物流課題の解決に資する新たな高規格道路ネットワークの形成に向け、道路空間をフル活用した「自動物流道路」構築に向けた動きが進み始めた。いわゆる物流向け自動運転専用道路だ。
国土交通省所管の「自動物流道路に関する検討会」が発足し、2024年夏をめどに議論を進めて中間とりまとめを行う。政府は10年以内に自動物流道路を実現させる計画という。
自動物流道路とはどのようなものか。ちなみに次世代道路としては、イーロン・マスク氏が地下を利用するプロジェクトをすでに開始しており、日本政府もマスク流で地下に新たな道路を構築する可能性はあるのか。日本の道路計画の変遷を踏まえつつ、新たな物流のビジョンに迫る。
▼第1回 自動物流道路に関する検討会 配付資料
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/buturyu_douro/doc01.html
記事の目次
■日本のこれまでの道路計画
高規格幹線道路は9割整備
国土交通省所管の社会資本整備審議会道路分科会の国土幹線道路部会が2023年10月に発表した高規格道路ネットワークのあり方に関する中間とりまとめによると、戦後の日本は高速道路ネットワークを着実に延伸し、高規格幹線道路は計画の約9割となる1万2,200キロまで整備を進めてきた。
しかし、サービスレベルの現状としては、都市間移動の速達性は諸外国に劣っており、大都市をはじめ地方都市においても時間的に偏在する需要と交通容量のミスマッチにより渋滞による時間ロスや環境負荷が日々生じているという。
近年では、1987年の全国総合開発計画で高規格幹線道路、1994年の広域道路整備基本計画で地域高規格道路がそれぞれ位置付けられ、それぞれ整備が進められてきた。高規格幹線道路は約1万4,000キロ、地域高規格道路は約1万キロが計画されている。
しかし、これらの計画は策定から20年以上が経過し、時代に即した改善が必要となったため、2021年には新広域道路交通計画が策定された。
高規格幹線道路などを体系的に見直す形でスクラップ・アンド・ビルドし、広域道路として高規格道路と一般広域道路を位置付けるほか、今後必要な検討を進める構想路線を位置付ける内容だ。広域道路のうち、高規格幹線道路や地域高規格道路などより高いサービスが求められる道路を一体的な高規格道路ネットワークとして再整理していく。
2018年には重要物流道路制度が創設され、特別な構造基準が規定された。トラック大型化に対応するため、国際海上コンテナを運搬するセミトレーラ連結車が特別な許可なく道路を通行することができる環境を整備する内容だ。2023年4月時点で、候補路線は380路線に上る。
道路ネットワークの国際比較、移動にかかる平均速度が遅い日本
面積37.8万平方キロメートルの日本の高速道路延長は1万2,200キロで、都市間連絡速度(都市間の最短距離を最短所要時間で除した数値)は時速61キロとなっている。
ドイツ(35.8 平方キロメートル)は同1万3,200キロで同84キロ、イギリス(24.2 平方キロメートル)は同1万2,500キロで同74キロ、韓国(10平方キロメートル)は同4,800キロで同77キロとなっている。
また、規制速度時速80キロ以上の道路は、日本7,800キロ、ドイツ3万1,700キロ、フランス1万8,500キロとなっている。他国と比べ、日本は移動にかかる平均速度が遅いのだ。
さらに、日本の高速道路の約4割が暫定2車線となっており、これも諸外国に例を見ない状況という。
道路ネットワークのパフォーマンス、国内5都市が世界渋滞ランキング上位に
道路ネットワークのポテンシャルを表す自由走行速度(上位10%タイル速度)は、高速道路が時速99キロ(実勢速度83キロ)、一般道路が55キロ(同31キロ)で、全道路では61キロ(同36キロ)となっている。約4割のロスが発生していると言える状況だ。
こうしたパフォーマンス低下の要因となるのが渋滞だが、G7の主要198都市のうち、東京、大阪、名古屋、札幌、神戸の5都市が世界の渋滞ランキングトップ10に入るという。
■自動物流道路に関する検討会の概要
自動物流道路(オートフロー・ロード)実現へ
効率が悪い運用が行われている日本の道路交通革新に向け、国土幹線道路部会は技術創造による多機能空間への進化で、2050年に世界一賢く安全で持続可能な基盤ネットワークシステムを実現する方針を取りまとめた。
物流をはじめとした課題が山積する中、シームレスなサービスレベルが確保された高規格道路ネットワークで国土を結び、最大限多機能に活用することが肝要とする方針だ。
これを受け、自動物流道路(オートフロー・ロード)の実現に向け自動物流道路の目指すべき方向性や必要な機能や技術、課題などを検討するため設置されたのが「自動物流道路に関する検討会」だ。
東京大学大学院工学系研究科の羽藤英二教授を委員長に、日本経済団体連合会ロジスティクス委員会や流通経済研究所、日本ロジスティクスシステム協会、中日本高速道路、全日本トラック協会などの委員で構成されている。
2024年2月に開催された第1回会議では、検討の方向性や進め方などについて合意を図ったようだ。
自動物流道路においては、カーボンニュートラル・持続可能な道路交通や人口減少下での経済成長・国際競争力強化、大規模災害などリスクへの国土安全保障を重点課題に、またドライバー不足・高齢化や小口・多頻度化、深夜労働、ドライバー負荷、交通負荷(渋滞・事故)・環境負荷を物流の課題に据え、道路空間をフル活用した新しい物流形態を10年間での実現を目指す方針としている。
ロジスティクス改革の方向性としては、モーダルシフトの推進やIOTによる自動化・ネットワーク化、戦略的な物流ハブ拠点配置、エネルギーのグリーン化、共同輸配送・パレット等の標準化を挙げた。
急速に変化する社会・経済情勢の中、30年、50年後の物流に対しどのような姿を目指していくべきか、自動物流道路がどのように社会やロジスティクスを変革させていくことができるか、使いやすく、役に立つ自動物流道路に必要なことは何か、産・学・官でどのように連携をはかっていくか――の各項目について検討を進め、2024年夏ごろをめどに想定ルートの選定を含め中間とりまとめを行う予定としている。
■自動物流道路とは?
