公用車にする自動運転車、「中国製」なら炎上確実

石破政権、海外製を採用する可能性は?



出典:首相官邸

経済産業省が今秋にも開始する公用車への自動運転車導入事業がバズっているようだ。SNSには、その取り組みを評価する声が多く上がるほか、どこの車両が採用されるのか気にする声や政治不満から揶揄する声など、さまざまな反応が寄せられている。

中には、皮肉含みで中国製の導入を期待する声もあった。実際問題、外国製が採用される可能性はあるのだろうか?主旨を踏まえれば国産前提だが、もし中国製が採用されるようなことがあれば、大きな批判が噴出するかもしれない。


海外製もありえるのか?同事業の中身に迫ってみた。

【参考】関連記事としては「日本政府、なんと公用車に「自動運転車」採用へ」も参照。

■SNSに寄せられた反応

  • スピード感を持って、ガンガンやって!
  • 日本らしからぬスピード感
  • やるならぜひ国産で
  • どこの何ていう自動運転車なのよ?
  • 反政府の恰好の的では?政府主導で自動運転推進は良いことだと思うけど。
  • えっ、政府自ら節約のために公用車を自転車にするのかと思ったら自動運転車だったww

など、取り組みを評価する声や純粋な疑問などが寄せられる一方……

  • んで国産は殆ど除外すんだろ?
  • 運転手がいる自動運転車、見ててご覧w一層の無駄だ。
  • 中国製かい?
  • 電動キックボードと同じく中華の匂い。
  • 中国製でしょうか?いいですね(* ̄▽ ̄)フフフッ♪走り出したら止まらないらしいですから・・・・・
  • いいんじゃね。まだ自動運転の技術は完全ではないので、そのまま棺桶になればいい。
  • 良いね!!中国製電気自動車だね!!

など、自動運転技術の未熟な部分を突いた声や、嫌中国勢の声なども集まっている。中国製EVやADAS車が炎上したり事故を起こしたりしていることを踏まえ、特定の政治家を名指ししてそのクルマに乗車することを希望する声も散見される。


万博で自動運転バスが接触事故を起こした際も「中国産」というデマが飛び交ったが、嫌中国勢は常にエサを求めている節がある。モラルもリテラシーもマナーもない世界だが、ある意味お決まりのパターンだ。

もしこれで本当に中国企業や中国製の車両が採用されることになれば、彼らの祭りはより盛大なものとなるのだろう。

■公用車自動運転事業の概要

スタートアップの育成支援が背景に

ここからが本題だ。では、今回の実証事業に外国製の車両や自動運転システムが採用される可能性はあるのだろうか。同事業の主旨や募集要領をじっくり見ていこう。

同事業は、経済産業省による令和7年度「無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業(自動運転車の公共調達の促進 )」で、5月22日から6月23日まで公募が行われた。経済産業省の国会定期便にスタートアップの技術を活用した自動運転の公用車を導入し、一定期間実証を行う内容だ。


▼令和7年度「無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業(自動運転車の公共調達の促進 )」に係る委託先の公募(企画競争)について
https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/2025/k250522001.html
▼企画競争募集要領
https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/2025/downloadfiles/k250522001_1.pdf

事業の背景には、国や自治体が率先して自動運転実証を行い、需要のけん引役となると同時に、スタートアップの育成を図る目的がある。

現在行われている自動運転実証の多くはバスタイプだが、既存公共交通の変革という観点からその導入は容易ではなく、実証は100カ所程度に留まる。継続的に運行しているものはさらに少ない。

そこに浮上したのが公用車だ。公用車の中には、本庁舎と支所を行き来するなど特定ルートを走行するものは相当数あり、乗員も基本的に自治体職員など関係者に絞られる。自動運転バスに比べれば、実証は容易と言える。

この公用車の自動運転化を仕掛けることで需要を創出し、成長株であるスタートアップら開発企業の受注機会を増加させる狙いだ。

気になる応募資格は……

こうした背景を踏まえると、国内の開発企業に限定して募集をかけて然るべきと言える……が、募集要領に目を向けると、何と言うか抜け道があるように感じる。

応募資格によると、事業対象となる申請者は次の条件を満たす法人とされている。

  • ①日本に拠点を有していること。
  • ②本事業を的確に遂行する組織、人員等を有していること。
  • ③本事業を円滑に遂行するために必要な経営基盤を有し、かつ、資金等について十分な管理能力を有していること。
  • ④予算決算及び会計令第70条及び第71条の規定に該当しないものであること。
  • ⑤経済産業省からの補助金交付等停止措置又は指名停止措置が講じられている者ではないこと。
  • ⑥過去3年以内に情報管理の不備を理由に経済産業省との契約を解除されている者ではないこと。
  • (※なお、コンソーシアム形式による申請も認めますが、その場合は幹事法人を決めていただくとともに、幹事法人が事業提案書を提出して下さい)

