米Nuroと英Arm、自動運転レベル4で提携!注目の2社がタッグ

Nuro Driver強化し、最新モデルR3実用化を加速



出典:Armプレスリリース

自動配送ロボットの開発を手掛ける米Nuroと、半導体設計大手の英Armが自動運転技術の高度化に向けタッグを組んだ。低電力で動作可能なArm製品でエッジ側ソリューションを構築し、性能向上や商用化を促進していく狙いだ。

自動運転業界で注目が集まる2社のパートナーシップはどのようなものか。その中身を解説するとともに、両社のポテンシャルに触れていく。


■NuroとArmのパートナーシップの概要

Nuro Driverのシステム強化へ

NuroとArmは以前から協力関係にあったが、今回複数年に渡るパートナーシップを新たに結び、関係強化を図ったようだ。次世代の自動運転システム「Nuro Driver」の開発に際し、Arm の最先端のArm Automotive Enhancedテクノロジーを活用していく。

NuroでCTO(最高技術責任者)を務めるAndrew Clare氏は、「当社のAI(人工知能)ファーストのアプローチには、クラス最高のコンピューティングパフォーマンスと卓越した電力効率の組み合わせが必要。これはArmが得意とする組み合わせ」とコメントしている。

Nuroは現在、自動運転システム全体でArm IPを活用しており、Arm上に次世代のNuro Driverを構築する。システムのスペースや消費電力、熱などの制約がある中、Armソリューションは自律型アプリケーションが必要とする安全性を備えた特殊なコンピューティング機能を提供できるという。

これまでプロトタイプの自動運転システムは大型サーバーをベースにしていたが、Armの技術により各車両でAI技術を発揮しデータ処理などを行うことが可能になるとしている。


つまり、これまでサーバーを活用していた処理を、エッジ側の各車両で効率的に行っていくということだろう。車両は車載スペースや消費電力などさまざまな制約があるが、低消費電力を実現するArmの技術がこうした場面にベストマッチするのだ。

Armの上級副社長兼自動車事業部門GMを務めるディプティ・ヴァチャニ氏は「AI革命は自動運転分野に革新的な進歩をもたらしている」とし、「当社はAI機能を最初から組み込んだ最先端の安全対応コンピューティングプラットフォームを提供しており、このテクノロジーを複数のアプリケーションやプロバイダーにわたって拡張できるようにしている。Nuroは、Armを基盤に自律的な未来への歩みを加速する」と話す。

■Nuroの概要

車道走行タイプの自動運転配送ロボットを開発

Nuroは2016年創業のスタートアップで、車道を走行可能な軽自動車規格に近い配送特化型の小型自動運転車の開発を手掛けている。創業者のデイブ・ファーガソン氏(現社長)とジアジュン・ジウ氏(現CEO)は、ともにグーグルで自動運転車の開発プロジェクトに携わっていた経験を持つ。


開発車両はR1、R2と世代を重ね、現在は3世代目となる「Nuro R3」の開発を進めている。運転席を備えない自動運転専用モデルで、荷物・商品の配送に特化した仕様が特徴だ。

小型ボディのため、走行時や停車時などに他の交通参加者の邪魔になりにくく、かつ必要十分な積載量と航続距離、走行速度を実現することができる。

車体は徐々に巨大化、ミニカーから軽自動車規格へ

R3は全長3.2×車幅1.44×車高2.1メートルと前モデルから一回り大きくなり、ミニカー規格(2.5×1.3×2.0メートル以下)を超えほぼ軽自動車規格(3.4×1.48×2.0メートル以下)のサイズとなった。最高時速45マイル(時速約72キロ)で走行することができる。

バッテリーは52kWhで、1回の充電で丸一日走行できるという。積載量は500ポンド(約227キロ)で、人間工学に基づいて設計されたカスタマイズ可能なコンパートメントを有する。加熱・冷却機能も搭載している。

なお、前モデルのR2は全長2.74×車幅1.10×車高1.86メートルとほぼミニカー規格で、最高時速25マイル(約40キロ)、積載量は190キロとなっている。R2からR3への進化は思いのほか大きい。

すでに製造パートナーとして中国EV(電気自動車)大手のBYD(比亜迪)と提携しており、量産化を見据えた取り組みも着々と進められているようだ。

【参考】Nuroの取り組みについては「Nuroの自動運転配送ロボ、中国EV大手BYDが製造パートナーに」も参照。

Uber Eatsのデリバリーに導入

サービスパートナーには、小売大手のウォルマートやクローガー、セブン-イレブン(米)、飲食系のドミノピザ、チポトレなどが名を連ねているほか、配送パートナーとしてUber TechnologiesやFedExが提携し、カリフォルニア州やテキサス州で配送実証を重ねている。

Uberとは2022年に10年にわたる長期契約を交わし、カリフォルニア州マウンテンビューとテキサス州ヒューストンでUber Eatsの配送にNuroの自動運転車両を導入している。対象エリアも今後拡大する予定としている。

