ロシアのIT大手Yandex(ヤンデックス)が、着々と自動運転開発を進めている。ロシア版グーグルとも言われる事業戦略は自動運転分野においても似通っており、ロシア、米国、イスラエルを股に掛けたグローバルな展開で虎視眈々と事業シェアの拡大を図っているようだ。
この記事では、Yandexによる自動運転開発の取り組みを年代順に追っていく。
記事の目次
- ■Yandexの概要
- ■2017年5月:自動運転プロジェクト発表
- ■2018年2月:モスクワの公道で実証開始
- ■2018年8月:イノポリスで自動運転配車サービス実証開始
- ■2018年11~12月:米ネバダ州とイスラエルで走行ライセンス取得
- ■2019年3月:現代モービスとパートナーシップ締結
- ■2019年10月:公道実証走行距離が100万マイル突破
- ■2019年10月:北米国際自動車ショーで自動運転タクシーサービス提供を発表
- ■2019年11月:デリバリーロボットのテストを開始
- ■2019年12月:LiDARの独自開発を発表
- ■2020年9月:自動運転開発部門をスピンオフ
- ■2021年4月:Yandex.Roverが米国に上陸 7月には大学構内での配達も
- ■2021年7月:業界最大級のデータセット公開
- ■【まとめ】グローバル展開やパートナーシップの動向に要注目
■Yandexの概要
Yandexは、前身となるArcadia 、CompTek 時代の1997年に検索エンジン「Яndex-Web」を発表し、現在につながるインターネット事業に本格着手した。2000年に社名を現在の「Yandex」に変更し、さまざまなウェブサービスを展開していく。
モビリティ関連では、モバイル配車サービス「Yandex.Taxi」を2011年に開始し、以後カーシェアリングサービス「Yandex.Drive」や飲食料品のデリバリーサービス「Yandex.Eats」などに拡充していく。
自動運転開発は2016年、後に自動運転開発企業「Yandex Self Driving Group」でCEO(最高経営責任者)を務める同社エンジニアのDmitry Polishchuk氏の発案のもと水面下で始まった。自動運転開発プロジェクトは2017年5月、Yandex.Taxiが自動運転車のプロトタイプとともに公表している。また同時期、配車サービス大手Uberの東欧事業とYandex.Taxiを事業統合する計画も発表し、これが現在の自動運転事業につながっていく。
同社はこのほか、車載インフォテインメントソリューションを提供するコネクテッドサービス「Yandex.Auto」を2017年に発表するなど、自動車分野への進出を強めている印象だ。
■2017年5月:自動運転プロジェクト発表
Yandexのオンデマンド輸送サービスYandex.Taxiは2017年5月、トヨタ・プリウスを独自改造した自動運転車の公開とともに自動運転プロジェクト「Self-Driving Project」を発表した。
マッピングやリアルタイムナビゲーション、コンピュータービジョン、オブジェクト認識など、これまで同社が培ってきたさまざまな技術を駆使し、レベル5のシステム実現を目指すとしている。
■2018年2月:モスクワの公道で実証開始
Yandex は2018年2月、自動運転の公道実証をモスクワ市内で開始した。雪深いエリア・時期での公道デビューとなったが、セーフティドライバー同乗のもと、雪道や道路標識などの画像を含む大量のデータを収集し、さまざまな道路課題や気象条件に対応可能な普遍的テクノロジーの確立を目指す方針としている。
同年夏には、モスクワからカザンまでの780キロに及ぶ高速道路の走行も実施した。11時間かけ、このうち99%を自動走行したという。
■2018年8月:イノポリスで自動運転配車サービス実証開始
Yandex.Taxiは2018年8月、ロシア連邦タタールスタン共和国のイノポリスで自動運転ライドシェア(タクシー)の実証に着手した。同市は連邦内有数の科学特区として知られ、当初はセーフティドライバーが同乗した2台の自動運転車を配備し、約100人の住民を対象に大学やスタジアム、住宅街区、ビジネスセンターなど複数の目的地まで無料で移動サービスを提供した。
ユーザーのフィードバックによってサービス改善を図りながら目的地や車両を追加し、セーフティドライバーなしの運行を目指す方針だ。