要領を見る限り、純日本企業である必要はないようだ。つまり、日本に拠点を有していれば外国企業も応募可能ということになる。日本企業とコンソーシアムを組んで参加することも可能なようだ。

中国の自動運転開発企業が日本に拠点を設け、日本企業と組んで応募するも良し、あるいは日本の開発企業が中国の自動車をベースに自動運転化し、応募するも良し……ということだ。SNSにはびこる嫌中国勢は狂喜乱舞するかもしれない。

先行する海外勢の日本進出はすでに始まっている

もちろん、普通に考えれば審査の過程で日本のスタートアップが抜擢される可能性は非常に高い。スタートアップ支援をうたうのであれば、それは当然国内スタートアップが対象となるべきだからだ。

とは言え、現実問題として海外開発勢と手を組み、国内で自動運転実証やサービス提供する例は少なくない。なぜならば、海外勢の方が技術的にもサービス的にも先行しているからだ。

国内における初期の自動運転バスは、仏Navya(現Navya Mobility)のARMAが多く採用されているのが好例だ。近年では、トヨタなどと手を組む米May Mobilityに加え、Waymoも日本交通グループと手を組み日本進出を果たしている。

海外勢にとって、法整備が整い道路交通秩序が保たれている日本市場は魅力的だ。日本勢にとっても、完成度の高い技術は有用なため、両者が結び付くのは必然とも言える。

中国関連では、PIX MovingがTISと手を組み、合弁企業のもと組立工場を国内に建設している。今のところ中国系自動運転開発企業の本格日本展開は行われていないが、技術力の高さはWaymoに引けを取らない水準だ。中国内事業で日本企業と手を組むケースは多く、状況次第で日本市場に進出してもおかしくはないだろう。

以下、国内企業をはじめとした有力候補をいくつか挙げていく。

■公用車自動運転事業の有力候補

実証常連のティアフォー、先進モビリティが有力か?

国内有力企業の筆頭はティアフォーだ。国内開発勢で唯一自動運転タクシー開発に本腰を入れており、自動運転バスにおいては長野県塩尻市で特定自動運行許可を取得するなど、実績・技術力ともに非の打ち所がない国内エース的存在だ。

今回の実証がどのような車両タイプを想定しているかは不明だが、おそらく自家用車ベース、もしくは小型シャトルタイプが採用されるものと思われるが、ティアフォーはさまざまな車両に対応できる。現状、事業の主旨と条件を満たす最有力候補と言っても間違いないだろう。

2番手として名前が上がるのは、先進モビリティだろうか。自動運転バスやトラックなど中型以上のモデルにおける自動運転実証が目立つが、大は小を兼ねる……と考えれば、小型シャトルの自動運転化も普通に行えるはずだ。ティアフォー同様実績は豊富なため、入札に参加すれば有力候補の一つになりそうだ。

【参考】ティアフォーの動向については「東京に自動運転タクシー!トヨタ車で11月事業化へ ティアフォー発表」も参照。

東京に自動運転タクシー!トヨタ車で11月事業化へ ティアフォー発表

Turingの可能性も?

完全自動運転EV開発を目指すTuringも急浮上するかもしれない。これまで自動運転サービス領域には足を踏み入れていなかったが、2025年4月にTRC東京流通センターを拠点とした「平和島自動運転協議会」への参画が発表されたほか、同月には経済産業省が公募する令和6年度補正「地域の移動課題解決に向けた自動運転サービス開発・実証支援事業」に採択されたことも発表されている。

同社が掲げる目標は自家用車の完全自動運転化だが、その過程でサービス領域に進出してもおかしくはない。2024年には配車サービスを手掛けるS.RIDEと自動運転AI開発に向けた学習用データ収集で協業を開始している。

実績は不足しているかもしれないが、技術開発力におけるポテンシャルは国内随一とも言える。S.RIDEあたりと手を組み、入札に参加すれば台風の目となるかもしれない。

このほか、近年は自動配送ロボットなどに注力しているZMPや、群馬大学、埼玉工業大学など大学系スタートアップ、WILLERと手を組むMobileyeの参加も考えられそうだ。

BOLDLYはどうする?

