自動運転車向け保険一覧(2023年最新版) 損保各社の開発状況や内容は?

国内外損保や自動車メーカーなどが提供元に

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出典:Swiss Reプレスリリース

自動運転開発が加速し、公道において利用者を乗せて走行する場面が実証実験・商用サービスを含めて急増する中、新たな保険商品の開発にも世界的な注目が高まってきた印象だ。自動運転向けの保険に関しては、交通事故が起きたときにどのようなサポートを提供できるのかについても、各社が検討を重ねてきた経緯がある。

この記事では2023年時点における日本と海外の各社の動向に迫っていく。

<記事の更新情報>
・2023年10月5日:NECファシリティーズの取り組みなどを追記
・2021年11月26日:記事初稿を公開

■海外損害保険各社の取り組み
スイス・リー:Baiduのアポロプロジェクトの成果をカバー

Swiss Re(スイス・リー)は2021年11月、Baiduと自動運転向けの革新的な保険商品の提供に向けパートナーシップを締結したと発表した。

両社の知見と技術を合わせ、リスク要因の選定や商品の価格設定、保険金請求、引受データの基準など、自動運転のバリューチェーン全体をカバーする保険ソリューションの開発を進めていく。

具体的には、Baiduのアポロが設計した自動バレーパーキングシステム「Apollo Valet Parking」に対応した「自律型バレーパーキング保険」を皮切りに、自動運転コンピューティング・プラットフォームやインテリジェント・コックピット、ロボタクシー、その他自動運転製品のリスク管理研究と保険イノベーションをカバーしていく方針としている。

▼Swiss Re公式サイト
https://www.swissre.com/
▼Baidu公式サイト
https://www.baidu.com/

AXA XL:Oxboticaと提携 実証向けソリューションも開発

仏保険会社のAXAは、モバイルロボティクスや自動運転開発を手掛けるOxboticaと2016年に提携し、自動運転関連の研究を進めている。英国政府が主導する大規模実証などにも参加し、2018年に自動運転技術の導入をサポートする保険ソリューションを発表している。

2020年に発表した最新の保険ソリューションでは、第三者による賠償責任や被保険者の財産に対する損害、車両の盗難を中心にカバーするほか、ニーズに合わせ、サイバー攻撃による損害やデータ復旧費用、裁判費用など、追加の補償内容を設定することも可能としている。

▼AXA XL公式サイト
https://axaxl.com/
▼Oxbotica公式サイト
https://www.oxbotica.com/

Direct Line Group:FiveAIと提携 英国内の実証に参画

保険大手の英Direct Line Groupは、同国で自動運転開発を手掛けるスタートアップFive AIに出資・提携し、国家プロジェクトのもと同国最大規模の自動運転公道実証を行うなど、積極的に開発場面に携わっている。

▼Direct Line Group公式サイト
https://www.directlinegroup.co.uk/en/index.html
▼Five AI公式サイト
https://www.five.ai/

■国内損害保険各社の取り組み
あいおいニッセイ同和損保:永平寺町のレベル3移動サービスに保険提供

あいおいは2015年、自社グループの三井住友海上火災とともに自動運転実証のリスクを補償する「自動走行実証実験総合補償プラン」を共同開発した。以後、遠隔型自動運転への対応などアップグレードを重ねている。

2016年には自動運転の研究開発を進める群馬大学と協定を結び、同大への研究室設置や実証への参加など積極的に研究開発現場に携わっている。

2020年10月には、国内初となる自動運転モードで走行中の運転分保険料を無料とする商品の提供を開始した。また、2021年3月には、福井県永平寺町における国内初のレベル 3遠隔型無人自動運転移動サービスにおいて、リスクアセスメントを行うとともに走行環境や運行形態などのリスク実態を考慮した自動車保険を提供することも発表している。

出典:あいおいニッセイ同和損保プレスリリース(クリックorタップすると拡大できます)
損保ジャパン:ティアフォーらと提携 多くの実証に参画

損保ジャパンは2016年、自動運転実証事業者らに向けた専用保険「自動運転専用保険(実証実験向けオーダーメイド型)」を開発し、提供を開始した。

2018年9月には、自動運転の遠隔監視・操舵介入や事故トラブル対応など総合サポートの研究を目的とした遠隔型自動運転運行サポート施設「コネクテッドサポートセンター」の開設を発表した。ティアフォーとアイサンテクノロジー、KDDI、マクニカ、プライムアシスタンスの協力のもと、同月にレベル4を想定した実証を行っている。

