どこまでが「自動運転」?再定義の必要性も

「ハンズオフ」は運転支援?「アイズオフ」は自動運転?



ハンズオフ運転を可能にする高度なレベル2やアイズオフ運転を可能にするレベル3、移動サービスなどにおいて無人運転を実現するレベル4など、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術の普及・実装が進んでいる。


自動運転技術などが消費者の身近な存在になる一方、懸念されるのが「自動運転」の誤認だ。ADASや自動運転の機能を正しく理解しないことで過信や慢心、誤認が発生し、これらに起因する事故が増加するのではないか――といった懸念だ。

この記事では、ADASや自動運転にまつわる表現や定義、過去の問題事例などをもとに、各表現の再定義の必要性を説いていく。

■自動運転の定義づけはなぜ必要?

「自動運転」に絶対的な定義は存在しないが、言葉の通り解釈すれば「自動で運転する」ことに他ならない。消費者サイドから見れば「自動車が自動で操縦してくれる」といったイメージを持たれることが多い。従来の手動運転に変わり、機械・システムが運転を担うイメージだ。

おおむね上記の意味合いで正しく理解できるものと思われるが、明確に定義づけを行うべき理由が2つある。1つは、政策面の観点だ。業界における開発と社会実装を円滑に進めていくため国土交通省や経済産業者らが官民総出で議論を重ねているが、こうした場面においては共通認識のもとさまざまな用語を用いらなければ理解は深まらず、誤認を生じさせる原因となる。


もう1つは、消費者の観点だ。自動車メーカーら開発者サイドが自由に「自動運転」という言葉を用い、消費者らのイメージと乖離したシステム、例えばADAS(先進運転支援システム)に至るまで「自動運転」を想起させる宣伝を行うことで消費者の誤認を招く可能性がある。

「自動ブレーキ」などもこれにあたり、「自動でブレーキが作動する」という解釈のもと、「どのような状況でも衝突を回避してくれる」といった誤認を招き、ひいては事故を誘発する結果となる。

こうした理由から、業界側で一定の指針のもと共通認識となるべき定義づけを行う必要があるのだ。この定義づけにおいて、スタンダードな存在となっているのが「自動運転レベル」による区分化だ。

■「自動運転レベル」の定義

国内では、米自動車技術会(SAE)が策定した基準が公的に採用されており、2016年に発表された「SAE J3016」が広く用いられている。


日本の自動車技術会が翻訳したテクニカルペーパーによると、SAE基準の自動運転レベルは0~5の6段階で区分けされており、レベル0は「運転自動化なし」、レベル1は「運転支援」、レベル2は「部分運転自動化」、レベル3は「条件付き運転自動化」、レベル4は「高度運転自動化」、 レベル5は「完全運転自動化」と定義されている。

段階名称主体走行領域
レベル0運転自動化なし
レベル1運転支援限定的
レベル2部分運転自動化限定的
レベル3条件付き運転自動化限定的
レベル4高度運転自動化限定的
レベル5完全運転自動化限定なし
自動運転レベル1

具体的には、レベル1はシステムが運転タスクの縦方向または横方向のどちらか1つのサブタスクを限定領域において実行するものを指す。「アダプティブクルーズコントロール」など単体の機能がこれに相当する。

自動運転レベル2

レベル2は、システムが運転タスクの縦方向または横方向の両方のサブタスクを限定領域において実行する。「アダプティブクルーズコントロール」に加え「レーンキープアシスト」など縦・横方向の制御が同時に機能する。

機能が高度化すると、ドライバーがハンドルから手を離すことができる「ハンズオフ運転」が実現する。なお、ハンズオフ運転中もドライバーは周囲の監視義務を負う。あくまで運転支援システムの範疇にある技術だ。

【参考】関連記事としては「自動運転レベル2の要件や定義、機能を解説」も参照。

自動運転レベル3

レベル3は、システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行する。ここからが「自動運転」の領域となる。ドライバーは周囲の常時監視義務を免れるが、システムが作動継続困難となり、手動運転への切り替えを要請する「テイクオーバーリクエスト」が発せられれば、速やかにハンドルを握り運転操作を行わなければならない。

例としては、ホンダの渋滞運転機能「トラフィックジャムパイロット」が挙げられる。悪天候を除く自動車専用道路などにおいて時速50キロ以下(システム作動前は30キロ以下)で走行中、高精度地図やGNSS(全球測位衛星システム)情報が正常に入手されている状況において自動運転を可能としている。

自動運転レベル4

レベル4は、レベル3同様システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行する。レベル3との違いは、システムが作動困難な状況においてもドライバーなどの介入なくタスクを完結することにある。作動困難な状況においてもシステムが自ら対応し、リスクを最小化する運転を実行する。

言わば、レベル3は自動運転が可能なODD(運行設計領域)内においてもドライバーに依存するケースがあるが、レベル4はODD内においては原則システムが全ての責任を全うすることになる。

レベル4の例としては、一定ルートを走行する自動運転バスや一定エリア内を走行する自動運転タクシーをはじめ、空港や商業施設などの敷地内限定で走行する自動運転サービス、駐車場内で自動運転を可能にするバレーパーキングなどが挙げられる。自家用車においても、高速道路のみレベル4走行が可能――といった感じで徐々に導入される可能性がある。

