中国配車サービス大手のDidi Chuxing(滴滴出行)とスウェーデンの自動車メーカー・ボルボカーズはこのほど、自動運転分野で戦略的パートナーシップを結んだ。DiDiのロボタクシーの試験フリート向けに、NVIDIA DRIVE AGX Pegasusを搭載したXC90を導入し、DiDiの自動運転ハードウェアプラットフォームと統合を図っていく。
この記事では、自動運転タクシーの実現に向けたDiDi×ボルボカーズ×NVIDIAの強力トリオの取り組みに迫っていく。
記事の目次
■DiDiの自動運転分野における取り組み
2030年までに100万台の自動運転車を導入
5億人以上が利用する配車プラットフォーム事業を軸に成長を続けるDiDiは、2016年に専門部門を立ち上げて自動運転開発に着手し、2019年には部門を独立させてDiDi Autonomous Driving社を設立し、開発を加速させている。
2030年までに100万台の自動運転車を導入するという壮大な計画のもと、上海や広州などで自動運転タクシーの公道実証を進めている。
【参考】Didi Chuxingについては「ライドシェア無人化の衝撃!中国DiDi「自動運転車100万台」宣言」も参照。
ライドシェア無人化の衝撃!中国DiDi「自動運転車100万台」宣言 https://t.co/CzjnFXzXm5 @jidountenlab #自動運転 #ライドシェア #DiDi
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) June 30, 2020
■NVIDIAとの関わり
DiDi、ボルボカーズともにNVIDIAとパートナーシップ
DiDiは2019年12月、NVIDIAのGPUとAIテクノロジーを活用し、自動運転とクラウドコンピューティングのソリューションを開発すると発表した。自社データセンターでNVIDIAのGPUによって機械学習アルゴリズムをトレーニングし、自動運転レベル4の推論のためにNVIDIA DRIVEを使用している。
一方、ボルボカーズは2016年からNVIDIAのソリューションを活用しており、2017年6月にはスウェーデンの部品メーカーAutolivとともにNVIDIAと提携することを発表している。AI車載コンピューティングプラットフォームを開発基盤として使用し、自動運転車の先進システムとソフトウェア開発を進めていくこととしている。
2018年10月には両社の協力関係を強化し、次世代のスケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー2(SPA 2)プラットフォームを採用する新型車にNVIDIAの「DRIVE AGX Xavier」テクノロジーを実装することを発表した。
2021年4月には、自動運転機能を備える次世代車両にNVIDIA DRIVE Orinを採用すると発表した。2022年発表予定のXC90にOrinを搭載する内容だ。
OrinはXavierとソフトウェア互換性があり、これまでの開発投資を活用したままバージョンアップを図ることができる。拡張性も高く、多様な構成に対応できるほか、セーフティドライバーのいない無人運転も可能にする。
Xavierを搭載したコアコンピューターがベースソフトウェアやエネルギー管理、ドライバー支援など車内のコア機能を管理し、Orinを搭載した自動運転コンピューターと連携する。OrinはLiDAR処理などのコンピューティングを多用する作業に専念し、自動運転に必要な高い安全性の整合性レベルを提供するという。
■DiDiとボルボカーズのパートナーシップ
DiDiとボルボカーズは、2020年の上海におけるパイロットプログラムでもXC60を提供・使用しており、セーフティドライバー監視のもと自動運転タクシーの実証を進めている。
新たな提携では、ステアリングやブレーキなどの機能にバックアップシステムを備えたXC90をDiDiに提供し、自動運転に必要なソフトウェアとハードウェアの統合を図っていく。具体的には、DiDi Autonomous Drivingの最新の自動運転ハードウェアプラットフォーム「DiDi Gemini」を統合し、最終的にドライバーレスの自動運転技術を確立して自動運転タクシーの商用サービスに導入していく方針だ。
このXC90にはNVIDIA DRIVE AGX Pegasusが搭載されており、Pegasus上に構築されたDiDiGeminiは毎秒700兆回の処理性能を発揮するという。最大50個の高解像度センサーやASIL-D規格に準拠したフォールバックシステムを備えており、自動運転の安全性を高めるため多層に渡る冗長性を構築して自動運転の安全性を高めている。
