
官民連携で戦略的投資を進め、持続的な経済成長や経済安全保障の強化を目指す「日本成長戦略(案)」が公表された。戦略17分野における官民投資ロードマップ(案)には、自動運転技術に関する戦略もしっかりと盛り込まれている。
自動運転分野への投資額は2040年度までに8.2兆円と試算している。その経済波及効果は187.3兆円を想定するなど、期待は大きい。
産業成長に向け、どのような道筋を描いているのか。自動運転を中心に、その中身を紹介していく。
▼日本成長戦略本部(第2回)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/honbu/dai2/gijishidai.html
▼日本成長戦略(案)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/honbu/dai2/shiryou1.pdf
▼戦略17分野における「主要な製品・技術等」の官民投資ロードマップ(案)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/honbu/dai2/gijishidai.html
記事の目次
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■官民投資ロードマップ(案)の概要
危機管理投資と成長投資で強い経済を実現
官民投資ロードマップ(案)には、AI・半導体分野やデジタル・サイバーセキュリティ分野、情報通信分野、航空・宇宙分野など17の戦略分野が設定されている。さまざまなリスクを最小化する「危機管理投資」と先端技術を花開かせる「成長投資」を官民が連携して行い、安全保障の強化や強い経済の実現を目指す。
デジタル・サイバーセキュリティ分野に「自動運転技術」、防衛産業分野に「小型無人航空機」、航空・宇宙分野に「無人航空機」や「空飛ぶクルマ」、造船分野に「次世代船舶」がそれぞれ盛り込まれるなど、モビリティ関連の施策も多い。

以下、自動運転技術と空飛ぶクルマを中心にそれぞれの取り組みに触れていこう。
■自動運転技術に関するロードマップ
現状は海外勢が先行、開発の中心はE2Eにシフト
海外では巨額投資が進み、米Waymoを筆頭に多数のプレイヤーがモジュール型AIによる自動運転技術でレベル4無人自動運転タクシーサービスなどを実現している。一方、日本の自動運転の多くは実証フェーズで、レベル4無人自動運転タクシーサービスの事業化には至っていない。また、自動運転バスにおける1:Nの遠隔監視モデルの構築も実現できていない。
米テスラ、英Wayve、中国Momentaに代表されるようにE2E開発も加速している。 テスラの日本国内販売台数は増加傾向にあり、日産がWayveのE2Eを活用した車両の販売を発表するなど、E2Eの実装は着実に進んでいる。
一方、自動車産業を取り巻く地政学リスクがこれまで以上に高まっており、国家安全保障上の懸念から、重要鉱物や半導体に関するサプライチェーンリスクのみならず、懸念国製のコネクテッドカーを対象にハードウェアやソフトウェア、それらを搭載した車両の輸入・販売を禁止する動きもある。
さらに、海外では車両のバッテリーや電源の制御システムへの遠隔アクセスにより、車両の停止や動作不能を起こすことが可能であることが報告されており、国家レベルで自動車のサイバーセキュリティ確保の重要性が増大している。
自動運転に関しては、その技術を海外企業に握られることは、サイバーセキュリティや経済安全保障、デジタル収支悪化などの観点で大きなリスクとなる。
また、自動運転は持続可能な物流や地域の足の確保、交通事故削減などを解決し得るもので、日本が課題解決先進国として世界をリードするためにも重要としている。

既存販売網が強み、E2E開発の好循環創出し勝ち筋見出す
E2Eは、莫大なコストが必要となる高精度三次元地図が不要で、さまざまな走行環境でも走行可能な革新的アプローチと言える。経路が一定のバスやトラックにおいては従来のモジュール型AIも有効だが、E2Eが今後の自動運転のコアになる。
世界の自動車販売台数における日系企業のシェアは約25%で、 強力な販売網、多様な走行環境、ソフトを含む安全性・信頼性の高い日本の車両製造技術――といった日本の強みを生かし、E2E搭載のレベル2++車両の販売を進め、大量のデータを収集し、さらに優れたE2E搭載車両の開発を加速させる好循環を創出する。
さらに、データエコシステムの構築などにより、ソフト・ハードの互換性が高く安全安心な国産E2E搭載車両をソフト・ハードで連携し開発・販売する。
また、海外市場にも迅速に展開できる1:N遠隔監視や運賃収受などのサービスモデルの確立、CSの確保、車両の遠隔監視や安全円滑な運行を支える通信インフラ機能や駐車場など、公道以外のマップの整備、物流拠点の環境整備などの自動運転導入環境の整備を同時並行で実施し、複合的な課題を一挙に解決する。
人手不足による交通空白や物流の輸送力不足も喫緊の課題となっており、自動運転導入の切迫性が諸外国より強い日本において導入を一気に加速させる。まず同志国と連携し、最終的に国産E2E搭載車両の量産化を実現する。国際基準・国際標準策定を主導するなど、既存の販売網を生かしながら市場ニーズを捉えたマーケティング戦略のもと、自動運転車両のグローバル販売台数を伸ばしていく。

