トヨタは勝てる?自動運転シャトルで「フランス最強説」

先行する仏企業のNavyaやEasyMile



世界各地で実用化に向けた取り組みが加速する自動運転サービス。中でも、特定路線を走行する比較的小型の自動運転シャトルは導入のハードルが低く、自動運転技術の実装に向けた取り組みの中でも人気が高い。世界各地で実証やサービス化が進められている。


この自動運転シャトルの開発で圧倒的なシェアを誇るのが、仏NavyaとEasyMileのフランス勢だ。両社合わせ世界数百カ所で導入された実績を誇る。

日本国内でも、トヨタをはじめ自動運転シャトルの開発を進める企業は少なくないが、世界展開で大きくリードするフランス勢に対し巻き返しを図ることはできるのか。

この記事では、トヨタを例に自動運転シャトルの未来に迫る。

■自動運転シャトルといえばフランス

自動運転シャトルの開発・社会実装は、フランス勢が先鞭をつけた。ともに2014年設立のNavya(ナビヤ)とEasyMile(イージーマイル)だ。後述するが、両社とも2015年までにオリジナルの自動運転車両を発表し、導入に向けた本格的な実証に着手している。


単純比較はできないが、自動運転タクシーを世界に先駆けて実用化したWaymoが米アリゾナ州で同サービスのパイロットプログラムに着手した時期(2017年)よりも早く、サービス実証を開始しているのだ。

Navya、EasyMile両社は世界戦略を推進し、大学構内など公道外で走行実証を行いやすい案件をはじめ、政府や自治体主導による公道サービス実証など世界各地で導入実績を拡大している。

例えば日本では、BOLDLYやマクニカなどがNavyaの自動運転シャトル「ARMA」を取り扱っており、各地の実証や茨城県境町における定路線運行などでなじみ深い存在となっている。EasyMileの「EZ10」もDeNAが導入し、道の駅を拠点とした自動運転サービス実証などで利用されている。

取り回しやすいボディサイズで比較的低速に定路線を走行する移動サービスとして、自動運転の初期導入にもってこいの車体と言える。


こうした事例が世界各国で展開されているとすれば、NavyaとEasyMileが世界中で自動運転シャトルの代名詞的存在となっていてもおかしくはなさそうだ。

■Navyaとはどんな企業?
出典:NAVYA公式サイト

2014年に設立されたNavyaは、自動運転シャトル「Autonom Shuttle」と自動運転けん引トラクター「Autonom Tract」を武器に事業展開している。2018年7月にユーロネクスト・パリ証券取引所に上場を果たすなどすでにスタートアップを卒業し、ビジネス性を重視した戦略をとっている。

自動運転シャトルの第1号機「ARMA」は2015年にリリースされ、スイスのシオンで翌2016年に公共交通への導入に向けたサービス実証がスタートするなど、早い段階で

その後、自動運転能力を強化した「EVO」をラインアップするなど進化を続け、2021年末までに世界25カ国へ200台以上を販売しているという。

▼Navya公式サイト
https://navya.tech/en/

■EasyMileとはどんな企業?
出典:EasyMile公式サイト

EasyMileも2014年の設立後、2015年に自動運転シャトル「EZ10」をリリースし、「CityMobil2」プロジェクトのもとスイス連邦工科大学ローザンヌ校の構内に6台以上のEZ10を導入し、6,000人以上を運んだという。

2016年にシンガポールの植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」で自動運転による商用運行に着手したほか、2018年12月にはフランスのソリニーで無人のレベル4移動サービスを実現したと発表している。2021年11月には、フランスの一般公道で車内無人のレベル4運用の許可を取得したことも発表した。

同社によると、これまでに世界30カ国以上の400以上のエリアで自動運転車両を走行した実績を有するという。日本では、DeNAがEZ10を導入しているほか、日本航空が同社の自動運転けん引トラクターを用い、空港内で実証しているようだ。

▼EasyMile公式サイト
https://easymile.com/

■トヨタは追いつき、追い越せるのか?

