自動運転ユニコーン、時価総額トップ10は!?

デカコーン4社もランクイン 日本勢は…?

B!
出典:CBインサイツ・公式サイト

米調査会社CBインサイツがこのほど、2020年2月時点におけるユニコーン企業のランキングリストを公開した。ユニコーンは創業してからの年数が概ね10年以内で、企業評価額が10億ドル以上の未上場企業を指す。

企業評価額(企業価値)は、企業が有する技術や資産などを表す現実的な指標となる。特にスタートアップにとっては、独自技術に対する期待の高さを表した指標とも言えるだろう。

今回は、このリストのこの中から自動運転領域や新モビリティ領域などで活躍する企業トップ10を紹介しよう。企業名に続く数字は企業評価額、順位はランキング全体におけるものとしている。

■Didi Chuxing:560億ドル(約6兆円/2位)

中国の配車サービス(ライドシェア)大手Didi Chuxing(滴滴出行)がユニコーン企業全体の2位につけ、自動運転関連では断トツの1位となった。投資家にはソフトバンクグループや米アップル、中国アリババグループなどが名を連ねている。

2012年に「Xiaoju Technology(小桔科技)」として立ち上がり、2015年から現在の社名となった。2016年に1日の乗車回数1000万回を突破するなどシェアを拡大し続けており、現在は中国をはじめ日本やオーストラリア、南米を中心に1000都市以上でサービスを展開している。

配車サービスプラットフォームのエリア拡大とともに自動運転開発も進めており、2019年8月に開発部門を分社化してDiDi Autonomous Drivingを設立した。これまでに北京、上海、蘇州、米カリフォルニア州で公道試験ライセンスを取得しており、各地で実証を進めるほか、上海ではロボタクシーの実用実証を計画しているようだ。

ライバルの米Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)が2019年に一足早く株式上場を果たしているが、DiDiも数年前から上場のうわさが絶えない一社だ。ロボタクシーの開発状況とともに、どのタイミングで正式に上場を発表するかも今後の大きな焦点となっている。

■Epic Games:150億ドル(約1兆6100億円/8位)

ゲーム開発企業の米Epic Gamesも、同社が開発したゲームエンジン「Unreal Engine」を武器に自動運転領域への進出を図っている一社だ。

創業は1991年と古いものの非上場で、2012年に中国テンセントの傘下に収まっている。Unreal Engineは1998年に初めて実装されて以来改良を重ね、現在はバージョン4が公開されている。

こうしたゲーム環境は自動運転のシミュレーションに役立てることが可能で、ゲーム業界のカンファレンス「CEDEC 2019」で、デンソーがADAS開発などにUnreal Engine4を活用していることを明かしているほか、システム開発などを手掛けるOTSLもUnreal Engine4を用いた自動運転向けセンサーのシミュレーター「COSMOsim Framework」を開発している。

Epic Gamesもゲーム以外の活用例に建築業や自動車業などを挙げており、デジタルショールームなど販売・マーケティングツールをはじめ、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)のテストなどに活用可能としている。

バーチャルな環境を構築しやすいこの手のエンジンは、拡張性次第で自動運転シミュレーターやディスプレイ搭載エンジンとして新たな躍進を遂げる可能性がありそうだ。

■Grab:143億ドル(約1兆5400億円/10位)

東南アジアを拠点に配車サービス(ライドシェア)を展開するGrab(グラブ)が全体の10位につけた。2012年の創業以来順調にエリアを広げ、現在は東南アジア8カ国で配車サービスなどを展開している。

2014年にソフトバンクから2億5000万ドルの出資を受けたほか、2015年にはDiDiなどから3億5000万ドルの資金を調達。2016年には、改めてソフトバンクやホンダからも出資を受けている。

2017年には、トヨタ自動車などと東南アジア地域における配車サービス領域で協業を発表しており、Grabのドライバー向けにテレマティクス保険や金融サービスなどをトヨタが提供するほか、データ連動したトヨタディーラーの保守メンテナンスなど、各種コネクテッドサービスの提供を視野に通信型ドライブレコーダーを搭載し、車両データの収集・分析を開始している。

2018年6月には、MaaS(Mobility as a Service)領域の協業深化に合意し、関係強化のためトヨタがGrabに10億ドル出資することを発表している。