自動運転車両販売台数のシェア約25%を目指す
自動運転に対応した車両は既存車両より高付加価値で、その市場規模は現在の自動車の市場規模以上となる可能性がある。車両などのハードウェアとAIなどのソフトウェアを一体的に捉え、現在の世界の自動車販売台数における日系企業のシェアと同様、2030年代におけるグローバルでの自動運転車両販売台数のシェア約25%を確保し、日本の自動車関連産業、国内の貨物・旅客輸送を守り、そして発展させる。
達成すべき戦略的な目標としては、セキュリティの観点から一気通貫による国産開発を目指す。情報漏洩をはじめ、外国による遠隔操作、物流・人流網の途絶、デジタル赤字などのリスクを低減させる経済安全保障の観点から、自動運転に対応した車両及びソフトウェアのサイバーセキュリティを確保する。
1:Nの遠隔監視や運賃収受などのサービスモデルを構築し、車内無人の自動運転サービスを早期に実現する。
【参考】関連記事としては「自動運転の「1:N遠隔監視」とは?」も参照。
2030年度までに、自動運転サービスの運行の用に供する車両を国内で1万台導入する。経路が一定のバスやトラックなどにおいては、引き続きモジュール型AIも活用し社会実装を促進する。オーナーカーでは、L2++車両の早期普及を目指す。

対投資額経済波及効果倍率22.8を想定
官民投資の具体像としては、自動運転に対応した車両の製造設備投資や、E2Eの開発投資、モジュール型AIの自動運転ソフトウェア開発投資、通信基地局やネットワークの整備投資などを挙げている。
投資額は、2040年度までで8.2兆円と想定している。また、投資による経済波及効果は、2040年度までで187.3兆円と想定している。対投資額経済波及効果倍率(経済波及効果倍率)は22.8と他の分野よりもひときわ高い数値となっている。
ルールベース(モジュール型)に基づく自動運転はすでに市場化されており、拡大局面に達している。今後、E2Eが単独で、あるいはルールベースと融合しながら自動運転技術をより高度化させていくことが想定され、市場は目に見える形で膨らんでいく。
自動運転市場の拡大はもはや確定事項と言っても過言ではなく、その市場規模からリターンとなる経済効果が高く算定されているものと思われる。

