自動運転、新興国で「リープフロッグ現象」は起きるのか

無人系サービス、法律の緩さが普及後押し?



米国、中国で先行する自動運転サービス。実証含みながらすでに無人運転による有料サービスも始まるなど、他国の追随を許さないような先進的な取り組みが展開されている。


ただし、こうした先進的な取り組みは全米や全中で行われているわけではない。国としてはまだ全面的に自動運転を解禁したわけではなく、州政府の意向などのもと局所的にサービス展開されるにとどまっているのが現状だ。

では、国として全面的な解禁・サービス展開をいち早く実施するのはどこだろうか――と思いを巡らせた際、大穴的に候補の1つに上がってくるのが新興国だ。自動運転分野でもリープフロッグ現象が起き、新興国で一気に普及が進む――という可能性はないだろうか。

この記事では、自動運転分野におけるリープフロッグ発生の可能性について探っていく。

■リープフロッグ現象とは?
日本語で「カエル跳び」

リープフロッグ現象は、社会インフラなどが未整備の途上国や新興国などで、先端技術や最新サービスなどが先進国の普及速度を超える勢いで一気に広まることを指す。日本語に訳すと「カエル跳び」となる。


リープフロッグ現象としてよく持ち出されるのが、アフリカにおけるスマートフォンの普及だ。旧来の固定電話が普及していないにもかかわらず、先進国で普及したスマートフォンが持ち込まれると、瞬く間に普及したのだ。

スマートフォンそのものは先進国がすでに開発済みであり、後は基地局などを整備すれば環境的には使用できる。利用者目線では、電話機能に限られた固定電話を導入するよりも、さまざまな機能が付加されたスマートフォンの方が利便性が高い。迷いなくスマートフォンを選択するのだろう。

さらに、スマートフォンの普及によって、銀行サービスが普及していない国においてモバイル決済サービスが定着したというリープフロッグ例もあるようだ。

こういった話もある。アフリカでもEC市場が拡大し、宅配需要が増加しているという。ただ、地域によっては住まいに対する住所が設定されていないため、宅配が困難だったという。このため、当初は受け渡し場所を指定して荷物の受け渡しを行っていたが、時間になっても相手が来ないことも少なくないという。


そこで普及したのが、スマートロッカーシステムだ。登録すれば誰でも利用可能なスマートロッカーを商業施設などに設置し、ロッカーを介して荷物の受け渡しを行うことで再配達などのリスクを軽減できる。

ライドシェアも1つの例に

モビリティ関連では、自家用車を活用したライドシェアサービスが好例となる。日本では未だ営利目的のライドシェアは禁止されているが、東南アジアなどでは広く普及し認知度も高い。

日本では白タク行為とみなされ取り締まりの対象となっているが、東南アジアではGrabなどが瞬く間にサービスを浸透させた。一部でタクシー事業者との軋轢なども発生しているものと思われるが、厳密にこれを取り締まる法律がなければ、よほどの問題が生じない限り禁止とはならない。

配車プラットフォームを活用したライドシェアという新たなサービスは既成事実化され、後付けで安全対策に向け少しずつ規制やルールが設けられていく形だ。

先進国は既存社会やルールとの摩擦がネック

最先端の技術やサービスは、多くの場合普及に時間を要する。瞬く間に大ヒットする例外も当然あるが、大半は高額な価格帯や関連サービスの未整備、技術による効能の不透明感などがネックとなり、製品やサービスが波及するまでには時間を要するのだ。

特に、一定のインフラ整備や法整備を要するもの、規制が必要なものなどは、実証を経て広範囲の理解を得てからでなければサービスインできないケースもある。既存社会に合わせる形で多数の細かなルールやインフラが整備されてきた先進国ならではの問題だ。

一方、新興国などは先進国に比べインフラや細かな規制が整っていない場合が多い。言い方は悪いが、先進国で成熟した最新技術や製品をルール無用で広く普及することが可能な環境が多く残されているのだ。

また、新興国の中には強権的な政府・主導者を持つ国が多いのもポイントだ。トップの一声で法律や社会環境を一変できる国は、良くも悪くも最先端技術やサービスの導入に向く側面がある。

ユーザー側も、先進国の最新製品・サービスが流れてくることに慣れているため、最新技術が一段二段飛ばしで普及することに対して余計な先入観なく受け入れることができる。こうした理由から、大きな抵抗もなく一気に普及が進むのだろう。

■自動運転分野におけるリープフロッグの可能性
なぜ米中で先行?