以後、自動運転実証に積極的なティアフォーやアイサンテクノロジーらとの関係を強化し、両社が関わるさまざまな実証でリスクアセスメントや保険の提供などを行っている。

2020年10月に自動走行ロボット専用保険プラン、2021年4月に後続無人の隊列走行向け自動車保険プランの開発についてそれぞれ発表するなど、さまざまな実証に対応したきめ細かなソリューションを提供している。

後続無人の隊列走行向け自動車保険プランの概要=出典:損保ジャパン・プレスリリース(クリックorタップすると拡大できます)

【参考】あいおいと損保ジャパンの取り組みについては「自動運転の移動サービスサポート「あいおい vs SOMPO」の構図が鮮明に」も参照。

NECファシリティーズと三井住友海上がレベル4バスの保険開発に着手

NECファシリティーズと三井住友海上火災保険が2023年9月、自動運転レベル4のバス運行に関連する保険の共同開発に着手したことを発表した。開発した保険については、2024年度中の提供開始を目指しているとした。

開発においての役割分担としては、NECグループのNECファシリティーズ側はサービス提供事業者から自動運転に関するリスク・情報を収集し、三井住友海上側はNECファシリティーズに保険商品開発のノウハウを提供していくという。

報道発表でNECファシリティーズは「現在普及が進む自動運転車の保険については自賠責保険、自動車保険などでの対応が考えられます」とした上で、「自動運転バスの運行業務を行うにあたっては、トラブルが発生した際に想定される、乗客などの移動にかかる代替交通費、事故現場への駆け付け費用などは自動車保険では補償できないため、より充実した内容での保険手配が必要と考えています」としている。

【参考】関連記事としては「自動運転向け保険が続々!解禁された「レベル4バス」に商機」も参照。

■自動車メーカーの取り組み
テスラ:保険サービスを自社事業化

米EV大手テスラは、世界の損害保険会社との提携のもとテスラ専用の自動車保険サービス「InsureMyTesla」を提供するほか、自社自ら保険事業を手掛ける「Tesla Insurance」も2019年に開始している。

ADAS(先進運転支援システム)の安全性やEV(電気自動車)化によるメンテナンスコストの低下を正しく保険料に反映させる狙いがあるようだ。コネクテッド技術で早くから車両のデータ送受信を進めていたテスラにとって、テレマティクス保険は案の内なのかもしれない。

2021年秋には、リアルタイムの運転データなどを反映する保険商品の販売をテキサス州など一部で開始したようだ。

▼テスラ公式サイト(米国)
https://www.tesla.com/
▼テスラ公式サイト(日本)
https://www.tesla.com/ja_jp

新興EVメーカーRivianも保険事業に着手

新興EVメーカーの米Rivianも自ら保険事業を手掛けている。コネクテッドカープラットフォームやADASなどと統合し、カスタマイズされたデータ駆動型の補償を提供するとしている。

テレマティクスサービスに必要とされる各種走行データやADASの作動データなどは、車両の開発・製造元である自動車メーカーが最も収集しやすい。こうした利点を生かし、自ら事業化を図るメーカーは今後増加していく可能性がある。

特に、テスラのように自動運転開発に積極的なメーカーはデータの収集に力を入れている。データ収集で自動運転開発の強化を図りつつ、各車両の保険サービスに生かすといったビジネス展開に注目したい。

▼Rivian公式サイト
https://rivian.com/

トヨタAurora Innovationも?

2021年2月にトヨタとデンソーとのパートナーシップが発表された米自動運転開発企業のAurora Innovation。ライドシェア向けの自動運転車の開発を共同で進めており、同年9月にはオーロラの自動運転システムを搭載したトヨタ・シエナの自動運転モデルが発表されている。

この協業の行方そのものに注目が集まるところだが、オーロラによると、3社の協業にはフリート展開する際の資金調達をはじめ、保険やメンテナンスなどの包括的なサービスソリューションの検討も含まれている。

スタートアップをはじめとした自動運転開発企業にとっては、保険サービスの展開もスタンダードな存在かもしれず、こうした開発企業と協業する自動車メーカーも触発されていく可能性なども考えられそうだ。

