【最新版】海外の自動運転ルール・法律動向|米国・中国・イギリス・ドイツ・フランス

事故責任は誰が負う?運行供用者の定義は?



出典:Waymoプレスリリース

日本でも自動運転バスが実用化され、自動運転タクシー導入に向けた動きも活発化してきた。自動運転時代がいよいよ幕を開けつつあるが、法整備面ではまだ課題が残っている。

その一つが自動運転における自動車損害賠償保障法(自賠法)上の損害賠償責任の在り方だ。一定の方針は示されているものの、自動運転タクシーのように運行供用者に相当する存在があいまいとなるビジネスモデルには対応しきれていないのが現状だ。


米国や中国ではどのような扱いとなっているのか。国土交通省所管の検討会配布資料などを参考に、各国の法整備状況などとともに賠償責任の取り扱いについてまとめてみた。

▼海外における自動運転の法制化等に関する最新動向の調査(概要)|SOMPOリスクマネジメント株式会社|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001852968.pdf

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■アメリカ

公道走行ルールは各州が管轄、賠償責任も州法で規定

国土交通省所管の「ロボットタクシー導入等に向けた自動運転における自賠法上の損害賠償責任に関する検討会」では、SOMPOリスクマネジメントなどが調査・作製した資料「海外における自動運転の法制化等に関する最新動向の調査」が配布された。同資料には、米国、中国、英国、ドイツ、フランス各国の法整備状況がまとめられている。

米国では、自動運転に関連する法規は基本的に各州が管轄しており、自動運転車の実証や公道走行ルール、付保規制などは州ごとに異なる。


連邦政府の関わりとしては、運輸省(USDOT)が開発企業に対する安全ガイドラインを発行しているほか、運輸省道路交通安全局(NHTSA)が車両の保安基準「FMVSS」の管轄や、事故情報の収集・分析を行っている。自動運転車両や機器の欠陥に対するリコール実施可否の判断もNHTSAの役割だ。また、これとは別に国家運輸安全委員会(NTSB)も各州と協力して個別の事故調査を行っている。

賠償責任関連では、担保種目や最低保険金額は異なるものの、各州法で自動車の所有者に対する強制保険が定められている。自動運転サービスで先行する カリフォルニア州とアリゾナ州では、これに加え州内で自動運転サービスを運営する事業者に対し保険加入や自家保険などによる賠償資力の確保とその証明を求めているという。

自動運転自動車の欠陥に起因する損害に関する法制度は、州法による製造物責任法に基づき、自動車OEMやサプライヤーらが製品の欠陥に対し責任を負う。

求償に関連した事故時のデータ取得・範囲に関する法制度に関しては、民事事件におけるOEMなどへの(代位)求償に向けた枠組みの検討などは特に行われておらず、現地調査の限りにおいて訴訟に依存するだろうと見立てている。


なお、カリフォルニア州では人損・物損、単独・複数の種別を問わず、すべての事故の州運輸局への報告義務がある。アリゾナ州では、事故に限らず走行時のトラブルについても州当局への報告と州当局との定期ヒアリングを重視しているとしている。

行政機関や自動車メーカーの自動運転の実用化に向けた取み組みとしては、カリフォルニア州を筆頭に、世界中から自動運転開発企業が走行ライセンスを求めて集まっており、産業振興策で緩やかな規制を設けるアリゾナ州やテキサス州でも実装に向けた動きが進展している。

出典:国土交通省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

トランプ氏は自動運転施策に意欲的?

州の権限が強い米国だが、連邦政府として新たな動きが出る可能性も高い。過去、連邦法策定の動きが幾度とあったものの上院・下院で合意に至らず頓挫していたが、次期大統領のトランプ氏は自動運転関連の規制緩和や統一ルール策定に意欲的という。

連邦政府によるガイドライン策定など、一定の統一ルール制定を目指す可能性について報じられているほか、NHTSAによる事故データの報告義務の撤廃なども検討しているという。

トランプ氏を支持するイーロン・マスク氏の影響もささやかれており、これが吉と出るかは不明だが各種施策が実行される可能性が高そうだ。

▼海外調査の経過報告(米国関係)|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001851333.pdf

【参考】米国の政策動向については「トランプ氏、自動運転車の「規制緩和」示唆 テスラに恩返しか」も参照。


■中国

政府が2023年に最新のガイドラインを発表

中国では、政府が示したガイドラインに基づき、北京や上海といった各市が自動運転車の公道走行ルールを制定している。交通運輸部が2023年12月に発表した「自動運転車両等輸送安全サービスガイドライン(試行版)」では、自動運転サービスの応用シナリオや対象となる交通事業者、輸送車両、人員配置、安全な生産体制や輸送の安全性の保証、緊急時の対応、情報のフィードバックなどに関する指針が示されている。

