ドライバーレス走行を実現する自動運転レベル4の実用化が海外で加速している。国内でも車内無人化を実現する技術開発と環境整備が進められている中、法改正によって自動運転レベル4(高度運転自動化)が解禁され、各地の実証も新たなフェーズを迎えつつある。
現状、「自動運転=レベル4」のイメージが強いが、その上には最高レベルとなるレベル5が鎮座している。レベル4とレベル5の違いは何か。この記事では2024年時点の情報をもとに、レベル4、5の相違点や実用化状況について解説していく。
▼自動運転のレベル分けについて|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001226541.pdf
▼SAE Levels of Driving Automation Refined for Clarity and International Audience
https://www.sae.org/blog/sae-j3016-update
【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?」も参照。
<記事の更新情報>
・2024年2月29日:アメリカにおける展開情報を更新
・2023年9月28日:自動運転レベル4の実用化事例について解説
・2023年5月23日:日本における自動運転レベル4の解禁について追記
・2023年4月24日:「ブレイン・オフ」の呼称についての解説を追記
・2023年2月22日:「ドライバーレスとドライバーフリー」の説明を追記
・2022年8月10日:記事初稿を公開
記事の目次
■レベル4とレベル5の特徴
レベル4は「特定条件下」で「ドライバーレス」を実現する
レベル4は「高度運転自動化」を指し、一定条件下において自動運転システムが全ての運転操作を行う。ODD(運行設計領域)内で作動継続が困難となった際も、ドライバーなどが介入することなく自ら安全を確保することが求められる。
ODD内限定となるが、ドライバーやオペレーターが介入することなく一定の運行を全うできるため、レベル4ではドライバーレスの走行が可能になる。
このドライバーレスという特性は、従来の職業ドライバーにかかるコストを低減させるため、移動サービスや輸送サービスなどへのレベル4導入を目指す動きが活発だ。
多くの場合、走行予定エリアを事前にマッピングし、高精度3次元地図を作製して自動運転システムの精度を高めるが、磁気マーカーなどを駆使し、インフラ協調で精度を高めるケースなどもある。
ドライバーレスを前提とした走行は、可能な限りの手を尽くし安全性を高めなければならず、ドライバーの存在を前提としたレベル3と比較すると格段にハードルが上がるのだ。
走行中は原則監視などを必要としないが、実証や実用化初期においては遠隔監視・操作システムなどを導入するケースが大半だ。自動運転システムの高度化とともに徐々に簡易な遠隔システムとし、最終的には遠隔システムが不要となるレベルまで技術を引き上げたいところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転レベル4、いつから解禁?」も参照。
レベル5は「どこでも」「ドライバーレス」を実現する
ドライバーレスという高度な自動運転を実現するレベル4だが、これがレベル5「完全運転自動化」に進化すると「一定条件下」というかせがなくなり、持続的かつ無制限な自動運転を実現する。
一定条件、つまりODD設定が必要なくなるということは、通常の手動運転で走行可能な環境を全て網羅した自動運転が可能になることを意味する。一般的に走行可能と考えられる道路を、常識的に走行可能な天候下、通常の速度で走行することができる。
制限のない自由な移動が可能となるため、移動サービスなどの用途はもちろん、自家用車においてももはや運転免許が必要ないほどの完成度を誇ると言える。ドライバーレスのレベル4に対し、レベル5はドライバーの概念すらなくしてしまうのだ。
【参考】自動運転レベル5については「完全自動運転とは?」も参照。
■一番の違いは「ODD」の有無
ODDの構成要素
上述したように、レベル4とレベル5の一番の相違点はODDの有無となる。ODDは、主に道路条件、地理条件、環境条件、その他の条件に分類可能だ。
道路条件は、高速道路や一般国道、市道、車線数、歩道の有無など、走行する道路に関わる構造的な条件を指す。地理条件は、都市部や郊外、山間部といった具合に、周辺環境も含めたエリア指定のような形で条件を付す。事前に高精度3次元地図を作製したエリアなど、仮想的に線引きした地理的境界線(=ジオフェンス)を条件とするケースも多い。