自動運転システム開発事業者ではないが、運行管理に特化したBOLDLYも気になる存在だ。Navya MobilityのARMAやAuve TechのMiCaとともに参加する可能性は否定できない。

マクニカ傘下となったNavya Mobilityはあくまでフランス企業だが、実質的に日本企業と言ってもおかしくはない。

実証経験豊富なBOLDLYが今さら国会定期便に手を挙げるか?……という気もするが、可能性はゼロではない。また、主役としてではなく、他の自動運転開発事業者と手を組んで参加する可能性は高そうだ。

海外勢ではMay MobilityやWaymoが有力?

海外勢の中では、May MobilityとWaymoが最有力候補に挙げられる。May Mobilityの創業者兼CEOを務めるエドウィン・オルソン氏はトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)出身で、その縁もあってか早くからトヨタやトヨタの米国投資部門Toyota Venturesから出資を受けている。

さらには、ブリヂストンや豊田通商、東京海上ホールディングス、NTTグループ、あいおいニッセイ同和損害保険からも出資を受け、ソフトバンクとも業務提携契約を締結している。

日本法人も設立済みで、トヨタやMONET Technologies、NTTなどと国内実証にも着手している。トヨタの北米仕様のミニバンをベースにした「シエナAutono-MaaS」を主力に自動運転シャトルサービスを展開している点も、今回の事業にベストマッチする。非国内スタートアップという点を除けば、最有力候補となり得る一社だ。

一方、Waymoは日本交通、GOと手を組んで日本に進出し、東京都内で自動運転タクシーサービス実用化を見据えた実証に着手した。

実績は言わずもがな世界最高峰であり、国会定期便は容易に実現できるものと思われる。ポイントは日本の道路交通ルールへの対応くらいだ。

大穴的存在はWayve?

大穴としては、英国スタートアップのWayveが面白い。2025年4月に試験開発センターを横浜に設立し、新たな国際展開を開始すると発表している。

2024年の資金調達シリーズCはソフトバンクグループが主導したほか、2025年5月にはS.RIDEと提携して運転データの収集を開始し、日本特有の交通環境に合わせた運転支援や自動運転用のAI開発を促進していくと発表している。

新勢力として同事業へ手を挙げれば、日本市場にまた新たな風が吹き込むこととなる。

中国勢の参加は?

自動運転開発分野では、米国以上に有力企業が続々と頭角を現している中国。今のところ日本市場進出を目論む有力勢はいないが、WeRideは日産、Pony.aiはトヨタ、AutoXはホンダといった感じで、日本企業とのパートナーシップも築いている。

WeRideやPony.aiなどはグローバル目線で事業展開を推し進めており、日本市場をターゲットに据えてもおかしくない。今回の事業には間に合わないだろうが、将来、日本進出を果たす日が訪れる可能性は十分考えられそうだ。

【参考】中国勢の動向については「自動運転、中国が「Googleより先」に第三国への展開急ぐ」も参照。

自動運転、中国が「Googleより先」に第三国への展開急ぐ

■【まとめ】日本を舞台に米国勢VS.中国勢となる・・・?

海外勢の参加の可能性にも触れたが、やはり主旨を踏まえれば国産開発勢が採用される可能性が高いものと思われる。ただ、その場合選択肢はそれほど多くない。各地で行われている実証事業とあまり変わらない中身となることも考えられるだろう。

なお、今回の事業とは別に、記事で触れた中国勢の日本進出が実現すれば、日本に世界の注目が集まる可能性が高い。ずばり、米国勢と中国勢の直接対決だ。

中国有力勢の多くはカリフォルニア州で実証を行っているが、サービス化には至っていない。米中国家間の問題が払しょくされない限り、容易に米国内でサービス化はできないだろう。今後いっそう厳しい規制が敷かれ、実証環境も悪化する可能性が高い。

つまり、Waymoを筆頭とする米国勢と中国勢は、未だ同じ舞台で競争していないのだ。しかし、ここにきてWaymoが日本進出を開始し、グローバル路線を歩み始めた。この日本に中国勢も進出すれば直接対決を実現する環境が整うこととなり、必然的に世界の注目が集まることになる。

その際、ティアフォーら日本企業も必死に食いついていかなければならない。存在感を示すことができなければ、国際的な地位・価値を失うことに繋がりかねないからだ。

海外勢の進出を糧に、日本企業の技術もどんどん磨かれていくことを望みたい。

【参考】関連記事としては「自動運転はいつ実用化される?レベル・モビリティ別に解説」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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