技術者の売り手市場が続く自動運転業界。新型コロナウイルスの影響が懸念される中でも、各社が技術者の採用に力を入れ、人材確保に務めている。自動運転開発競争の最初のピークを迎えつつある今、開発に熱心な企業はそれだけ多くの即戦力技術者を求める傾向が強い。
業界全体が技術者を求める中、特に採用に積極的なプレイヤーはどの企業なのか。完成車メーカー、自動車部品メーカー、本業の一角として自動運転に携わる企業、ベンチャーに大別し、各企業群の動向を探ってみた。
記事の目次
■完成車メーカー:幅広い分野で随時キャリア募集 説明会なども実施
トヨタ自動車はキャリア採用特設サイトを設け、積極的な採用活動を行っている。業界のカギを握るキーワード「CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)」を通して現在の開発動向を示唆するほか、社員インタビューや社内メディアなどで職場環境や社風などを公開している。
技術職では、自動運転技術の研究をはじめコネクテッドカーによるカメラ画像データ活用開発、ビッグデータを活用した新サービス開発、クラウドIoTプラットフォーム開発、MaaS車両の運行管理システム開発など多岐に渡る。
一方、ホンダは本田技研工業、本田技術研究所、ホンダエンジニアリング、ホンダアクセスの4社で一括募集を行っており、次世代モビリティの制御開発やコネクテッドカー・サービスの研究開発、センシングや画像認識領域における自動運転システムの研究開発など、ロボティクスや四輪、二輪など各事業で募集している。
日産のキャリア技術職も幅広く募集しており、無人自動運転車両の車両およびプラットフォーム計画エンジニア、認知科学・人間工学領域研究者、サイバーセキュリティエンジニア、自動運転ソフトウェアエンジニアなど、約110件の職種に分類して人材を求めている。
スバルは航空宇宙カンパニーの設計・生産技術や社内システムエンジニア、先行研究開発、コネクテッド・テレマティクス関連、アイサイト関連など大別して募集をかけている。すぐに応募しない人を対象に、経験が生かせるポジションで募集した際に声かけしてくれるキャリア登録も実施しているようだ。
各社とも転職者向けの説明会や選考会、セミナーを定期的に実施しているため、これらのイベント更新情報を随時チェックし、直接話を聞く機会を活用するのも手だ。
【参考】関連記事としては「自動運転関連の求人市場、前年同月比9.1%増とプラスを維持 2020年4月末時点、コロナ影響下でも」も参照。
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■自動車部品メーカー:開発分野広く自動車メーカーに劣らぬ採用体制完備
先端技術の開発と構造改革を求められるサプライヤーも技術者の採用に本腰を入れている。世界最大手の一角・デンソーは、キャリア入社した転職者へのインタビューアンケート結果、キャリアを支援する教育体制、電動化エンジニア特集、ADASや自動運転、コネクテッド技術の特集ページなどを設け、営業から自動運転のソフトウェア開発まで100を軽く超える職種を募集している。MaaS分野のプリセールスや基盤開発、ソフトウェア開発などにも力を入れている。
アイシン精機、アドヴィックス、ジェイテクト、デンソーのトヨタグループ4社が2019年に設立した新会社J-QuAD DYNAMICSへの出向の道もあるようだ。統合制御ソフトウェアの開発などを担う技術者が集う企業で、自動運転ソフトウェア開発の最前線に立てそうだ。
独ボッシュの日本法人も、自動運転システム開発エンジニアやセキュリティエキスパート、自動駐車支援システムのCAD、レーダー認識アルゴリズムのシステム開発エンジニアなど多くの職種を随時募集している。仏ヴァレオの日本法人も同様で、研究開発を担うシステムエンジニアなどを募集しているようだ。
日立オートモティブシステムズは、自動運転における地図ユニットやロケータの設計開発をはじめ、既存のステアリング事業やソフトウェア設計においても、自動運転に対応したEPSの開発などを急務として技術者の採用を進めている。
自動車メーカーやティア1サプライヤーなどは開発分野が非常に広く、常に最先端の技術が求められるため、エンジニアのキャリア採用を随時行うのが基本となっている。ティア2なども意欲のある企業は同様に採用活動を行っている。
特に採用に力を入れている企業はdodaやリクナビNEXTなどの転職情報サイトも活用しているため、各企業の採用意欲を図る一つの指標となりそうだ。
■自動運転関連企業:特定分野で専門技術を生かして自動運転開発に貢献