同年10月には、サービス実証エリアをモスクワのスコルコボ地区にも拡大した。2地点における乗車回数は、半年後の2019年2月には2,300回を超えたという。
■2018年11~12月:米ネバダ州とイスラエルで走行ライセンス取得
Yandex.Taxiは2018年11月、米ネバダ州における自動運転車の走行ライセンスを取得し、CES2019に合わせてラスベガスの公道で走行デモンストレーションを行う計画を発表した。
世界最大の技術見本市「CES 2019」では、事前に2週間かけて走行ルートをマッピングし、ロシアと異なる交通ルールや標識などを学習したという。
一方、同年12月にはイスラエルのテルアビブでも走行ライセンスを取得したことを発表した。海外での自動運転実証を本格化し、さまざまな地理的条件や交通状況を学習することでスケーラブルかつ普遍的な自動運転システムの開発を加速する構えだ。
2019年末までに車両を10台に増やし、総走行距離を伸ばして多くのデータを収集し、ソフトウェアのアップグレードを図っていくとしている。
合わせて、Yandex.Taxiによる配車サービスエリアも拡大を図っており、これまでに欧州やアフリカなど15カ国で事業展開しているという。
■2019年3月:現代モービスとパートナーシップ締結
Yandex.Taxiは2019年3月、韓国現代自動車(ヒュンダイ)グループ傘下のサプライヤー・現代モービスと自動運転開発に向けパートナーシップを結んだと発表した。
両社は、Yandexの自動運転技術と現代モービスの豊富な経験を組み合わせ、レベル4及びレベル5の自動運転車の制御システムを共同開発する。また、音声認識やナビゲーション、マッピングといったYandexのテクノロジーを活用する車載製品の開発など、他の分野にも協力関係を拡大する可能性もあるとしている。
第1段階としては、ヒュンダイまたは起亜の量産モデルをベースにした自動運転プロトタイプ車両の開発を進めていく。同年7月には、ヒュンダイの中型セダン「ソナタ」をベースにしたプロトタイプを公開しており、2020年にも自動運転タクシー実証に導入していく計画としている。
■2019年10月:公道実証走行距離が100万マイル突破
Yandex.Taxiは2019年10月、公道実証走行距離が100万マイル(約160万キロ)に達したと発表した。
これまでにモスクワ、テルアビブ、ラスベガス、スコルコボ、イノポリスで走行している。50台規模の車両で1週間に8万マイル(約13万キロ)超のペースで実証を重ねている。2019年末までにフリートを100台規模まで倍増する予定という。
【参考】関連記事としては「ロシアのYandex、打倒Waymoへ自動運転車100台投入の計画」も参照。
ロシアのGoogleことYandex、打倒Waymoへ自動運転車100台投入か https://t.co/N89ofEgsnI @jidountenlab #Yandex #自動運転 #ロシア
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) June 13, 2019
■2019年10月:北米国際自動車ショーで自動運転タクシーサービス提供を発表
Yandex.Taxiは2019年10月、北米国際自動車ショー(NAIAS)の開催に合わせて米ミシガン州が実施する「NAIAS 2020ミシガンモビリティチャレンジ」のデモンストレーション実施企業に選定されたと発表した。
Yandexのほか、ContinentalやNAVYA、Local Motors、AutoGuardian by Smart Coneが選定されており、NAIASに合わせデトロイトで自動運転シャトルバスやインテリジェントインフラストラクチャなどの試験運用を行う。Yandexはヒュンダイ・ソナタを改造した自動運転タクシー10台を導入し、サービスとデモンストレーションを行うとしている。
■2019年11月:デリバリーロボットのテストを開始
Yandexは2019年11月、小型貨物用の自律配送ロボット「Yandex.Rover」の公道実証を開始したと発表した。
宇宙探査装置にちなんで名づけられたYandex.Roverはスーツケースほどのサイズで、複数のオフィスビルやレストランなどがあるYandex本社敷地内で実証を重ねてきた。