2020年2月には、三菱UFJフィナンシャル・グループやTISを含む日本の投資家から8億5000万ドル(約920億ドル)の出資を受けたと発表した。近々の発表のため今回のCBインサイツのランキングには加算されておらず、まだまだ上位に上り詰める可能性がありそうだ。

■Gojek:100億ドル(約1兆800億円/19位)

インドネシアのバイク乗り場コールセンターとして2010年に産声を上げたGojek(ゴジェック)。二輪車を活用したバイクタクシー「Ojek(オジェック)」など提供サービスを徐々に増やし、配車サービスを中心に食事の配達やマッサージ、決済サービス、ロイヤリティプログラムに至るまで20を超えるサービスを備えたマルチサービスプラットフォームを展開しているようだ。

2018年以降、インドネシア外への進出も強めており、現在ベトナムやタイ、シンガポールでもサービスを提供している。

■SenseTime:75億ドル(約8080億円/30位)

画像解析技術の開発を手掛ける香港のSenseTime (センスタイム)も順調に資金を集めているようだ。2014年の設立後、自撮りアプリ「SNOW」の大ヒットなどで一躍名を挙げた。

ディープラーニングを応用したAI顔認識技術に定評があり、2016年の日本法人設立後、2017年10月からホンダと自動運転アルゴリズムの共同研究を進めるほか、茨城県常総市に旧自動車教習所を改修したテストコース「AI・自動運転パーク」を造成するなど、自動運転領域に本格参戦している。

2019年9月には、商船三井と共同開発した船舶画像認識・記録システムの実証実験を開始するなど、技術を応用した多角的展開を推し進めている。

オートモーティブワールド2020では、カメラレイアウト性の高いドライバーモニターシステム(DMS)や顔認証技術を生かした車両ドアアクセスシステム「Face Entry」、姿勢推定・認識技術を活用したハンドジェスチャーで車両を操作するソリューション「Action Interface」などの展示を行ったようだ。

【参考】SenseTimeについては「自動運転領域で鍛えたSenseTimeのAI画像認識、船の見張りで応用」も参照。

■Argo AI:70億ドル(約7600億円/34位)

2016年に設立されたArgo AI(アルゴAI)は、設立からわずか数か月後の2017年2月に米フォードから5年間で総額10億ドル(約1130億円)の出資が発表されるなど、異例とも言える待遇で自動運転業界に名を届かせた。

創業者でCEOを務めるBryan Salesky氏は、カーネギーメロン大学の国立ロボット工学センターに在籍中、DARPAアーバンチャレンジで優勝したチームでソフトウェアエンジニアリングを率いており、その後は米グーグルで自動運転の開発に携わっていた。こうした実績が高く評価されているのかもしれない。

2019年には、カーネギーメロン大学と提携して自律走行車研究センターを設立したほか、フォードと手を組む独フォルクスワーゲンAGから10億ドル(約1130億円)の資金提供と、フォルクスワーゲングループのAutonomous Intelligent Driving(AID)社をアルゴAIのヨーロッパ開発拠点としても機能するよう、AIDに新たに16億ドル(約1700億円)が出資された。

今後、Argo AIの技術を仲立ちとしてフォード・フォルクスワーゲンと手を組む自動車メーカーが登場する可能性などもありそうだ。

■Ola Cabs:63億ドル(約6800億円/41位)

インドの配車サービス(ライドシェア)大手Ola(オラ)が自動運転領域で7位につけた。運営会社の正式名称はANI Technologies で、2010年にBhavish Aggarwal氏とAnkit Bhati氏によって設立された。

当初は3輪タクシーの配車のみを取り扱っていたが自動車にも事業を拡大し、相乗りサービスやカーシェアサービス、レンタカーなど事業の多角化を進めている。現在、インドのほかオーストラリア、ニュージーランド、イギリスの250以上の都市でサービスを提供している。

2014年の資金調達Dラウンドでソフトバンクグループから2億ドル超(約220億円)を調達し、2015年に車両調達のため日産と提携を結んでいる。2017年にはソフトバンクから3億3000万ドル(約360億円)、またソフトバンク・テンセントから20億ドル(約2150億ドル)を調達したほか、スズキ自動車とも提携を結ぶなど、日本企業との馴染みも深いようだ。

■XPeng Motors:36億ドル(約3900億ドル/73位)

