高市内閣、「自動運転大臣」ポストの設置見送り

新体制での関連施策はどうなる?



出典:首相官邸

第2次高市改造内閣が発足した。「責任ある積極財政」路線を継続・強化する方針で、自動運転分野への新たな投資・施策にも期待が寄せられるところだ。

交通課題の解決、重要産業育成の観点から自動運転分野への注力は必須で、一部関係者からは、自動運転庁の発足や自動運転特命担当大臣の創設を待望する声も聞こえたが、残念ながらこうした新たなポストが設けられることはなかった。


国土交通大臣やデジタル大臣も一新された改造内閣。新体制は自動運転分野にどのような影響を及ぼすのか。人選とともに、日本政府、国の自動運転施策に触れていこう。

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■第2次高市改造内閣の新たな顔ぶれ

国交大臣とデジタル大臣は新任

出典:首相官邸

高市早苗総理は組閣後の会見で「改造内閣では責任ある積極財政の大方針を掲げ、強い経済の実現に向けた政策を加速させ、日本列島を強く、豊かにする」と述べ、決断と挑戦をキーワードに政策実現に向けた取り組みを強化していく方針を示した。

組閣に当たっては、「当選回数の多寡を問わず、幅広く自民党所属議員に配布したアンケートにつぶさに目を通した」とし、「アンケートで提案された政策や、積極性と情熱を見極め、実行力重視の人選とした」という。

改造内閣では、経済産業大臣の赤澤亮正議員が再任されたほか、国土交通大臣が金子恭之議員から井林辰憲議員へ、デジタル大臣が松本尚議員から古川俊治議員へ、内閣府特命担当大臣(規制改革担当)は城内実議員から日本維新の会の中司宏議員にそれぞれバトンが渡された。


井林氏は国土交通省出身で、直近では党のITS推進・道路調査会に所属し、自動運転推進に向けた提言を行っている。自動運転に関する知識も豊富と思われ、さらなる施策の推進が期待されるところだ。就任記者会見では、成長戦略に位置付けられた自動運転についても推進していく意向を示している。

古川氏は医師、そして弁護士資格を有する経歴の持ち主で、先端医療分野の研究などでも知られる。自動運転に関しては未知数だが、自身の政策において、人工知能やドローン、ロボットなどの新技術、再生医療技術などの先端医療技術や革新的エネルギーの研究・開発の促進により新産業と雇用を創出する――としており、自動運転についてもしっかりと推進してくれるものと思われる。

中司氏は、大阪府枚方市長を23年務めた経歴を持つ。就任記者会見では「規制改革推進会議の意見をいただきながら、時代や環境の変化、テクノロジーの進化に合わせて必要となる規制・制度改革を徹底してまいりたい」とし、「私としては、維新の会で提言してきたライドシェアや自動運転に取り組んでいきたい。課題の深掘り、本格的な社会実装に向けさまざまな制度整備が進展するよう、積極的に役割を果たしていきたい。推進会議においてもワーキンググループのようなものを作っていきたい」と意欲をのぞかせた。

総体として、自動運転施策が後退する要素はなく、着実な前進が期待できる人選と言えそうだ。ライドシェアについては、高市政権下では慎重論が支配的な印象が強かったが、解禁議論が再燃する可能性もありそうだ。


■自動運転分野の現状

米中勢との差は依然として縮まらず

自動運転分野は、法整備をはじめ官民連携による研究開発などをじっくり進めるなど、重要施策の一つとして長年注力してきた経緯がある。日本として善戦している面があるのは確かだが、Waymoらトッププレイヤーが活躍する米国・中国と比較するとその差は顕著だ。

米中では、レベル4の無人タクシーがすでに複数都市で展開されており、そのフリートは数千台規模に達している。自家用車においても、レベル2++の実装が始まっている。アリゾナ州フェニックスやカリフォルニア州サンフランシスコなどでは、ロボタクシーがスタンダードな移動サービスとして定着している。

一方、日本ではレベル4バスが約10路線でサービスインしているが、恐る恐る運行するイメージからまだ脱却できていない感を受ける。

この差の一番の要因は、民間の資金力・スケール感だろうか。投資が活発で、日本とは文字通り桁違いの資金が流れているため、開発速度やスケールにどうしても差が生じる。スタートアップが数千億~兆円規模の資金を集められる国と日本では、開発速度に差が出ない方がおかしい。

日本がこの差を埋めるには、正直なところありきたりの戦略では立ち行かない。E2Eを超えるような民間のさらなる革新的技術が必要かもしれない……と思えるほどだ。ガラケーからスマートフォンに移行した時を思い出してほしい。ハードウェアもソフトウェアも海外製にあっさりとシェアを奪われた。これに類似した未来が想定される。

情勢を変えるには一大施策が必須

国が本気で危機感を持っているのであれば、自動運転庁なり自動運転担当大臣なり専門組織化を図り、異次元の施策を打つべき……と考える関係者も少なくないはずだ。一般公道の大半を「自動運転車優先レーン」として国内資本関連の車両に開放・優遇したり、ラピダスのように、自動運転開発向けに数千億円規模の投資施策を用意したり……といったような一大施策が求められるのではないだろうか。

仮に自動運転庁が新設された場合、初代長官には誰がふさわしいだろうか。過去の発言などを踏まえると、小泉進次郎氏が適任だろうか。

小泉氏はこれまでに「自動走行の研究を進める国内外の企業や研究者が、日本なら他国ではできないレベルで実証可能と思ってもらえるような環境整備を引き続き検討したい」と発言するなど、自動運転実装に意欲的だ。

