MaaSの3類型「都市版」「地方版」「観光型」、それぞれのメリットは?

実現なら住みやすさ向上に貢献





今、まちの住みやすさに注目が集まっている。東洋経済新報社が毎年発表している「住みよさランキング」を見たことがある方も多いと思うが、自分の住むまちが上位にランキングされると、無性に喜ばしく感じる。







それと同時に頭に浮かぶのが、「住みやすさとは何か」という疑問だ。自然環境や教育環境、気候風土、治安、商業立地、医療の充実など、重視する要素は十人十色だが、その中でも交通の利便性に注目している人は多いのではないだろうか。

インフラとしての交通網とともに各交通サービスが充実することで、通勤通学や買い物、病院など日常的に足を運ぶ生活空間は拡大する。つまり、交通利便性の向上がまちの住みやすさに直結するのだ。

この交通利便性を高める取り組みが、現在全国各地で進められている。MaaS(Mobility as a Service)だ。今回はMaaSと住みやすさの観点を中心に、MaaS開発に力を入れる自治体を紹介していく。

■そもそもMaaSとは?

MaaSは一般的に「あらゆる交通手段を統合し、ワンストップで予約・決済・利用できるようにする概念」を指す。電車やバス、タクシー、シェアサイクル、飛行機、船など、あらゆる移動サービスの予約や決済が一つのプラットフォーム、つまり一つのアプリ上で可能になるイメージだ。

MaaSはサービスの統合具合に応じてレベル分けされており、レベル0が統合なし、レベル1が「情報の統合」で、利用者には料金や時間、距離など各移動主体に関するさまざまな情報が同一プラットフォーム上で提供される。乗換案内サービスの「ジョルダン」などがこれに相当する。

レベル2は「予約、決済の統合」で、同一プラットフォーム上で複数の交通機関の交通案内から発券や予約、支払いまでを行うことが可能になる。レベル3は「サービス提供の統合」で、各交通機関が個別に設定していた料金体系などがプラットフォーム上で統合され、一つの運営主体が各移動サービスを提供しているかのようなイメージで利用者がサービスを受けることができるようになる。

レベル4は「政策の統合」で、国や自治体、事業者が、都市計画や政策レベルで交通の在り方について協調していく。国家プロジェクトのような形で推進される最終形態といえるだろう。

【参考】MaaSレベルについては「MaaSレベルとは? 0〜4の5段階に分類」も参照。

■地方版MaaSがもたらすメリット

かつて日本の多くの地域は、鉄道とともに発展してきた。人が住む重点地域同士を結ぶ傍ら、住宅地に適した土地に駅を作り、計画的に新たな都市化を図ってきたのだ。当時は右肩上がりの経済が前提だったため、今では疲弊し過疎化している地域もあるが、交通の要衝となる地域は周辺地域に比べ元気なまちが多い。交通の利便性がまちの住みやすさを決定づける重要なファクターとなっているのだ。

時代を経て、一定の交通インフラが完成した現代においては、都市部を除き鉄道やバス路線などの廃止が目立つようになってきた。いわゆるクルマ社会と人口減少が主な要因だが、クルマ社会は住民を大きく二つに分けた。マイカー所有者と非所有者だ。

マイカー所有者の増加に伴い郊外型の店も増加し、商業地などが分散する一方、マイカー非所有者は足がないため、公共交通に頼った生活をしなければならない。バスをはじめとした公共交通は需要の総数が減る一方、マイカー非所有者の足を確保しなければならない責務から赤字運営となり、自治体からの財政支出に支えられている路線も少なくない。

地方においては負の連鎖が続きそうな状況だが、これを断ち切る可能性を持つのがMaaSだ。基幹となる鉄道やバス路線を軸に、デマンドバスやタクシーなどを効率的かつ利用しやすい形で提供することで新たな需要を喚起し、顧客減に歯止めをかけながらコスト削減に努めることで事業の継続性を確保していくことができる。マイカー非所有者も、やや遠方のスーパーや病院に安心して出かけることが可能になるのだ。

地域の各移動サービスを一つの交通サービスとして捉え、地域の課題解決に結び付けることこそ地方版MaaSの本質と言えるだろう。

■都市版MaaSがもたらすメリット

一方、都市部ではどうか。慢性化する道路渋滞、満員の通勤電車が象徴するように、交通インフラのキャパシティを超える利用者が集まっている。各交通サービスの一層の充実は必須だが、トータルとして考えた場合、輸送効率の低いマイカー利用を限りなく減らし、道路空間を活用した新たな交通サービスの導入を模索するのも一つの手段となる。

いかに効果的・効率的に各移動サービスを運営・連携させていくかが重要で、これもまさにMaaSの本質部分である。また、さまざまなデータをビッグデータとして蓄積し、オープン化することで事業者間の競争が促進され、サービスの向上が進む可能性も見込める。自家用車の減少により、駐車場スペースの有効活用も望めるだろう。

■観光MaaSがもたらすメリット

また、観光地においては、各観光施設と連携したMaaSに期待が持たれる。施設入場料などもアプリ上で一括決済できるほか、営業時間を考慮した時刻表づくりや需要に合わせた増減便など、柔軟な運用によって観光客の足を効率的・効果的にまかない、観光地全体としての満足度を高めていくことができる。

