中速・中型の自動配送ロボットの実証を進める京セラコミュニケーションシステム(KCCS)。小型ロボットの取り組みは数あれども中型モデルは貴重で、国内唯一とも言えるその取り組みに大きな注目が集まっている。
ただ、使用しているロボットは国産ではなく中国製の可能性が浮上している。国内にこうしたタイプのロボットがなく、海外製、しかも中国製に頼らざるを得ない状況だったのだろうか。
KCCSを例に、中速・中型の自動配送ロボットの開発動向に迫ってみよう。
記事の目次
■KCCSが採用したロボット
KCCSはNeolix製ロボットを使用か
公表されていないが、KCCSが使用しているのは中国Neolix(Neolithic/新石器時代)製のロボットと思われる。2021年の実証開始時、プレスリリースで公開された画像にはNeolixのモデル「X3」と酷似した機体が写っているのだ。
また、2023年以降のプレスリリースには、同様にNeolixのモデル「X3 PLUS」と酷似したモデルが写っている。
これはもはや偶然の一致ではないレベルではないだろうか。KCCSはほぼ間違いなくNeolixのロボットを導入し、ソフトウェアなどをカスタマイズして使用していると思われる。
Neolixによると、同社は中国の70超の都市で公道走行ライセンスを取得し、日本を含む世界13カ国の50都市に計2,000台以上のロボットを納入しているという。日本への導入実績は、KCCS を指している可能性が高そうだ。
自動運転分野で先行する中国勢、でも全幅の信頼は……?
誤解のないように、中国製だから質が悪いなどという話ではない。自動運転分野において中国は紛れもない先進国だ。
トヨタと手を組むPony.aiや日産勢と手を組むWeRide、ホンダ現地法人と手を組むAutoXなど、優れた技術開発力で活躍する企業は非常に多い。モノづくりの観点では当たり外れがあるかもしれないが、しっかりとしたメーカーであればハード面も優秀だ。
強いて言えば、サポート面がいい加減なケースがあったりすることと、国際情勢に民間の取り組みが大きく左右されがちだったりする懸念があることだろうか。全幅の信頼を置きづらいのだ。
中速・中型モデル開発企業は極わずか…?
Neolixを採用したと仮定して話を進めるが、では、なぜKCCSはNeolixを採用したのか。推測だが、選択肢が限りなく少なかったのではないだろうか。
まず、開発企業の少なさが挙げられる。国内をはじめ、自動配送ロボットの開発は低速・小型モデルに集中しており、中速・中型モデルを開発する企業は世界的に少ない。
KCCSが実証を開始した2021年時点で一定の公道走行実績を誇るのは、メジャーどころではNeolixと米Nuroくらいだ。国内にはおらず、実績が乏しければ実証着手までに長い時間を要することになる。
自動運転システムに未知数な部分が多ければ、サービス面を中心とした実証よりもまず自動運転実証に力を入れなければならず、相当の時間を要するのだ。
国内企業の中にも、ティアフォーのように自動運転システムに実績があり、さまざまなモデルに統合可能としている企業もいるが、このあたりへのアプローチはどうだったのだろうか。
こうした国内企業に開発を依頼し、共同で事業に臨むのも本筋の一つだが、国の事業採択を受ける上で条件が合わなかったのだろうか。ティアフォー自身ロボット配送に関する事業を展開しているため協議がまとまらなかったのか、そもそもアプローチしていなかったのかなど、気になるところだ。
いずれにしろ、実証に早期着手するためのパートナー企業は世界的にもごく少数であることに違いはない。Nuroへのアプローチは不明だが、Neolixは日本有数のテクノロジー展示会CEATECに出展するなど、世界展開に意欲的だ。車両コストの点や実績などの面を総合的に勘案し、Neolixに軍配があがったのかもしれない。
早期実証には向いている?