今のところ各社のサービス実証に導入されているのはR2だが、2024年中にR3を公道デビューし、数年計画で配送サービスの拡大を図っていくとしている。

【参考】NuroとUberとの取り組みについては「ついにUber Eatsが自動運転配送!配送車開発のNuroと契約」も参照。

消費電力抑えるArmの技術がカギに

ミニカー規格のR2から軽自動車規格へと大型化したR3。それに伴い、走行性能や積載容量などが向上し、さらなる進化を遂げたようだ。

一般的な自動運転EVも同様だが、自動運転システムに必須となるコンピュータ類の消費電力は思いのほか大きく、いかに低電力に抑えるかが1つの課題となっている。コンピュータの一部機能をクラウドで集中処理することも可能だが、わずかであれ通信遅延が発生することは避けられない。

リアルタイムで高度なデータ処理を行うには、エッジ側で処理すべきデータとクラウドで処理すべきデータを分別し、効果的かつ効率的な処理を行う必要がある。

後述するが、Armの半導体技術は低消費電力が1つの特徴となっており、電力効率を向上することができる。高速処理を実現するSoCの高度化とともに消費電力も上がりがちだが、だからこそArmの技術が生きてくるのだろう。

■Armの概要

IPベンダーとして躍進

出典:Arm公式サイト

Armは半導体設計技術をビジネスモデル化した企業で、知的財産権(IP)ベンダーとして多方面で活躍している。

モバイルをはじめとしたコンシューマー向けの電子機器やIoT機器、インフラストラクチャ、オートモーティブなど、各分野における特定のニーズに合わせて最適化されたCPU、GPU、NPUなどを構築できる。

Armベースのコンピューティングプラットフォームは世界で最も電力効率に優れていると言われており、搭載容量が限られるスマートフォンなどのデバイスをはじめ、AI技術により高機能化が進む各分野で採用が広がっている。自動運転分野も今後Armの業績を押し上げる開発領域として注目されている。

迅速な開発を可能にするトップクラスのツールやフレームワーク、リソース、ドキュメントを提供しているため、Armの顧客・パートナー企業は革新的なソリューションをより迅速に市場に投入できるようになるという。

NVIDIAなどがパートナーに

モビリティ部門では、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転、デジタルコックピット、ソフトウェアデファインドビークルなどに対応したさまざまなソリューションを展開している。

最高レベルのパフォーマンスを誇るCortex-Aプロセッサや自動運転のユースケースの複雑な要件に対応するよう設計されたMali-G78AE GPU、カメラ向けに設計されたMali-C78AEなどが代表的だ。

半導体パートナー企業には、NVIDIAやルネサスエレクトロニクス、NXPセミコンダクターズ、ザイリンクスなどが名を連ねている。

【参考】Armの取り組みについては「半導体大手Armの自動運転戦略」も参照。

■業界におけるArmとNuro

Armは半導体業界からも高い関心

Armは2016年、ソフトバンクグループに総額約240億ポンド(約3.3兆円)で買収され、同グループの一員となった。その後、紆余曲折を経て2023年9月に米ナスダック市場に上場した。

上場の際は、AMDやアップル、グーグル、インテル、NVIDIA、Synopsys、TSMCなどがコーナーストーン投資家として関心を示したという。

初日(2023年9月14日)の終値は63.59ドルだったが、2024年3月6日時点で136.99ドルまで値を上げている。好調な業績と今後の期待感が表れているようだ。

ソフトバンクグループがArmとNuroの橋渡し的存在に?

一方のNuroは未上場のスタートアップだが、ソフトバンクグループの投資部門SVFから出資を受けている。2019年の資金調達ラウンドはSVFが主導しており、報道によるとSVFから9億4,000万ドル(約1,030億円)が出資されたという。2020年のCラウンドにもSVFは参加している。

このほか、トヨタグループのグローバル投資ファンド「ウーブン・キャピタル」も2021年にNuroに投資している。

ある意味、NuroとArmはソフトバンクグループで繋がっているとも言える。SVFの投資先にはAI開発企業が多く、こうしたネットワークを生かすことができればまだまだ業績は伸びるものと思われる。

また、ソフトバンクグループとトヨタと縁を持つNuroも期待感が大きい。本格的な量産化段階を迎え、米国内でのサービスが一定段階に達すれば、ソフトバンクグループによる日本法人設立やMONET Technologiesを通じた日本導入……といった可能性も考えられる。

■【まとめ】自動運転分野で躍進するArm、Nuroは2024年中に大きな動き?

AIの進化に伴い半導体に求められる性能も高まり続けており、高性能・低消費電力を両立する技術の需要はまだまだ伸びていくことは間違いない。自動運転はこうしたAIを象徴する分野でもあり、同分野におけるArmの動向に引き続き注目したい。

一方のNuroは、R3の市場導入とともに本格商用化に踏み出す可能性が高い。2024年中に予定している公道デビューや量産化に向けたIPOの動向など、こちらも要注目だ。

【参考】関連記事としては「Nuroの自動運転戦略」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事