移動の変革は3軸で進む 「自動運転」「MaaS」「陸から空」

実用化始まる自動運転、MaaSやエアモビリティも実証進む





モビリティ業界では現在、「移動革命」がキーワードと化している。実用化に向け開発競争が続く自動運転や、移動をサービス化し利便性を追求するMaaS(Mobility as a Service)によって、移動の在り方が大きく変わろうとしているのだ。







かつて世界では、馬を利用した移動のために道が切り拓かれ、馬車の普及によって道はきれいに舗装された。19世紀には、鉄道の登場によって人やモノの大量移動が可能になった。そして自動車の登場が人々の移動にさらなる自由と利便性をもたらし、今日の交通社会を形作った。

この交通史に加わるだろう新たな1ページは、どのようなものなのか。「自動運転」と「MaaS」、そして開発が加速するエアモビリティによる「空の移動」を含め、3軸による移動の変革に迫ってみよう。

■自動運転による移動革命
レベル3の実用化がスタート

日本国内では2020年4月に改正道路交通法、及び改正道路運送車両法が施行され、自動運転レベル3を市場に送り出す環境が整った。レベル3は、高速道路など特定のエリアにおいて、速度や天候など一定の条件が整った際に自動運転を実現するシステムだ。こうした条件をODD(運行設計領域)と言い、ODDから外れた際は速やかにドライバーが手動運転をしなければならない。

このレベル3においては、特に移動に変革をもたらすほどのインパクトは感じられないだろう。自動運転中に可能となるのはスマートフォンやテレビの視聴に限られ、いつODDを外れるかわからない状況下に置かれているため、大きく気を緩めることはできないからだ。

ただし、レベル3の登場が自動運転に対する認知度を高め社会受容性を醸成する観点と、ここで培われた技術や経験がより高度な自動運転の実現に資する観点から、レベル3が移動の変革の礎となることを忘れてはならない。

【参考】自動運転レベル3については「【最新版】自動運転レベル3の定義や導入状況は?日本・世界の現状まとめ」も参照。

レベル4が全国の交通網を再形成する

一方、自動運転レベル4も移動サービスを中心とした実用実証が2020年中に始まる見込みだ。

レベル4は、ODD内においてドライバーを必要としない自動運転を実現するものだ。言い方を変えれば、ODDを外れることがない条件下の走行に限定すれば、終始ドライバーなしの無人自動運転を達成することができる。例えば、特定のエリア内のみを制限速度をしっかり守って走行するケースなどだ。

このため、レベル4は路線バスや特定エリアのみを走行するタクシーなど、移動サービスへの導入を目指す動きが活発だ。走行ルートやエリアを事前に限定することが可能で、かつドライバーの人件費を省くことでビジネス性が生まれるからだ。

交通サービスにおける人件費は決して無視できず、ドライバー不足が慢性化する交通業界においては喉から手が出るような技術と言える。特に、赤字前提の公共交通の運営を余儀なくされている多くの地方にとっては、起死回生の技術となり、今まで足がなくて住みづらかった地方のデメリット解消にもつながっていく。

また、地方における公共交通の安定確保は、マクロ的視点で見れば全国の交通網が再整備されることになる。全国各地における移動の利便性が高まり、後段で触れるMaaSの形成にも一役買っていくことになるのだ。

この交通網の安定形成が第一の移動革命だ。

アメリカではレベル4の自動運転タクシー、国内でも実証

なお、海外では米グーグル系のウェイモがレベル4による自動運転タクシーをすでに商用化している。米GM・クルーズや中国のWeRide、Pony.ai、AutoX、DiDi、百度など実用化目前と思われる企業も多く、2020年中に大きな動きが見られそうだ。

国内では、ZMPや日産×DeNAが実証に力を入れているほか、ティアフォーら5社が2020年夏ごろを目途に自動運転タクシーの実証を行うこととしている。

自動運転バスでは、茨城県境町がSBドライブとマクニカの協力のもと、町内を走る定時・定路線バスに自動運転バスを2020年4月から導入する予定だ。

【参考】自動運転タクシーの取り組みについては「トヨタ製「JPN TAXI」を自動運転化!ティアフォーやJapanTaxi、無人タクシー実証を実施へ」も参照。自動運転バスの取り組みについては「国内初、定路線で自動運転バス!茨城県の境町、SBドライブと」も参照。

移動サービスの低料金化が進む

自動運転技術によって無人走行を可能としたタクシーやバスは、その恩恵を低料金化によって社会に還元する。

導入当初はイニシャルコストをはじめ安全面の不安からさまざまなコストがかさみ、採算面が疑問視される可能性があるが、技術の高度化と社会受容性の高まりを背景に普及段階に入れば、生産コストや安全管理コストは低下し、ビジネス性が高まってくる。

交通網の形成とともに乗車料金の低下が進行し、タクシーやバスなどの利便性が高まる一方、マイカーを所有する必要性は逆に低下していく。必要な時に気軽に利用可能なカーシェアがあれば十分という層が増加するイメージだ。

都市部においては、マイカーの減少により慢性的な渋滞が解消されて道路交通の最適化が進み、好循環を生み出すことも予想される。

「モノ」の移動や「販売」の移動も可能に

自動運転車が運ぶものは、人に限らない。自動運転機能を備えた配送ロボットの開発が進んでいるように、宅配などの物流にも変革をもたらすほか、自動運転車を活用した無人移動販売の登場も予想される。

実証が進められている無人コンビニのように、手に取った商品が自動精算される仕組みと合わせることで、移動を伴う新たな販売形態が生まれる。従来の小売の一部が移動小売形態として新たなジャンルを築く可能性もありそうだ。

