調査会社の富士キメラ総研は2020年9月、将来の自動運転市場の動向をまとめた「2020 自動運転・AIカー市場の将来展望」を発表した。自動運転車の普及拡大が見込まれる2021年以降の市場を調査に基づき予測したもので、2045年にはレベル4以上の車両生産が2,000万台を超えるとしている。
同社の調査概要を参照し、その根拠に触れながら、将来のモビリティ社会を見通してみよう。
記事の目次
■自動運転レベル2以上車両の世界市場
世界市場におけるレベル2車両の生産台数は、2020年の724万台(見込)から2030年に6,037万台、2045年には7,133万台と伸びを見せる。レベル3は2020年の1万台(見込)から2030年に571万台、2045年に4,280万台、レベル4~5は2020年の僅少から2030年に343万台、2045年に2,139万台と予測している。
現在普及が進んでいるレベル2は2020年代の増加が著しく、車線変更サポートや限定条件下でのハンズフリー機能を搭載した高機能レベル2の比率が伸びてくると予測している。
2025年ごろ:レベル3車両を各自動車メーカーが投入
2025年ごろには、高速道路限定のレベル3車両が各自動車メーカーから投入されるほか、タクシーなどにおいてレベル4車両も登場するとみている。
2035年:レベル4~5車両が市販車でも一部で展開
2035年には高速道路限定走行ではあるもののレベル3車両の需要が増加するとし、またレベル4~5車両はタクシーやMaaSでの活用だけでなく、市販車でも一部で展開されると予想している。
2045年:市街地走行も可能なレベル3車両が増加
2045年には、レベル3車両は4000万台を超え、高速道路だけでなく市街地走行も可能な車両も増加するとし、レベル4~5車両も2000万台を超えるとみている。
また、自動運転関連製品は、センシング機器やソフトウェアなどが大幅な性能向上とともに量産化によって価格が低下し、短期的にはレベル2車両の普及、長期的にはレベル3以上車両の普及を促進すると予想している。
■自動運転レベル3以上車両のエリア別市場
レベル3以上のエリア別生産台数では、日本が2030年に83万台、2045年に372万台、欧州が2030年に313万台、2045年に1,175万台、北米が2030年に145万台、2045年に1,350万台、中国が2030年に330万台、2045年に1,915万台、その他の地域が2030年に43万台、2045年に1,607万台とそれぞれ予測している。
欧州自動車メーカーがレベル3以上車両の普及推進に積極的に取り組んでいることを背景に、当面は欧州が市場をけん引するとみており、2020年代に中国や北米でも普及が徐々に進むとみている。
日本:レベル4以上、本格的な市場投入は2030年代に入ってから
日本は、道路運送車両法と道路交通法が改正されたものの法整備の面では依然欧米に比べて遅れているとし、レベル3以上車両の市場は2020年代前半まで低水準で推移すると予想している。その一方、2020年に国内自動車メーカー(ホンダ)がレベル3車両を発売するとみられ、市場拡大の足掛かりとなることに期待している。
レベル4以上については、インフラ整備や法整備などの課題を理由に本格的な市場投入は2030年代に入ってからと予想している。
欧州:レベル3以上の市場は当面欧州がけん引
欧州では、政府や消費者の環境保護への要求が高く、レベル4車両はVWグループやBMW、Daimler、Volvoなどが他地域の自動車メーカーに先んじて2020年代前半に製品化を行う計画であり、レベル3以上の市場は当面欧州がけん引するとみている。
また、欧州自動車メーカーは、自動運転車やEV、MaaSを同時に普及させることで、従来のディーゼル車販売を中心としたビジネスから置き換わる新たなビジネスモデルへの構築を進めているとも分析している。
北米:早期のレベル3以上車両の市場形成が期待
北米は移動手段としての自動車利用が主体でユーザーの長時間乗車が多いため、自動運転車のニーズが高く、早期のレベル3以上車両の市場形成が期待されるとしている。
都市近郊道路では自動運転車両に対応したインフラ整備は難しいものの、州間高速道路やUSハイウェイは道幅が広くユーザーの運転距離も長いため、レベル3以上車両が普及しやすい環境にあり、長期的には需要が高まると予想した。
また、WaymoやUber、Lyftなどの大手配車サービス事業者がサービスを展開しているエリアであり、GMやFord、Teslaなどの米国自動車メーカーはレベル4車両を利用したMaaSへの注力度を高めている点も強調している。
中国:2045年にはレベル3以上車両の最大エリアに
中国は次世代技術に対し官民ともに積極的に取り組んでいるとし、BaiduなどのITメーカーがAI開発に積極的に取り組んでいる。雄安新区のように自動運転を前提とした都市開発が一部で行われるなど、政府主導の積極的な取り組みも盛んで、2045年にはレベル3以上車両の最大エリアになるとみている。
その他地域は、東アジアやインドや東南アジアなどの新興国で自動車の需要が増加し、2030年以降の急激な市場拡大を予想している。
■生産競争は2025年ごろ本格化か
日本自動車工業会によると、世界全体の2019年における四輪車生産台数は9,178万7,000台、日本国内では968万台となっている。
将来的には先進国を中心に生産台数は鈍化すると予想されているが、2030年における生産台数を9000万台と仮定して富士キメラ総研の予測にあてはめた場合、3台に2台がレベル2、約6.3%がレベル3、約3.8%がレベル4という比率になる。非常に現実に即した数字のように感じる。
多くの予測では、2025年ごろから生産競争が本格化すると見通している。レベル3においてはホンダや欧州勢、レベル4においてはWaymoや中国スタートアップ勢など、開発を先行する先発隊が2020年ごろから実用化競争を進展させ、2025年ごろにはプレイヤーが出揃うイメージだ。
また、今から25年後の2045年には、レベル4以上の車両が2139万台になるという予測は、おおよそ4、5台に1台が完全自動運転車になるということだ。その頃にはMaaSが著しく進展し、自家用車という概念が大きく変わっている可能性が高い。
その頃には、自家用車=手動運転という既成概念はどのように変化しているのか。また、自家用車の枠に当てはまらないパーソナルモビリティがラストマイルを担う主役に躍り出ていることなども考えられる。
■【まとめ】小さな変革がやがて大きな変革に
大きく変貌を遂げようとしている未来のモビリティ社会だが、こうした変革の時代の始まりを今まさに迎えていることを忘れてはならない。現在世界各地で進められている自動運転車や新モビリティの開発、MaaSの取り組みなどが少しずつ進展を遂げた結果、大きな変革となるのだ。
今現在進められている開発や取り組みをしっかりと見据えることで、いつどのようなターニングポイントを迎えるかも予測可能となる。現在進捗している小さな変革を見逃さず、しっかりと時代の波を乗りこなそう。
【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。