も参照。
■NVIDIAの動向
NVIDIAが自動運転業界を席捲
NVIDIAと完全に切り離した自動運転開発を行っている企業は、もはや数える程度だろう。SoC開発でガチのライバル関係にあるインテル系Mobileyeや、取引に難を抱える一部の中国系企業くらいではないだろうか。
チップの自社開発を進めているテスラも、データセンター側ではNVIDIA製品を採用している。グーグル系Waymoも恐らく同様だ。
前年のCES2025では、トヨタとAurora Innovation、コンチネンタルがNVIDIAのアクセラレーテッドコンピューティングとAIを活用し、自家用車や商用車の開発・構築を行うグローバルモビリティリーダーリストに追加されたことも発表された。
トヨタは、車載グレードのNVIDIA DRIVE AGX Orinを搭載し、安全認証を受けたNVIDIA DriveOSオペレーティングシステム上で稼働する次世代自動車を開発するという。Aurora Innovationやコンチネンタルは、NVIDIA DRIVEを搭載した無人トラックを大規模展開するための長期的な戦略的パートナーシップを結んだ。
このほか、BYD、JLR、Li Auto、Lucid、Mercedes-Benz、NIO、Nuro、Rivian、Volvo Cars、Waabi、Wayve、Xiaomi、ZEEKR、Zooxなどが、NVIDIA DRIVEアクセラレーテッドコンピューティングを次世代の先進運転支援システムや自動運転車のロードマップに採用しているとしている。
開発各社がNVIDIA沼に
自動運転の脳となるコンピューティングを担うNVIDIAのフルスタックソリューションは、XavierからOrin、今後実装が本格化するThorと、着実に進化を遂げている。現在の主力は最大254TOPSのパフォーマンスを発揮するOrinだが、Thorは最大2,000TOPSの演算能力を誇るという。
当面、自動運転技術が進化すればするほど高いコンピュータ性能が求められる。膨大な量のデータをリアルタイム処理しながら走行する自動運転車は、この面においてまだ省エネできる状況ではない。コンピュータの演算能力は高ければ高いほど有利なのだ。
NVIDIA製品を採用する開発各社は、今後OrinからThorに乗り換えていくものと思われる。より開発効率を高め、他社に後れを取らないためだ。
仮にMobileyeなど競合他社が同等の製品を発売しても、過去からの積み重ねや互換性の観点から、NVIDIAのネットワークから離れられない状況が出来上がりつつある。ある意味、NVIDIA沼にはまっているのだ。
NVIDIAの牙城を崩すのは容易ではない。5年後10年後、自動運転業界の影の覇者としてNVIDIAがどのような影響力を誇るのか、要注目だ。
【参考】関連記事「NVIDIA、世界初の「時価総額4兆ドル企業」へ!自動運転向け需要で”株価一段高”か」も参照。
■【まとめ】覇権争いの中心はNVIDIAやUber Technologies?
すでに業界の陰の主役となっているNVIDIAだが、5年後10年後、どのような立ち位置でビジネスをさらに加速していくのかは興味深いところだ。
2025年秋には、Uber TechnologiesがNVIDIAと手を組み、10万台規模の自動運転タクシー市場を生み出すプロジェクトに着手することが発表されている。業界における取り組みの主軸が開発からサービスに移行する未来において、NVIDIAやUber Technologiesのようなネットワークを築いた企業が覇権を握るのかもしれない。
引き続き各社の動向と戦略を注視していきたい。
【参考】関連記事としては「エヌビディア×Uberの「最強コンビ」誕生!自動運転事業、一気に拡大へ」も参照。











