テスラの時価総額が1兆ドル(115兆円)を超え、新規上場直後に時価総額10兆円を超えたEV(電気自動車)メーカーのRivian(リビアン)が現れるなど、EV業界に向けられる期待が天井知らずに伸び続けている。
EVシフトへの圧力が強まる自動車業界のトレンドを強く反映した形だが、業界におけるトレンドはEVだけではない。自動運転をはじめとした「CASE」(C=コネクテッド、A=自動運転、S=シェアリング・サービス、E=電動化)が大きな潮流となり、各社の戦略のベクトルを決定づけている。
この記事では2022年9月時点の最新情報を踏まえ、ADAS(先進運転支援システム)を含む自動運転開発や実装に積極的なEVメーカーを紹介していく。
【参考】関連記事としては「CASEとは?意味や使い方は?「コネクテッド」や「自動運転」を示す略語」も参照。
記事の目次
- ■Tesla(テスラ):FSDのアップデートで自動運転を達成する計画
- ■Rivian(リビアン):現在は「レベル2+」のハンズオフ機能
- ■Xpeng(シャオペン):自動駐車機能などを備える「XPILOT3.0」を実装
- ■Lucid(ルシード):イスラエルの自動運転開発企業モービルアイと提携
- ■NIO(ニオ):独自の「NIO自動運転」(NAD)システムを開発中
- ■Li Auto(リ・オート):現在は「自動追い越し機能など」を搭載
- ■WM Motor(WMモーター):駐車場内でのレベル4パーキングを実現へ
- ■Faraday Future(ファラデー・フューチャー):カリフォルニアで試験許可
- ■Canoo(カヌー):最初の量産モデルにはレベル2を搭載
- ■Karma Automotive(カルマ・オートモーティブ):開発中のレベル4バンを発表
- ■【まとめ】新興勢力ひしめくEV勢が自動運転分野でも台頭?
- ■関連FAQ
■Tesla(テスラ):FSDのアップデートで自動運転を達成する計画
2003年創業で、2010年に米ナスダック市場へ上場したEV大手テスラ(ティッカーシンボル:TSLA)。BEV(完全バッテリー式の電気自動車)の販売台数では、自動車メーカーの追随を許さぬ独走を開始し、EVの代名詞的存在として世界に名が知れ渡るほどに成長した。
自動運転開発にも積極的で、ADAS「Autopilot」や「FSD(Full Self-Driving)」を徐々にアップデートすることで自動運転を達成する戦略を採用している。
誤認を招く名称やイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)による過剰な宣伝が波紋を広げているが、駐車場に停めたマイカーを自分のもとまで呼び寄せる自動運転技術「Smart Summon」を実装するなど、スタートアップに負けない開発力と実行力を兼ね備えている。
マスク氏は過去、自動運転の実現時期について「2020年半ばまでに完全な自動運転車を100万台以上生産する」「完全自動運転を達成できる自信があり、来年(2021年)には届けられるだろう」などと語っているが、目標はずれ込む見込みだ。
ちなみにFSDはβ版がリリースされており、2022年7月における累計走行距離は3,500万マイル、β版のテスターは10万人だとされている。そして9月にはβ版のテスターになれる基準を緩和し、テスターが10万人から16万人まで増えることがマスク氏によって明らかにされた。
▼テスラ公式サイト(米国)
https://www.tesla.com/
【参考】テスラについては「テスラの自動運転技術、最新情報!モデル3に搭載?日本で可能?」も参照。
■Rivian(リビアン):現在は「レベル2+」のハンズオフ機能
EVトラックの開発を主力とする2009年創業の米EVメーカーのRivian(ティッカーシンボル:RIVN)。2021年11月に米ナスダック市場に上場したばかりだが、時価総額10兆円を超え大きな話題となっている。
半導体不足の影響で生産に遅れが出たようだが、初の量産モデル「R1T」の出荷は2021年9月に始まっている。すべてのモデルに標準搭載されているADAS「Driver+」は、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストなどをはじめ、一部の高速道路で自動ステアリングや加減速を行うレベル2プラスのハンズオフ機能を備える。OTAアップデートを通じて導入される機能もあるようだ。
2019年に米アマゾンが配送向けEVを10万台発注したことも話題となっており、こちらの開発も着々と進められているようだ。
