
自動運転車の事故をめぐり、政府は運輸安全委員会による事故原因究明体制を構築する方針であることが判明した。今秋にも関連法の改正案を国会に提出する予定という。
自動運転車の事故原因究明は、以前から議論が進められていた課題の一つだ。これまでは自動運転事故調査委員会が対応していたが、捜査権限が希薄なため十分な調査を行うことができなかった。
自動運転車の事故原因究明は今後どのように行われることになるのか、国の最新動向に迫る。
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■自動運転車の事故原因究明体制の概要
ITARDAの自動運転事故調査委員会が対応
モビリティの事故調査においては、航空、鉄道、船舶を対象に、強権的かつ独立した調査能力を持つ運輸安全委員会が存在する。運輸安全委員会設置法に基づき、事故被害の原因を究明するための調査を適確に行うとともに、調査結果に基づいて国土交通大臣や原因関係者に対し必要な施策・措置の実施を求める。
道路交通関連は対象外で、貸し切りバスや大型トラックなど重大な事故が発生した際、その調査は道路交通事故に関する知見を有する公益財団法人交通事故総合分析センター(ITARDA)が担う。
ITARDAには、すでに事業用自動車事故調査委員会のほか自動運転事故調査委員会が設置されており、2021年に発生したパラリンピック選手村内中型バスの接触事故の調査を実施している。
ただ、ITARDAは、運輸安全委員会のような法的強制力のある調査権限を持っていない。あくまで任意による事故調査のため、関係者・当事者の同意や協力が前提となる。そのため、パラリンピックの事故調査では、一部関係者からの聴取ができなかったり、データが消去済みであったりするなど、完全な調査はできなかったようだ。
【参考】関連記事「【報告書分析】東京五輪のトヨタ自動運転車事故「人為的ミスが重なった」」も参照。
運輸安全委員会のような仕組みを求める意見が続出
こうした経緯を踏まえ、自動運転車の事故調査の在り方に関する議論が動き始めた。デジタル庁所管の「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ(SWG)」では、各委員から以下のような意見が出された。
- 自動運転についても事故調査委員会があるが、独立した存在ではなく、警察庁と国交省の物流・自動車局、道路局の3局のサポートで得られており、調査権限がない。早急に運輸安全委員会のような仕組みを作ることが重要
- (調査には)一定程度能力のある専門的な機関や専門家が可能な限り関与した形が良い。一方、事故調査権限とデータ供給は分けて考えるべき。
- 安全性に関するデータについて、国が標準仕様を定め、ヒヤリハット情報を含め関係者間で共有できる仕組みを技術的に整備することが重要
- 調査に関するインセンティブ設計も必要ではないか。インセンティブ設計が不十分だと、調査機関の制度的能力や人的・物的資本の限界の問題から、社会システム全体として自動運転車の安全性を向上させるために必要な情報を得ることができない可能性が生じうる
議論を踏まえ、同SWGは、短期的には、迅速かつ実効性のある原因究明のため、自動運行装置に係る認可を取得した者に対し、基準認証などの段階において道路運送車両法に基づく権限により重大事故など一定の事故について調査協力を義務付けることや、報告徴収権限を行使することにより、事故調査への協力を促す方策について検討を行うことが必要と提言をまとめた。
また、中長期的には、迅速かつ実効性のある原因究明を責任追及と分離して行うため、職権行使の独立性が保障されている運輸安全委員会のような組織による事故調査機関の設置に向けた検討を行うことが求められると結論付けている。
自動運転WGは6つの論点を提示
この報告を受け、国土交通省所管の「自動運転ワーキンググループ」がさらに議論を深めた。2025年5月発表の中間とりまとめによると、自動運転車に係る事故調査機関の検討を行うにあたり、法令に基づく調査権限、省庁からの独立、責任追及から分離された原因究明の重要性に鑑み、これを備え得る機関の例として運輸安全委員会を想定しながら、検討を進めることが適当――と判断し、必要な検討事項を求めたところ、以下の 6 つの論点が提示されたという。
- 運輸安全委員会において調査すべきと考えられる自動運転車に係る事故等の範囲をどのように考えるか
- 運輸安全委員会は事故等の発生をどのように認知するのか