また、NVIDIA DRIVEプラットフォームにより、OTA(Over the Air)による継続的なアップデートも可能としており、将来に向けた性能向上や機能の拡張などにも対応している。
【参考】DiDiとボルボカーズの取り組みについては「ボルボカーズのXC90、DiDiの自動運転テスト車に!以前はUberも採用」も参照。
ボルボカーズのXC90、DiDiの自動運転テスト車に!以前はUberも採用 https://t.co/XSd8Y1pJWa @jidountenlab #Volvo #XC90 #自動運転 #DiDi
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 23, 2021
■NVIDIAの強み
自動運転タクシー開発企業で採用続くNVIDIA
DiDi、ボルボカーズともに自動運転開発においてはNVIDIAのソリューションを活用しており、このためシステムの統合なども円滑に進められるものと思われる。
DiDiの配車プラットフォームや運行データ、ボルボカーズの車両開発能力、そして各社の自動運転開発技術がNVIDIAプラットフォームを通じて統合されるイメージだ。
自動運転タクシー関連では、DiDi以外にも米ZooxやVoyage、GM Cruise、Aurora Innovation、ロシアのYandex、中国のWeRide、Pony.ai、AutoX、Momentaなど多くの企業がNVIDIAのソリューションを採用している。
NVIDIAによると、自動運転タクシーは現在の最先端車両と比較し100倍のセンサーデータを処理する必要があるという。指数関数的にソフトウェアの複雑さが増す中、取り扱うデータも今後大幅に増加していくことが予想されるため、データ処理能力に優れ多くのプラットフォームサービスを提供しているNVIDIA製品に人気が集中しているようだ。
進化し続けるNVIDIAのシステムオンチップ
NVIDIAは2016年、自動運転開発向けの新たなシステムオンチップとして、毎秒20~30兆回の演算能力を発揮する「Xavier」を発表した。翌2017年に発表した世界初のAIコンピューター「Pegasus(当時はNVIDIA DRIVE PX Pegasus)」は、毎秒320兆回の演算能力を発揮するモデルとして大きな注目を集めた。
現行の最新プラットフォームは、Orinと名付けた新しいシステムオンチップをベースとした「NVIDIA DRIVE AGX Orin」で、2019年12月に発表された。Xavierの7 倍近くとなる毎秒200兆回の演算能力を実現している。
レベル2から完全自動運転となるレベル5まで拡張可能なプラットフォームで、前世代との互換性が確保されているため継続した開発を行うことができる。Orin搭載車両の生産は2022年に始まる予定だ。
2021年4月には、現在開発を進める「NVIDIA DRIVE Atlan」の概要を発表している。最新のGPUアーキテクチャやArmのCPUコア、ディープラーニングとコンピュータービジョンアクセラレータを活用することで、毎秒1000兆回を超える処理能力を発揮する。
AIとソフトウェアを最新のコンピューティングやネットワーキング、セキュリティと融合させ、前例のないレベルのパフォーマンスとセキュリティを実現するとしている。2023年にサンプリングを開始し、2025年の生産車両への搭載を予定している。
【参考】NVIDIAについては「自動運転業界、NVIDIA DRIVEの採用加速!6年間で80億ドル以上の受注額」も参照。
自動運転業界、NVIDIA DRIVEの採用加速!6年間で80億ドル以上の受注額 https://t.co/RksHX2YB9g @jidountenlab #自動運転 #NVIDIA #採用
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 25, 2021
■【まとめ】自動運転実現の立役者「NVIDIA」の進化はまだまだ続く
高度な基本性能や拡張性、OTAによるアップデート、開発を促進するプラットフォームコンテンツなど、開発企業の声に応え続ける数々の製品やサービスが支持を集めているのだ。
NVIDIAのソリューションの進化はまだまだ続く見込みで、自動運転開発分野において一大勢力と化している同社の快進撃は今しばらく止まりそうもない。自動運転タクシーに代表される自動運転モビリティの実現を陰で支える立役者の今後の躍進に期待だ。
【参考】関連記事としては「世界で自動運転トラックの開発・実証加速!「黒子」はNVIDIA」も参照。