▼Rivian公式サイト
https://rivian.com/
■Xpeng(シャオペン):自動駐車機能などを備える「XPILOT3.0」を実装
2014年設立の中国EVメーカーで、2020年8月にニューヨーク証券取引所に上場しているXpeng(ティッカーシンボル:XPEV)。テスラ同様自動運転開発に力を入れており、レベル4の実用化を数年後に見込む。
市販車では、高度な自動駐車支援機能などを備えるXPILOT2.5や、高速道路ナビゲーションガイド付きパイロットや駐車場のメモリパーキング機能、自動駐車機能などを備えるXPILOT3.0などをすでに実装済みだ。XPILOT3.0はNVIDIA DRIVE AGX Xavierを採用しており、NVIDIAによると「XPILOT3.0はレベル3システム」という。事実関係は不明だが、中国内の規制上レベル2システムとして実装されている。
2021年4月に予約注文を開始した最新モデル「P5」は、LiDAR2基を含む計32個のセンサーを搭載し、一般道路でもナビゲーションガイドパイロットを実現するという。レベル2を広域で使用可能にするようだ。
2022年9月には、多目的スポーツ車(SUV)タイプの「G9」が発表された。最新鋭のADASシステムが搭載され、同車両は自動運転車を発売前の「ラスト・ステップ」だと位置付けられているという。
▼Xpeng公式サイト
https://en.xiaopeng.com/
【参考】Xpengについては「「中国版テスラ」XPeng、自動運転駐車機能の提供を開始!自社EVの優位性アピール」も参照。
■Lucid(ルシード):イスラエルの自動運転開発企業モービルアイと提携
2007年創業の米EVメーカーであるLucid(ティッカーシンボル:LCID)。2021年に満を持して初の量産車「Lucid Air」を納入開始し、米ナスダック市場への上場も果たした。
自動運転開発においてはイスラエルのモービルアイと提携を結んでおり、モービルアイの技術を詰め込んだADAS「DreamDrive」をLucid Airに搭載している。アダプティブクルーズコントロールとレーンセンタリングコントロールを組み合わせたHighway Assist機能はレベル2+に相当し、ハンズオフ運転を可能にしている。
また、将来レベル3の機能が利用可能になったときにOTAアップグレードする準備もできているという。センサーはLiDARを含む計32個で構成されており、あらゆる気象条件で機能するという。
▼Lucid公式サイト
https://www.lucidmotors.com/
■NIO(ニオ):独自の「NIO自動運転」(NAD)システムを開発中
2014年設立の中国EVメーカーであるNIO(ティッカーシンボル:NIO)。最初の量産モデル「ES8」は2018年に納入開始し、同年ニューヨーク証券取引所に上場している。
同社の自動運転技術は「NIO自動運転(NAD)」と名付けられ、ローカリゼーションからAIアルゴリズム、プラットフォームソフトウェアから制御戦略まで、フルスタック自動運転機能を構築しているという。
センシングシステム「NIO Aquila Super Sensing」は超長距離LiDARや8MP高解像度カメラをはじめとする計33台のユニットで構成され、4つのNVIDIA DRIVE Orinを搭載したNIO Adamが高速処理を実現している。
このシステムは、2021年1月に自社イベントで初公開した最新モデル「ET7」に搭載され、A地点からB地点までの自動運転を実現可能としているが、現行の規制にならい、ハンドルから手を離さないようレベル2として提供するという。
ちなみに2022年6月には新型SUV「ES7」が公開され、NADが搭載されていることが明らかにされた。作動条件などに関する情報の詳細は当時は明らかにされなかったが、徐々に適用できる道路やシーンを拡張すると説明されている。
▼NIO公式サイト
https://www.nio.com/
【参考】NIOについては「中国のEVメーカー「NIO」を徹底解剖!独自開発の自動運転技術にも注目」も参照。
■Li Auto(リ・オート):現在は「自動追い越し機能など」を搭載
2015年に設立された中国EVメーカーであるLi Auto(ティッカーシンボル:LI)。2019年に初モデル「Li ONE」の量産を開始し、2020年に米ナスダック市場に上場している。メインのバッテリーとは別に小型発電機を搭載する一種のプラグインハイブリッドシステムで、航続距離1,000キロ超を実現しているのが特徴だ。
