テスラ自動運転 実は「人間より4倍事故が多い」

事故の多くは低速、安全監視員も同乗しているという事実



米EV大手テスラ(Tesla)のロボタクシーは、人間のドライバーより4倍事故が多い。米テックメディアEngadgetが報じた。軽い接触まで報告するロボタクシーの事故件数と、警察に届け出された事故が中心の人間の統計を、同じ土俵で比べているため、この数字をそのまま受け取ることはできない。


一方で、米道路安全保険協会IIHSは米Google系の自動運転開発企業ウェイモ(Waymo)の事故が人間より68%少ないと結論づけた。正反対に見える2つの数字の間に何があるのか。

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■テスラのロボタクシー「人間より4倍事故が多い」

「人間より4倍事故が多い」という評価は、今回初めて出たものではない。2026年2月に米メディアが出した分析が元になっており、その数字が今もロボタクシーの安全性を語る際に使われている。

「4倍」と「8倍」の差

テスラは2025年6月、オースティンでロボタクシーの運行を始めた。2026年1月中旬までに、NHTSAへ報告した事故は14件。走行距離は約80万マイルと推計され、57,000マイルに1件の計算になる。

比べる相手は2つある。1つは、テスラ自身がVehicle Safety Report(車両安全報告書)で示す「人間は22.9万マイルに1回、軽微な事故を起こす」という数字だ。これと比べると約4倍になる。もう1つは、警察に届け出された事故の平均である「約50万マイルに1件」。こちらと比べると約8倍だ。


同じ14件でも、何と比べるかで倍率は2倍に変わる。それだけ扱いに注意が要る数字と言える。

事故の多くは低速、安全監視員も同乗

14件はすべて、安全監視員が乗った状態で起きた。多くは停車中や、時速1〜2マイルでバックしていたときの事故だ。止まっていたところに市バスが接触したケースもある。一方で、2025年7月の事故は当初「物損のみ」と報告され、12月になって「軽傷で入院」に直された。

事故の報告はその後も続いている。8月17日時点で、オースティンでの累計は23件になった。「4倍」は14件の時点で計算された数字である。

【自動運転ラボの視点】
倍率だけが独り歩きすれば、議論は好き嫌いの応酬になる。ロボタクシーの安全性を語るには、何を事故と数え、何マイルで割ったのかをそろえることが先だ。業界共通の物差しづくりが、自動運転タクシー市場の信頼を左右するだろう。

【参考】関連記事としては「テスラ、「日本のタクシー会社」を買収か?ロボタクシー展開なら」も参照。


テスラ、「日本のタクシー会社」を買収か?ロボタクシー展開なら

■「4倍」をそのまま比較できない理由

4倍をそのままの数字で比較できない理由が4つある。それぞれ解説していこう。

NHTSA自身が「単純比較はできない」と注意

まず押さえたいのは、データを集めるNHTSA自身の注意書きだ。NHTSAは、自動運転システムの事故報告制度SGOで集めたデータについて、走行距離などで補正していないと明記している。さらに、事業者ごとに記録の仕組みが異なるため、報告件数が多いことが安全性の低さを意味するとは限らないとも説明している。

軽い接触まで数えるロボタクシー、半数が届け出されない人間の事故

SGOでは、自動運転システムの作動中か衝突の30秒前までに作動していた場合、一定の物損が出た事故も報告の対象になる。停車中に追突された事故や、駐車場での低速の接触も件数に入る。

これに対し、人間のドライバーの事故は多くが表に出てこない。IIHSによれば、人間の事故の約半数、けがの約3分の1は警察に届け出されていない。

IIHSはこの差を埋めるため、2021〜2024年にウェイモが報告した736件のうち、警察に届け出るほどの規模とみられる89件、全体の22%だけを選び出した。そのうえでウェイモの約5,000万マイルを、同じ都市、同じ時期の人間の約2,220億マイルと比べ、事故68%減、けが人が出た事故81%減という結果を得た。Electrekの「4倍」は、こうした選別をせずに報告件数をそのまま使っている。

同じ物差しならウェイモも「人間より危険」に

物差しの違いがどれほど大きいかは、ウェイモに同じ計算を当てはめると分かる。Electrekの計算では、ウェイモの報告件数は9.8万マイルに1件だ。テスラの基準値である22.9万マイルと単純に比べれば、ウェイモも人間より2倍以上事故が多いことになってしまう。IIHSが68%少ないと結論づけたのと同じ会社である。

加えて、人間側の基準値にも疑問がある。米カーネギーメロン大学のフィリップ・クープマン氏は、テスラの安全報告書が比べる人間の平均値について、安全装備の乏しい古い車まで含んだ数字であり、比較の前提に根本的な問題があると指摘している。