■MaaSによる移動革命
各移動サービスがスマホで利用可能に

MaaSは一般的に「あらゆる交通手段を統合し、ワンストップで予約・決済・利用できるようにする概念」を指す。鉄道やタクシー、バス、サイクルシェアなど、さまざまなモビリティを結び付け、利便性を高めていく考え方だ。

例えばA地点からB地点へ移動する際、スマートフォンアプリ一つでさまざまな移動サービスにおける料金や所要時間などを比較し、予約や決済を一括して行うことができるイメージだ。

一昔前は電車もバスもその都度小銭で精算したり切符を買ったりしていたが、現在は交通系ICカードの普及によりスムーズな乗降が可能となった。MaaSではさらに、各エリアにおけるさまざまな移動サービスがスマートフォン一つで気軽に利用できるようになるのだ。

MaaSが進展すれば、各移動サービスを乗り換える交通結節点の在り方なども含め、各事業者や自治体が協調して交通網の再整備を進め、よりシームレスな利用を可能にしていく。

国内では、鉄道やバス事業者などを中心に各地でコンソーシアムを形成し実証を行っているほか、国土交通省などが推進する「新モビリティサービス推進事業」に全国19カ所が選定され、都市型や地方型、観光地型など地域性を生かしたMaaS実証を進めている。

新たなモビリティサービスの導入が促進される

MaaSの普及とともに、モビリティサービスの選択肢も増えていく可能性が高い。カーシェアやサイクルシェアなどの導入が各地で進んでいるが、こうしたシェアリングサービスに向けた新たな移動サービスとして、超小型モビリティなどの導入を見据えた動きもすでに活発化している。

都心部や地方、観光地など、それぞれのエリアに適した新たな移動サービスが誕生し、MaaSに組み込まれていくことで、より発達した交通網が形成されるとともに移動の自由度が高まり、利便性がいっそう向上していくのだ。

MaaSで移動とあらゆるサービスが結びつく

外食であったり観光であったり出勤であったり、人の行動・行為の多くには移動が伴う。MaaSを応用すると、こうした行動なども移動と結び付けていくことが可能になる。

飲食店や観光地などはわかりやすい例で、こうした情報をMaaSアプリ上で位置情報と紐づけることで、移動需要を喚起することができる。クーポンなどを発行することも可能だろう。各店舗などの利用が増えることは、間接的に移動サービスの利用増にもつながるのだ。

病院と紐づけ、診療の予約や精算などを行うことも可能になるかもしれない。海外では、定額制のMaaSを付加した不動産を販売する事例などもある。

未来のMaaSは、各移動サービスを結び付けることに留まらず、あらゆるサービスと移動をも結びつける。社会生活において必要不可欠な「移動」のサービス化は、各交通手段だけではなく「移動」そのものを商品・サービスとして捉えることが肝要になってくるのだ。

自動車の概念が所有から利用へ

大都市圏を中心にマイカー離れが進行しているが、この流れは自動運転やMaaSの浸透によって加速することになる。移動サービスの利便性がマイカーの利便性を上回るためだ。

マイカーの所有がステータスとされた時代はすでに終焉を迎えつつあり、それを象徴するかのように自動車メーカー各社はすでにモビリティサービス分野に力を入れ始めている。

トヨタや日産、ホンダなどは、自社グループでカーシェア事業を本格化させているほか、従来の自動車販売にサブスクリプションを導入するなどさまざまな観点から自動車を活用したサービス化を進めている。

サブスクリプションはカーリースの一形態と捉えると従来と変わりないように思えるが、「月定額で映画見放題」といったネットサービス系のサブスクリプションと同様に考えると、大きな可能性を秘めているようにも感じる。

自動車の概念が「所有」から「利用」へと変わっていく過渡期を迎えた今、さまざまな取り組みが進められているのだ。

■陸から空に向けた移動革命
空路網が整備され、エアモビリティが飛び交う日常に

移動革命のインパクトは陸に留まらず、空にも及ぶ。「空飛ぶクルマ」に代表されるエアモビリティの開発が世界各地で勢いを増しているのだ。

自動運転技術やドローン技術などを駆使した新種のエアモビリティは、垂直離陸を可能とすることで滑走路を必要とせず、離着陸可能な場所が大幅に増加する。また、小型タイプが主流のため、タクシーのようにパーソナルな利用がスタンダードとなる見込みだ。

渋滞から解放され、目的地まで基本的に一直線で飛ぶことができるモビリティの登場はまさに移動革命だ。山や川を飛び越えることはもちろん、距離次第では離島への移動手段にも活用できる。都市部においては、屋上を活用して高層ビルから高層ビルへ移動することなども考えられる。

新たな管制システムの開発や騒音問題、安全性の確保などハードルは高いが、決して未知の技術ではなく、すでに有人飛行の実証なども行われている。

道路網に代わる空路網が整備される日は、そう遠くない将来訪れることになりそうだ。

■【まとめ】自動運転、MaaS、空の移動がベクトルを合わせ、移動革命を起こす

自動運転技術やMaaSが移動サービスに変革をもたらし、交通網の整備や低料金化などを背景に移動における主人公の座を自家用車から奪取する。利用者の増加と利便性の向上が正のスパイラルを成すことで、この傾向はより加速していくことになるだろう。

一方、空の移動もより身近なものとなり、タクシー感覚で空飛ぶクルマに搭乗する……といった日が将来訪れそうだ。空の移動もMaaSに組み込まれるため、自動運転、MaaS、空の移動はそれぞれ個別に進化を図りながらも融合し、移動に革命をもたらすことになるのだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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