全車両標準搭載のADASは、サブメーターレベルのポジショニングを可能にし、レーンごとのナビゲーションや自動追い越し、自動ビジュアルパーキング機能などを有する。
▼Li Auto公式サイト
https://ir.lixiang.com/
■WM Motor(WMモーター):駐車場内でのレベル4パーキングを実現へ
2015年設立の中国スタートアップ。創業者兼CEOのFreeman Shen氏は、浙江吉利控股集団の副社長を務めていた人物で、当時吉利によるボルボ・カーズ買収を担当し、ボルボチャイナ会長の座に就いた経歴を持つ。
同社は最初のステップとしてスマートEVの普及、その次にデータ駆動型車両の普及、その後スマートトラベルを実現するサービスプロバイダーに成長するという3ステップ戦略を掲げており、自動運転技術の開発にも力を入れている。
2019年にアポロ計画を主導するBaidu(百度)との長期戦略的パートナーシップが発表された。WM Motorの量産車向けにアポロのレベル3、レベル4ソリューションの実装を加速していくほか、スマートカー開発に向け共同でR&Dセンターを設立し、開発やテスト用の車両ハードウェアシステムをBaiduに提供するという。
また同年、成都の高速道路においてレベル3の走行実証を行ったと同国内の複数メディアが報じている。
市販車両においては、すでにレベル2相当のADAS「Living Pilot」の標準搭載化が進められている。2021年4月に開催されたイベントでは、新型SUV「W6」とともに、同車に駐車場内でレベル4を実現する自動バレーパーキング(AVP)システムを搭載すると発表した。
アポロのバレーパーキング技術で、自宅やオフィスなど駐車ルートが決まっている場所における「HAVP(Home-AVP)」と、ショッピングモールなどルートが固定されていない場所における「PAVP(Public-AVP)」がある。PAVPは年内にOTAアップグレードによって実装するとしている。
柔軟にアポロなどの自動運転技術を吸収し、効果的かつ効率的にスマート化を推し進めていく戦略のようだ。
▼WM Motor Technology公式サイト
https://www.wm-motor.com/en/brand.html
■Faraday Future(ファラデー・フューチャー):カリフォルニアで試験許可
2014年設立の米EVメーカー。一時資金繰りが問題視され、創業者が破産申請するなど窮地に立たされていたが、新体制発足後は安定したようで2021年7月に米ナスダック市場にSPAC上場を果たしている。同社初の量産モデル「FF91」は2022年中に市場投入される予定だ。
FF91は、高速道路や駐車場で高度に運転をサポートするセンサースイートを搭載し、レベル2+相当のADASを提供するという。同社は開発コンセプトに「第3のインターネット生活空間を作り出す車両」を掲げており、コネクテッド技術などを駆使したサービスにも期待が寄せられる。
自動運転に関する具体的な取り組みは不明だが、2016年に米カリフォルニア州の道路管理局(DMV)から自動運転の公道走行許可を得るなど、高い関心を持っているものと思われる。
2021年1月には中国の吉利控股集団と戦略的パートナーシップを交わし、中国市場向けに台湾Foxconnと吉利の合弁によるOEM生産サービスを利用する可能性を探るとしている。
▼Faraday Future公式サイト
https://www.ff.com/
【参考】Faraday Futureについては「かつての「Nextテスラ」上場!自動運転EV開発のFaraday Future」も参照。
■Canoo(カヌー):最初の量産モデルにはレベル2を搭載
2017年設立の米EVメーカーであるCanoo(ティッカーシンボル:GOEV)。Faraday Futureで創業者と対立した幹部が退社後に立ち上げた、ある意味因縁のある企業だ。2020年12月に米ナスダック市場にSPAC上場している。2022年に最初の量産モデルを発売する予定だ。
最大300マイルの走行を達成できるバッテリーと自己完結型の電気プラットフォームアーキテクチャを全モデルで共有するなど、生産コストを抑えたビジネスモデルで手ごろな価格の実現を図る。コミットメントフリーのサブスクリプションサービスも考えているようだ。
自動運転のような専門知識を必要とする分野においては、各分野のリーダーと協力して最新のテクノロジーを車両に統合し、最高の製品体験を提供するパートナーシップ戦略を採用する方針だ。
