【議事録解説】第3回自動運転に係る制度整備大綱サブWGで語られたこと

用語の定義見直し、リファレンスアーキテクチャ策定へ



出典:首相官邸公表資料

「自動運転に係る制度整備大綱」のフォローアップを行う「自動運転に係る制度整備大綱サブワーキンググループ(サブWG)」の会合が2019年12月に開かれ、このほど議事要旨が公開された。

サブWGでは、2018年の発表からまもなく丸2年を迎える自動運転に係る制度整備大綱と、毎年6月ごろに発表される官民ITS構想・ロードマップの2020年版の策定に向け、進捗状況の確認や見直しを進めている。


議題は主に「官民ITS構想・ロードマップ2020(仮称)の策定に向けた論点」「サービスカーの2020年代前半のロードマップについて」「実態に即した自動運転システム等の定義の見直しについて」「モビリティ(人や物の移動)システムにおけるリファレンスアーキテクチャ(仮称)の策定について」「官民ITS構想・ロードマップフォローアップについて」「自動運転に係る制度整備大綱フォローアップについて」の6項目で、配布資料は一部しか公開されていないため、議事要旨から読み取れる部分にスポットを当て、解説していこう。

▼議事要旨
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/jidounten_wg/dai3/gijiyousi.pdf

■サービスカーの2020年代前半のロードマップについて

経済産業省が将来課題検討WGを設置し2018年度から検討を進めており、このWGにおける議論の進捗が発表された。

同WGでは地域限定型無人移動サービスなどの自動運転移動サービスの事業展開に係るロードマップの具体化に向け、国内外の実証事業を自動走行の環境や条件などを基に類型化・具体化を図っている。たたき台として6種に類型化し、運行条件を整理する上で自動走行車がその道路を専用的に使えるかどうかといった専用性や車速などに注目し、横軸に専用性、縦軸に速度を据えることで類型整理を進めたようだ。


遠隔型自動運転の位置付けについての指摘

また、遠隔型の自動運転が普及していく中で、遠隔運転者に対してどのような技能が求められるか、また法改正でレベル3が解禁されるが、遠隔型自動運転がどのように位置づけられているかといったことを考えていくべきとする指摘などがWGであったようだ。

今回の会合では、「遠隔自動運転というと、リモートでビュンビュン走れるようなイメージを持つが定義づけはどうなっているのか。自動操縦してくれると誤解される可能性もある」といった意見が出された。

遠隔型自動運転にもレベル2やレベル4が存在し、システムによってはODDを外れた場合はレベル3~4からレベル2へ……といったことも想定される。必ずしも無人によるレベル4技術ではないため、今後明確なレベル分けや定義が必要になりそうだ。

【参考】関連記事としては「自動運転車、”脳”を積まない「遠隔型」が最有力? 鍵は通信技術」も参照。


移動サービス導入の決め方についての指摘

また、「移動サービス導入の決め方として、移動する場所とそこで最適なシステムまたは車両をマッチングさせる形でいくのか、ある程度移動する場所を固定し、そこで使われる車両やシステムを継続的に進化させていくというアプローチをとるのか、いくつか組み合わせが想定できる。このアプローチについては、社会受容性のニーズや事業者のニーズ、技術進化の予測、実現目標時期、さまざまなパラメーターがあると思うので、これらを十分議論することで具体的な課題設定やアクションプランにつながる」といった意見も出された。

各地で実証が進められている自動運転を活用した移動サービスは、自動運転システムの仕組みや交通要件、環境条件などさまざまだ。そこで、2019年11月に開催された自動走行に係る官民協議会の中で、自動運転移動サービスの導入を円滑にするため「地域移動サービスにおける自動運転導入に向けた走行環境条件の設定のパターン化参照モデル(2020年モデル)」が示されている。

導入地域の環境や条件などをパターン化し整理したもので、これから自動運転の導入を検討する事業者や自治体などの参考・指標となるべき作業用シートだ。

多種多様ではあるものの、自動運転移動サービスを類型化することで、各システムの実現時期や地域特性を踏まえた相性など、さまざまな要素を明確にしやすくなる。実証が進み、今後は実用実証の段階に入るため、早期の類型化に期待したいところだ。