賠償責任関連では、民法典や道路交通安全法などが適用される。2021年に道路交通安全法において自動運転車の試験やナンバープレート取得、運転の引継ぎ、責任等について規定する修正案のパブリックコメントが行われたが未改正のままで、現状はレベル2の運転支援を想定したものとなっている。

一方、ガイドラインでは、強制自動車交通事故賠償責任保険の限度額18万元(385万円)を上回る500万元(1億500万円)以上の賠償責任保険の加入が義務付けられているという。

自動運転車の欠陥に起因する損害に関する法制度については、自動運転車特有の規律はなく、民法典や製品品質法などが適用される。

求償に関連した事故時のデータ取得・範囲に関する法制度関連では、ガイドラインや条例などにおいて、運行状況に関わる詳細情報の記録、保存、運輸当局への報告などが定められている。

また、保険業協会が自動車事故に関するデータを収集しているが、現状、求償に関連した自動運転車のデータの取得・範囲などに関する仕組みはない。

行政機関や自動車メーカーによる自動運転実用化に向けた取り組みとしては、民間による自動運転車の開発・試行実装が著しく進展しており、中央政府・地方政府はパイロットゾーンの設置やライセンスの発行、規制や基準の策定などを進めている。

出典:国土交通省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

【参考】中国における取り組みについては「中国、「東京都の1.5倍の広さ」を自動運転モデル地区に!範囲を大幅拡大」も参照。

■英国

自動運転車両法2024が成立

英国では、2018年に自動運転及び電気自動車法(AEVA2018)が可決され、2021年発効された。自動運転車が事故を起こした際、保険会社が損失を被った人に対して直接責任を負うことなどを規定したものだ。

2024年には、自動運転車両法2024(AVA2024)の法案が国王裁可を受け、成立した。7章100項目に渡る内容で、自動運転の許認可やオペレーターライセンススキームを確立する権限、制機関による情報提供、違反行為、安全情報に関する犯罪、車両の安全性に関連する虚偽の情報または隠蔽された情報、死亡または重傷を負う加重犯罪、一般監視義務、検査官による事件の調査、タクシー・ハイヤーやバス類似サービスの同意要件――など多岐に及ぶ。

賠償責任関連では、自動運転車両が保険に加入しており、被保険者などが事故で損害を被った場合、保険会社は損害に対し責任を負う点や、車両の所有者が損害に対して責任を負う点、 保険会社または所有者は、車両の運転開始を許可した人の過失に起因する場合は責任を負わない点などがAEVA2018で規定されている。

求償関連では、事故が発生した場合、検査官はその原因を特定する目的で調査を実施することができる点や、自動運転の許可条件に情報の収集・共有に関する条件を含めることができる点などがAVA2024に盛り込まれている。

AVA2024は、自動運転車両の公道走行に関する認可の枠組みや安全基準、認証プロセスの考え方などを規定しており、2026年のサービス実用化に向け3万8,000人以上の新規雇用、420億ポンド規模の産業への後押しと期待されているという。

出典:国土交通省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

■ドイツ

2021年に自動運転法改正

ドイツでは、2017年の道路交通法(StVG)改正により、レベル3走行に関する規制をはじめ強制保険(自動車保険の対人・対物賠償)の最低保険金額や自動運転車の保有者に対する付保義務などが規定された。

2021年には、世界に先駆けてレベル4の交通・物流サービスを想定した改正を行っている。自動運転機能を備えた車両に課す技術要件や、所有者や技術監督、開発メーカーに課す義務なども規定された。

賠償関連では、強制保険最低保険金額や自動運転車の保有者に対する付保義務などが規定されているほか、遠隔監視を担う技術監督者に対する車両保有者の付保義務も導入されている。

自動運転自動車の欠陥に起因する損害に関しては、製造物責任法に基づき自動車OEMやサプライヤーなどがその責任を負う。

求償関連では、車両識別番号や位置情報、速度、縦・横方向の加速度、環境・気象条件・自動運転システムのON・OFF回数と時刻、外部から適用されたデータなど保存すべきデータ項目が細かく規定されている。

事故時のPL追及は、保険契約法に基づき強制保険の保険会社が被保険者・被害者に保険金を支払った後、代位求償として行われるのが一般的としている。

出典:国土交通省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

【参考】ドイツの自動運転法については「ドイツの「自動運転法」解説」も参照。

■フランス

今のところ民法の特別法で対応

フランスでは、2022年施行の輸送法の改正により国の承認のもとレベル3走行が可能になった。レベル4に関しては、EasyMileが2021年11月までに同国内でレベル4走行の許可を得たと発表している。正式な法律は制定されていないものの、個別の認可で対応しているのかもしれない。

