自動運転タクシー、普及急ぐウサギ(米国)が失速 カメ(日本)に勝機到来?

アメリカでCruiseサービス停止に波紋



自動運転タクシー実用化で先行する米国と中国。一部エリアではすでにドライバー無人の営業運行を行っている。一方、日本は運転席無人の公道走行をルートを限定して実証できるかな……といったレベルだ。まるでウサギ(米中)とカメ(日本)だ。


明らかに差を付けられているが、ここにきて米国では黄色信号がともった。GM系Cruiseが、カリフォルニア州当局から営業停止と無人走行の一時停止措置を食らったのだ。

先を急ぐウサギがつまずいた格好だ。もしかしたら、カメが追い抜く可能性も出てきたのではないだろうか。

ウサギとカメを対比させつつ、最新の自動運転タクシー動向に触れていこう。

■自動運転タクシーの動向
日本は2018年時点のWaymoにすら追い付かず

米国では2018年末にWaymoがアリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーの商用サービス「Waymo One」を開始した。これが世界初の自動運転タクシーサービスだ。翌年にはセーフティドライバー不在の無人運行も一部で実現し、徐々に技術を高めていく。


2021年にはカリフォルニア州サンフランシスコでもパイロットプログラムに着手し、サービスエリアを拡大している。同州ロサンゼルスやテキサス州オースティンでもサービス化に向けた実証を進めている。

一方、Cruiseは2022年2月にサンフランシスコで一般客を対象にした自動運転タクシーサービスを開始した。Waymoに追い付けとばかりに、フェニックスやオースティンでもサービス提供に踏み切っている。

このほか、米Aptivの取り組みを引き継ぐMotionalがネバダ州ラスベガスで無人走行の実証を進めているようだ。

中国では、百度やWeRide、AutoX、Pony.aiなど各社が北京や上海、深セン、広州などで自動運転タクシーサービスを展開している。米国同様、一部エリアではドライバーレスの運行が許可されている。


米中以外のエリアでは、Cruiseがドバイや日本、Mobileyeドイツや日本などでのサービス化を計画している。

なお、日本では基本的に運転席有人状態による公道実証が中心だ。年中無休レベルの実証も行われてない。これは、2018年時点のWaymoにさえ追い付いていない状況と言える。

【参考】自動運転タクシーの動向については「自動運転タクシー、なんと4年以上前から実用化されていた!」も参照。

■ウサギ(米国)の開発姿勢
加州がCruiseの無人走行ライセンスを停止

米中勢が明らかに先を行く展開だが、ここにきて雲行きが変わってきた。相次ぐ事故やトラブル発生を受け、カリフォルニア州当局がCruiseに対し営業停止、及び無人走行停止措置を発表したのだ。

車両の性能が公道運転において安全ではなく、また自動運転技術の安全性に関する情報を虚偽表示したことなどが理由に挙げられている。停止期間は定められておらず、Cruiseの弁明や改善状況を踏まえ判断していくものと思われる。

過去、Pony.aiも2021年にカリフォルニア州道路管理局(DMV)から無人走行ライセンスを停止させられたことがある。Pony.aiはその後、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)から自動運転ソフトウェアをリコールされている。

なお、Cruiseも2022年、交通事故を受けサンフランシスコで展開中の自動運転ソフトウェアをリコールしたことがある。

今回の停止措置を受け、新たなリコール騒動に発展するのか気になるところだ。また、理由は不明だがPony.aiは現在もカリフォルニア州の無人走行ライセンスを保持していない。再申請していないのか、あるいは認可が下りないのかは不明だが、後者であればDMVによるライセンス停止措置は想像以上に重いものとなる。

ちなみにCruiseは今回のカリフォルニア州からの停止措置を受け、アメリカ国内のすべての自動運転タクシーの運行を、一時的に停止することを明らかにしている。

【参考】Cruiseのリコールについては「事故でリコール!GM Cruiseの自動運転ソフト、トラブル続き」も参照。

絶えぬトラブルに懸念強まる

こうした騒動の背景には、商用サービス後に起こした数々のトラブルが存在する。車道上での立ち往生は朝飯前で、緊急車両の通行妨害や衝突、交差点でのニアミス、進入禁止テープへの接触、警察官の指示無視などさまざまだ。

トラブルの現場となっているサンフランシスコ当局は自動運転に対する懸念を強め、実証・サービス規模の縮小を求めていた。

【参考】サンフランシスコ当局の動向については「自動運転タクシー「拡大待った!」 サンフランシスコ交通当局」も参照。

イノベーション優先でトラブル対処は後回し?