■実態に即した自動運転システム等の定義の見直しについて
現在の自動運転システムの定義

自動運転に関する定義を全体的に見直す議論が進められているようだ。ユーザー側の誤認や過信を招くことがないよう呼称を再定義するとともに、国際的な整合性も考慮しながら各組織でばらつきのある表記の統一化を図っていく方針だ。

官民ITS構想・ロードマップでは現在、便宜上「自動運転システム」を運転自動化に係るシステムの一般用語として使用しており、自動運転レベル3以上の自動運転システムを「高度自動運転システム」、レベル4~5の自動運転システムを「完全自動運転システム」と呼んでいる。

これまでは、レベル1~5を総称して「自動運転」という呼称を使用していたため、レベル3以上を分けて呼ぶ必要があり、独自の呼称を使用してきたが、SAE(アメリカ自動車技術会)によるJ3016の運転自動化レベルの呼称では、レベル3を「条件付運転自動化」、レベル4を「高度運転自動化」、レベル5を「完全運転自動化」としており、分かり難い表現となっている。

また、J3016では「限定領域内で低速で運行するよう設計されたレベル4の自動運転車を完全自動化や完全自動運転とするのは間違いであり避けるべき」と記載しており、呼称の見直しが必要な状況となっている。

【参考】自動運転レベルの定義については「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説」も参照。

国交省の「ASV推進検討会」の用語定義を採用へ

呼称を巡っては、国土交通省が2018年11月、自動ブレーキなどADAS(先進運転支援システム)搭載車を販売する際に「自動運転」という言葉を使用せず、「運転支援」などの表現を用いることで自動車メーカー側と合意するなど、改善に向けた動きが進められており、国土交通省の「ASV推進検討会」で適切な用語を定義するため議論されている。

同サブWGにおいても、ASV推進検討会における用語定義を採用する方針だが、2020年の官民ITS構想・ロードマップ改定までにレベル3~4に対する呼称が決定されない場合は、「レベル○のシステム」「レベル○の車両」など、システム・車両に呼称を設けない表現とするようだ。

トラックの隊列走行の扱いについては、現状は高速道路での隊列走行トラック(レベル2以上)などと表記しているが、今後はレベルの記載を行わない方針のようだ。

後続車無人隊列走行における後続車両は、先頭車両に電子牽引されている状態であるため運転自動化レベルは先頭車両のレベルに準ずることとなり、先頭車両の運転自動化レベルは0~3のいずれもあり得る。

また、後続車有人隊列走行は、CACC+LKAを使用して追従走行するため後続車両はレベル2にあたるが、先頭車はレベル0~3のいずれもあり得るためだ。

高度安全運転支援システムは呼称は設けない方針

高度安全運転支援システムについては、予防安全技術・運転支援技術は多種多様であり、現在の状況において特に機能をパッケージ化して呼称を設け、開発促進・普及促進を図る動きはないことから、現時点で呼称は設けずに「予防安全技術・運転支援技術の進化」とし、予防安全技術の進化、運転支援技術の進化、自動運転技術の運転支援などへの活用について取り組みを記載していく方針としている。

準自動パイロット・自動パイロットについては、現在の定義の中に「高速道路」が含まれており、これ以外のODD(運行設計領域)ではこの言葉が使用できないことと、米テスラがレベル2の機能に「オートパイロット」という名称を使用しており誤解を生じる可能性があるため、「準自動パイロット」「自動パイロット」は削除し、「高速道路での自動運転(レベル3)」などの表現とする方針だ。

こうした自動運転に係る定義や呼称は、当サイトを含め各メディアが準用するものであり、ひいては消費者の目耳に入ることになる。また、開発企業が各自動運転システムや技術などを思い思いに表現すると、消費者の誤認を増長することが想定される。

