テスラはオオカミ少年?真の「自動運転」実現なら覇者返り咲きか

2023年Q4のBEV販売で首位陥落



テスラのイーロン・マスクCEO=出典:Flickr / Public Domain

2023年第4四半期におけるBEV(バッテリー式電気自動車)販売で、米テスラがついに首位から陥落した。代わってトップに立ったのは中国BYD(比亜迪)だ。

年間販売数ではテスラに軍配が上がったものの、2024年は年間販売数でも逆転される可能性が出てきた。販売を急ぐテスラの利益率は下がり、投資家からの冷たい視線を象徴するかのように同社の株価は急落した。


世界的なBEV開発熱の高まりにより、中国勢を筆頭にテスラを猛追するメーカーが多数出てきた。BEV界の覇者として長らく君臨していたテスラだが、パイオニアとしての特権が失われる時期が近づいているのかもしれない。

凋落を免れるためには、新たな武器を身に着けるしかない。そのカギを握るのは、イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)がたびたび言及する自動運転技術だ。過去に何度も実現時期について発言したがいずれも実現しておらず、「オオカミ少年」と揶揄されることもある状況だが、BEVに次いで、今度は自動運転の覇者となることで時代の先駆者としての地位を再構築することができる。

テスラとBEVを取り巻く状況とともに、同社の自動運転に関する取り組みをおさらいしていこう。

■BEV販売の状況
世界販売に占めるPHEVとBEVの割合は15~20%に

国際エネルギー機関(IEA)によると、PHEVを含むBEVの世界販売台数は2022年に初めて1,000万台を突破し、2023年は35%増の1,400万台に達すると予測している。2023年の世界自動車販売総数は8,100万台ほどとみられ、約17%がPHEV・BEVとなる計算だ。


日本自動車販売協会連合会の統計データによると、日本では2023年に乗用車265万1,397台が販売され、このうちPHEVが約2%の5万2,281台、BEVは同1.6%の4万2,609台を占めている。両者合わせて約3.6%の状況で、先行する欧州や中国などと比べ普及が遅れている。伸び率は鈍化しそうだが、BEVの普及は今後も続くことが予想される。

テスラをBYDが猛追

メーカー別販売台数では、テスラ、BYD、フォルクスワーゲングループ、SAIC(上海汽車集団)、Geely(浙江吉利控股集団)、GAC(広州汽車集団)が上位だ。テスラは2023年、180万8,581台のBEVを販売し、首位を守った。

2位のBYDはBEV157万4,822台、PHEV143万8,084台の計約302万台を販売した。年間のBEV販売台数ではテスラに一歩及ばなかったが、第3四半期はテスラと並び、第4四半期はテスラを上回るなど勢いがある。2024年は年間を通じてテスラの牙城を崩す可能性が考えられる。

また、メーカー別の総自動車販売台数でもBYDはトップ10前後まで上がってくるものと思われる。


迫るBYDにつられてテスラも利益利が低下?

BYDの躍進の背景には、膨大な中国市場と低価格モデルの存在がある。中国における自動車市場は世界随一に成長しており、伸びしろも大きい。BYDは日本法人を立ち上げるなど積極的に世界展開を図っているが、まだまだ実績の大半は中国市場だ。また、低価格帯を含むモデル数が多く、販売台数を稼ぎやすいのもポイントだ。一方、営業利益率はテスラに及ばないのが現状だ。

テスラは、BYDと比べると価格帯が高めで販売台数を伸ばしにくいものの、高い営業利益率を誇っていた。しかし、近年は販売価格の値下げを続けており、それに伴って利益率も低下傾向にある。

テスラは中国市場では2024年1月までの約1年半の間に5回値下げしている。中国メーカーの相次ぐ台頭に苦戦を強いられる形で、少し前までの「BEVといえばテスラ」といったブランド力は失われつつあるようだ。

かつては好待遇で中国にギガファクトリーを建設し、製造・販売網を大きく拡大したテスラだが、同国メーカーの技術向上とともにアドバンテージを失いつつある。既存自動車メーカーもBEV開発に本腰を入れ始めており、こうした図式は今後各地に広がることも予想される。

いち早くBEVに着目し、先進テクノロジーを搭載した未来志向のクルマ作りで一斉風靡したテスラだが、そのブランド力を維持するには常に先頭を走り続けるしかない。次なる一手が必要なのだ。