賠償責任関連では、民法の特別法「交通事故被害者の状況の改善と補償手続きの迅速化を目的とした法律(通称バダンテール法)」が存在する。不可抗力による事故でも責任を免れないという無過失責任を自動車の運転者と保有者に負わせ、自動車保険の対人・対物賠償責任保険への加入を義務づけている(強制保険)。

自動運転自動車の欠陥に起因する損害に関しては、民法に規定された製造物責任により、OEMなどが法律上の責任を負う。ただし、慣習として過失割合が0:100、50:50、100:0しか存在しないため、厳密な事故原因の調査や責任の所在を追求する文化が無く、OEMなどへの求償が行われる可能性は低いという。

求償関連では、では、次世代モビリティ全般の戦略を規定したモビリティ指針法(LOM)で、自動運転車による事故時にデータにアクセスできる事業者とその目的が規定されている。強制保険の保険会社と強制保険補償基金は、補償内容を確定させる目的に限り人・システムへの運転委任状況を示すデータにアクセスできる。

出典:国土交通省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

■日本における法整備の状況と課題

道路交通法はレベル4に対応

日本においては、2023年施行の改正道路交通法によって、レベル4による運行が「特定自動運行」と定義された。ドライバーなしの状態で運行し、万が一の際などに手動介入することなく自動で安全に停止可能なレベル4による運行を「特定自動運行」とし、従来の運転に該当しないものと位置付けられた。

この改正により、開発事業者らは都道府県公安委員会から特定自動運行の許可を得ることでレベル4走行が可能になった。すでに複数件の許可が下りている。

賠償責任などについても一定の見解が示されていたが、自動運転による新たなビジネスモデルを考慮した際、運行供用者責任についてはあいまいな点が残されたままとなっていた。

運行供用者に関する整理が必要に

自賠法では、運行供用者責任に関して「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる」と定められている。

自動車の運行に対する支配(運行支配)や、運行による利益(運行利益)の帰属によって判断されるものとしており、例えば、業務中のドライバーなど他人のために自動車を運転する者は運行供用者ではなく、この場合は雇用主などが運行供用者となる。

そして、運行供用者は以下の3要件を立証しなければ責任を負うこととされている。いわゆる免責要件だ。

  • ①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
  • ②被害者または運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと
  • ③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

自動運転のケースにおいては、これまでの審議において、自動車の所有者や自動車運送事業者らに運行支配及び運行利益を認めることができ、運行供用に係る責任は変わらないこと、また、迅速な被害者救済のため運行供用者に責任を負担させる現在の制度の有効性は高いことなどの理由から、従来の運行供用者責任を維持しながら保険会社による自動車メーカーなどに対する求償権行使の実効性確保のための仕組みを検討することが適当――とされていた。

しかし、自動運転タクシーのように、タクシー事業者またはメーカーなど複数の主体が実施するものについては、旅客運送事業者と特定自動運行実施者の間における運行供用者責任についてあいまいな面が残るため、整理が必要となった。

従来の旅客運送事業における運行供用者たり得るものとしては、①自動車の保有者②旅客運送事業者――が考えられるが、新たなビジネスモデルにおいて誰が運行供用者となるのか。また、運行管理業務の委託の程度は運行供用者責任の所在に影響するのかなどが論点に浮上した。

また、免責要件における「注意を怠らなかったこと」や「自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと」の解釈においても、新たなビジネスモデルにおける運行供用者の注意義務にはどのようなものが含まれるか、自動運転車の不具合による事故において、構造上の欠陥や機能の障害がないとするのは具体的にどのような場合かなども、今後の論点とされている。

【参考】自動運転の事故責任については「自動運転の事故責任、誰が負う?」も参照。

自動運転の事故責任、誰が負う?(2024年最新版)

■【まとめ】AIや遠隔オペレーターの存在や能力をどのように定義するのか

自動運転においては、過失割合の算定も難しい面があるかもしれない。注意義務など過失に相当する部分が、AIの設計や精度に依存するためだ。基本的に安全運転を前提に設計されていても、システムの誤認などミスを100%排除できるものではない。こうした面も具体化した議論が必要になるものと思われる。

人間のドライバーがAIに置き換わり、代わって遠隔などから運行管理を担うオペレーターが配置される自動運転。責任の所在をどのように仕分けていくのか、議論の行方に注目したい。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転関連の法律・ガイドライン一覧」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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