中型自動運転バス、実証中に柵の支柱と接触 産総研が発表、ケガ人なし

低速転回中に突起状のセンサーが接触、手動操作間に合わず



接触のあったバスの張り出したセンサ部分(上がLiDAR、下がミリ波レーダー)=出典:産総研お知らせ

滋賀県大津市内で実証実験中の自動運転バスが2020年8月30日、歩道の柵に接触した。ボディから張り出したセンサーが接触した軽微な事案で、乗員乗客にけがはなかった。

実施主体の産業技術総合研究所(産総研)は「ただちに自動運転での実証実験の運行を停止し、関係者や有識者による原因究明を徹底した調査を実施する」としている。


接触事案はどのようにして発生したのか。国内外の事故案件をおさらいしながら概要に触れていこう。

■大津市の事案概要
実証実験の概要

今回の実証は、経済産業省および国土交通省の「高度な自動走行・MaaS等の社会実装に向けた研究開発・実証事業:専用空間における自動走行などを活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」の一環で、産総研が幹事機関、大津市と京阪バスが運行事業者として実施している。

実証は2020年7月12日から9月27日の期間、びわ湖大津プリンスホテルからJR大津駅の往復区間を自動運転バスで有料運行し、多様な走行環境における自動運転技術をはじめ、信号機などインフラとの連携による安全性や効率性の向上といった実証評価や、自動運転バスの利用シーンを想定したサービス技術などの実証評価、利用者の受容性や事業性の評価などを検証する。

車両は、先進モビリティが改造した定員27人の中型バスで、GNSS・QZSSアンテナ、通信アンテナ、前方・側方・後方LiDAR、障害物検知カメラ、信号認識カメラ、ミリ波レーダー、磁気センサー、ジャイロセンター、ステレオカメラ(未使用)を搭載し、車線維持や速度の維持制御などを高度に行うことが可能だ。


実証では、ハンドルやアクセル、ブレーキなどの運転操作が自動でコントロールされるが、常駐する運転手の操作が最優先される自動運転レベル2相当の技術で走行している。

なお、同様の実証は神姫バスが兵庫県三田市、西日本鉄道が福岡県北九州市と苅田町、茨城交通が茨城県日立市、神奈川中央交通が神奈川県横浜市でそれぞれ2020年度中に実施する予定となっている。

接触事案の概要

接触事案は、8月30日14時43分ごろ、同市島の関を走行中に発生した。進路を180度変えるため右に転回中、歩道の柵の支柱とバスの左前部に張り出したセンサーカバーが接触した。

極低速の自動運転で転回中、ドライバーが転回の終わり前に歩道柵との間隔が狭いと感じ、操舵やブレーキ操作の手動介入操作中に接触したという。当時、乗客4人が乗車していたが、ドライバーともにけがはなかった。

転回部分の事案発生現場(点線は走行経路を模式的に示したもので、点線の丸が接触した柵の支柱)=出典:産総研お知らせ

市や京阪バスは事案発生後ただちに自動運転での実証実験運行を停止し、関係者や有識者による原因究明調査を行っている。その間、路線は通常のバスで運行する。

なお、接触したセンサーは側方LiDARで、高さ推定70センチほどの位置に10~15センチ張り出して装備されている。カバーの塗装にひび割れやへこみが見られるものの、LiDARそのものは無事と思われる。

■国内における自動運転車の事故・事案
愛知県豊田市での事故

国内では2019年8月26日、愛知県豊田市で試験走行中の自動運転車が、後方から追い越してきた車両と接触する事故を起こしている。

車両は名古屋大学が所有する低速自動運転車両で、4人乗りのヤマハ発動機製ゴルフカートをベースに自動運転システムを搭載したもの。時速約14キロで公道を走行中、後方の一般車両が低速自動運転車両の右側から追い越し、その際低速自動運転車両が急に右側に寄ったことで接触したとみられる。両車両が破損したもののけが人はなかった。

事故検証委員会によると、自動運転車両の位置・方位検知機能が進行すべき方位を誤検知したことが事故の直接的な原因としている。

【参考】豊田市の事故については「豊田市の自動運転事故のなぜ 事故検証委の報告内容を考察」も参照。

大分県大分市での事故

2019年9月25日には、大分県大分市による自動運転の実証で、同市内の国道を走行中の群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センター所有の自動運転バスが歩道の縁石に接触する事案が発生している。