初の量産モデルはレベル2を実装予定で、「NVIDIA DRIVE AGX Xavier」を搭載する。NVIDIADRIVEアーキテクチャにより、高度な機能が利用可能になるという。また、2020年7月には、ADAS向けに「BlackBerry QNX OS」を採用することも発表されている。
自動運転開発はパートナー企業に依存するという割り切った戦略は、かえって話がまとまりやすい。サブスクやシェアサービスなど、費用を抑えた形で意外と早く自動運転サービスを社会実装する可能性もありそうだ。
▼Canoo公式サイト
https://www.canoo.com/
【参考】Canooについては「米EVスタートアップCanoo、自動運転レベル2車両でBlackBerryのOS採用」も参照。
■Karma Automotive(カルマ・オートモーティブ):開発中のレベル4バンを発表
2014年設立の米EVメーカー。経営破綻したFisker Automotiveを買収・リブランドする形で再出発し、Revero GTなど高級志向のハイブリッドやプラグインハイブリッドモデルなどをすでに製品化している。2021年にはBEVモデルも発売したようだ。
EV設計などのエンジニアリング事業にも力を入れており、2020年3月には自動運転にも対応可能な汎用性の高いシャーシ「Karma E-FlexPlatform」の開発・導入を発表した。
同年4月には、開発プロジェクトの一環としてこのプラットフォームを活用したレベル4の自動運転バンも発表している。NVIDIA DRIVE AGX Pegasusを搭載するほか、自動運転ソフトウェアプラットフォームやセンサースイートは中国スタートアップのWeRideが提供している。
同社は、NVIDIAやWeRideなどのテクノロジーリーダーと協力することで、より高速で効率的な独自の市場ソリューションを提供する計画を打ち出している。
▼Karma Automotive公式サイト
https://www.karmaautomotive.com/
■【まとめ】新興勢力ひしめくEV勢が自動運転分野でも台頭?
以下がこの記事で紹介した10社の時価総額(2022年9月時点)だ。※企業名のあとの()内はティッカーシンボル。
企業 | 時価総額 |
Tesla(TSLA) | 9,425億ドル |
Rivian(RIVN) | 321億ドル |
Xpeng(XPEV) | 121億ドル |
Lucid(LCID) | 260億ドル |
NIO(NIO) | 305億ドル |
Li Auto(LI) | 228億ドル |
WM Motor | 50億ドル |
Faraday Future | 26億ドル |
Canoo(GOEV) | 6億ドル |
Karma Automotive | データなし |
テスラやXpengなどのように自社開発を進めるメーカーもあれば、Canooのようにパートナーシップ戦略で効率よく自動運転の実装を目指すメーカーもあることがわかった。いずれにしろ、将来的な自動運転化を見据えていることに違いはない。
また、XpengやNIOのようにレベル3技術が完成の域に達したとみられるメーカーも出始めている。具体的な技術水準は不明だが、法規制の問題がクリアされれば自動運転分野においても台頭してくることが予想される。
多くの新興勢力がひしめくEV勢には、従来の自動車業界の常識にとらわれない戦略で業界地図を更新していく勢いがありそうだ。
■関連FAQ
2022年3月時点では実現していない。いずれ、FSDという有料オプションを無線アップデート(OTA)する形で実現する見込みだ。
アメリカのEV専業メーカーとしては、TeslaやRivian、Lucidなどが挙げられるが、開発期間の長さで言えばTeslaが圧倒的だ。
XpengやNIO、Li Autoなどが挙げられる。いずれも独自の自動運転システムを開発中だが、まだ市販車への搭載には至っていない。今後、これらの企業は実証実験が加速させていくものと考えられる。
EVを自動運転タクシー車両として使うことを考えると、1回の充電で走行な可能な航続距離が短いと、効率良く無人タクシーとして稼ぐことができなくなるため、課題の1つになると考えられる。頻繁に充電を行う必要があるからだ。航続距離の問題はEVにおける普遍的な課題と言えるが、完全自動運転化を視野に入れた場合にもネックとなる。
(初稿公開日:2021年11月20日/最終更新日:2022年9月22日)
【参考】関連記事としては「自動運転が可能な車種一覧(2021年最新版)」も参照。