ソフトバンク子会社の自動運転バス、都内で物損事故  手動走行へ切り替え後に

SBドライブが実証中、駐車車両に接触



ソフトバンク子会社のSBドライブが実証を進める自動運転バスが2020年3月10日、東京都内で物損事故を起こしていたことが明らかになった。事故はどのような経緯で発生したのか。SBドライブが公表している資料「自律走行車両の接触事故について」をもとに、事故の概要について見ていこう。

■事故の経緯・発生日時や場所など

SBドライブが試験走行していた仏Navya社製の自律走行車両「NAVYA ARMA」が2020年3月10日午前9時22分ごろ、東京・丸の内仲通りを走行中に路上駐車中の乗用車に接触した。バス停に停車するため車両を左端へ寄せていく際に乗用車の側面に接触したもので、両車両に損傷があったものの、この事故による負傷者はいなかった。


運転者はバス停に停車する際、駐車車両への接近を認知し、手動走行へ切り替えを行った。ほぼ同時に車両が搭載するLiDAR(ライダー)も駐車車両を検知したものの、手動走行中のためシステムによるブレーキが無効となった。運転者は緊急停止命令を入力し、車両が減速を開始したが間に合わず、駐車車両に接触した。

出典:SBドライブ資料

同社は関係省庁に報告を行うとともに、自動運転などに知見のある外部の専門家で構成された事故調査委員会を2020年3月中に設置し、事故の原因究明を進めるとともに、今後の対応策や再発防止策を精査する。その内容については、順次公表する予定としている。

手動操作への切り替えから接触まではわずか1.3秒の出来事であり、運転者が気付いた時点でほぼ避けようがなかったのかもしれない。

同社によると、NAVYA ARMAは2020年1月時点において世界20カ国で計134台が導入されており、国内でも同社が積極的に実証を重ねており、これまでに50回以上延べ8000人以上が乗車した実績を誇っている。


NAVYA ARMAによる事故例はあまり報告されていないが、米ネバダ州ラスベガスで2017年11月にシャトルバスの運行サービスを開始した初日に、トラックと衝突する事故が発生している。この時は、トラックドライバー側に明らかな過失があったようだ。

■SBドライブの自動運転の取り組みについて

自動運転技術の社会実装や運用に関するコンサルティング、旅客物流に関するモビリティサービスの開発・運営を手掛けている同社は、NAVYA ARMAを積極的に活用し、国内各地で実証を進めるほか、遠隔監視システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」や車内事故の削減に効果を発揮する「DaiLY by dispatcher」などのサービス開発・普及にも力を入れている。

2019年6月にはNAVYA ARMAを改良し、道路運送車両法における基準緩和認定を受け、車両の新規登録(ナンバーの取得)を行ったと発表し、ハンドルのない車両による公道実証を本格化させている。

【参考】SBドライブについては「SBドライブの自動運転戦略は? ソフトバンクグループのベンチャー企業」も参照。


2020年1月には、同社とマクニカの協力のもと、茨城県境町がNAVYAARMAを定時・定路線で運行する計画を発表した。2020年4月をめどに運行を開始する予定で、実現すれば国内自治体では初となる自動運転バスの実用化となる。

【参考】境町での取り組みについては「国内初、定路線で自動運転バス!茨城県の境町、SBドライブと」も参照。

■国内で起きた1例目の事故について

国内において、自動運転車が他車と接触した事故は、今回が2例目になるとみられる。1例目は、名古屋大学が2019年8月26日、愛知県豊田市内の市道で試験走行を行った際、一般車両と接触事故を起こしている。事故検証委員会の報告によると、自動運転車両の位置・方位検知機能が進行すべき方位を誤検知したことを直接的な原因としている。

【参考】豊田市における事故については「豊田市の自動運転事故のなぜ 事故検証委の報告内容を考察」も参照。

このほか、単独の物損事故としては、群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センターが所有する自動運転バスが2019年9月25日、大分県大分市の国道で走行実験中に歩道の縁石(ガードレール)に接触する事故を起こしている。この際の原因は人為的なミスとされている。

【参考】大分市における事故については「群馬大の自動運転バス、縁石に接触 人為的ミスとの説明」も参照。

■海外で起きた事故について

公道実証が盛んな米国では、自動運転車の事故が報道されるたびに話題となっている。ウェイモは2016年2月、アメリカのカリフォルニア州の公道で路線バスと接触する事故を起こしている。路肩の砂袋を検知して一時停止し、避けて前進しようと動いた際に後ろから走行してきたバス車両の側面にぶつかったという。ウェイモはこの事故について過失を認めている。また、2018年5月と6月にはそれぞれアリゾナ州で「もらい事故」を起こすなど、特に過失が認められないケースも多々あるようだ。

アップルは2018年8月、カリフォルニア州で追突される事故を起こしたほか、10月にもマニュアルモードで左折のため低速で走行している際、レーンを横切ってきた車両に接触される事故を起こしている。いずれももらい事故の要素が強い内容だ。

一方、ウーバーは2018年3月、アリゾナ州で自転車を押しながら車道を渡っていた歩行者をはねて死亡させる事故を起こした。自動運転ソフトウェアに欠陥があったことが指摘されているほか、この死亡事故以前に37件の交通事故を起こしていたことなども明らかになり、同社はしばらくの間、実証を中止せざるを得ない状況に陥った。

■【まとめ】重要視すべきは事故の内容と改善策

開発の過熱化と技術の高度化に伴い、国内外問わず公道実証の数や技術レベルも年々高まっている。実証の増加に伴い事故件数が増加するのは致し方のないところだが、重要なのはその中身だ。

海外事例を参考にすると、人為的ミスやもらい事故の要素が高いものが大半を占めており、システムの欠陥が主な要因となった例は少ない。また、もらい事故の割合が一般車両と比較し高いと仮定すると、事故を誘発する何らかの挙動を行っている可能性も考慮しなければならない。

自動運転は交通事故を起こさないことが社会的意義とされがちだが、絶対に事故を起こさないわけではない。限りなく事故率をゼロに近づけるために実証を重ねているのだ。

重要なのは、同じミスを二度繰り返さないことだ。しっかりと検証を行って改善を図るとともに、情報を開発各社で共有することが重要であると言えそうだ。

【参考】関連記事としては「自動運転の事故、責任は誰が負う?」も参照。


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