事故は午前2時過ぎの深夜帯で、実証運行前のルート調査時に発生した。交差点で左折中、歩道の縁石に接触し、左後輪とフェンダー部分をこすったという。けが人はいなかった。

現場はGPS信号が入りづらい場所で、手動運転が推奨される環境であったことなどから人為的ミスが原因とされている。

なお、群馬大学関連では、2017年9月1日深夜、群馬県桐生市内の県道を走行中の自動運転車がガードレールに接触する物損事故も発生している。現場手前で一時停止した後、自動運転に切り替え発車したところ、ハンドルが急に左に切られ、自動運転システムの停止措置も間に合わなかったようだ。

【参考】大分市の事案については「群馬大の自動運転バス、縁石に接触 人為的ミスとの説明」も参照。

東京都内での事故

東京都内では、ソフトバンク子会社のSBドライブ(現BOLDLY)が実証中の自動運転バスが2020年3月10日に物損事故を起こしている。

午前9時22分ごろ、東京・丸の内仲通りを走行中、バス停に停車するため車両を左端へ寄せていく際、路上駐車している乗用車の側面に接触した。けが人は出ていない。

事故当時、自動運転システムが車両を検知する直前にドライバーが駐車車両への接近を認知して手動走行へ切り替えたため、システムによるブレーキが無効となった。運転者は緊急停止命令を入力し、車両が減速を開始したが間に合わず、駐車車両に接触したという。

【参考】都内で発生した接触事故については「ソフトバンク子会社の自動運転バス、都内で物損事故  手動走行へ切り替え後に」も参照。

なお、2019年11月29日付の西日本新聞の記事によると、「(自動運転車の公道走行実験中の事故は)警察庁によると、ここ5年間で6件発生」しているという。いずれも軽微なものと思われるが、実証実験の増加によってわずかではあるが事故件数も増加傾向にあるものと思われる。

■海外の事例

自動運転実証が先行する米国では、グーグル系Waymo(ウェイモ)の車両が2016年2月、カリフォルニア州の公道で路線バスと接触する事故を起こしている。路肩の砂袋を検知して停止した後、避けて前進しようと発車した際に後ろから走行してきたバス車両の側面にぶつかったという。この件に関し、ウェイモは過失を認めている。

配車サービス大手のUber(ウーバー)は2018年3月、アリゾナ州で歩行者をはねる死亡事故を引き起こしている。自転車を押しながら車道を渡っていた歩行者に衝突した案件で、自動運転ソフトウェアに欠陥があったことが指摘されている。また、この死亡事故以前に37件の交通事故を起こしていたことなども判明している。

アップルは、2018年8月にカリフォルニア州で追突される事故、同年10月にレーンを横切ってきた車両に接触される事故をそれぞれ起こしている。いずれももらい事故の要素が強い内容となっている。

米メディアForbesの2018年11月の記事によると、カリフォルニア州車両管理局(DMV)などが調査した同州内における自動運転車の累計事故件数は、GM系クルーズが51件、ウェイモが37件となっているようだ。

また、自動運転実証が盛んな同州内において2018年に発生した自動運転車の事故は50件超を記録しており、年々増加傾向にあるようだ。

■【まとめ】検証を通して自動運転システムは安全性を高めていく

国内においては自動運転の実証自体がまだ珍しい存在のため、軽微な事故・事案に関しても報道されやすい環境にあるが、これをもって「自動運転は危険だ」とする考え方は弊害しか生まない。

完成の域に達した自動運転車でも、事故を100%防ぐことはできない。手動運転と比較したうえで事故率や事故の内容を判断すべき点と、実証で発生したインシデントをしっかりと検証し、克服していく過程で自動運転システムは向上していく点を忘れてはならない。

実証が加速する中、こうした軽微な事故が一時的に増加する可能性は十分考えられるが、開発各社・大学・自治体などには積極的に情報を開示してもらい、情報共有体制を整備するとともに、克服の過程を通して社会受容性を高めていく契機にしていきたい。

【参考】関連記事としては「ハッキングされた自動運転車が事故!誰の責任?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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