このため、統一基準・指標となるべき言葉の定義は明確にしておく必要があるのだ。

メンバーからは「隊列走行という言葉は事業者が行う事業形態であり、隊列走行のレベルを論じたり、レベル表記を行ったりすることはミスリードの可能性があるため、隊列走行の記述を削除するかレベル表記をしない方が良い」や、「国連の道路交通安全作業部会(WP1)で使われているhighlyやfullyという言葉をシンプルに日本語訳し、説明を追記して誤解のないようにしていくぐらいにしたほうがいい」などの意見が出された。

【参考】関連記事としては「【最新版】ADASとは? 基礎知識や読み方などを徹底まとめ!」も参照。

■モビリティ(人や物の移動)システムにおけるリファレンスアーキテクチャ(仮称)の策定について

自動運転やMaaSなど、新たな技術面・産業面の動きが盛んになり、実証実験も非常に活発になることが期待されるが、個別の技術や実装環境ごとにばらばらに進めていると、全体としての体系的な方向性があやふやになるため、複雑な全体像を可視化し、さまざまな関係者が連携する基盤としてモビリティに関連する要素技術を俯瞰するようなリファレンスアーキテクチャを作る提案が事務局から出された。Society5.0で導入されているリファレンスアーキテクチャを採用していく方針のようだ。

会合では、「リファレンスアーキテクチャの中に自動車の整備が見当たらない。自動運転車においては整備点検の重要性が増し、OBD(車載式故障診断装置)車検の話もある。整備業界がどういう位置づけになっていくのかも考えたほうが良い」といった意見が出され、事務局サイドは「モビリティサービスを実現するための機能の中に車両の整備や道路空間の整備といった項目を入れる必要があり、それをセットで入れ込んでいくということはあり得る。ただ、これらを含む形でターミノロジーが既に置かれている可能性もあり、もう一度検討し、必要であれば追加するようにしていきたい」とした。

このほか、「データ連携において、特に道路交通情報基盤と他外部データ基盤の連携がほかのソサエティ5.0での議論に比べるとオープン化されていない部分がかなりあるのではないか。例えば、信号のデータやVICSが持っているデータ、道路管理会社のデータなど、たくさんビッグデータはあるのにどう使えばよいかわからないといった声もある。その反面、使いたい人はいっぱいおり、そこをマッチングする議論はいろいろなところでされているので、そのあたりも議論のスコープに入れていただけるとありがたい」といった意見なども出された。

■官民ITS構想・ロードマップ及び自動運転に係る制度整備大綱のフォローアップについて

2020年度に示される官民ITS構想・ロードマップなどのフォローアップに対しては「国交省や経産省のMaaSの関係にもかかわっているが、輸送事業のグランドデザインがほとんどない。2040年の国土を考えてトランスポートシステムがどういう役割を担うのかを整理し、その中のある部分を自動運転がこういう形で担いたいというところで、ゴールに対する工程表みたいな形ができるとよい」といった意見が出された。

そのほかにも、「将来的に完全自動運転を目指すのであれば、ステップとして消費者が自動化のプロセスにかかわって体感する機会を持つのは意義があり、人がかかわるプロセスを消費者が体験することで社会的受容性も醸成されていく。その意味も込め、サービサー以外の方がロードマップを見て何か思いつくような、異業種の方などがそれを見て価値共創できるようなものになるとよい」などの意見もあった。

■【まとめ】2020年は自動運転の節目 10年、20年先を見通した戦略を

一つの節目となる2020年は、中・長期的な視点を含めたロードマップを改めて検討する重要なタイミングと言える。レベル3の解禁やレベル4移動サービスの実用実証などが本格化し、自動運転技術が社会に浸透し始める年でもあり、自動運転を取り巻く環境が大きく変わっていく年なのだ。

自動運転技術に直接触れる消費者が増加し、サービスの実装を見据えた開発もより本格化することになる。自動運転の社会実装を通し、安全で円滑な道路交通社会を構築するために作成された官民ITS構想・ロードマップや自動運転に係る制度整備大綱に今一度注目し、10年、20年先を見通した新たな交通社会づくりを進めてもらいたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事