中国のEV(電気自動車)メーカー・小鵬汽車(Xpeng)が、ADAS(先進運転支援システム)関連に使用していた用語の見直しを進めているようだ。これまでADASの宣伝に用いていた「自動運転補助システム」を「スマート補助運転システム」に変更するなど、「自動運転」という言葉を使わないようにしている。
背景には、消費者の誤解による事故を防ぐ目的があるようだ。こうした「自動運転」という言葉の扱いに関しては世界各地で議論されており、日本国内でも「自動運転」と「ADAS」を明確に切り分ける取り組みが進められている。
しかし、根本的な問題が残されているのも事実だ。それは、世界で最も多く準拠されているであろう米自動車技術会(SAE International)が策定した自動運転レベルに関する定義だ。SAEの定義に従うと、ADASは「自動運転レベル1」「自動運転レベル2」と表記される。
自動車や自動運転業界関係者であれば、こうした用語を間違いなく使用することができるが、一般消費者はどうか。「自動運転レベル2の先進運転支援システム」と言われた際、そこに誤認は生じないのか。
この記事では、自動運転にまつわる表記の在り方について解説していく。
【参考】自動運転レベルについては「自動運転レベルとは?レベル0〜レベル5の定義・呼称を徹底解説」も参照。
記事の目次
■自動運転開発の本格化がADASの宣伝文句を変えた?
自動運転開発の歴史そのものは長いが、社会実装を見越した本格的な開発が広がり始めたのは10年ほど前だ。自動車メーカー各社が自動化技術に注目し、ADAS技術の発展・応用形として自動運転実現のビジョンを描き始めた。
当時、新車へのADAS搭載がスタンダード化し始めた時期で、自動運転技術を見据えたADAS開発競争が激化したこともあり、宣伝文句の中に「自動運転技術」や「自動ブレーキ」といった言葉が乱立し始めた。
各ADAS技術は自動運転技術の一部であることに間違いはなく、自動ブレーキも自動でブレーキが作動する機能であることに間違いはない。実際、当時は「ADASは完全自動運転ではないが自動運転機能である」という認識が支配的だった。
ただ、「自動」という言葉が独り歩きし、「いかなる場合も自動でブレーキが作動し、衝突を回避する」と誤認・過信する消費者が出始め、用語の使い方を問題視する向きが強まっていく。
実際、海外では米テスラのADAS「AutoPilot(オートパイロット)」の機能を過信した死亡事故が発生している。オートパイロットは自動操縦を意味するほか、テスラは将来的な自動運転をにおわせる宣伝文句を多用していたため、誤認するオーナーが頻出したようだ。
ドイツでは2016年、同国政府がテスラの「オートパイロット」に対し、誤解を生じさせる可能性があるとして使用を控えるよう要請を出している。なお、テスラはこの要請に従わず、2020年にドイツ地裁がテスラの広告に対しオートパイロットなど誤認させる可能性がある表現を用いないよう命じている。
【参考】関連記事としては「テスラ自動運転車の交通事故・死亡事故まとめ 原因や責任は?」も参照。
読めば君はテスラをかばいたくなる?歴代重大事故の原因まとめ 自動運転&運転支援カーによる交通事故、問題はAIにあり? 米電気自動車大手 https://t.co/W8XayvzmD3 @jidountenlab #テスラ #自動運転 #運転支援 #事故
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 6, 2018
■その後、自動運転とADASの区別が本格化
自動車の公正取引を推進する自動車公正取引協議会は2016年、「自動運転機能(準自動走行・レベル2/当時)について表示する際の全般的な考え方として、「自動運転機能の作動範囲などに限定を伴う場合は、例えば『高速道路同一車線自動運転機能』などその内容が自動運転機能の表示と一体として認識されるよう表示すること」や、「『完全自動運転』や『自動運転機能(技術)搭載で安全』など誤認されるおそれのある表示を行わない」ことなどを通達した。
2018年には、国土交通省・ASV検討会がADAS搭載車に使用する用語を「運転支援車」と定め、メーカーや販売店などにも協力を要請し合意に至ったと発表した。