自動運転は、技術開発そのものが大きな課題となっているが、実用化・普及に向けては、法整備や一定のインフラ整備、社会受容性の向上なども求められる。

法律でドライバーレスの公道走行が認められなければ実現不可能で、自動運転の精度・安全性を高めるには高精度3次元地図の整備や信号などのインフラとの協調なども求められる。また、民意が高まらなければ関係機関は規制を緩和し辛く、サービスを開始したとしても利用は低調となるため、社会受容性の向上もカギを握る。

自動運転の実証やサービス化が米国や中国で先行しているのは、規制面の違いが大きい。米国では道路交通法関連の裁量は各州に委ねられており、知事や州政府がゴーサインを出せば公道走行が可能になる。他の州と差別化を図る意向なども加わり、積極的に許可を出す州などもある。

また、イノベーションに対し国家的に寛容なため、開発企業が多く集まるのも利点となっているだろう。

一方、中国では、中国政府の方針のもと、北京や上海といった中核都市などがそれぞれ独自の認定基準を設定して公道走行を許可している。政府主導のもと開発面も促進されており、今やシリコンバレー顔負けのテクノロジー企業が集結している。

【参考】関連記事としては「アメリカの自動運転最新事情(2022年最新版)」も参照。

米中とも全面的な解禁には至っておらず

なお、先行する米国、中国においても、いまだ全米、全中的な解禁されているわけではなく、徐々に拡大する局面が続いている状況だ。国として全面的に解禁するには、各国政府による自動運転車の認定基準の確立や交通ルールにおける指針を定めるなど、国としての明確なゴーサインが必要となる。

現在の道路交通ルールや車両の保安基準、国際基準、各種しがらみなど、既成の社会との摩擦などを考慮したかじ取りを行わなければならず、それ故米中政府も開発を推進しつつも全面的なゴーサインを出すには至っていないのだ。

新興国におけるリープフロッグの可能性は?

一方、新興国の場合はどうだろうか。先進国で技術を確立した自動運転車を新興国に持ち込み、サービス展開するケースだ。果たして、リープフロッグ現象は起きるのだろうか。

当たり前の結論から言うと、ケースバイケースだろう。法律が比較的緩く、導入に対し政府が前向きであればさっそうと社会実装が進むケースもあるだろう。自動運転車導入によるメリットを重視し、新たな事故の発生や既存社会との摩擦などには目をつむるケースだ。国民も、先入観なく自動運転技術を受け入れる可能性がある。

一方、自動運転車の場合はスマートフォンの普及などとは異なり、安易な導入が人命に直結する問題に発展しやすい。また、全てを民間任せにすることはできず、国として自動運転に対応したインフラ整備やルールの整備、周知などに務めなければならない場面も出てくる。

導入を推進する企業も、人命が関わる問題を抱えたまま楽観的にサービスを展開するわけにはいかないはずだ。こうした観点を考慮すると、自動運転分野ではさすがにリープフロッグ現象は起きにくいのかもしれない。

東南アジアの新興国で実証実験続々

ちなみに東南アジアの新興国でも自動運転の実証実験が始まりつつある。インドネシアの首都ジャカルタでは、ジャカルタ郊外の「BSD City」で自動運転の実証実験のプロジェクトが発表されている(ちなみにこの取り組みには、日本の三菱商事とマクニカが関わっている)。

ベトナムでも自動運転実証実験が実施された。ベトナム・ホーチミン市中心部から北約30キロに位置するビンズン新都市においてだ。次世代モビリティの研究開発を手掛けるPhenikaa Xという企業の小型自動運転シャトルが実証実験では使用された。

■【まとめ】カエルが先か、亀が先か……

本題の新興国におけるリープフロッグが起こるかどうか――については明確な結論を出せないが、強権的国家における鶴の一声で一気に波及する可能性は残されていそうだ。

なお、日本では2023年4月までに改正道路交通法が施行され、レベル4による公道走行が解禁される。法的には全面解禁となるのだ。ドイツでもサービス・走行内容に制限が課されているものの、レベル4法はすでに施行されている。

こうした側面から考慮すると、場合によっては日本やドイツが米国、中国を抜き全面的普及を遂げる可能性もある。ウサギと亀で言うところの亀となり、逆転ゴールを果たすのだ。

2023年は、世界各国でレベル4をめぐる動きがいっそう大きくなることが予想される。引き続き各国の動向に注目していきたい。

【参考】関連記事としては「2023年の自動運転業界、実用化加速で「黎明期後半」に突入」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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