環境条件は、天候や昼・夜の区別といった日照状況などを指す。降雨や降雪、暗い夜間など、車載センサーの能力に影響を及ぼす可能性があるため、個別に設定されることが多い。なお、猛吹雪や濃霧など、手動運転でも大きな支障が出るケースは、レベル5であっても一時的に走行を中止することもある。
その他の条件は、走行速度の制限やインフラ協調の有無、特定の経路のみに限定した運行、保安要員の乗車要否、連続運行時間など、道路条件や地理条件、環境条件に該当しない各種条件を指す。
走行速度は原則制限速度以内となるが、自動運転バスなどで低速運行を基本として安全性を高めるケースも多い。
【参考】ODDについては「自動運転とODD」も参照。
レベル4のODDは多様化
サービス用途で利用されることが多いレベル4は、設定されるODDもさまざまだ。例えば、自動運転バスであれば走行するルートに限定し、マッピングやV2I(路車間通信)技術によるインフラ協調システムなどで精度を高めやすい。
現在実証が進められている取り組みの中には、レベル2でドライバーが走行する区間の中にレベル3~4で自動運転する区間を設定しているケースもある。一般公道以外、あるいは専用空間化した公道で自動運転を設定している。
自動運転タクシーのケースでは、ジオフェンスとして任意で線引きした一定エリア内を比較的自由に走行することが求められ、道路条件や地理条件の観点においては自動運転バスよりハードルが高い。乗客が乗り降りする駐停車場所の確保も課題で、事前にピックアップポイントを任意設定するケースもある。
自家用車にレベル4が搭載された場合、初期においてはおそらく高速道路をはじめとした自動車専用道路がODDとなる可能性が高い。安全確保の観点のほか、ドライバーによる手動運転と自動運転が混在するため、自動運転可能な区間を明確に区別する必要があるためだ。
その後、幹線道路や郊外の道路などに徐々にODDを拡大していく可能性が高い。レベル4自家用車はまだまだ先の話……と思いきや、モービルアイが2024年に発売する計画を打ち出しており、今後の動向に要注目だ。
【参考】モービルアイの取り組みについては「自動運転で未知の領域!「市販車×レベル4」にMobileyeが乗り出す」も参照。
レベル5はODD設定が不要に
道路条件や地理条件などの縛りがあるレベル4に対し、レベル5は原則一切の条件が付与されない。制限速度を保ちながらあらゆる道路を自在に走行し、ちょっとした雨天や夜間走行も問題なくクリアする。現時点で考えられる自動運転技術の完成形だ。
自動運転システムが「人」と同等、あるいはそれ以上の運転能力を持つこととなり、移動サービスや輸送サービスはもちろん、自家用車への普及も当然見込まれる。レベル5が実現すれば、ドライバーという概念が必要なくなるため、自動車の免許制度に大きな変革が求められる可能性も高い。
ただし、実現のハードルが高いのは言うまでもない。あらゆる状況を瞬時かつ正確に解析可能なAI(人工知能)と、それを可能にする高性能なコンピュータが絶対不可欠となる。また、全ての道路を網羅する観点から、高精度3次元地図の整備・更新が間に合わない可能性が高く、V2Iも全道路へシステム完備するのは現実的ではない。つまり、可能な限りAIとセンサーで完全自動運転を成し遂げる技術が必要となるのだ。
ある種レベル5開発は野心的であり、これを公言する開発企業は米テスラや国内スタートアップのTURINGなど一部にとどまる。しかし、野望がなければ実現への道が開かれないのも事実だ。各社の野望を実現するイノベーションの波に期待したい。
【参考】TURINGについては「レベル5自動運転の「国産EV」を世界へ!TURINGが10億円調達」も参照。
■自動運転レベル4の実用化事例
世界的には自動運転レベル4の実用化事例はまだ決して多くはない。国としてはアメリカと中国がリードしており、アメリカではGoogle傘下のWaymoとGM傘下のCruiseがカリフォルニア州内などで完全無人の自動運転タクシーを展開している。(※ただしCruiseは事故などを受け、2024年2月時点ではサービスを前面停止している)
WaymoやCruiseはODDの地理的要件を「サンフランシスコ市内」などと区切っており、ODDで含まれていない地域では自動運転タクシーが運行できない仕様となっている。中国では、IT大手・百度(Baidu)が2023年2月から完全無人の自動運転タクシーを展開している。
ちなみに市販車における自動運転レベル4の技術搭載は、2024年2月時点ではまだ実現できていない。レベル3では日本のホンダや独メルセデスなどが商用ベースで展開に成功している。