自動車メーカーではこのほか、米GMや独ダイムラーなどが他社と保険事業を手掛ける合弁を設立するなどの動きを見せている。

▼Aurora Innovation公式サイト
https://aurora.tech/

【参考】自動車メーカー×保険事業については「自動運転時代、自動車メーカーによる保険の提供が当たり前に?」も参照。

■スタートアップの取り組み
Avinew:ADASや自動運転システムの利用に応じた保険プログラムを開発
出典:Avinew公式サイト

2016年創業の米スタートアップAvinewは、自動運転車や高度なアクティブセーフティー機能を搭載した車両を対象とした新たな保険プログラムの開発を手掛けている。自動運転など安全性の高い車両を利用する消費者やフリートに対し報酬・割引を与える仕組みのようだ。

例えば、日産の「プロパイロット2.0」搭載車を所有するオーナーに対し、モバイルアプリを活用してADASの利用状況などのテレマティクスデータを収集する。このデータを基にAI分析し、保険料を割り引く仕組みのようだ。現在、テスラ、メルセデス、フォード、GM、日産、アウディ、ボルボなどが対象メーカーとなっている。

2019年には、交通リスク分析を手掛けるBetterdriveを買収した。同社はルートや時刻、交通状況、気象条件などに基づいて事故の確率を予測する技術開発を進めており、ドライバーにリスクの少ないルートを提案することができるという。

▼Avinew公式サイト
https://www.avinew.com/

Trov:オンデマンド保険プラットフォームでWaymoとパートナーシップ
出典:Trov公式サイト

米スタートアップのTrovは、保険商品を他のデジタルエクスペリエンスに組み込むことを可能にする保険テクノロジープラットフォームサービスを展開している。

自社プラットフォームを介し、世界中の利用者と保険会社をつなぐことを可能にしており、カーシェアやレンタカーなど1日限りのオンデマンド保険などでシェアを広げているようだ。

自動運転関連でも2017年にWaymoとパートナーシップを結び、Waymoの自動運転タクシーの利用者向けに1回のライドごとに適用可能な保険を提供している。

このほか、損保ジャパンから出資を受けており、損保ジャパンはTrovの技術を活用して1日単位で手軽に保険加入ができる商品の提供を行っている。

▼Trov公式サイト
https://www.trov.com/

Koop Technologies:API活用した保険プラットフォームを開発
出典:Koop Technologies公式サイト

2020年に設立されたばかりの米スタートアップKoop Technologiesは、自動運転車の開発者やオペレーター向けに、APIを活用した保険プラットフォームなどデータ駆動型のスケーラブルな保険テクノロジーソリューションを提供している。

トリップレポートや離脱データ、センサーログ、パフォーマンスメトリックなどのデータ共有プロセスを自動化するVehicleAPIによってデータを収集し、さまざまなユースケース評価に向けたデータ選択や分析、リスクスコアリングなどの機能を提供している。

従来のテレマティクスアプローチと比べ、追加のハードウェアを必要とすることなく自動運転車のデータを大規模に収集することが可能という。

▼Koop Technologies公式サイト
https://www.koop.ai/

■【まとめ】インシュアテックが自動運転分野で真価を発揮

各社の取り組みをまとめると、以下の通りとなる。

企業 取り組み
スイス・リー Baiduのアポロプロジェクトの成果をカバー
AXA XL Oxboticaと提携、実証向けソリューションも開発
Direct Line Group FiveAIと提携、英国内の実証に参画
あいおいニッセイ同和損保 永平寺町のレベル3移動サービスに保険提供
損保ジャパン ティアフォーらと提携、多くの実証に参画
NECファシリティーズ 三井住友海上とともにレベル4バスの保険開発に着手
テスラ 保険サービスを自社事業化
Rivian 保険事業に着手
Avinew ADASや自動運転システムの利用に応じた保険プログラムを開発
Trov オンデマンド保険プラットフォームでWaymoとパートナーシップ
Koop Technologies API活用した保険プラットフォームを開発

国内各社の取り組みは海外企業に比べ、先進的な印象を受ける。ただ、自動運転向けの保険市場においては、損保業界内のライバル関係のみならず、自動車メーカーやスタートアップらも強力なライバルになり得るようだ。

保険(Insurance)にテクノロジーを掛け合わせた「InsurTech(インシュアテック)」によるイノベーションは、自動運転分野でその真価を発揮する。新たな保険商品にはまだまだ進化の余地があり、引き続き各社の開発動向に注視したい。

■関連FAQ

(初稿公開日:2021年11月26日/最終更新日:2023年10月5日)

【参考】関連記事としては「自動運転車の事故(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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