国内では、トヨタやヤマハ発動機、米Cruiseと手を組むホンダ、ティアフォーなど各企業が自動運転シャトルの開発に取り組んでいる。

トヨタは、MaaS専用の多目的自動運転車「e-Palette(イー・パレット)」の開発を進めている。2018年開催の技術見本市「CES 2018」で初公開され、移動サービスをはじめ小売りやホテルなどさまざまな用途を見据えたモビリティとして注目を集めた。

まだサービス展開や販売するフェーズには達していないものの、国内では東京オリンピック・パラリンピックや東京臨海副都心における実証など、2021年ごろから目につく形で実用化に向けた実証が加速し始めた印象だ。

今後、早ければ2024年にも第1期オープンするWoven Cityをはじめ、各地でさまざまな形式の実証が進められる可能性が高そうだ。

■トヨタの強みは?
e-Palette=出典:トヨタ

ようやく実証が本格化し始めたe-Paletteだが、先行するNavyaやEasyMileに追いつき追い越すためには、フランス勢にない武器が必要となる。トヨタの武器・強みはどのようなものか。

自動車メーカーの強みを発揮

第一の武器は、世界トップを争う自動車メーカーとしての製造能力とクオリティだ。世界各国のメーカーのクオリティも飛躍的に向上しているが、故障しない車の代名詞的存在である日本ブランドは今なお健在で、その日本を代表するのがトヨタだ。トヨタブランドの信頼性は絶大だ。

この製造能力に、トヨタ生産方式に代表される効率的かつ効果的な生産能力が合わさることで、高品質な車両を大量生産することが可能になる。コンピューターへの依存度が強い自動運転車だが、モーターや足回りなどメカニカルな部分も含めトータルの完成度が求められることは言うまでもない。トヨタであれば、アフターサービスも万全だ。

こうした製造能力の強みは、e-Paletteをはじめ量産に適した「シエナAutono-MaaS」がその成果を強く発揮しそうだ。シエナAutono-MaaSは、北米向けの乗用車シエナをMaaS向け自動運転車とするプラットフォームで、米Aurora Innovationや米May Mobilityなどが自動運転タクシーやシャトルへの活用に取り組んでいる。

自動運転システムのカスタマイズが可能

e-Paletteは、他社製の自動運転システムを搭載することもできる。これが大きな利点となる可能性が高い。トヨタはガーディアンやショーファーと呼ばれる自動運転技術の開発を進めており、e-Paletteにも自社開発した自動運転システムを搭載するが、利用者がこれとは別の自動運転システムを統合し、ガーディアンなどをサブシステムとして利用することができるのだ。

純粋なサービス事業者はe-Paletteをそのまま導入し、サービスを見据えた自動運転開発事業者は、自社システムを生かしながら自動運転サービスに適したe-Paletteの車体を利用することができる。また、2つの自動運転システムを搭載することで冗長化を図ることもできる。

自動運転開発事業者は数多いが、生産能力を併せ持つ事業者となるとその数は一気に減少する。自動運転タクシーなど少人数の移動サービス用途であれば既存の自家用車を改造することで賄えるが、10人前後を運ぶシャトルサービスであれば、それに適した車両が必要となるが、既存の量販車や商用車ではその選択肢が大きく限られることになる。

こうした際、自動運転向けに設計され、高品質かつカスタマイズも容易に行えるe-Paletteが選択肢として浮上する可能性は決して低いものではないはずだ。トヨタのシステムも併用可能とあれば、なおさらだろう。

付加価値の創出も武器に

また、多目的用途に設計されたe-Paletteは、移動サービスに付加価値を与えやすい。こうした点も利点となるのかもしれない。

導入当初は「自動運転」そのものが大きな価値を発揮するが、実用化が進むにつれ乗り心地や利便性などのクオリティも求められ始め、他社サービスとの比較なども行われるようになる。

こうした際、e-Paletteは柔軟性の高い車内空間を活用し、何かしらの付加サービスを提供することも可能になるはずだ。他社との差別化を図りつつ、さらなるビジネス展開を図る上で、こうした柔軟な設計が武器となることは間違いないはずだ。

MaaSアプリなどとの連携も
出典:トヨタプレスリリース

トヨタは、独自のMaaSアプリ「my route」も実用化している。すでに国内10県で実装されており、単一のMaaSアプリとしては国内最大規模を誇る。

e-Paletteを活用したシャトルサービスであれば、このmy routeとの連携も容易なはずだ。日本国内はもちろん、海外におけるサービス展開時にもMaaSの実績が生きる可能性が考えられる。場合によっては、e-PaletteとセットでMaaSアプリを提供し、エリア全体の交通最適化を図るトータルサービスの提供も行われるかもしれない。

■【まとめ】モビリティカンパニーとしての総合力を発揮

NavyaやEasyMileが自動運転車両や運行管理システム、運行ノウハウを提供するのに対し、トヨタはモビリティカンパニーとしての総合力を発揮し、製品としての品質から自動運転システム、関連システム、カスタマイズ性などさまざまな点で強みを発揮することができる。

現時点では社会実装の先陣を切った陣営が大きく目立っているが、今後各社のモビリティが出揃い競合が始まれば、さまざまな点で比較されることになる。こうした近未来にトヨタをはじめとした国内各社はどのように立ち向かうのか、要注目だ。

【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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