自動運転時代、自動車メーカーによる保険の提供が当たり前に?

テスラやGM、北米トヨタなどが保険の販売に着手



コネクテッドカーの普及に伴い、保険事業に乗り出す自動車メーカーが増加傾向にあり、1つのムーブメントとなっている。中には直営に着手するメーカーもあるようだ。


コネクテッド化・自動運転化で保険商品の中身が変わっていくのと同時に、保険にまつわる販売形態なども変わっていく可能性がある。自動車業界で現在起こっている変化をもとに、自動車保険を取り巻く環境の変化について解説していく。

■自動車メーカーの保険事業関連の取り組み

米EV(電気自動車)大手のテスラは2017年、世界各地の保険会社と提携し、自車オーナー向けの自動車保険「InsureMyTesla」の提供を開始した。2019年には「テスラ・インシュランス」の提供を発表し、同社自ら保険事業に乗り出している。

その背景には、自動運転(ADAS含む)機能による安全性と、EV化による低いメンテナンスコストを保険料に正しく反映させ、保険料をより安価にさせる狙いがあるようだ。

米国勢では、GM(ゼネラル・モーターズ)も動きを見せている。2015年に中国の上海汽車(SAIC)と保険事業を手掛ける合弁を設立し、中国内におけるGM車向けの保険販売に着手した。


2020年11月には、オーナー向けに自動車保険を直接販売することも発表している。コネクテッド機能を活用し、ドライバーの運転行動に伴って料金が変動するテレマティクス保険だ。

米フォードもインシュアテック系スタートアップのMetromile(メトロマイル)と提携し、新たな保険商品の開発に乗り出しているようだ。

欧州、そしてトヨタの取り組みにも注目

欧州では、独ダイムラーが保険事業を手掛ける子会社とスイスの保険会社との間で合弁を設立し、コネクテッドカーなどに対応した新商品の開発を進めている。PSAグループも子会社がテレマティクス保険を販売している。

国内勢では、トヨタの北米部門が2020年8月、マツダ車向けの自動車保険を発売すると発表している。両社は米国で完成車生産を行う合弁を設立するなど提携関係にあり、金融事業まで拡大したパートナーシップにおいて保険領域にも着手した格好だ。


グループにおける関連会社が手掛ける形が多いが、自動車メーカー各社が保険事業に力を入れ始めているようだ。

■インシュアテックとデータドリブンが背景に

こうした動きの背景には、「インシュアテック」と「データドリブン」の導入が考えられる。インシュアテックは保険とテクノロジーを組み合わせた造語で、データドリブンは収集したデータを分析し、マーケティングなどに生かしていく手法を意味する。

近年、車載通信機(DCM)を搭載したコネクテッドカーが続々と誕生しているが、この通信機能を活用し、ハンドリングやアクセルワーク、走行速度などの運転特性をもとに運転スコアを算出して保険料金に反映させるテレマティクス保険が商品化されている。これはまさにインシュアテックとデータドリブンの考え方を導入したものだ。

従来の自動車保険は、車種別の安全性と補償内容を主体に保険料を算定する。ドライバーの運転特性は、実際に保険を適用したか否かで上下する等級で表され、事故が多い=保険を使う可能性が高いドライバーは保険料金が割高になる。

ここにインシュアテックとデータドリブンの考え方を導入し、自動車から得られる各種データをもとに保険料金を変動させるとテレマティクス保険となるのだ。

こうした各種データは自動車の研究開発の糧となるため、自動車メーカー自らも当然データを収集・蓄積する。このデータを活用して保険事業を行えるならば、新たなビジネスとして自ら保険事業に参入することも当然と言えば当然の流れと言えそうだ。

■自動運転時代の自動車保険

自動運転時代には、この動きが顕著となる可能性がある。コネクテッド化とデータの収集は自動運転車にとって必然だからだ。また、手動運転と比べ大幅に事故率が低下する点と、事故原因がドライバーから自動運転システムの開発者サイドに起因するものへと変わっていくことなどを加味すると、開発者サイドである自動車メーカー自らが保険を取り扱った方が効率的となる可能性もある。

個々のオーナーが任意保険に加入する従来の形が、個々の自動車(自動運転システム)に対して保険が掛けられるような形へと変わっていくイメージだ。この場合、開発サイド自らが個々の自動車に保険を掛けたほうが効率的で、場合によっては車両そのものにあらかじめ保険を付加する可能性もありそうだ。

自動運転時代は、自動車から得られるデータをいかに有効活用するかが問われる時代でもある。このデータを活用したサービス・ビジネスにおける代表格の1つが保険なのだ。

■【まとめ】自動車メーカーと保険会社の提携拡大へ

保険業務はただ単に保険商品を取り扱えばなし得るものではない。カスタマーサービスや事故時のロードアシスタンス、修理工場との緊密なネットワークなどが必要とされている。

自動車メーカー自らがこうした一連の作業を網羅することも不可能ではないが、現実的には「餅は餅屋」ということもあり、実務を従来通り保険会社に任せ、自動車メーカーは販売に注力する――といった分担も考えられる。

トヨタはあいおいニッセイ同和損保と提携し、テレマティクス損害サービスシステムを開発・商品化している。この例では従来通り販売もあいおい側が担っているが、こうした自動車メーカーと保険会社との距離感は今後どんどん近くなっていくことは間違いない。

自動車保険市場は今後、オーナーカーの減少とともに縮小していくと見る予測もある。自動運転時代の到来とともに、自動車保険業も姿形を変えていくのだろう。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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