14件という小さなサンプル

サンプルの小ささも見逃せない。IIHSの調査では、ウェイモですらオースティンに限ると人間より事故が4%多いという結果が出た。IIHSはその一因をサンプルの小ささに求めている。

テスラはさらに規模が小さい。Electrekによれば、オースティンで実際に稼働していたテスラのロボタクシーは、9月22日までの直近7日間で8台だった。走行距離が少なければ、1件の事故で率は大きく揺れる。14件という数字から人間との優劣を言い切るのは難しいと言えるだろう。

【参考】関連記事としては「ロボタクシーの事故・トラブル一覧(自動運転)」も参照。

ロボタクシーの事故・トラブル一覧(自動運転)

■黒塗りが外れて見えたテスラの事故の実態

テスラの事故データが疑いの目で見られてきたのは、情報公開の姿勢にも理由がある。テスラは2025年6月から約11カ月にわたり、NHTSAに出した事故報告の経緯をすべて企業秘密として黒塗りにしていた。経緯を当初から公開していたウェイモやAmazon傘下のZoox(ズークス)とは対照的で、事故の中身を伏せていた唯一の事業者だった。

しかしテスラは2026年5月、それまでの17件すべての経緯を公開した。方針を変えた理由は説明していない。

半数は「ぶつけられた」事故

公開された経緯を読むと、約半数は相手の車がテスラにぶつかった事故だった。SUVがじわじわ前に出て追突した、一時停止の標識で止まっていたところをトラックに追突された、といったケースである。被害も軽く、17件のうち13件は物損のみ、2件はけが人なし、軽傷は2件で、うち1件は入院を伴った。

それでも残る遠隔操作と自己申告の問題

ただし、テスラの安全性が証明されたわけではない。経緯からは、遠隔地の担当者が運転を代わった後の事故も見つかった。2025年7月に縁石に乗り上げて金属のフェンスに衝突した事故、2026年1月の工事用バリケードへの衝突、5月にヒューストンで木の切り株にぶつかった事故の少なくとも3件である。駐車場に入る際に金属の鎖にぶつかるなど、周囲の認識に課題をうかがわせる事故もあった。

また、テスラのAIソフトウェア担当副社長アショク・エルスワミ氏は7月22日の決算説明会で、安全監視員なしで38万マイル以上を走って事故はゼロで、報告された事故は停車中にほかの車にぶつけられたものだと説明した。しかしこれはテスラの自己申告で、NHTSAは中身を検証していない。6月の報告の1件では、経緯の説明で「停車中」とされているのに、別の記入欄では「バック中」となっていた。

■ウェイモも「完璧」ではない、テストドライバーのけが

一方、「68%少ない」とされるウェイモにも、衝突の統計には表れにくい課題がある。米労働安全衛生局OSHAのデータでは、ウェイモとZooxのテストドライバーのけががあったことを報じている。

ウェイモの運行を受託する仏交通大手Transdev(トランスデブ)では、2024年に5件、2025年に11件の計16件のけがが報告された。Zooxでも急ブレーキに関連するけがが最大8件あった。内容は捻挫やむち打ち、首や肩、手首のけがなどで、主な原因は急ブレーキや急な進路変更、システム停止による急停車だった。フェニックスでは、障害物がないのに急ブレーキがかかり、運転手が157日間仕事を休んだ例もある。

ウェイモは数千万マイルのテストを重ねてきたと説明し、Zooxは急ブレーキが避けられない場合もあるとしている。OSHAの報告義務は対象が狭く、データは完全ではない。それでも、車内の人がけがをする急停車は、衝突件数を数える統計には必ずしも表れない。安全性を1つの数字で語る危うさは、ウェイモにも当てはまる。

■ロボタクシー安全データの限界

テスラのロボタクシーが人間より4倍事故が多いという数字は、誤りとまでは言えない。ただしそれは、軽い接触まで数えた14件を推計の走行距離で割り、テスラ自身の基準値と比べた結果である。比べる相手を変えれば8倍になり、同じ方法をウェイモに当てはめれば、IIHSが68%少ないとした会社まで人間より危険に見えてしまう。

逆に言えば、テスラが安全だという証拠もまだない。事故の経緯を長く伏せ、「事故ゼロ」の主張も自己申告にとどまる。8月17日までの4週間にオースティンで報告された事故は、テスラ1件に対しウェイモ5件、自動運転開発企業Avride(アヴライド)1件だった。ウェイモの件数が多いのは、それだけ多くの車両を走らせているからだ。件数だけを並べても、安全性は分からない。

IIHSの主任研究者エリック・テオ氏は、今のデータ収集の仕組みは大規模な展開を継続的に見守るには十分ではないと述べている。ロボタクシー市場が広がるほど、「どのデータを信じるか」ではなく「何を、どう数えたデータか」を問う姿勢が欠かせない。テスラの「4倍」は、その必要性を浮き彫りにした数字と言えるだろう。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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