英断か悪手か…?BMWとDaimler、共同自動運転開発を一時停止

1年足らずで独自開発へ踵を返す両社



自動運転開発において、ライバル企業が手を組み共同で技術開発を進める例は珍しくない。多額の先行投資と労力を要する開発分野であるため、各社の協業はもはや世界の潮流となっていると言える。







しかし、この潮流に反する動きが欧州で発生した。独ダイムラーとBMWが自動運転開発における提携を停止すると発表したのだ。

共有する技術プラットフォームの作成に伴うコストや現在のビジネス・経済状況を考慮した上での判断で、将来的な提携再開の可能性は残したものの、提携開始からわずか1年足らずで停止する格好となった。

この共同開発の停止はどのように評価されるのか。場合によっては、将来振り返った際に「共同開発をやめるべきではなかった」「とんでもない悪手だ」と評価される可能性もぬぐえないのではなかろうか。

両社のこれまでの協業を振り返り、自動運転開発分野における協業の在り方に触れていこう。

■モビリティサービスを統合

BMWとダイムラーは2018年3月、モビリティサービスの強化に向け提携することを発表した。カーシェアをはじめとしたオンデマンドモビリティサービスを戦略的に拡大するため、共同出資会社を立ち上げることとし、2019年2月にカーシェア、ライドヘイリング、パーキング、チャージング(充電)、マルチモダリティの各領域でサービスを統合・連携した5社の設立を正式発表した。

具体的には以下の5社で、両社のサービスを統合することでモビリティサービス分野におけるシェアを拡大し、世界戦略を進めていく構えを見せていた。

  • REACH NOW(リーチナウ):moovelやReachNowといったオンデマンドマルチモーダルサービスを統合
  • SHARE NOW(シェアナウ):Car2GoやDriveNowといったカーシェアサービスを統合した
  • FREE NOW(フリーナウ):MytaxiやChauffeur Privé、Clever Taxiなどのライドヘイリングサービスを統合
  • PARK NOW(パークナウ):パーキングサービス
  • CHARGE NOW(チャージナウ):充電サービス

一方、2019年12月の発表では、サービス利用者数(顧客数)が年初めから44%増加し約9000万人に達したとしながら、2020年2月までに北米やロンドン、ブリュッセルでカーシェアサービスを終了するなど、サービスの再編・集約化を図る動きを見せている。

【参考】両社のモビリティサービス事業については「欧州の双頭・BMWとダイムラーによる「リーチナウ」の可能性とは?」も参照。

■自動運転分野における協業

モビリティサービスの統合から間もない2019年3月、両社は共同で自動運転レベル4相当の技術開発を進め、2020年半ばの実用化を目指す方針を発表した。

運転支援システムをはじめ高速道路上の自動運転や自動駐車機能などの技術開発を進め、将来的には市街地での高度な自動運転技術の開発まで取り組むこととしている。

同年7月には、戦略的長期提携に向けた契約を締結したことを発表した。具体的には、2024年に一般乗用向け自動運転車を市場投入するため開発速度を高める狙いで、1200人の専門技術者が共同でダイムラーのテクノロジーセンターやBMWの自動運転キャンパスなどで開発作業を進めるとしている。

両社の協業は順調に進んでいるかのように思われていたが、2020年6月、協業を成功させる適切なタイミングではないとの結論のもと、それぞれの開発を個別に進めていくことを発表した。その他の分野では引き続き緊密な協力を続けていくことも強調しており、友好関係は継続するようだ。

【参考】自動運転分野における協業については「BMWとダイムラーが長期提携、自動運転や自動駐車など共同開発」も参照。

■その他の協業

ダイムラーやBMWをはじめとする欧州自動車メーカーは近年、将来技術の構築に向け各分野で協調路線を歩んできた。

好例が地理情報大手のHERE Technologies(ヒア・テクノロジーズ)の買収だ。ダイムラー、BMWとアウディの3社は2015年、フィンランドのノキアからヒア・テクノロジーズを買収した。以後、同社は高精度3次元地図の分野で業界標準の策定をはじめとした世界戦略を展開しており、パイオニアの子会社であるインクリメントPなどと共にOneMap Allianceを結成したり、三菱商事と戦略的パートナーシップを締結したりするなど、日本企業との関係も深めている。

また、ダイムラーとBMWは、独フォルクスワーゲングループ、米フォードと共に超急速充電ステーションの普及に向け共同出資会社「IONITY(イオニティ)」を2017年に立ち上げている。欧州で2020年までに400台の充電ステーションを設置する計画で、EV社会に向け業界を挙げてインフラ整備を進めている状況だ。

このほか、自動車とインフラをはじめとしたさまざまなものをつなげるCar-to-X技術においても、欧州各国の交通当局やヒア・テクノロジーズ、トムトム、ダイムラー、BMW、フォード、スウェーデンのボルボが共同で長期実証に取り組んでいる。

■ダイムラー・BMWの自動運転技術

「CASE」の生みの親であるダイムラーは、自動運転分野における自社開発のウェイトが高い一社だ。レベル3開発をはじめレベル4、5を見越した開発プロジェクトにも積極的に取り組んでいる。

開発パートナーの筆頭は独自動車部品大手のボッシュで、2017年の提携以来自動運転システム向けのソフトウェアやアルゴリズムの共同開発を進めており、2020年代初めまでにレベル4相当の自動運転車の市場投入を目指している。