【参考】関連記事としては「Google系自動運転タクシー、遂に「完全無人化」 ローンチ1年弱で」「自動運転タクシー、中国で完全無人&有料化!日本は周回遅れ?」も参照。
■日本では「なんちゃってレベル4」が実用化
日本では道路交通法が2023年4月に改正されたことで、自動運転レベル4が解禁された。そして、まずは公共交通機関においてレベル4の車両を導入することが最初の目標に定められた。
その後、5月には福井県永平寺町における自動運転移動サービスが、レベル4での運行許可を国から取得し、日本初のレベル4での無人運転サービスが国内で始まることとなった。
ただし、自動運転移動サービスでは電磁誘導線を使った自動運転が行われ、「なんちゃってレベル4」と形容されることもある。つまり、現時点においては米Waymoのように、電磁誘導線がない場所でもレベル4の自動運転が可能なわけではない。
【参考】関連記事としては「自動運転、日本でのレベル4初認可は「誘導型」 米中勢に遅れ」も参照。
■「ドライバーレス」と「ドライバーフリー」
ちなみにこの記事では自動運転レベル4について、ODD内での「ドライバーレス」が可能、といった表現を用いたが、ドライバーレスではなく「ドライバーフリー」という用語が使われることもある。レベル2の場合はハンズフリー、レベル3の場合はアイズフリーといった具合だ。
この点については、自動運転ラボの記事「自動運転レベル4は「ドライバーフリー」!国交省が呼称明記」で説明しているので、ぜひ参照してほしい。以下は国土交通省の資料内で登場した表で、ドライバーフリーという呼称を採用している。
■「ブレイン・オフ」という呼称が使われることも
自動運転レベル4に関しては「ブレイン・オフ」という呼称が使われることもある。ブレイン(Brain)という英語は日本語で「脳」を意味し、ブレイン・オフを翻訳すると「脳の解放」といった意味だ。
レベル4ではODDで定められた特定エリア・特定条件下では人間が一切運転に関与しなくてもよくなる。つまり、人間が脳を使わなくても自動運転ができる技術レベルであることから、こうした呼称が使われるわけだ。
■【まとめ】レベル4開発の積み重ねがレベル5実現につながる
次世代技術とも言うべき自動運転は、まず何かしらの条件下で自動運転を実現するレベル4を実用化し、知見を積み重ねて条件を徐々に拡大していくのが常套手段となる。
レベル5を否定する気はないが、今後しばらくの間レベル4開発が中心となり、2030年、あるいは2040年にかけて着実に進化していくものと思われる。その先にレベル5が待っているのだ。
ただし、「レベル4」と呼ばれる段階の場合でも、特定の街や都市でODDの拡大に伴って制限がなくなってくると、ユーザー視点では実用上は、その街や都市で自動運転技術を使う分にはレベル5と等しい状態になる、という点も書き添えておく。その街や都市を出ない限りは、いつでもどこでも完全自動運転が可能であるからだ。
こうした過程を経て、いつの日か国単位・世界規模でのレベル5が実現可能な技術と認識できる日が到来するはずだ。足元のレベル4開発の積み重ねがレベル5実現につながると信じ、引き続き各社の開発に注目していきたい。
【参考】関連記事としては「自動運転、レベル2とレベル3の違いは?」「自動運転、レベル3とレベル4の違いは?」も参照。
■関連FAQ
自動運転レベル4の口語的説明は「高度運転自動化」となる。限定領域内での完全自動運転を指し、限定領域内では人間による介入・補助を一切前提としていないことが特徴だ。
自動運転レベル5の口語的説明は「完全運転自動化」となる。場所・条件を問わずにいつでもどこでも自動運転が可能な水準を指し、人間によるサポートも一切不要となる。
レベル4は「限定領域内」での完全自動運転、レベル5は領域を問わずに完全自動運転が可能だ。
レベル5では場所・条件を問わずにいつでもどこでも自動運転が可能だが、それが「国」単位なのか、「地球」単位なのかは、今後議論になる可能性はある。国単位であれば、システムに法的ルールなどを適用しやすいが、地球単位であれば、全ての国のさまざまなルールを全てシステムに覚え込ませなければならない。
カメラのみを使い、人間のような「判断」によって完全自動運転を実現しようとしている。一方、多くの自動車メーカーは自動運転開発において、地図データを使いながらのアプローチを基本としている。しかし、人間の手動運転は細かな地図データを使って運転をするわけではなく、テスラのレベル5のアプローチは「人間的」と言える。
(初稿公開日:2022年8月11日/2024年2月29日)
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)