データエコシステムの構築やサイバーセキュリティ確保などで開発環境整備
目標実現に向けては、E2E開発そのもののほか、計算基盤やデータ不足なども解決していかなければならない。
E2EのAI開発投資をはじめ、E2Eの開発を効率化するためのデータエコシステムの構築、自動運転車のサイバーセキュリティ確保に必要な取り組みを検討した上で関連する投資の促進、E2Eによるレベル4実装に向けた課題となっている安全性評価手法の確立、同志国のモジュール型AIを活用しモジュール型AI搭載の自動運転に対応した車両の社会実装を早め、かつ同志国のE2E搭載の国産レベル2車両で走行実績データを蓄積すること、E2E搭載の自動運転の研究開発促進――などを進めていく。
レベル2++の普及にも注力
自動運転技術・サービスを導入する環境整備としては、1:Nの遠隔監視や運賃収受等サービスモデル確立、レベル2++など高度な運転自動化システムの円滑な浸透を図るための仕組み構築、交通空白解消や運送事業者の自動運転技術の導入を促進するために必要な施策の実施などを進めていく。
レベル2++車両の需要を生み出すとともに、運転手不足の社会課題解決に向け、公共ライドシェアなど二種免許がなくても運行可能な交通形態における利用も促進していく。
自動運転車両が事故を起こした際の原因究明体制の構築、供給側の責任分担への不安感払拭のため、責任体制に関する再点検を実施する。
レベル4及びレベル2++の自動運転技術を活用したバス・タクシー・トラックの社会実装に向けた取り組みについて、優良事例として横展開できる事業をより強力に支援するとともに、E2EなどAI搭載のレベル2++車両の社会受容性向上のための優良認定制度創設と認定車両の普及促進策を講じていく。
自動運転の遠隔監視などに必要となる携帯電話網や安全・円滑な自動運行を支援するためのITS通信インフラ、それらを支える情報通信基盤の整備・拡充・高度化の支援、通信システムの信頼性確保などに関する実証・実装などに必要な費用を支援する。
このほか、自動運転社会において、効果的なデータ利用によるインフラからの支援や、道路空間の適切な利活用に向けた取り組みの推進や、自動運転の国際基準・標準策定の主導、国産自動運転に対応した車両やE2Eの海外展開支援なども進めていく。
【参考】関連記事「自動運転の事故、国が「強制捜査」可能に」も参照。
【参考】関連記事「自動運転AIの実力、国が採点 レベル2++で「優良認定制度」」も参照。
E2E軸にレベル4やレベル2++開発・実装を促進
軽くまとめると、ルールベースの既存技術を引き続きフォローしつつ、AI開発やデータエコシステムの構築、サイバーセキュリティ確保など、E2E実用化に向けた取り組みを強力にバックアップしていく。
また、1:N遠隔監視など事業モデル構築に向けた取り組みも加速し、2030年度までに国内の自動運転サービス車両数1万台を実現するほか、2030年代における自動運転車両のグローバル販売台数シェア約25%獲得を目指す。オーナーカーなどにおけるレベル2++の普及にも力を入れる。
予測として、2040年度までの投資額は8.2兆円を想定しており、その経済波及効果は187.3兆円と試算している。
■空飛ぶクルマに関するロードマップ
開発は欧米がリード、日本は実証環境が不足
空飛ぶクルマは世界的に技術開発段階にあり、機体・サービス市場はほぼ未成立の状況で、日本でもスタートアップを中心に安価かつコンパクトな機体やハイブリッド機体の開発が進められている。
開発状況では、欧米メーカーが一歩先を歩んでおり、欧米航空当局への機体認証取得に向けた動きも進んでいる。国内では、試験設備の能力不足により、機体開発において地上試験で実施可能な内容が限定され、実際の飛行試験への依存度が高い。また、飛行試験ができる環境も不足しており、技術開発や認証のボトルネックになり得るとしている。
空飛ぶクルマは、革新的な移動手段として人・物の移動や地域経済を活性化させるとともに、機体・サービス・インフラなど新たな産業や需要を創出し、2040年時点における世界市場規模は約1.5兆ドルと予測している。
開発で先行する欧米メーカーが世界シェアを先行取得する可能性があり、国産の早期参入には、OEMや裾野産業における要素技術開発や設備投資が重要と位置付けている。
欧米と差別化が可能な路線に活路
スタートアップが開発を行っている国内機体について、欧米製機体と差別化が可能な路線(都市内運航、観光などの短距離路線)を中心に、国内外市場の獲得を目指す(2040年ごろに:約1500億円)。国内サプライヤーでは、国内外の部品・MRO市場において主たる地位とシェアの獲得を目指す。
他産業からの新規参入や既存航空機部品産業からの事業拡大など、空飛ぶクルマ向け部品の開発・提供などにより、航空産業の新たなサプライチェーンを構築し、自律性の確保を目指す。
投資対象として、機体開発及び要素技術開発、生産設備や離着陸場(バーティーポート)などの整備、実機による飛行試験の大部分を模擬できる風洞試験設備などの整備(JAXA)を進めていく。
投資額は2040年度までで0.4兆円と想定しており、経済波及効果は1.9億円と試算している。
【参考】関連記事「空飛ぶクルマ(Flying Car)とは?いつ実現?」も参照。
■【まとめ】国内企業の躍進に期待
陸上の自動運転、空飛ぶクルマともグローバル路線で勝ち筋を見出すのは容易ではないが、手をこまねいているだけでは負け組となり、未来の膨大な市場を見逃し産業衰退につながっていく。
理想は、民間投資をいっそう喚起し、やる気のある事業者が国に頼ることなく独自開発・実装を進められる環境の構築だ。結局のところ、国内企業の技術力が向上しないことには何も始まらない。自動運転やAIなどの最先端分野は、需要と供給、収益面のバランスがまだ整っていないが、そこにアプローチすることで成長軌道に乗せる方策を見出せるかもしれない。
5年後、10年後、自動運転市場はどのように推移し、どのような企業が台頭しているのか。国内企業の躍進に期待したいところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標・ロードマップ一覧【表付き】」も参照。