販売・売上高は右肩上がりも利益が低下

次に、テスラの業績を見ていこう。テスラは2023年の1年間で、納車台数は前年比38%増の181万台、生産台数は前年比35%増の185万台を記録した。

売上高は前年比18.8%増の967億ドル(約14.5兆円)と増収を確保したものの、営業利益は同34.9%減の88億9,100万ドル(約1.3兆円)に落ち込み、営業利益率も前年の16.8%から9.2%へ低下した。

納車台数こそ当初目標を何とか達成したもののアナリストの目線は厳しく、通期販売台数が発表された1月2日から同社の株価は下がり始めた。

2023年の終値248.48ドルから決算報告が発表された2024年1月24日には207.83ドルまで落ち込んでおり、発表翌日には182.63ドルまで急落した。その後やや回復したものの、この1カ月だけで2割強も値を下げたのだ。

2月13日時点の株価は193ドル で、時価総額は約6,000億ドル(約90兆円)となっている。もともとテスラ株はボラティリティ(価格変動)が大きいため、ちょっとしたニュースをきっかけに今後も激しく上下動を繰り返すものと思われるが、すでに新鮮味を失っているだけに、今後は堅調な業績とともにさらなる進化が求められることになりそうだ。

■テスラの自動運転開発
先進テクノロジー開発に貪欲なテスラ

BEV一択の戦略でマーケットを切り開いてきた功績は非常に大きいが、「BEVメーカー」そのものの新鮮味はすでに失われてしまった。テスラがこれまで築き上げてきた価値をさらに高めるには、新たな武器が必要不可欠となる。そこで改めて注目すべきなのが自動運転技術だ。

テスラはこれまで、先進テクノロジーの早期搭載を貪欲に試みてきた。その1つが自動運転技術でもある。

マスク氏は早い段階で自動運転技術の実装を計画し、その技術に耐えうるセンサーなどハード類の標準装備化を進めてきた。ソフトウェアの更新を重ねることで徐々に機能を向上し、自動運転を実現する手法だ。

その過程において、他社に先駆けてOTA(Over the Air)アップデートをスタンダード化させたのもポイントだ。無線通信によるソフトウェアのアップデートはいわゆるコネクテッド機能であり、テスラはCASEのうち早期にS(サービス・シェア)以外の「CAE」実現に動き出したと言える。

【参考】OTAについては「Over The Air(OTA)技術とは?」も参照。

現状の技術はADAS止まりだが…

その着眼点は称賛に値するが、中身が追いついていないのが課題だ。現在同社のスタンダードなADAS(先進運転支援システム)として浸透している「Autopliot(オートパイロット)」は2014年に発表され、翌年に実装を本格化させた。

当初は、このオートパイロットのアップデートによって自動運転を実現する方針だったが、後にリリースした「Full Self Driving(FSD/フルセルフドライビング)」にその座を譲った形だ。

AutopliotもFSDも現時点ではレベル2相当のADASにとどまるが、明確に将来の自動運転化をうたった有料オプションとして注目を集めている。

現在提供されているのはFSDベータ版で、バージョン12まで更新されている。マスク氏はv12リリースに際して、ベータ版ではなくなる旨発言していた。実際にはベータ版のままとなったが、一定の水準に達した手ごたえを感じている様子だ。

マスク氏は、毎年のように「今年中に自動運転を実現する」と語っているが、第1段階としてそろそろレベル3の実装にたどり着いてもおかしくはない。リップサービス・ビッグマウスが事実となる日は近づいているのかもしれない。

オーナーカーから収集するデータで開発を加速

テスラの自動運転開発のポイントとして、オーナーカーに搭載されたADAS用カメラから効果的に画像データなどを収集し、開発促進に役立てている点も挙げられる。

自動運転向けのAI(人工知能)開発においては、膨大な画像データが欠かせない。画像に映し出されたオブジェクトが何かを識別・認知するコンピュータービジョンにおける能力や、その識別したオブジェクトの動向予測、それに対する自車両制御の判断など、自動運転の目や脳を鍛えるのに必要不可欠だ。

全ての車両が対象ではないが、テスラオーナーの一定数が収集に協力することで、数万、数十万台のフリートを構築することが可能になる。Waymoなどの自動運転開発スタートアップでは現状不可能な数で、自動車メーカーならではの取り組みと言える。

なおテスラは2022年末、FSD購入台数が28万5,000台に達したと発表している。FSDを利用可能なエリアは広がっており、この1年でその数はさらに大きく伸びているものと思われる。