- 走行記録等のデータを含む調査に必要な物件の提供をどのように受けるか
- 海外企業を含む関係者の口述をどのように得るか
- 調査対象となる関係者・関係物件にはどのようなものまで含めていくべきか
- 運輸安全委員会に必要な体制等をどのように整えるか
委員からは、以下の意見が出されている。
- 事業用に限定する必要はなく、レベル3において事故が発生した際にも事故調査すべき。他方、被害が小さいものまで全て調査すべきとは思わない
- 被害が小さくても頻発する事例も何らかの形でフォローすべき
- 軽微な頻発事例はリコール制度の中で扱うことも可能
- 自動運転に関する基準の策定については、国際協調の観点からWP29における議論との関係性も重要
こうした経緯を踏まえ、2026年1月に閣議決定された第3次交通政策基本計画(計画年度:2025~2030年度)において、交通分野における徹底した自動化・遠隔化技術の導入推進にあたり、「自動運転車を活用した事業における事故時の補償の在り方の明確化」などとともに、「運輸安全委員会における事故原因究明体制の構築に向けた取り組み」が盛り込まれた。
【参考】関連記事「自動運転車の事故、「国レベルが調査に動く」基準を明確化へ」も参照。
▼運輸安全委員会における自動運転車に係る事故調査体制案について(自動運転WG)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001883002.pdf
■運輸安全委員会とは?
運輸安全委員会は、国土交通省の外局として、航空・鉄道・船舶事故等の発生原因や事故による被害の原因を究明するため法律に基づいて設置されている。
同委員会は独立性の高い3条委員会(国家行政組織法第3条の規定に基づく委員会)で、その調査においては責任追及から切り離し、事故発生のさまざまな要因を科学的かつ客観的に分析し、その上で関係分野を専門とする委員の審議などを経て調査報告書を議決・公表する。
同委員会は、運輸安全委員会設置法を根拠に、事故等関係者から報告を徴することや、関係物件の提出を求めることなどができるとされている。事案によっては、国土交通大臣を含む関係行政機関の長に対しても勧告を行うことがあり、国土交通省自らによる事故調査よりも、さらに公正・中立な立場で事故原因究明を行うことを可能としている。
なお、運輸安全委員会が発足したのは2008年と割と最近の話だ。1949年発足の海難審判庁、1974年発足の航空事故調査委員会、2001年発足の航空・鉄道事故調査委員会を統合する形で誕生した組織で、重大事故の発生を契機に調査対象範囲を拡大してきた。
ここに自動運転車が新たに加わることになりそうだ。今後、運輸安全委員会による事故原因究明体制がどのように組織化されるかは不明だが、一定要件を満たす自動運転車の事故に対しては、任意ではなく強制的権限の元調査が行われることになるのは間違いない。
共同通信によると、対象となる自動運転レベルは、レベル3以上となる見込みのようだ。事故については、死傷者が出た事案をはじめ、車両転覆や火災発生など死傷者が出る可能性があった重大な事故や、速度違反や信号無視など事故につながりかねない重大インシデントを扱う方向という。
今後、データ保全の在り方や調査対象となる関係者・関係物件の範囲、海外企業・モデルによる事案への対応などを煮詰めていくものと思われる。
■【まとめ】事故原因を明確にしないと同様の事故が多発する恐れも
自動運転車の事故は、基本的にセンサー類やコンピュータに何らかの瑕疵があり、それに起因して発生するものと思われる。こうした瑕疵は、第三者目線では究明しづらく、当事者の協力が欠かせない。
航空や鉄道などと比べると、一つの事故当たりの重大性は小さいかもしれないが、横展開が前提となるコンピュータ・システムに瑕疵があった場合、その原因を明確にしないと同様の事故が多発する恐れもある。
多くの場合、当事者は調査に協力的な姿勢を示すと思われるが、システム構築に関わったサードパーティや被害者など、すべてが協力してくれるとは限らない。当事者も、守秘性の高いシステム要素を非公開とすることも考えられる。
調査権限に一定の強制力がなければ、事故原因がブラックボックス化しかねないのだ。今後、どういった枠組みが創設されるのか、非常に気になるところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標・ロードマップ一覧【表付き】」も参照。