自動車公正取引協議会も同年、「運転支援機能の表示に関する規約運用の考え方」を発表し、運転支援機能に関する消費者の誤認や過信を招かないようにするため、用語の使用について「自動運転は自動運転化技術レベル2の段階では使用しない」ことや「自動ブレーキは『衝突被害軽減ブレーキ』など機能が明確にわかる用語を使用する」ことなどを整理・通達した。
2020年には、国土交通省が自動運転レベル3以上の車両に用いる呼称を策定・公表した。レベル1、レベル2は「運転支援車」で、レベル3は「条件付自動運転車(限定領域)」、レベル4は「自動運転車(限定領域)」、レベル5は「完全自動運転車」と定めている。
【参考】自動運転レベルの呼称については「レベル3は「条件付自動運転車」!国が呼称決定、誤解防止で」も参照。
レベル3は「条件付自動運転車」!国が呼称決定、誤解防止で https://t.co/azaefXlZe2 @jidountenlab #自動運転 #レベル3 #呼称
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) December 17, 2020
■自動運転レベルは、SAE策定の基準に準拠
自動運転の定義は、SAEが公表する以前の2013年、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が自動運転に関する政策方針の中で策定・公表している。当時の分類では、レベル0を自動化なし、レベル1を特定機能の自動化、レベル2を複合機能の自動化、レベル3を半自動運転、レベル4を完全自動運転としている。
その後、SAEが2014年1月に独自の定義を公表し、2016年9月に改訂版「SAE J3016:SEP2016」を発行した。この改訂版が現在世界各国で最も多く使用されている定義となっており、日本では自動車技術会が2018年2月に改定版を翻訳したテクニカルペーパーを発行している。
この翻訳版では、レベル0を「運転自動化なし」、レベル1を「運転支援」、レベル2を「部分運転自動化」、レベル3を「条件付運転自動化」、レベル4を「高度運転自動化」、レベル5を「完全運転自動化」とそれぞれ訳している。
この定義は官民 ITS 構想・ロードマップ 2019でもそのまま採用されているが、同2020バージョンでは「運転支援」などの訳は記載されていない。レベル2の「部分運転自動化」など誤認を生む可能性があり、議論の余地があるためと思われる。
■新たな定義づけを行う必要性
前置きが長くなったが、ここからが本題だ。SAEの定義に従うと、「自動運転レベル」もしくは「運転自動化レベル」といった名称で各レベルが表現されている。レベル1、レベル2のADASも「自動運転レベル」もしくは「運転自動化レベル」で表記されるのだ。
関係者や自動運転に関心のある方であれば、「自動運転レベル2のADAS」を違和感なく理解することができるが、日頃自動運転に触れることもなく関心の薄い一般ドライバーが、初見で「自動運転レベル2のADAS」を理解できるかと言えば、そうはならない。「自動運転」という語に引っ張られ、誤認する層が一定割合存在するはずだ。
こうした現状を打破するには、SAE定義の訳を変えるか、新たな定義づけを行わなければならない。
一案として、「自動運転レベル」表記の対象をレベル3以上に限定してはどうか。従来の「自動運転レベル1~2」のADASを「運転支援レベル1~2」に置き換え、従来の「自動運転レベル3~5」を新たに「自動運転レベル1~3」とするイメージだ。
- 自動運転レベル1 → 運転支援レベル1
- 自動運転レベル2 → 運転支援レベル2
- 自動運転レベル3 → 自動運転レベル1
- 自動運転レベル4 → 自動運転レベル2
- 自動運転レベル5 → 自動運転レベル3
上記の方が、はるかに理解がしやすくないだろうか。
■【まとめ】高度化するADASに警鐘、今一度表記の再考を
この記事で紹介したような誤認問題は、ハンズオフ運転を可能にする高度な技術の実装が本格化する今後、頻発する可能性がある。そもそも論となるが、ハンズオフ運転技術を短絡的に過信して重大事故を起こす層が一定数存在する以上、注意喚起と並行してわかりやすさを突き詰めていかなければならない。
こうした表記の変更は、早ければ早いほど良い。各ワーキンググループや委員会などで過去何度も議論されていることは承知しているが、メディア経由の誤認を防ぐ意味合いを込め、今一度再考を望みたい。
【参考】関連記事としては「自動運転とは?技術や開発企業、法律など徹底まとめ!」も参照。