中国の新興EVメーカーのXPeng(XMotors.ai/小鵬汽車)は4000億円弱を集め、米テスラをはじめとしたEV市場での躍進を狙う。

アリババやシャオミ、台湾のフォックスコンなどが出資しており、2018年にSUVモデル「G3」を発表したほか、スポーツモデルの「P7」なども発表している。米シリコンバレーに拠点を設け、自動運転開発も進めているようで、市販車ベースの自動運転開発の動向に注目したい。

■Zoox:32億ドル(約3450億円/87位)

自動運転EVタクシーを2020年ごろまでに開発することを目標に掲げる有力スタートアップの米Zoox(ズークス)がランクインしている。

2014年創業で、2018年8月にCEOが電撃解任され大きな話題となったが、同年12月にはカリフォルニア州で自動運転車両を利用した客輸送サービス試験の許可が下り、当初の計画通り2020年の商用サービス実施を目指している。

サンフランシスコを中心に公道実証を進めてきたが、2019年初頭にネバダ州自動車局から自動運転車の公道走行許可を取得しており、2019年10月に自動運転サービスのターゲット市場としてラスベガスを挙げ、マッピングなど実証を進めているようだ。

■Horizon Robotics:30億ドル(約3230億円/99位)

AIソリューション開発などを手掛ける中国のHorizon Robotics(ホライゾン・ロボティクス)は、2019年2月の資金調達Bラウンドで6億ドル(約650億円)を調達した。パートナーに独アウディやボッシュなどが名を連ねており、自動車業界からの視線も熱いようだ。

2019年7月には、コネクテッドカー通信ソリューションのプロバイダーである中国のGosuncnテクノロジーグループとの戦略的提携も発表されており、自動運転技術をはじめドライバーモニタリングシステムなど各分野でAI技術を活用した製品化やマーケティングを進めていく方針だ。

■その他:自動運転業界と近いスタートアップも大勢ランクイン

上記10社のほか、自動運転関連業界と近しい位置にいるスタートアップも大勢ランクインしている。

オンデマンドフードデリバリー事業を手掛ける米DoorDash(126億ドル/11位)は、米GM系クルーズと提携し、自動運転車を活用した配達サービスの実現を目指している。

拡張現実(AR)技術開発などを手掛ける米Magic Leap(63億ドル/39位)も、将来的に車内で機能するVRやAR技術開発などに関わってくる可能性が高い一社だ。

中国でロボット開発を手掛けるUBTECH Robotics(50億ドル/54位)は、キャタピラーを搭載しさまざまな地形に対応した車両型のパトロールロボット「ATRIS」の実用実証を進めている。今後、配送ロボットやパーソナルモビリティなどの分野に進出する可能性もありそうだ。

このほか、EV開発を手掛ける米Rivian(35億ドル/78位)や中国のYouxia Motors(33億ドル/80位)、トラックドライバーと荷主をマッチングさせるプラットフォームサービスを手掛ける中国のManbang Group(60億ドル/43位)、サイクルシェアを手掛ける中国のHello TransTech(50億ドル/58位)などもランクインしており、EVやプラットフォームサービスなどへの関心の高さもうかがわせる内容となっている。

なお、日本勢では、ディープラーニングやロボティクス技術の開発を進めるPreferred Networks(プリファードネットワークス)がトップで、20億ドル・152位となっている。

■【まとめ】大型IPO予備軍の宝庫 自動運転関連企業の盛り上がりはさらに加速

DiDiやGrabといった配車サービス(ライドシェア)の展開企業の資金調達額が著しく高く、Gojek含めユニコーンを超えるデカコーン(100億ドル以上)企業に名を連ねている。大型IPO(新規株式公開)予備軍として、近い将来大きなニュースとなる企業も続々出てきそうだ。

ただ、株価が伸び悩むウーバーやリフトの例もある。ベンチャーキャピタルや同業大手からの期待が高くとも、必ずしも一般投資家から高評価を得られるわけでもないようだ。自社の技術開発やサービスの進捗に対し、どのタイミングで上場するのが適切なのかしっかり見定めなければならない。

いずれにしろ、自動運転領域に直接関係する企業をはじめ、将来関連してきそうな企業は相当数に上る。自動運転技術の実用化が本格化する今後は、いっそう業界が盛り上がり、ランキングにも大きな変動が見られそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事