地図はいらない!テスラ流の「人間的」自動運転とは?

カメラ(目)とAI(脳)のみで実現を目指す



出典:Daniel Oberhaus / Flickr (CC BY 2.0)

イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)のもと、自動運転開発において独自路線を貫く米EV(電気自動車)大手のテスラLiDARや高精度3次元地図(ダイナミックマップ)を不要とする自動運転システムを開発している。

シンプルに感じられるこのテスラ流自動運転システムは、「自動運転レベル5」(完全運転自動化)を最短で実現できる可能性を秘めている。この記事では、テスラの自動運転システムの方向性について解説していく。


■一般的な自動運転システムの概要

自動運転では一般的に、カメラやLiDARなどのセンサーが外部の状況を把握し、道路や周囲の車両、歩行者などさまざまなオブジェクトを認識・解析する。その情報をもとに、自車両が安全に走行できるようアクセルやブレーキ、ステアリングといった制御をAIが判断する。

この一連の作業は、人間のドライバーが目で周囲の状況を把握し、脳で解析・判断して自動車を制御する仕組みと一緒だ。

さらにその仕組みに、GPSなどの衛星測位システムによる自車位置推定技術や高精度3次元マップ、コネクテッド機能を活用した路車間通信(V2I)や車車間通信(V2V)などを付加することで、自動運転の精度をさらに高めることが可能になる。

多くの開発企業は、こうしたさまざまな技術を複合的に利用し、少しでも自動運転の能力を高めようと研究開発に力を入れている。


■テスラのシステム開発の現状と将来像

テスラの自動運転システムは、自動運転に必要となるカメラなどのハードウェアを車両に標準搭載し、ソフトウェアを更新していくことで自動運転の能力を高めていく手法を採用している。

現在普及しているテスラの「Autopilot」は、自動運転レベル2に相当するADAS(先進運転支援システム)だが、ソフトウェアを更新することで、駐車場においてオーナーの元まで自車が自動走行するスマートサモン機能を可能にするなど、随時最新の機能を付加することができる。将来的にはレベル3以上の自動運転技術を搭載していく構えだ。

現在の新型車両には、サラウンドカメラ8台をはじめミリ波レーダー、超音波センサーを備え、最大250メートル先の物体を検知可能なセンシングシステムを装備している。

LiDARについては、イーロン・マスクCEOが否定的見解を示しており、人の目に近いカメラの将来性に賭けている印象が強い。また、高精度3次元地図も使用せず、V2Iを活用したシステムも耳にすることがない。


基本的に、カメラを主体としたセンサーが取得したデータをAIが解析・判断する仕組みで自動運転を成立させる戦略のようだ。言わば目で見て脳で考えるだけの仕組みで、人間同様に状況判断だけで自動運転させる方針なのだ。

テスラは、自動運転開発が本格化するにつれ他社への依存を排除する動きが顕著となっている。高精度3次元地図やV2Iなど外部に依存したシステムを限りなく排除することで、自社完結型・自己完結型のシステムを構築しようとしているのかもしれない。

【参考】テスラの自動運転については「テスラのオートパイロット(AutoPilot)とは?将来は自動運転機能に」も参照。テスラの取り組みについては「テスラの「完全自動運転サブスク」、2021年第2四半期から提供か」も参照。

■テスラ流自動運転システムのメリット
コストの削減

こうしたテスラ流自動運転のメリットはどこにあるのか。1つはコストの削減だ。センサーやV2I向けの機器などのハードウェアを必要なものだけに厳選することができる。シンプルな構成で自動運転システムを構築することができるのだ。

ソフトウェア面における複雑性の排除

ソフトウェア面における複雑性が排除されることもメリットに挙げられる。カメラやLiDARなどのセンサーフュージョンを簡素化することができるほか、V2Iなどさまざまなデータを複合的に取り扱う必要もなくなる。データの種類が少なければ少ないほどソフトウェア面の負担も小さくなるのだ。

ODDの制約をなくしやすい

また、高精度3次元地図など外部要素を必要としない自己完結型の自動運転システムは、一切の制約なく完全自動運転を実現する自動運転レベル5への道を切り開く側面を持ち合わせている。

レベル4からレベル5への進化においては、走行可能な道路条件やエリア条件、気象条件などODD(運行設計領域)を構成する各要素の制約を全てクリアしなければならない。

現在実用化されているレベル3やレベル4は、「高速道路走行時」や「任意で定めた一定エリア内」で自動運転を可能にするシステムが多数を占めているが、これらは事前にマッピング化し高精度3次元地図が作製されているエリア内で走行可能と言い換えることができる。

このシステムの延長線上でレベル5を達成する場合、地球上のあらゆる道路全てをマッピングし、適時更新し続ける必要がある。とてつもない労力と時間を要するのは言うまでもないことで、現状の技術では現実的とは言えない。

しかし、高精度3次元地図を利用しないテスラ流自動運転システムであれば、「高精度3次元地図が作製されているエリア」に限定されることがなくなるため、理論上はどこでも走行可能となる。

もちろん、何らかの前提付きにはなるだろうし、気象条件など他のODDの制約が残るため直ちにレベル5を達成できるわけではないが、テスラ流はレベル5への近道をたどっていると言える。

それでも多くの開発企業がLiDARや高精度3次元地図を活用するのは、少しでも自動運転システムの精度を高めるためだ。

絶対的な安全性が求められる自動運転においては、万が一に備え冗長性もしっかりと担保し、考えられる安全策をコスト度外視で可能な限り盛り込んでいくことも肝要だ。

■【まとめ】テスラ流自動運転が将来主流に?

将来、センサーとAIのみで極めて精度の高い自動運転を実現する技術が確立されれば、高精度3次元地図は用済みとなり、テスラ流が主流になるかもしれない。想像の枠を超えた技術の進歩がイノベーションを生み出すことに異論はなく、これも1つの理想像であることは間違いない。

最新のソフトウェア「FSD(Full Self Drive)」の提供をまもなく開始すると豪語するマスク氏。さらに先延ばしされる可能性も否めないものの、同氏の頭の中にはテスラ流自動運転が主流となった未来が明確に描かれているのだろう。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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