ただ、実証経験を重ねることが技術の向上につながるため、州当局や開発企業は「多少のトラブルには目をつぶれ」――といったスタンスを貫いていた印象が強い。

もちろん、Cruiseは随時ソフトウェアを改良しており、2023年9月にリリースした「バージョン09.04.23」では、緊急車両への警戒強化やルートを変更して障害物を回避する能力の向上、隣接車線の車両が車線変更した際の快適性向上など細かな改善を図っている。

ただ、それでもトラブルはなくならないのが現状だ。進入禁止テープなど想定外の事案に対処できないのは仕方がない面もあるが、過去の事案と同様のトラブルを繰り返している点も否定できない。

相次ぐトラブルに加え、企業風土と言うべきか、Cruise自らがトラブルを認め謝罪するような場面はほぼなく、「自動運転は手動運転より安全」といった主張を繰り返しているため、企業イメージは落ちていく。

自動運転が手動運転より安全である(べき)ことは確かだが、開発企業自らがこれを盾にトラブルを正当化することはできない。手動運転未満のトラブルであっても、それを社会が許すかどうかは別だ。その寛容度合いは、トラブルの大小はもとより当該技術や企業に対するイメージで大きく変わっていく。

相次ぐトラブルの発生はCruiseの評判を次第に低下させる。果てには、「自動運転は危険」「自動運転は未熟」――といった世論が形成され、自動運転に対する社会受容性を低下させることにもつながっていく。

こうした世論は他社にも飛び火し、Waymoなども含め「自動運転タクシーは時期尚早では?」――といった流れに結びついていくのだ。

あまりにトラブルが多く、否定派の声が大きくなると、自動運転を受け入れる自治体なども及び腰となり、規制強化や実証中止などにつながる恐れもあるだろう。

トラブルに寛容な社会はイノベーションを加速させやすい環境であることは間違いないが、社会の「心の広さ」にも限界はある。度を越えれば流れは180度変わるのだ。Cruiseに限ったことではないが、目に余るトラブルを続出し、かつそれらに対し慎重かつ謙虚な姿勢を示さなければ、企業に対する信用、ひいては業界や技術そのものに対する信用が落ちていく……ということだ。

なお、Cruiseは10月27日、SNSで「今最も重要なことは、国民の信頼を回復するための措置を講じること」とし、オースティンなどの他市を含め無人運行を自主的に中止することを発表した。時間をかけてプロセスやシステム、ツールを検証し、社会の信頼を得られるよう適切に運営できる方法を熟考するとしている。最後の最後に謙虚な姿勢を見せた格好だ。

■カメ(日本)の開発姿勢

イノベーションに寛容な米国で先行していた自動運転タクシーだが、今回の営業停止措置のインパクトは大きい。ともすれば、自動運転に対する負のイメージが米国全体に広がり、開発・実証が停滞しかねない。Cruiseの今後の対応に大きな注目が集まるところだ。

石橋を叩きまくってから渡る

視点を変え、日本に目を向けてみよう。日本はこうしたイノベーションには非常に慎重で、公道における自動運転実証は「石橋を叩いて叩いて叩いて渡る」状況だ。

国や自治体は「万が一」を常に念頭に置き、トラブルが発生し得る懸念があれば、可能な限り事前に解消し懸念を払しょくしてから実証に臨むスタイルだ。企業も、例えば実証中にガードレールに軽く接触しただけでプレスリリースを出し、直ちに実証を中止して原因究明に臨む……といった具合だ。

それ故、自由度が高く想定外の事案が発生しやすい自動運転タクシーの開発は停滞気味で、自動運転バスに集中する形で開発と実装が進められている。自動運転バスは特定路線を走行するため、該当する路線に特化した開発を進めれば良いからだ。

こうしたスタンスは開発に時間がかかり、社会実装までの期間も長くなりがちだ。その代わり、重大事案の発生なども少なく、Cruiseのような事態に陥ることも少ない。ゆっくりではあるものの、着実に前進し続けるのだ。社会受容性も少しずつ高まっていくだろう。

全土的展開に向けた競争は継続中

ウサギとカメになぞらえれば、まさに米国(CruiseやWaymo)がウサギで日本はカメだ。当初は大きくリードするウサギだが、着実に歩み続けるカメが最後は逆転するかもしれない。2018年にサービス化したWaymoも、この5年で拡大できたのはサンフランシスコのみだ。もちろん、今後加速していく可能性もあるが、全土的な展開にはまだまだ課題が山積しているものと思われる。

局所的な展開では差を付けられているのは事実だが、クオリティはまだ不完全であり、かつ全土的展開に向けた競争はまだまだ続く。日本にも逆転の目があるのではないだろうか。

■【まとめ】慎重さとスピード感を兼ね備えた施策で開発を促進

日本にも逆転の目があるとしたが、もちろん現在の「カメスタイル」のままでは厳しいだろう。石橋を叩きすぎている感が強い。

日本特有の「慎重さ」できめ細かな自動運転開発を進めつつも、やはり社会実装を加速していく取り組みは必要不可欠だ。一律の規制緩和も重要だが、混在空間下でも自動運転車が優先されるような特区を設定し、「実証ならここで!!」……というようなエリアを明確にするのも効果的かもしれない。さらなる施策で民間の開発を後押ししてほしいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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