公道実証では、食料品配達サービス「Yandex.Lavka」やオンラインマーケットプレイス「Beru」の商品配送などに活用し、ラストワンマイルのニーズと課題に対応するとしている。
■2019年12月:LiDARの独自開発を発表
Yandexは2019年12月、開発中のLiDARの存在を明らかにした。2種類のLiDAR開発を進めており、1つは120度の視野角を持ち、車両前方のオブジェクトの詳細なビューを提供可能なソリッドステート式で、もう1つは車両の周囲360度のビューを提供するタイプという。
現在のプロトタイプはすでにサードパーティの既存デバイスの半分のコストを達成しており、大量生産することで最終的にはセンサーのコストを最大75%節約できるとしている。
また、独自のカメラの開発・設計も進めており、LEDライトをちらつきなしで処理する技術などを開発したという。
■2020年9月:自動運転開発部門をスピンオフ
YandexとUberは2020年9月、自動運転開発を手掛けてきた部門「Yandex Self-Driving Group(YandexSDG)」を配車サービスから独立・分社すると発表した。
YandexはYandexSDGに1億5,000万ドル(約165億円)を投資し、YandexSDGのUber株式の一部も購入する。Yandexがこれまで同部門に投資した累積額は約6,500万ドル(約72億円)という。
YandexSDGの自動運転車はこれまでにロシア、イスラエル、米国の公道を400万マイル(約640万キロ)以上走行しており、2020年末までにフリートを200台に拡大し、取り組みを加速させていく方針としている。なお、総走行距離は、2021年3月に1,000万キロを超えている。
■2021年4月:Yandex.Roverが米国に上陸 7月には大学構内での配達も
2019年に実証を開始したYandex.Roverは、モスクワやイノポリス、スコルコボと配送エリアを拡大し、レストランや食料品店、オフィスからの配達を実施してきた。でこぼこに積もった雪上を6輪のタイヤでしっかり走破し、寒冷地ながら最大10時間の稼働を達成したという。2020年2月までに1,500回の配達を完了している。
2021年4月には米国進出を果たし、ミシガン州アナーバーのレストランからの配送を行っている。また、同年7月には、フードデリバリーなどの配送プラットフォーム事業を手掛ける米Grubhubと複数年に渡るパートナーシップを交わし、各所でサービス開始することを発表した。
Grubhubは全米の250超の大学キャンパスと提携しており、秋ごろを目途に一部の大学でキャンパス内外からのロボット配送をスタートする計画としている。
■2021年7月:業界最大級のデータセット公開
YandexSDGは2021年7月、業界最大級の自動運転データセットをリリースしたと発表した。米国、イスラエル、ロシアのさまざまな都市で収集した60万シーン(1,600時間以上の走行)を収めており、位置座標や速度、加速度などのパラメータ、自車周辺の車両や歩行者を含むHDマップ、信号機、トラックなどを含んでいる。
また、オックスフォードとケンブリッジの研究者の協力のもとデータセットを活用した機械学習のコンテストも行っているようだ。
■【まとめ】グローバル展開やパートナーシップの動向に要注目
グーグルに比べると開発着手時期は遅れているものの、グローバル展開や自動配送ロボット領域などでは先行しており、この数年で一気に頭角を現してきた印象だ。積雪地域における豊富な実証経験も大きな武器になるものと思われる。
また、各種自動運転サービスの本格実用化を見据え、ヒュンダイグループ以外のOEMとのパートナーシップに着手していく可能性も考えられる。業界との接点をどのように確保しながらグローバル展開を図っていくのか、今後の動向に要注目だ。
▼Yandex公式サイト
https://yandex.com/
▼Yandex公式Blog
https://yandex.com/company/blog
※自動運転関連企業の取り組みを年表化した記事は「タグ:年表」よりまとめて閲覧頂けます。
【参考】関連記事としては「Velodyne Lidarの年表!「自動運転の目」ベンチャーの草分け」も参照。