自動バレーパーキングシステムの実用化を始めているほか、2019年から米シリコンバレーでレベル4車両を活用したオンデマンドライドシェアサービスの実証実験を開始している。

ちなみにダイムラーの高級車事業会社メルセデス・ベンツは6月25日までに、米半導体大手エヌビディアと自動運転システムを共同開発することを発表している。開発したシステムは2024年以後の発売車種へ搭載を予定しているといい、今回BMWとの共同開発は中止した一方、エヌビディアとは共同開発の道を新たに歩み始めた格好だ。

【参考】ダイムラーの自動運転戦略については「ダイムラーの自動運転戦略まとめ 計画や提携状況を解説」も参照。ボッシュとの協業については「ボッシュとダイムラー、自動運転車ライドシェアの実証実験開始へ レベル4以上の技術搭載」も参照。

一方のBMWも自動運転開発に積極的で、ハンズオフ運転が可能な高度なレベル2搭載車を2019年に市場化している。2021年にレベル3搭載車の量産化を計画しているほか、レベル4のパイロットプロジェクトも本格化させる予定だ。

開発パートナーとしては、米半導体大手のインテルと傘下のモービルアイの存在が大きい。3社は自動運転プラットフォームの開発を共同で進める連合を2016年に立ち上げ、後に独コンチネンタルや米デルファイ(現アプティブ)、カナダのマグナ、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)などが参加する一大グループに成長している。

【参考】BMWの自動運転戦略については「BMWの自動運転技術や戦略は? ADAS搭載車種や価格も紹介」も参照。BMWの高度レベル2技術については「BMW、日本で真っ先に高速道で「手放し運転」実現へ 自動運転レベル2の支援機能」も参照。

■自動運転開発分野における自動車メーカーの協業状況

自動運転分野における自動車メーカー間の協業では、米GM(ゼネラルモーターズ)とホンダが2018年、自動運転技術を搭載した無人ライドシェアサービス用の車両開発などに向け協業を行うことに合意したと発表している。

GM傘下のクルーズに出資し、自動運転開発を促進するとともに、無人ライドシェアサービス事業の世界展開も視野に入れているという。

一方、フォードとフォルクスワーゲンも2019年に提携を交わしている。技術や製品の相互供給を進め、トラックや商用バンの世界販売を促進するほか、自動運転やEV分野でも協力することとし、フォード傘下の自動運転開発企業・Argo AI(アルゴAI)への出資などを通じて結び付きを強めている。

自動運転開発分野では、テクノロジー企業などとの協業が加速する一方、自動車メーカー間においては、開発連合などの枠組みで肩を並べることはあっても、直接的な提携はまだそれほど進んでいないのが実情だ。

それだけに、ダイムラーとBMWの協業は業界におけるモデルケースとして大きな注目を集めていた。

【参考】フォードとフォルクスワーゲンの協業については「VWとフォード、自動運転などの領域で提携拡大 Argo AIへの出資を対等に」も参照。

■開発にかかる膨大なコストが背景に

自動運転開発において協業が進む背景には、開発にかかる膨大なコストの存在が第一に挙げられる。機械としての自動車を完全コンピューター化する過程において、AIを駆使した自動運転システムの開発や高性能センサーの開発、マッピング技術、通信技術など、自動車メーカーが長年培ってきた技術とは異なる最先端技術が必要となり、スタートアップをはじめ異業種との協業が必須となったのだ。

また、技術確立後もすぐに採算を見通せるものではなく、モビリティサービスの在り方を含め長期的視野に立った戦略が求められている。

さらに、将来的な協調領域の拡大も視野に入れておかなければならない。高精度3次元地図に代表されるように、開発段階においては競争領域にあるものの、将来的には各社が共有すべき協調領域となる開発分野は広がっていく。通信技術やセキュリティ技術なども規格の標準化が求められ、ある種横並びの開発とサービス提供体制が構築される可能性がある。

自動運転システムもOS化が進む。現在各社が開発を進めているシステムも実用段階で淘汰が始まり、パソコンやスマートフォンのOSと同様の進化を遂げていく可能性が高い。淘汰後は、多くの企業が主導権を失い、ある種協調領域と化したOSのもと、独自サービスを生み出していく方向へのシフトを余儀なくされる。

将来有望な巨大市場となることが想定されている反面、単独の自動車メーカー1社では立ち向かうことが困難な市場であり、主導権を握るためにも他者との協業は欠かせないものとなっているのだ。

【参考】自動運転業界の協業関係については「自動運転の覇権争いは三つ巴…各陣営の企業まとめ 提携・アライアンスの現状は?」も参照。

■【まとめ】英断か悪手か…分かれ道は開発速度にあり

自動運転開発における潮流が協業にある中、改めて独立の道を選択したダイムラーとBMW。今しばらくはボッシュ(ダイムラー)やモービルアイ(BMW)といった開発パートナーと手を組みながら自社技術を高めていくことになりそうだ。

一方で、モビリティサービス分野における協業は継続しており、将来的に再び手を組む可能性も決して低くはない。問題は、この間に他社に水をあけられるなど、相対的な開発スピードの低下だ。独自技術の高度化が進めば進むほど再統合の道のりが遠くなるため、早期判断を改めて迫られる可能性もありそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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