実績面に物足りなさも残るが、必要以上に敵を作らず味方を増やしていくリーダー気質も持ち合わせている。官僚や民間から優秀なスタッフも集めやすいのではないだろうか。

次点は河野太郎氏だろうか。河野氏も推進派で、内閣府特命担当大臣(規制改革)を務めていた際は、官僚らに「明日にでもやる場合にこういう条件ならできる、というのを持って来てほしい」「当事者意識を持って、今やるためにどうしたらいいのか、という答えを持ってきてもらいたい」と叱咤激励するなど、現状打破に向けた意識は非常に高い。

政策立案能力も高いものと思われ、自ら先頭に立って切り込んでいく力強さも持ち合わせている。ただ、近年は我の強さが存分に発揮され過ぎな印象が強く、それゆえ敵を作りやすいため次点とした。

連立与党となった日本維新の会からの人選も面白そうだ。同党は自動運転推進を明確に掲げている。直近では、参議院議員の猪瀬直樹氏が米テスラのロボタクシー専用車両「Cybercab」に反応し、国交省の担当者に「アメリカや中国へ出張して自動運転タクシーに乗ってこい」と指示を出した旨、SNSに投稿している。独自の考えがあるのかなどは不明だ。

出典:Wikipedia

なお、同党の候補者には、政治活動支援ロボット「維新くん(仮)」を開発したエンジニアの寺嶋瑞仁氏もいる。候補者などに追従走行し、ビラを運搬する自動走行ロボットだ。こういう発想の持ち主がもっと政界に進出すれば……と感じる。

チームみらいの議員も期待度は高い。党首の安野貴博氏を筆頭に、AIに精通した議員、メンバーが多いものと思われる。海外勢と国内勢の技術水準について、冷静かつ客観的な目線でその距離を測ることができ、しがらみのない新たな視点の施策を打ち立てることができそうだ。

出典:Wikipedia Commons

フラットな視点で臨めるのであれば、民間から登用するのも良さそうだ。政治や国内開発企業と一定の距離感にあり、かつ自動運転技術や施策に精通している人物だ。しがらみのない人物であるならば、一思いに外国から招へいする……というのも一手だが、日本国籍が条件となるため人選が難しそうだ。

【参考】関連記事「チームみらい、公約で「自動運転特区」掲げる」も参照。

■日本の自動運転施策

日本成長戦略で自動運転は主要技術に位置付け

2026年7月発表の日本成長戦略において、自動運転技術も注力すべき主要技術の一つに数えられている。

自動運転に対応した車両などの関連市場は、現在の自動車市場以上の規模になるとする予測があり、交通事故の削減、地域の足の確保、物流の輸送力不足の解消など、課題解決先進国として世界をリードする戦略的投資領域として重要と位置付けている。

高い世界自動車販売シェアや、多様な走行環境、車両製造技術などの日本の強みをいかし、E2Eなど国産自動運転システム搭載車両のデータ収集と開発・販売、事業モデルの構築、車両とインフラの連携、ソフトウェアプラットフォーム整備などを同時並行で進める。その上で、2030年代における世界市場での自動運転車両販売台数のシェア約25%確保を目指す。

主な施策としては、E2EのAI開発投資を支援するとともに、開発を効率化するためのデータエコシステムの構築、サイバーセキュリティの確保、AIの安全性評価手法の確立など開発環境の整備を進める。

1:N遠隔監視などの事業モデル構築、L4・L2++事業用車両などの社会実装支援、L2++車両の優良認定制度創設、インフラからの支援や道路の適切な利活用に向けた取り組み、通信インフラ整備、事故原因究明体制構築などの導入環境の整備を進めるとしている。

官民投資としては、2040年度までに8.2兆円と想定しており、その経済波及効果は187.3兆円と試算している。

2030年度までに自動運転サービス車両1万台の目標も

一方、2025~2030年度を計画年度とする第3次交通政策基本計画やモビリティ・ロードマップ2026においては、2030年度までに自動運転サービス車両を国内に1万台導入する目標が掲げられている。主な施策については成長戦略に盛り込まれている。

自動運転サービス車両数は2025年度で11台とされており、これを5年間で1万台まで押し上げるという。期待を交えつつも冷静に考えれば相当厳しい数字と言わざるを得ないところだが、この数字を達成できるかどうかで政府の本気度をうかがうことができそうだ。

1万台は、自動運転バスだけでは到底達成できず、ロボタクシーなどのフリートが必須となる。自動配送ロボットなども含まれるのか不明だが、自動運転トラックもカウントされる。

サービス車両のため自家用車は含まれず、カギとなるのはやはりロボタクシーだ。国内では、海外勢だがWaymoが日本交通・GOと手を組み、2027年中に東京都内でサービスインする計画を正式発表している。段階的に100台規模のロボタクシー運行を目指す方針だ。

英Wayveと米Uber Technologies、日産勢も、2026年末に東京都内で試験運行を開始する予定だ。順調にいけば、2027年度中にサービス化されるかもしれない。このほか、ティアフォーやホンダ、newmoなどもロボタクシーの開発を進めている。

ロボタクシー(自動運転タクシー)とは?日本やアメリカ・中国の状況は?

■【まとめ】1万台という目標を達成してこそ米中勢に追い付ける

日本における自動運転サービスは2027年度に大きく動き始める見込みだが、前述した開発勢力の事業が計画通り進んでも、2030年までに1万台は難しいものと推測される。

しかし、この数字をクリアすれば米中勢に迫ることができるのも確かだ。数字の中には海外勢も含まれているため何とも言えないところだが、この目標をどのような戦略でクリアしていくのか。政府のさらなる施策に期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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