中型・中速の自動運転宅配ロボ、いざ「車道」へ!スピード配達へ、実証成功なるか

配送ロボの実証本格化、ルール作りも進行中



出典:京セラコミュニケーションシステム・プレスリリース

京セラコミュニケーションシステム(KCCS)とヤマト運輸、Packcity Japanは2024年9月、中速・中型無人自動配送ロボットを活用した移動型宅配サービスの実証を北海道石狩市で、車道を使って開始した。

国内における配送ロボットはこれまで低速・小型ロボットが中心で、車道走行をメインとする中速・中型ロボットに関してはその定義や走行ルールの策定が現在進行形で進められている状況だ。KCCSらの取り組みは国内唯一と言えるほど貴重で、ルール策定にも影響を与える可能性が高い。


KCCSの取り組みとともに、中速・中型の自動配送ロボットの可能性に触れていこう。

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■KCCSら3社の取り組み概要

石狩市で宅配便の配送実証に着手

KCCSら3社は、車道を走行する中速・中型無人自動配送ロボットにオープン型の宅配便ロッカー「PUDOステーション」を搭載した移動型宅配サービスの実証を石狩市の一部エリアで開始した。

出典:京セラコミュニケーションシステム・プレスリリース

ヤマト運輸の個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」登録者を対象に、宅急便を無人自動配送ロボットで配送する。

お届け予定通知が届いた利用者が、受け取り場所で「宅急便ロッカー ヤマト運輸緑苑台実証実験用」を選択すると、ヤマトの従業員が荷物をロボットに積み込む。


ロボットは車道を無人走行し、概ね徒歩1分圏内に設置された自宅付近の宅配ポイントまで走行する。ロボットがポイントに接近すると通知が届き、利用者はポイントまで出向いてロボットから荷物を受け取る。

出典:京セラコミュニケーションシステム・プレスリリース

ロボットは無人タイプで、走行中は遠隔から監視者がモニタリングし、必要に応じて遠隔操縦によって介入する。

KCCSは、ラストワンマイル配送における多頻度小口配送やドライバー不足などの課題解決に向け、積載量や配達効率の向上が期待できる中速・中型タイプの自動配送ロボットを活用した配送サービスの社会実装にいち早く着手し、2021年から実証を重ねている。

ヤマト運輸は、持続可能な社会の実現や顧客の利便性向上に向け、2022年からKCCSと共同で中速・中型無人自動配送ロボットによる個人向け配送サービスの実証を行っている。


Packcity Japanは、各種配送ソリューション事業を手掛けるQuadient shippingとヤマト運輸の合弁で、オープン型宅配便ロッカー「PUDO(プドー)ステーション」のネットワーク化を進めている。ステーションは国内7,000カ所近くに設置されているが、新たに「移動タイプ」の取り組みに着手した格好だ。

【参考】KCCSのこれまでの取り組みについては「京セラが車道実証!自律走行の「配送ロボ軍団」編成に挑戦」も参照。

京セラが車道実証!自律走行の「配送ロボ軍団」編成に挑戦

■自動配送ロボットの現状

低速・小型ロボットは宅配便に向かない?

国内における自動配送ロボットの開発は低速・小型モデルが主流で、主に歩道をゆっくり走行して荷物や商品を配送する。2023年4月施行の改正道路交通法で定義された「遠隔操作型小型車」として、届け出制のもと実用化が可能になった。

遠隔操作型小型車は、長さ120センチ×幅70センチ×高さ120センチ以下で、時速6キロを超える速度が出せないものと規定されている。身体障害者用の電動車椅子などと同じ規格だ。

歩行者に気を付けなければならないが狭い路地や建物内も走行可能で、車道を走行する自動車などに影響なく運用することができる一方、規格上走行速度を速めることはできず、積載量にも限界がある。

エコバッグ程度の荷物は楽に収納できるため、スーパーなどでの日常的な買い物や食品デリバリーなどに適している一方、大きめの段ボールに包まれた宅配便配送には対応できないケースが少なくない。航続距離にも限界があるため、5キロメートル、10キロメートル超の中距離に対応できないこともあるだろう。