心配な点を拭いきれない中国企業だが、先行例を有している点や比較的安価な点などを踏まえると、実証には向いているのかもしれない。自動運転機能は一定の精度を担保しているため、公道実証に早期着手でき、費用も抑えられるのであればメリットは大きい。
本格導入に至るかは定かではなくとも、社会実装に向けた課題抽出などを行う上では利便性が高い。Neolixとしても、競争が本格化する前に世界展開を推進してシェア拡大を図りたいはずで、ウィンウィンの関係を築けるのだろう。
■KCCSの取り組み
従来よりも大型・高速なロボットに着目
KCCSは2021年8月、無人自動配送ロボットによるロボットシェアリング型配送サービスの実証を北海道石狩市市内の公道で開始した。
これまで、国内で実施されている自動配送ロボットの実証は小型・低速モデルによる歩道走行が大半を占めていたが、効率的な配送実現に向け、従来よりも大型・高速なロボットを活用し車道を走行する国内初の取り組みに着手したのだ。実証には、ヤマト運輸や北海道日野自動車などが協力した。
翌2022年には、ヤマト運輸との連携のもと同エリアの一部車道で無人自動配送ロボットを活用した個人向け配送サービスの実証を開始した。
2023年には新たなモデル「X3 PLUS」を複数台導入し、1人のオペレーターが複数台のロボットを遠隔監視・操作しながら配送サービスを行う実証に着手した。
2024年には、出前館との連携のもと注文された商品を配達するデリバリーサービス実証や、オープン型宅配便ロッカー「PUDOステーション」を搭載した移動型宅配サービスの実証をヤマト運輸と行うなど、サービス実証の幅を広げている。
【参考】KCCSによる2024年の実証については「中型・中速の自動運転宅配ロボ、いざ「車道」へ!スピード配達へ、実証成功なるか」も参照。
■中速・中型の自動配送ロボットの概要
規格は現在議論中、ミニカーサイズが有力?
現在道路交通法で公道走行が認められているのは、低速・小型の自動配送ロボットだ。長さ120センチ×幅70センチ×高さ120センチ以下で、時速6キロを超える速度が出せないなど一定要件を満たすロボットは「遠隔操作型小型車」に位置付けられ、届け出制で利用することができる。
ただ、こうした小型モデルは当然ながら配送速度は遅く、積載容量も少ない。長距離配送や複数の目的地経由なども難しいため、クイックデリバリー系に向く一方、宅配便などの配送には対応しきれない点が多い。
そこで白羽の矢を向けられたのが中速・中型の自動配送ロボットだ。小型モデルよりも速い速度で車道を走行し、荷物も大量に積載することができる。10キロメートル超の中長距離に及ぶ配送も可能だ。
商用車を活用した自動運転配送も国内外で実証されているが、自動車サイズの場合はラストマイルよりもBtoBなどの拠点間配送の方が向いていそうだ。大量の荷物を積載可能だが、一度に何十カ所も回るラストマイル配送を無人の自動運転車で行うのは現実的ではない。
ラストマイルにおいては、機動力のある中型モデルで一度に10カ所未満を回る――といった使い方の方が現実的だろう。
中速・中型モデルについては現在、経済産業省所管の「より配送能力の高い自動配送ロボットの社会実装検討ワーキング・グループ」で規格や走行ルールなどの議論が進められている。2025年度中に意見を取りまとめ、「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」の議事で関係省庁などに報告する予定だ。
今のところ有力なのは、ミニカー規格(長さ2.5メートル×幅1.3メートル×高さ2.0メートル以下)で時速20キロ程度を上限とする案だ。ミニカー規格を採用すれば他のモビリティと整合性を図りやすい。
走行速度に関しては、時速40キロ超を可能にする海外モデルなどもあるため議論の余地がありそうだ。電動キックボードは車道走行時の制限速度が時速20キロ、ミニカー(第一種原動機付自転車)は60キロなどばらつきがある。
当面の安全性を考慮して20キロ程度に抑えるのか、将来的な技術向上などを見越し条件付きで60キロを可能にするのか注目だ。
【参考】中速・中型の自動配送ロボットの動向については「中型の自動配送ロボ、「最高時速20キロ」規制は妥当?遅すぎは「渋滞誘発」」も参照。
■中速・中型の自動配送ロボットの開発動向