地下道路計画進む海外事例を参照?
明確に「自動物流道路とはこういうものだ」とは現時点で示されておらず、こうした概念的な面を含め検討会で議論を進めていくものと思われる。
ただ、海外の事例として、スイスの地下物流システムや英国のMagway西ロンドン線プロジェクト構想、米・Boring Companyが米国で進める地下輸送プロジェクトなどが挙げられている。
スイスは2040年までに貨物輸送量が約4割増加することが予想されており、既存の道路・トラックによる輸送は限界を迎えるという。貨物車の積載効率は低下傾向にあり、配送も各社が個別対応するので非効率という。人口の増減を抜かせば日本と同様だ。
そこで、主要都市間を結ぶ総延長50キロの地下物流システムを整備し、自動運転専用カートを24時間体制で運行する新たな物流網を構築する一大プロジェクトに着手した。規格化されたカートで効率的な輸送を実現する。
プロジェクトの根拠となる地下貨物法はすでに成立しており、2025年までに明確な計画を策定する。2026年に第1期工事を開始し、ヘルキンゲンとチューリッヒを結ぶ約70キロの区間で2031年にも運用を開始する予定としている。70キロの区間には、物流ターミナルとなる11ヵ所のハブを設けるようだ。2045年までに全線開通予定で、総工費は約5.7兆円としている。
インフラ整備に莫大な時間と費用を要するが、地上の既存交通に影響を与えることなく、天候の影響を受けることなく安定した物流網を構築することができるのが利点だ。
【参考】スイスの地下物流システムについては「建設費5兆円!自動運転専用の「スイス地下トンネル」計画、総延長は500キロ」も参照。
スイスで、総延長500キロに及ぶ地下トンネルを設置し、物流専用道として自動運転カートを走行させるプロジェクトが進められている。その全容を徹底解明。#自動運転 #スイス #トンネル
建設費5兆円!自動運転専用の「スイス地下トンネル」計画 https://t.co/wclbLoAu6m @jidountenlab
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) October 9, 2023
リニアモーター活用したMagwayシステム
ロンドンでは、電磁気力を動力に物流輸送用に開発したリニアモーターを使用した完全自動運転による物流システム「Magway(マグウェイ)システム」の開発が進められている。現在テスト施設で走行試験を行っており、今後は外部環境でデモンストレーションを実施し、実用化・商用化に向けた検証を進めていく予定という。
西ロンドン地区の既存鉄道敷地内に全長16キロのMagway専用線を敷設することを想定しており、大手物流事業者の物流施設から小売業者などの物流施設や店舗などへ直接輸送する。物流施設内では施設内設備と接続し、荷物の自動積み降ろしなども実現する。
鉄道敷地や地下などをルートとすることで既存交通に影響を与えず、また物流施設においても荷さばきスペースやトラックヤードを削減することができるという。
イーロン・マスク氏も地下に活路
米国では、イーロン・マスク氏が率いるBoring Companyが地下道路プロジェクトを推し進めている。ラスベガスのコンベンションセンター内をつなぐ旅客向けの地下輸送トンネルを建設しており、一部はすでに開業している。
2本の地下トンネルで各ホール間を結び、地上駅2つ、地下駅1つの3つの駅を設置している。建設費用は約4,700万ドル(約69億円)という。
日本では自動運転車用レーン設置に向けた取り組みも
自動物流道路がこうした新たな物流網を想定したものかは不明だが、日本でも以前から地下物流の可能性を模索する動きがあり、決して非現実的なものではない。
一方、高速道路における自動運転車用レーン設置に向けた取り組みも進められている。高速道路におけるレベル4自動運転トラックの実現を目指し経済産業省などを中心に計画が進められている。
第一弾として、2024年度に新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SA間において100キロ以上の自動運転車用レーンを深夜時間帯に設定し、自動運転トラックの実証を行う予定だ。
既存インフラを活用することで比較的早期かつ費用負担を抑えながら実現することが可能だ。既存高速道路の車線数の少なさがネックとなりそうだが、高速道路直結の物流センターを各地に設置することで、完全無人の長距離輸送を実現できる。
【参考】自動運転専用レーンについては「自動運転専用道路・レーン導入の最新動向(2023年最新版)」も参照。
自動運転向け道路への注目が高まっている。限定的空間とすることで安全性の向上を図ることができ、実用化の初期段階では特に有用だ。最新動向を解説。#自動運転 #専用レーン
自動運転専用道路・レーン導入の最新動向(2023年最新版) https://t.co/NBPEgPXvfw @jidountenlab
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) September 24, 2023
■【まとめ】物流ミドルマイルの革新案に注目
既存の道路インフラの有効活用や再整備が主体となるのか、あるいは地下道路などの新たなインフラ構築が軸となるのかなど不明だが、中~長距離輸送となるミドルマイル解決に向けたビジョンが示されることになりそうだ。
こうしたミドルマイルの無人化・効率化と、自動配送ロボットなどによるラストマイルの無人化を結びつけることで、物流問題は大きく改善・発展していくことになる。
夏ごろ予定の中間とりまとめでどのような案が示されるのか、要注目だ。
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【参考】関連記事としては「日本の首都高、「自動運転」に対応へ 計画案が判明」も参照。