本業の一角として自動運転関連技術・製品を開発している企業も採用に熱を入れている企業が多い。技術商社として名を馳せるマクニカは、業界において自動運転実証車両の開発支援や技術的提案などさまざまなサービスを提供しており、自動運転関連の最先端ソフトウェア製品の技術企画や提案、構築、運用設計、技術コンサルティングなどを担う人材を募集している。
カメラとLiDARのセンサーフュージョン技術開発などを進める京セラは、2015年にソフトウェア研究所を新設するなど研究開発に力を注いでおり、画像処理関連エンジニアをはじめ自動運転関連システムの開発なども新たに募集を開始している。
日立グループの日立ソリューションズ・テクノロジーは、自動運転向けアプリケーション開発の需要の高まりを受け、AIや画像処理・並列処理アプリの開発を自発的に行える人材を募集している。
オートモーティブ事業を立ち上げ、タクシー配車アプリや個人間カーシェアなどから日産との自動運転サービス開発まで事業の幅を広げているDeNAは、同社の既存事業や新規事業を成功させるために必要なシステム、ソフトウェア、インフラストラクチャなど、技術面・サービス面を問わずあらゆる課題に取り組める人材を募集している。自動運転を構成する要素技術の開発より、自動運転を社会に生かすための技術が問われそうだ。
このほかにも、パナソニックやソニーなど多岐に及ぶ分野で活躍する企業も自動車・自動運転分野の開発を進めており、イメージセンサーやセンサーフュージョン技術の開発者などを募集している。
各社が取り組みを強める分野で専門性を持った人材を求める傾向が強く、自動運転開発において携わりたい要素技術などが明確な人は、同分野に力を注ぐ関連企業にも選択肢を広げることができそうだ。
■ベンチャー系:雇用増加は事業実現の兆し
スタートアップ・ベンチャー企業では、パーソナルモビリティの開発に力を入れるWHILLが精力的だ。歩道版Uberを目指し、空港や遊園地などでMaaSを提供するエンジニアを統括するシステム開発部長をはじめ、MaaSサービスの企画・開発やアプリ開発エンジニア、サーバーサイドエンジニア、自動運転エンジニア、新規事業開発担当など、事業拡大を見据え広範囲の人材を募集している。
エンジン制御・システム制御技術を核にあらゆる領域で研究開発を進めるAZAPAは、自動化や予測制御アルゴリズム構築などを手掛ける制御リサーチャー、モデルベース開発技術を生かした制御エンジニアなど、新しい価値を創造していける人材を募集している。
ロボット技術を核に自動運転技術の実用化を進めるZMPも、自動運転・センサーフュージョンをはじめ画像認識エンジニアやディープラーニング・人工知能エンジニア、自動運転関連の組込ソフトエンジニア、高精度地図の開発エンジニアなど、全般的に採用を進めている。外国人エンジニアも多く席を置いており、社内公用語は英語のようだ。
自動運転OS「Autoware」でグローバルな活躍を見せるティアフォーも自動運転アルゴリズムに関するPlanning系研究者やControl系研究者をはじめ、さまざまな職種で人材を募集している。絶対的な得意分野、多様な価値観、繊細なこだわりを持ち、同社のミッションに共感し、ビジョンを共有できる人材などを求めているようだ。
日本発の空飛ぶクルマを開発するSkyDriveは、事業を推進するCOO(最高執行責任者)をはじめ、テストパイロットやシステム開発、ソフト開発、アプリ開発など、幅広い分野で人材を募集している。
スタートアップ・ベンチャー系は、設立当初は理念を共有できるチームづくりを進め、事業が具体化し実現に向けたカウントダウンが始まった段階で具体的な募集を広く始めることが多い。
WHILLは事業を本格化させる段階に入ったことがうかがえ、近年中に大きな躍進を遂げる可能性が高そうだ。
【参考】ZMPについては「自動運転ベンチャーZMP、新ロボットで警備業界に参入 「PATORO」を発表」も参照。ティアフォーについては「自動運転開発のティアフォー、国内最大規模のシリーズA調達額をさらに積み増し」も参照。
■【まとめ】売り手市場続く自動運転業界 チャンスはこれから
意欲的に開発を進める企業は人材確保にも意欲的であり、自動運転業界における活躍が目立つ企業は当然のようにキャリア採用を進めている。また、新卒採用だけでは人材を賄いきれない企業は転職情報サイトを併用する傾向が強い。それだけ自動運転業界に即戦力となる技術者が求められているということであり、技術者の売り手市場はいましばらく続きそうだ。
自動運転開発はまだまだ裾野を広げており、開発に携わるチャンスも拡大している。AIやセンシングなどの分野では技術力が高く評価される時代がまだまだ続く。じっくりと武器を磨き上げ、自身が勝負する舞台を選択してもらいたい。