NuroとNeolixが代表格
中速・中型の自動配送ロボット開発企業の代表格は米Nuroだ。これまで一貫して中速・中型モデルの開発に取り組んでいる。
モデルは徐々に大型化しており、前モデル「R2」は全長2.74×車幅1.10×車高1.86メートルとほぼミニカー規格だったが、最新モデル「Nuro R3」は全長3.2×車幅1.44×車高2.1メートルと軽自動車規格に近くなっている。
走行速度は時速45マイル(時速約72キロ)を可能にしている。機体価格は5万ドル(約710万円)ほどのようだ。同社に対してはソフトバンクグループやトヨタが出資しており、日本国内で導入されても不思議ではない。
なお、余談だがNuroは2024年9月、自社開発した自動運転システム「Nuro Driver」のライセンス供与を開始すると発表した。Nuro Driverは中速・中型モデルをはじめ、乗用車などのプラットフォームにも統合可能で、他社による自動運転タクシーの展開なども視野に収めている可能性がある。
中国Neolixは、全長250×車幅100×高さ170センチの中型モデル「X3」「X3 Plus」を主力としている。X3は容量3立方メートルに500キログラムを積載可能で、自動車専用レーンでは時速50キロの走行を可能にしている。機体価格は20~30万元(約400~600万円)ほどのようだ。
最新モデルとしては、6立方メートルの積載スペースに最大1トン積むことができる「X6」もリリースしたようで、こちらも大型化路線を歩んでいるようだ。
【参考】Nuroの動向については「米Nuroと英Arm、自動運転レベル4で提携!注目の2社がタッグ」も参照。
EC企業も開発に注力
中国ではこのほか、EC大手アリババグループの研究機関Alibaba DAMO Academyが2020年に中速・中型モデルとなる自動配送ロボット「Xiaomanlv」を発表している。最大 100キログラムを積載し、航続距離100キロを達成している。
同業の京東集団(JD.com)も早くから自動配送ロボットの開発を進めており、2016年に第1世代となる自動配送ロボットを発表している。2019年には楽天がパートナーシップを結び、同社製のロボットを活用した無人配送サービス実証に着手している。
導入したモデルは全長171.5×車幅75×高さ160センチで、中型モデルとしてはスリムなタイプだ。最大積載量は50キログラムで、最高時速15キロとしている。
【参考】EC各社の取り組みについては「EC大手、自動運転配送に熱視線!アリババ、Amazon、楽天、京東集団の取り組みは?」も参照。
Vayu RoboticsやClevonにも注目
このほか、米Vayu Roboticsなども有力だ。LiDAR開発企業Velodyne LidarでCTO、CEOを務めたAnand Gopalan氏をはじめ、アップルやLyftなどのエンジニアが集まって2021年に設立したスタートアップだ。
Gopalan氏に何があったのかは不明だが、同社はLiDAR不要の低コストのパッシブセンサーを組み合わせたロボット作りを進めている。時速20マイル(約32キロ)未満で最大100ポンド(約45キロ)を運ぶことができる。
すでに大手EC企業と2,500台のロボットを導入する大規模な商業契約を締結しているという。
エストニアのClevonも注目の一社だ。同社はモジュール式の機体を開発しており、全長250×車幅115×高さ155センチのトラックタイプのベース車両にさまざまなモジュールを乗せ換えて運用することを可能にしている。
最高時速32マイル(時速約52キロ)で、最大200ポンド(約90キロ)を積載できるという。
【参考】Clevonの動向については「エストニア企業Clevon、中間サイズの自律配送ポッドを開発」も参照。
■【まとめ】国産モデルの誕生に期待
国内勢では今のところ中速・中型の自動配送ロボットを表立って開発する企業はいないようだ。もちろん、ティアフォーやZMP、パナソニックなど、開発可能な企業は複数存在する。
現在はニッチな需要しかないかもしれないが、将来はスタンダードな存在となる可能性は十分考えられる。海外企業にイニシアチブを取られる前に国産モデルが誕生することに期待せずにはいられない。
【参考】関連記事としては「自律走行ロボットの種類は?(2024年最新版)」も参照。