小型の自動配送ロボットは近距離向けのクイックデリバリーに向く一方、宅配事業者による宅配便配送には対応しづらい面が多々あるようだ。

中速・中型ロボットはより高速・大容量の配送を可能に

そこで注目されるのが中速・中型タイプの自動配送ロボットだ。小型タイプより一回り、二回り大きいボディで荷物を大量に積載し、基本的に車道を走行する。イメージとしては、ロボットというより自動運転車に近いかもしれない。

航続距離は長く、車道を時速20キロほどで走行可能なため、広い範囲に比較的迅速に荷物を配送することができる。荷室も広く確保できるため、複数の荷物を積載して複数の配達先を回ることもできる。

KCCSのロボットは最高時速15キロで運用しており、ボディサイズはミニカー規格(長さ2.5メートル×幅1.3メートル×高さ2.0メートル以下)に準じたサイズとなっている。公表されていないが、恐らくベースは中国Neolix製のロボットと思われる。

単純計算だが、例えば5キロメートル先の目的地まで荷物を運ぶ場合、低速モデル(時速6キロ)では約50分要するが、中速モデル(時速15キロ)であれば20分で到着できる。時速20キロであれば15分だ。往復することを考慮すれば、この差はかなり大きい。

注文を受けてすぐに配送するクイックデリバリー系ではなく宅配便をロボットで配送する場合、受取人が在宅しているかどうか確認してからロボットが出発することになる。受取人側としても、連絡が来てから50分後に荷物が到着するのと20分後に到着するのでは大きく印象が異なるのではないだろうか。

配送速度は意外と重要で、運用効率を考慮すれば、一度の稼働で複数カ所に配送できたほうが当然良い。低速・小型ロボットも複数配送を可能にしているモデルがあるが、積載量や航続距離などの制限が多いのが現状だ。

低速・小型ロボットと中速・中型ロボット。数ある配送サービスにおいて、どのように棲み分けして共存・連携を図っていくか、こうした点も今後のポイントになりそうだ。

車道走行が基本?規格や走行ルール作りが課題

中速・中型ロボットを規定する法律は今のところなく、走行ルールや機体の仕様・要件などを取りまとめ、新たなモビリティとして明確に位置付けなければ実用化は促進されない。

このため、中速・中型ロボット社会実装に向けた課題を抽出し、運用ルールを整備する「より配送能力の高い自動配送ロボットの社会実装検討ワーキング・グループ」が2024年7月に設置され、議論が始まった。

▼第1回 より配送能力の高い自動配送ロボットの社会実装検討ワーキング・グループ
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/delivery_robot/001.html

主な議論内容として、機体の大きさと走行速度、走行する 場所と走行(通行)方法、 遠隔操作や自動運転などの運用方法、最大積載量や定格出力といった構造面、保安基準やリスク、法令における機体の位置付け、インフラや税などその他の論点――が挙げられている。

ミニカー規格が有力?

機体の大きさに関しては、第一種原動機付自転車、いわゆるミニカー規格(長さ2.5×幅1.3×高さ2.0メートル以下)が有力なようだ。海外の中速・中型ロボットもこの枠に収まるものが多い。

現行の規格では、ミニカー規格より大きくなると軽自動車規格(長さ3.4×幅1.48×高さ2.0メートル以下)となる。この規格を適用すると、それはもはや自動運転車の分類だろう。一方、中速・中型配送ロボット向けに新たな規格を策定すると、各モビリティにおける規格がよりゴチャゴチャになりかねない。

ミニカー規格においては、KGモーターズの1人乗りEV「mibot」やトヨタ車体の「COMS(コムス)」のように、人の移動を担うモビリティも存在する。今後、こうしたモビリティが続々と登場する可能性も考えられる。

無人配送ロボット、人間用のパーソナルモビリティ含め、いまいち取り扱いルールがあいまいだったこのミニカー規格のモビリティの走行ルールを改めて精査することで、次世代交通に向けた多様なモビリティの普及が促進されるかもしれない。

その意味では、現行のミニカー規格を流用し、他のモビリティを含めた共通ルールを策定したほうが良いのではないだろうか。

【参考】超小型モビリティについては「超小型モビリティが、高齢者の移動に革新をもたらす」も参照。

超小型モビリティが、高齢者の移動に革新をもたらす

最高時速は20キロが有力?