地方と都市・観光地などで交通課題は異なるが、MaaSの導入によってそれぞれ解決の道が見えてくる。交通の利便性を享受することで住民はその地域に安心して住み続けることができるようになる。交通がまちを形成するのは今も昔も変わらず、交通の利便性が増すほど住みやすいまちが形作られていくのだ。

このほかにも、MaaSに交通以外の生活要素を結び付ける取り組みも進み始めている。MaaSを通して利用者に飲食店や観光地の入場料割引などのクーポンを配布する取り組みをはじめ、つくば市が実証する医療MaaSは、バス乗車時に顔認証することによって病院の受け付けや診療費の会計処理も行うことができるようにするシステムとなっている。

また、米国ではマンションの住民に地域交通を一定額まで無料で利用できる交通パスを付与する不動産MaaSも登場しており、立地による不動産の優劣を緩和する方策としても期待できそうだ。

■MaaS導入に積極的な自治体は?

MaaS導入に積極的な自治体として、国土交通省のもと全国各地のMaaSなど新たなモビリティサービスの実証実験を支援し、地域の交通課題解決に向けたモデル構築を推進する「新モビリティサービス推進事業」に採択された19地域が挙げられる。

「大都市近郊型・地方都市型」として採択された地域と事業

①神奈川県川崎市・箱根町「神奈川県における郊外・観光一体型MaaS実証実験」
②兵庫県神戸市「まちなか自動移動サービス事業実証実験」
③茨城県日立市「日立地域MaaS実証実験」
④茨城県つくば市「顔認証やアプリを活用するキャンパスMaaS及び医療MaaS実証実験」
⑤群馬県前橋市「社会実装に向けた前橋版MaaSの実証」
⑥静岡県静岡市「令和元年度静岡型MaaS基幹事業実験」

「地方郊外・過疎地型」として採択された地域と事業

⑦三重県菰野町「こもののおでかけをMaaSで便利にするプロジェクト」
⑧京都府南山城村「相楽東部地域公共交通再編事業」
⑨京都丹後鉄道沿線地域「京都丹後鉄道沿線地域での地方郊外型WILLERS MaaS事業におけるQRシステム導入実証」
⑩島根県大田市「定額タクシーを中心とした過疎地型Rural MaaS実証実験」
⑪広島県庄原市「庄原地区先進過疎地対応型MaaS検討・実証プロジェクト」

「観光地型」として採択された地域と事業

⑫北海道釧路・オホーツク地域自治体などによる「ひがし北海道観光型MaaSにおける移動及び車両データ収集、利活用実証」
⑬福島県会津若松市などの「会津 Samurai MaaS プロジェクト」
⑭静岡県伊豆地域自治体の「伊豆における観光型MaaS実証実験」
⑮三重県志摩市などの「志摩地域観光型MaaS実証実験」
⑯滋賀県大津市などの「大津市中心市街地及び比叡山周遊の活性化を目指した大津市版MaaS実証実験」
⑰山陰地域自治体などの「山陰エリア(鳥取県・島根県)における観光型MaaS実証事業」
⑱香川県高松市などの「瀬戸内の復権へ:海・陸・空の自由な移動網による国際観光先進都市の創造」
⑲沖縄県石垣市・竹富町などの「八重山MaaS化事業【Phase1:観光型MaaS構築に向けた実証実験】」

この19地域はそれぞれ2019年度に実証を進める予定となっている。

MONET Technologiesと組む自治体も

また、トヨタ自動車とソフトバンクの合弁でオンデマンドモビリティサービスや自動運転を活用したMaaS事業などに取り組む「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」と手を組む自治体も出てきており、2019年2月の愛知県豊田市を皮切りに、広島県福山市、長野県伊那市、石川県加賀市がそれぞれ手を組み、次世代モビリティサービスの運行などを見据えた取り組みを行っていく方針だ。

このほか、神奈川県や同県鎌倉市、岐阜県岐阜市などが、MaaSの推進を検討内容に含む協定をソフトバンクと結んでいる。

都道府県単位では、東京都や神奈川県、愛知県、静岡県が特に自動運転・MaaSをはじめとした先進的な事業に取り組んでいる姿が目立つ。鳥取県の平井伸治知事も、2019年7月の定例記者会見においてMaaSに言及し、MaaSによって地域交通の足の確保を図っていく構えを見せているようだ。

【参考】新モビリティサービス推進事業については「いざMaaS元年へ!決定した19の先行モデル事業の詳細 自動運転やライドシェアの導入も」も参照。

■【まとめ】住みやすさアップで地域活性化目指せ

交通の利便性の向上は住みやすさに直結する。かつて鉄道や幹線道路といった交通インフラが担っていたその役割を、今後はMaaSが担うことになるのだ。

また、MaaSを医療や観光といった地域の課題や特色と連携させることで、その利便性はより地域に密着したサービスとなる。MaaSに内在されるポテンシャルはまだまだ計り知れないというのが現状だ。

新モビリティサービス推進事業のモデル地域をはじめ、積極的に自動運転やMaaSの実証に取り組む自治体は、間違いなく未来を見据えている。交通社会に近い将来起こるイノベーションに対し果敢に挑戦する自治体には、ぜひとも「住みやすさ」=「人口増」などの形で成果を上げて地域を活性化し、他の自治体の模範になってもらいたい。

【参考】関連記事としては「MaaS(マース)の基礎知識と完成像を徹底解説&まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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