あくまでレベル5を目標とするマスク氏だが、その過程においてレベル3、レベル4を経ることは方針に反しないものと思われる。アップデートによって機能を向上させていく上でも過程は重要だ。

ただ、レベル3はすでに他社が実現済みのため追随する形になる。これを嫌がり、高速道路や幹線道路などにおけるレベル4を第1フェーズとすることなども考えられる。

どの水準の自動運転技術で実装を開始するか……といった点が目下の話題となる。その水準が実装時期を左右するため、マスク氏の発言には引き続き注目していきたい。

AIチップも内製化し、独自の自動運転システムを構築

テスラは基本的にカメラ8台によるセンサースイートで自動運転を実現する計画で、限定条件のない自動運転レベル5を想定している。

自動運転向けハードウェアの搭載は2014年に開始し、当初はモービルアイが開発パートナーとして携わっていたが、後に関係が悪化し離れた。また、自動運転の脳となるSoCにはNVIDIA製品が使われていたが、こちらも自社開発を進め、現在はテスラ製品を使用している。

ギガファクトリーで効率的な生産体制を構築

生産関連では、カルフォルニア州フリーモントの工場をはじめ、パナソニックとの協業のもとネバダ州に建設した大規模工場ギガファクトリーが効率的な生産を担い、利益率を高めている。

ギガファクトリーは現在北米3カ所、中国の上海、ドイツのブランデンブルク州の計5カ所が稼働しており、メキシコでも建設計画が進められている。垂直統合型・内製化で効率を高め、高収益を上げる1つの好例と言える。

自家用自動運転車に付加価値

マスク氏は2019年、自社技術説明会の中でロボタクシー構想を発表した。自動運転機能を搭載したテスラのオーナーカーでタクシーサービスを展開するアイデアだ。

マイカーの利用時間は思いのほか少ない。独立行政法人製品評価技術基盤機構化学物質管理センターが2016年に調査した結果によると、ドライバーの8割強が1日あたりの運転時間が2時間以下となっている。残りの時間は、自宅や出先などで駐車されているのだ。

日本と米国では多少勝手が異なるかもしれないが、こうしたマイカーの空き時間を活用し、テスラの配車プラットフォーム「テスラネットワーク(仮)」上でロボタクシーサービスを提供することで、オーナーにもテスラにもお金が入っているアイデアだ。

おそらく、マスク氏の頭の中ではこういったアイデアがいくつも生まれているのではないだろうか。自家用自動運転車における付加価値の面でも期待したいところだ。

名称を巡る問題も解決?

自動運転が実現すれば、テスラが抱える「名称」をめぐる争いもある程度解決するかもしれない。「Autopliot」や「Full Self-Driving(FSD)」といった名称は自動運転を想起させ、ドライバーの誤解を招く恐れがあるとして、米運輸省や各州の道路管理局などが懸念を強めている。

カリフォルニア州では、このような誤認を誘発する名称やマーケティングを避けるよう求める新法が可決・施行されるなど、規制当局の動きも具体化し始めている。

州当局からの是正措置に対し、テスラは「過去の調査において当局は(ネーミングを)暗黙していた」と主張しているようだ。

「Full Self-Driving=完全自動運転」は懸念が残りそうだが、一定水準の自動運転機能を実現できればこうした問題も徐々に解消されていく。有言実行あるのみだ。

【参考】ネーミング問題については「名称に「待った」!テスラの「完全自動運転」オプション」も参照。

■【まとめ】自動運転実現で価値が爆上がり?

Waymoなどの商用自動運転開発企業などと比べると、テスラの自動運転技術は見劣りするイメージが強いが、テスラはあくまで自家用車におけるレベル5を意識した自動運転開発を進めており、単純比較はできない。特定エリアに集中して自動運転を実用するスタンスではないからだ。

ただ、BEV界におけるアドバンテージを失いつつある中、そろそろ自動運転実用化のめどを立てなければ、こちらでもモービルアイや中国勢に先を越されかねない。もし実現できれば、同社の価値が爆上がりする可能性を秘めている。テスラ×自動運転のインパクトは投資家に響きやすいためだ。

自動運転の覇者への道はすでに始まっているが、冠を手にする日は訪れるのか。2024年中に大きな動きは出るのか。テスラの動向に引き続き注目したい。

【参考】関連記事としては「世界の自動運転ニュース、「テスラ」が総なめ状態!」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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