最高速度に関しては、走行する道路の状況や技術水準に大きく左右される。人が運転するミニカーであれば最高時速60キロも可能だが、現状の自動運転ではさすがに厳しい。時速20キロ程度、頑張っても40キロ程度の状況だろう。

出典:経済産業省・公開資料

時速60キロを出せるのであれば、一般道においては一般車両に交じって左側車線を走行しても問題ないが、最高時速20キロであれば邪魔者扱いされる。左車線の左端寄りや路肩を中心に走行することになりそうだ。路肩を走行する場合、自転車との混在も課題となる。

KCCSの例では、制限速度30キロの生活道路では道路の左側に寄って時速10~15キロほどで走行し、制限速度40キロの幹線道路では道路の左側、あるいは路肩を最大時速15キロで走行しているという。

WGでは、最高時速20キロで道路の左側に寄って通行することが有力視されているようだが、果たしてどのような結論が導かれるのか。長く続いてきた現状の道路の枠組みを、次世代に向け大幅変革する時が訪れようとしているのかもしれない。

WGにおける議論は2025年1月後半頃を目途に取りまとめを行う予定となっている。どのような案が出されるのか、要注目だ。

■海外のモデル

Nuroは軽自動車サイズまでボディを拡大

中速・中型配送ロボットの代表格は米Nuroだ。同社は2016年の創業以来一貫して人が乗車することのない小型の自動走行ロボットの開発を続けている。

車体サイズは徐々に大きくなっており、前モデル「R2」が全長2.74×車幅1.10×車高1.86メートルとほぼミニカー規格だったのに対し、最新モデル「Nuro R3」は全長3.2×車幅1.44×車高2.1メートルと軽自動車規格に近くなっている。

最高時速は45マイル(時速約72キロ)と速く、一般車両に混ざっても迷惑にならない速度域で走行できるようだ。

なお、米国では州ごとに交通ルールが定められており、カリフォルニア州では35マイル(時速56キロ)超の制限速度が定められた道路は走行不可で、56キロ以下の対象道路において時速32~40キロで走行可能なことが求められているという。車道の右端または縁石に可能な限り近い場所を走行しなければならないようだ。

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Neolixも大型モデルを開発?

中国では、Neolixがシェアを拡大しているようだ。最新モデル「X3」は6立方メートルの積載スペースに最大1トン積むことができ、最高時速60キロで走行することを可能にしたという。サイズなどの詳細なスペックは不明だが、もはやロボットの枠ではなさそうだ。

中国の 30超の省・都市で公道走行ライセンスを取得しているほか、日本やシンガポール、スイスなど世界13カ国40都市で運用されているという。

このほか、エストニアのClevonも有力だ。自動運転可能な車体の上にロッカーやトラックなどさまざまなタイプを乗せ換えられるモジュール設計で、ベースとなる車体は長さ2500×幅1150×高さ1550ミリとなっている。日本のミニカー規格に適合しているようだ。

最高速度は18マイル(時速29キロ)と比較的低速仕様となっている。米PostNet Northlakeと提携し、テキサス州で配送サービス実証が行われているようだ。

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■【まとめ】海外は徐々に大型化?

海外とは道路事情が異なるため安易に参照するわけにはいかないが、NuroやNeolixは徐々に大型化を図っている印象だ。道路が狭い日本ではなじまないかもしれないが、自動運転システムが向上して制限速度を満たす走行が可能になれば、大型化もアリとなるかもしれない。

荷物の積み下ろしを行うカーブサイドの在り方など、インフラを交えた議論が必須となりそうで、まずはワーキンググループがどのような結論を導き出すのか、議論の行く末に注目したい。

【参考】関連記事としては「自律走行ロボットの種類は?(2024年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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