【参考】関連記事としては「自動運転レベル4、ゼロから分かる基礎知識&進捗まとめ」も参照。

自動運転レベル5

レベル5は、システムが全ての動的運転タスクを作動困難な状況を含め制限なく実行する。走行エリアや天候、時間帯、地形などに関する制約を受けず、全行程において自動運転を達成する。ゲリラ豪雨や猛吹雪、道路の冠水など物理的に対応できない条件が発生した際は、側道に停車して条件が変わるまで待機するなど、あくまで自動運転を完遂する。

【参考】関連記事としては「自動運転レベル5とは?定義などの基礎知識まとめ」も参照。

■自動運転は「レベル3」から

上記のように、ハンズオフを含むレベル2まではあくまで運転を支援する機能であり、ドライバーは常に周囲を監視し、直ちに自動車を制御可能な姿勢を保持し続けなければならない。

一方、常時監視義務を免れる、いわゆる「アイズオフ」が可能なレベル3は、システムが正常に作動している状況に限り自動運転が可能になる。ただし、ODD内においてもシステムが作動困難となる可能性を常に意識し、テイクオーバーリクエストに対し迅速に対応できるよう準備しておくことが肝要だ。

レベル4以降は、無人運転を可能にする技術であり、文句なしの自動運転と言えそうだ。

■自動運転表記にまつわる問題
過去には「自動ブレーキ」が問題に

自動車業界ではADAS実装期、クルーズコントロールなどさまざまな機能の開発・搭載が進み、競争が激化する中「自動ブレーキ」といった表記が用いられるようになった。この表現が消費者らの誤認を招き、2016年には自動車販売店の店員が誤った認識のもと試乗を実施し、追突する事故も発生している。

その後、誤認防止に向け国土交通省や自動車公正取引協議会らがADAS技術に関する表現の線引きを図る動きがあり、現在では「運転支援技術」などの表記が行われている。

「自動ブレーキ」という表現1つが社会問題化した経緯があるだけに、「自動運転」に関してはより慎重にならざるを得ない。

自動運転やADASにまつわる各名称の定義や使用方法については、国土交通省所管のASV推進検討会やIT総合戦略本部の道路交通ワーキンググループなどでも議論が進められている。

テスラの「Autopilot」が各地で問題に

米EV(電気自動車)大手テスラのADAS「Autopilot」はレベル2相当の運転支援システムだが、直訳すると「自動操縦」を意味する。この名称だけでも誤認の引き金となるところ、「ソフトウェアの更新によって将来自動運転を実現する」というテスラの戦略や同社CEOのイーロン・マスク氏による発言などが誤認を助長し、米国を中心に重大事故を発生させる結果となった。

米国では、Autopilot作動中に居眠りする例や、最近では運転席を離れる例などが報告されており、実際に死亡事故になってしまった例も少なくないようだ。

また、Autopilotの名称を巡っては、ドイツ政府が2016年、誤解を生じさせる可能性があるとして使用を控えるよう要請を出している。要請に従わないテスラに対し、ドイツの地方裁判所は2021年、広告にAutopilotなどの表現を用いないよう命じる措置をとった。

【参考】Autopilot表記をめぐる動向については「世界で議論を呼ぶ「自動運転」表記、テスラ広告には禁止命令」も参照。

レベル2の高度化に懸念

今後懸念されるのは、高度化されたレベル2による誤認事故だ。ハンズオフ運転を自動運転さながらに認識し、周囲の監視を怠る事案の発生が懸念される。いわば、テスラのような事例が意図せず広がる恐れがあるのだ。

実際、中国でもEVメーカーNIOのオーナーがADAS「NOP(Navigation on Pilot)」稼働中に死亡事故を起こしており、メーカーにおいても表記を見直す動きが出始めているようだ。

国内メーカーはすでにADAS関連技術に自動運転を連想させる表現を用いないよう努めているが、こうした動きが世界的な潮流となり始めている印象だ。

メディアも注意が必要

2021年9月、スバルが2020年代後半に一般道における高度な自動運転レベル2の実用化を目指す報道が飛び交った。スバルの取り組み自体は非常に素晴らしいものだが、メディアの見出しには「自動運転」「自動運転車」といった表現が並んでいる。

「自動運転技術」であればまだ筋は通るが、「自動運転」「自動運転車」の表記は誤りであり、読み手の誤認を誘発しかねない。

メーカー同様、消費者の目に触れやすいメディアも「自動運転」にまつわる表記に細心の注意を払う必要がありそうだ。

【参考】スバルの取り組みをめぐる報道については「「スバルが一般道で自動運転」の違和感 メディアの表現は適切?」も参照。

■【まとめ】「自動運転レベル」表記も誤認要因に

レベル2やレベル3が本格的に普及する近い将来に向け、用語の再定義が必要ではないか。レベル2以下においても、現状「自動運転レベル2」「運転自動化レベル2」といった表記が正規で用いられているが、これも誤認の要因となり得る。正規表現である以上、自動運転ラボを含む各メディアにおいても使用せざるを得ない場合が多い。

再三となるが、レベル2以下に関しては原則「自動運転」といった用語を排除し、「運転支援レベル2」といった用語を用いてはどうか。レベル2、レベル3の本格的な普及を前に早期に全面見直しを実施し、誤認要因となり得る要素をしっかり精査すべきではないだろうか。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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